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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第47話 仕組まれた罠

 
前書き
こんにちはblueoceanです。

みなさんゴールデンウィークですね。
自分は休日の仕事が一杯って感じでブルーですが、皆さんはいいゴールデンウィークが過ごせればと思います。

STS編も後編へ突入。
亀並みに更新が遅くなっていますが、どうかよろしくお願いします!! 

 
新暦75年8月下旬………

「へえ、地上本部でカーニバルね………」
『はい!何でもヴェリエ元帥からめでたい発表があるみたいで私達六課と七課でデモンストレーションの模擬戦も行うみたいなんです。かなり盛り上がるみたいなので良かったらお兄ちゃん達もと思って………』
「それは面白そうだな………」

蒸し暑い夜に愛しのキャロから連絡があった。何でも地上本部でカーニバルらしい。

「………しかし9月か。地上本部ってのも何か嫌な予感がするな」

スカさんが敵では無い以上、同じ時期に何かが起こるとは思えないが、一応参加するべきなのかもしれない。

「早速スカさんに連絡を………」

そんな中、スカさんから貰った端末に連絡が入った。

「おっ、丁度良い。スカさんにも連絡を取ろうと思ってた所だ………もしもし」
『零治君かい?』
「スカさん、丁度良かった。俺から連絡しようかと………」
『心して聞いてほしい。先ほどなのだが、水無月君と連絡が途絶えた………』
「先輩と!?」
『それと同時に重要な事も分かった。出来れば直ぐにでも私の所まで来てほしい、私の娘達も全て連れて』
「………分かりました」

夏の終わり、急に事態は動いた。

「先輩………」


















「皆、夜遅く集まってもらって済まない」

今回集まったのは有栖家とセッテ、シャイデ、リンス。
アルビーノ家と居候しているディートとオットー。そして駄目っ子の3人だ。

「何スかこんな夜遅くに………ふぁ………」
「済まないねウェンディ、だけど急を要する事態なんだ。皆、零治君から聞いていると思うけど、先ほど………と言っても2時間経っているが水無月君と連絡が途絶えた。恐らく拉致したのは冥王教会の連中だ」
「最近全く行動していないから油断していました。済みません、私が買い物を頼んだばかりに………」

申し訳なさそうに俯くウーノさん。だがウーノさんのせいでは無い。俺自身もすっかり油断していた。

「それで同時に分かった重要な事って言うのは何なのだ?」

俺が質問しようとした事を先に夜美が聞いてくれた。

「彼らのアジトらしい場所も分かった。………だが恐らく誘われているのだろう」
「誘いですか………」

スカさんの言う通りこれは明らかに誘い。だが………

「でも一体何で今になって………」

ディードの呟きの通り、何故このタイミングなのか分からない。冥王教会だって決戦を挑むほど余裕があるわけでもない。
その一番の理由がバルトマンともう1人の男が冥王教会の要所を次々と潰していたからだ。
同じく調査していたクアットロとディエチも彼らと遭遇した事があると言っていた。
更に度重なる失敗。管理局によってほぼ鎮圧され、バリアアーマーの部隊の活躍は目覚ましいものとなっている。

そんな状態で何か出来るとは到底思えなかった。

「私もそれが気になっていた。水無月君を拉致したところで今の彼女に利用価値は無い。となると………」
「俺達を誘う為の餌。………何か俺達を始末する手段を見つけたんですかね?」
「そうなのかもしれない。今、クアットロとディエチに現場に行ってもらい、出来るだけデータを取っている。だがまだ有力な情報は得られていない」
「だけどチャンスですね………」

