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おじさんとぬいぐるみ

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第七章


第七章

 それを見ながらだ。おじさんはまた述べた。
「そのぬいぐるみもね」
「コロちゃんですか?」
「もう一つ買ってあげようか?」
 こう彼女に話したのだった。
「よかったら」
「あっ、それはいいです」
 だが、だった。妙子はその好意は丁寧に断るのだった。
「別に」
「遠慮することないのに」
「だってこのぬいぐるみは」
「それは?」
「お母さんが最後に買ってくれたものですから」
 それでだというのである。
「一つしかないものですから」
「だからなんだ。あいつが」
 おじさんにとっては妹だ。肉親に他ならない。
 その妹の娘である彼女の言葉を聞いてはだ。頷くしかなかったのだ。
「そうなんだね」
「はい、それでなんです」
 にこりと笑って話す妙子だった。
「ですから。このぬいぐるみはそれで」
「わかったよ。それじゃあね」
「それじゃあ?」
「そのぬいぐるみ大事にしてね」
 おじさんが妙子に話すのはこのことだった。
「絶対にね。いいね」
「はい、わかりました」
 妙子も応える。そんな二人だった。
 おじさんはそんな妙子と一緒に住むようになってだ。自分でも変わったと思った。彼女の丁寧な家事により家も自分自身も清潔になった。生活自体も規則正しいものになり身体の調子もメンタルもよくなった。
 それで漫画の調子もよくなりだった。
「ドラマCDになるんですか」
「そうなんだよ。僕の漫画がね」
 また夕食を食べながらの話だった。今日はゴーヤチャンプルに菊菜と揚げをたいたもの、それと漬物だった。それと御飯を食べながらだった。
「ドラマCDになるんだよね」
「おめでとうございます」
 妙子は箸と茶碗を手におじさんにお祝いの言葉を贈る。ぬいぐるみのコロちゃんはジャージ姿の彼女の膝の上にある。
「凄いですね、CDになるなんて」
「それにね」
「それに?」
「新連載も決まったよ」
 それもだというのだ。
「それも決まったんだ」
「今の連載の他にですか」
「四コマ漫画でね。それが決まったんだ」
「四コマですか」
「ただね。問題は」
「っていいますと?」
「何を描くのかはまだ決めてないんだ」
 おじさんは困った顔で妙子に話した。
「どんな漫画にするのかはね」
「それはまだなんですか」
「どうしようかなって思ってるんだ」
 御飯を食べながらだ。妙子に話すのだった。
「本当にね。どんな漫画にしようか」
「そうですか」
「まあとにかく。ドラマCDは決まったし」
 それはだというのだ。
「それでね。今度の休みね」
「はい、日曜ですよね」
「何処か行かないかい?二人で」
 妙子にだ。こう勧めるのだった。
「妙子ちゃんが行きたい場所に」
「私の行きたい場所ですか」
「うん。何処がいいかな、それで」
 妙子の顔を見て尋ねる。その彼女の顔をだ。
 
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