何が起きたのかは分からないが、クレインを見つけられるかもしれない重要な手がかりだ。ここを逃すわけにはいかない。

「だからみんなを集めたの?」
「そうよライちゃん」

そんなウーノさんの答えにやはり反論した人物が居た。

「この子達も戦場に出すんですか?」

ルーの母親のメガーヌさんだ。………まあその気持ちは分かる。

「それは本人の気持ち次第だ。当然無理強いはしないよ」
「優理、リンス………」
「「行きます!!」」

力強く答えた2人。どちらとも引く気は無いようだ。
だが予想通りの答えだ。

「だと思った………シャイデはどうだ?」
「………どう言った編成にするのかしら?」
「そこはゼストに任せようと思う」
「分かった」

いや、分かったって………

「ゼストさん、戦う気ですか!?」

スカさんの言葉に普通に返すゼストさんだが決してレリックコアは良くなった訳じゃ無い。十分養生していたのだろうが無理な戦闘をすれば当然………

「子供達が戦っていて俺だけ見ている訳にはいかん」
「言っている事は分かりますが………」

当然、星の言っている様に納得している人は少ない。駄目っ子も真面目な顔で首を振っていた。

「大丈夫だ、身体の調子はジェイルが調整してくれたお陰で調子がいい」
「だけど………メガーヌさんが良いのですか?」
「ええ。前から話していた事だから………だけど無理はしないで下さいね」

星の問いにメガーヌさんがそう答えた。本当は静かに過ごして欲しい、そう思っているのだろうけどそれを口に出さない様に我慢している様に見えた。

「分かっている。俺も今は1人じゃないからな」
「………アギト」
「分かった」

俺も前々からアギトと話していた事を実行することにした。

「ゼストさん、ゼストさんも参加するならアギトを使ってくれ」
「!?いや、だが………」
「俺もアギトも…いや、みんな貴方には生きてていて欲しいと思っているんだ。アギト頼むな」
「おう、まかせとけ!!」

小さい体ながらドンと胸を張る姿には頼もしさを感じる。

「全く信用が無いな………」
「ゼストさんもレイと同じっぽいもん」
「ライ………今の俺はそんな事無いぞ?」

そう言うと皆から不思議そうな顔をされた。

「レイ、もっとちゃんと自分を見直した方が良いよ?」

そんなセインの言葉に皆が同時に頷く。
前よりは全然マシになったと思ったが中々信頼を回復するのは難しいみたいだ………

「で、組み合わせはどうしようか?クアットロの調査では侵入経路は2つ」
「となるとこのま2つに分けるか……有栖家、アルピーノ家とセッテ、ディード、オットー。そして残った私達がそれぞれ分ける形だな」
「いつも通りっスね」
「いつも通りじゃない!!」

そんな編成に意義を唱えた者が1人。

「何故私と師匠が別なんですか!?」

セッテである。

「折角私の実力を披露出来るか場であるのに………」
「遊びじゃないんだよセッテ」
「分かってます、分かって言ったんです」

ライが優しく言うが聞く耳を持たない様だ。

「セッテ、俺達の方ばっかり戦力を集めても仕方がないんだよ」
「だけど……!!私は師匠に認められたくて………」
「セッテ、わがままはダメですよ」
「ウーノ姉………」

そんな中ウーノさんがセッテに声をかけた。

「零治君をしたっているのはよく分かります。だけどその零治君を困らせては本末転倒ですよ?それに零治君がセッテを離した本当の意味を貴女は理解してないわ」
「本当の意味………?」
「セッテなら任せられるって事です。認められてるんですよセッテは」

そう言われると驚いた顔で俺を見るセッテ。

「そうだ。お前ならたとえどんな相手が来ても任せられる」

とは言えまだまだ実力不足なのは明白なのだが、それでも俺達にくっ付いて戦闘して来たので充分戦えるだろう。

「分かりました!!師匠の想いと共に戦います!!」

そう笑顔で宣言するセッテ。………単純な奴。

「ディードとオットーは大丈夫か?」
「はい」
「ゼストと訓練したからバッチリ」

そう淡々と答えるオットー。

「頼むな3人共」
「だけど戦力が足らなくはないか?」

夜美の言う通り、4人しかいない。

「それなら大丈夫よ。私がゼストさんの方に行くわ」
「お母さん!?」

リンスも初耳だった様で驚いた顔でシャイデを見た。

「大丈夫よ。元執務官よ私?」
「人質になったり役に立ったイメージが無いがな………」
「零治、締め付けるわよ?」
「すいません………」

なので光らせている魔力の糸、しまってください………

「さて、これで決まりかな?一応トーレにも連絡をしたけど………出来ればトーレは参加させたくは無い。………これは私のわがままでもある。済まないが………」
「分かってるわ。むしろこれだけ居れば充分よ。ねえみんな?」

シャイデの問いに皆が頷いた。

「ありがとう………で、我々だけど………」
「スカさんそれなんだけど、一応スカさん達にも戦力を残した方が良いと思うんだ。だからセインを俺達の方に、クアットロをゼストさんの方に分けて後は待機で良いと思う」
「えっ!?セインだけっスか!?」
「そうだね。セインが居れば敵に見つからず偵察も出来るし、クアットロが居れば敵の目も欺ける」
「私達はまた外されるのかよ………」

不満そうに呟くノーヴェ。

「気持ちは分からないでもないが、こうなるとスカさん自身もここの場所も敵に知られる可能性が高い。スカさんを守る事はお前達にだって不満は無いだろう?」
「そうっスね………」
「まあドクターは弱いからなぁ………」
「グハッ!?」

ああ、クリティカルヒットしたみたいだ………

「わ、私もちゃんと足を引っ張らない様に、それなりに工夫を考えてはいるんだよ?」
「ですがドクター、師匠に勝てますか?むしろこの弱い姉にも勝てないでしょ?」

そして更に余計なひと言をセッテの奴が呟きやがった………!!

「………誰が弱いって?」
「レイ兄が師匠だと態度も大きいんスかね………?」

当然、ノーヴェとウェンディは怒りを露わにしてセッテに向かい合った。

「何を怒っているんです?私は事実を述べたまでです」
「よーし、分かったっス!!表に出ろ!!」
「私達が姉の威厳を見せてやるよ!!」

そんな感じで本当にセッテを連れ出そうとする2人。

「はぁ………ライ、あの子達を止めるの手伝ってください」
「分かったよ星」

結局尻拭いするのは俺達になるわけで………

「分かったっスよ………でもセッテが!!」
「分かってます、セッテには私からもキツく言っておきますから」
「えっ………」
「まあ当然だよ。ちゃんと年上は敬わないとね」

ライがそれを言うか………とも思ったが、その辺はもう大学生だしちゃんと弁えてるか。

「今日の夜早速決行しようと思う。それまで皆準備しておいてくれ」

いつまでも話が終わらなそうな雰囲気の中、スカさんが無理矢理話を終わらせた。
全く持って緊張感は無いが、まあ面子が面子だから仕方がないのかもしれない。

だけど………

「………」
「どうしたのだレイ?」
「ああ、悪い。ちょっと考え事を………」
「このタイミングで相手が動いてきた事か?」

俺の不安が夜美にも分かってしまったようだ。

「どうも何か企みがあるんじゃないかと思うんだ………」
「………だが先輩を見捨てるわけにはいかない」
「その通りだ」

そう。最優先事項は先輩を救い出すこと。
迷う必要は無い。

それに例え何があったとしても………

「俺の大事な人達は絶対に守る」
「互いにだ。勝手に自分が全部とは思うんではないぞレイ?」
「分かってるさ、明日は頼むぞ夜美?」
「ああ、任せておけ」
「私とライも忘れないでください?」
「そうだよレイ!!」
「分かってる、分かってる」

そんな会話をしながら時間は刻々と過ぎていった………















「ここよ」

深夜。
先輩が拉致されていると思われる研究所は聖王教会から北西へ約10Kmほど離れた場所の森の中にあった。

『クアットロと協力してハッキングして得た情報ですと、地下へと続いていく様ですね。中の詳細までは分かりませんが、中はそこまで複雑ではなさそうです』

研究所は廃棄された後で、部屋の中はかなり風化しているが、その中で離れた場所に二か所入口があり、そこから地下へと進むらしい。

「ありがとうウーノさん」

前にアギトを助けた時の様に誰だか特定されない様に変装している。

「何か女怪盗みたいだね!!」
「何でスパッツ………」
「動きやすいが………」

ライはともかく、星や夜美は抵抗があるみたいだ。ちゃんと上着を羽織っているものの、体のラインがエロい………

「レイ、鼻の下が伸びてるよ………」
「セイン、こればかっりはな………スカさんのセンスは素晴らしいな」
「レイ、私は!!」
「優理、可愛いよ」
「えへへ………!!」

『………準備は良いみたいね』

そんな会話をしているとクアットロから連絡が入った。

「おっ、悪い悪いこっちはOKだ」
『私達も準備出来たわ。………それじゃあ行きましょうか?』
「ゼストさんとシャイデに無理するなって言っておいて」
『こっちにリンスちゃんも来てくれたから貴方達よりは大丈夫よ』

最初こそ、リンスは有栖家と一緒の組み合わせだったが、シャイデが参加すると聞いてからずっとそわそわしていた。

「リンスが居ればシャイデも無理はしないだろう………」

だからこそリンスはゼストさんの方へ回した。シャイデもリンスが居れば否応でもリンスのフォローに回るだろう。

「よし、それじゃあ俺達も行くぞ。準備は良いか?」

皆が頷く。
それを確認した後、俺達は静かに相手の研究所に侵入した………

























「来たわね………」
「ああ、これが成功すればクレイン博士はまた我々に協力してくれると約束してくれた」
「………」

目隠しされた状態で椅子に座らされた水無月楓は、気絶したと見せかけながら静かにそこで話をする冥王教会のメンバーの会話を漏らさず聞こうと聞き耳を立てていた。

「しかし今まで泳がせておいて正解だった。見つけたのは偶然に近かったが、これで黒の亡霊達をおびき寄せる事が出来た」
「だけど本当に上手くいくかしら?仮にもバルトマン・ゲーハルトを倒した男よ?それに加え、今の機動六課に負けない魔導師達や、スカリエッティの戦闘機人まで協力しているみたいだし………」
「大丈夫だ紗枝。神は我々に味方してくれるさ。そして最後には永遠に生きられる未来が待っている。楓を含めた3人で永久に暮らそう………」

(狂ってる………)

自分の親である2人の会話を聞きながら楓はそう思った。

「しかし私もここに居るのか?私が捕まれば事実上、冥王教会は………」
「仕方がないじゃないですか………教皇は我等を見捨て、クレイン・アルゲイルからは冥王教会の力を見せてくれと言われれば、指導者が皆を導く光景を見せなければなりません………」
「し、しかし………」
「安心してください。必ず成功します。それにクレインとの取引は黒の亡霊を孤立させ、クレイン・アルゲイルと会せるように仕向ければ良いんです。こちらには被害は出ません」
「そ、そうだな………」

(どう言う事?クレイン・アルゲイルが零治君と会いたがっている?一体何の為に………それに孤立させて?零治君を真っ先に始末するつもりなのかしら………?)

「さて、状況はどうだ?」
「駄目です、2か所から侵入され、迎撃部隊は撃退され、どんどん進まれています」
「地下4階のラビリンスシステムの準備は良いか?」
「はい、彼らが降りたと同時に作動します」
「よし。それで黒の亡霊を孤立させ、クレインと会わせろ。それが完了次第、我々はこの場から脱出し、この場所を爆破する」

(!!そんな………じゃあ助けに来たみんなは………どうにかして伝える方法を………)

しかし今の自分にはどうする手立ても無かった。

(何て無力なのかしら私は………)

そう思いながらただ呆然としているしか無かった楓であった………











「………弱いな」
「そうですね、それがかえって不気味ではありますが………」

3階まで降り終え、先輩を探すが、何処にもいない。敵の迎撃も今まで相手にしてきた出来損ないのバリアアーマーに機械のムカデなど俺達を止めるには明らかに戦力は少なかった。

「ゼストさんの方も順調の様だ」
「あっちも同じなの?」
「ああ。セッテを中心に問題無く撃退出来てる」
「あちらもフォアードとバックとバランスが良いからな」

夜美の言う通りあちらもバランス良くチームが組まれている。そう簡単に危ない目には合わないだろう。

「取り敢えずこの階も手掛かり無しだね」
「やはりいるとしたら最下層か………」
「ねえセイン、部屋が無い壁に隠し通路とか無いの?」
「うん。今の所はね」

優理の言う通り、今まで何度も管理局の目をかいくぐってきた冥王教会の連中。出入り口以外にも脱出路の確保はしているだろう。
だからこそセインのディープダイバーはそれを見つけるのに大いに役に立つのだが、まだ何も見つかっていない。

「もう少し探してみる?」
「………いや、あまり時間もかけたくない。先に進もう」

俺の判断に皆頷き、更に下へと向かう。

「ここは………!!」

降りた場所は上の階まで壁のある迷路の様な場所だった………














「レイ………」
「ああ。これはヤバそうだ」

一見普通の迷路みたいな場所だと思えるが天井まで伸びた壁と何も目印の無いこの場所に対策なしで歩いて言っても迷子になるのがオチだろう。

「マッピングは我がやろう。そうすれば戻ることは可能だろう」
「頼む夜美」

ここまで来ればもう後戻りするわけにもいかない

「セイン、ディープダイバーで下の階の様子って分かるか?」
「うん、ちょっと覗いてみる………ってあれ?」

下に潜ろうとするセイン。だが、潜ることは出来なかった。

「あれ?何で?」
「………どうやらこの階はこの階で別の次元なのかもな」
「床の下は文字通り何も無いと………」
「多分な………」

夜美の推測に頷いたが、実際どうなっているのかなんて分からない。ただ敵の目的は何となく分かって来た。

「ここで俺達を閉じ込め、永遠に出れなくするとか………」
「確かにそうすれば戦わずして勝てますね」
「ええ〜!?そんなの反則だよ!!」
「ライ、そんなの敵にとって関係無いよ………」

優理に冷静に突っ込まれて不貞腐れるライ。気持ちは分からんでも無いがこればっかりはどうしようもない。

「さて、どうするか………」

壁に背を預け、そう呟いた時だった。

「えっ!?」

背を預けた筈の壁がいきなり消え、尻餅をついてしまった。

「「「「「レイ!!」」」」」
「大丈夫だ!何ともない」

俺が尻餅をついた後、皆が来る前に壁は修復され、完全に孤立させられた。

「油断した………」

情けないが完全に俺のミスである。

「レイ、そちらの様子はどうですか!」
「同じで迷宮みたいな通路があるだけだ!」

しかし違うのは真っ直ぐ一本道しかない事。
完全に俺を誘っている。

「レイ、我等も進む。レイはその場から動くな!」
「……いや、お前達は上の階で待機だ!」
「レイ!?どうして!!」
「俺のいる場所がだな、目の前の一本道しかない。どうやら俺を誘っているらしいんだが、相手はこの迷宮を自由に操ることが出来るみたいだ」
「それなら尚更ダメです!危険過ぎます!!」
「だが戻るにも戻れないし、この迷宮を抜け出すには進むしか………」
「レイ待ってて、今この壁に穴を開ける」
「優理、そんなことすればどうなるか分からない。あまりにも危険な賭けだ」

そう。ディープダイバーでも抜けられない場所でこの場を壊す様な魔力で攻撃してどうなるかなんて分からない。だからこそここで迎撃に来る敵はいないし、静かなのだろう。

「皆俺を信じて待ってくれ。必ずお前達の元に戻るから………」
「レイ………」

静かになった皆の返事を待つ。
そして一番最初に星が口を開いた。

「わかりました、レイを信じます」
「星!?」
「うん、レイなら守ってくれるもんね」
「ライ!?」
「我もレイを待とう。水無月先輩と共に帰って来てくれ」
「夜美まで………!!」

優理は不満そうだったが3人は分かってくれた。

「もしも何て事は言わない。必ず戻る!」
「いってらっしゃい」
「待ってるから!!」
「頑張るのだぞ?」
「ああ!!優理………」
「………いってらっしゃい」
「ありがとう!!行ってくる!!」

俺は優理の言葉を聞いて駆け出した………














『マスター………』
「どうしたラグナル?」

一本道を進み続けて10分ほど。それでもまだ先が見えない。
そんな中、ラグナルが俺に話しかけてきた。

『やはり戻りませんか?』
「ここまで来て今更戻れるか。それにどこに戻る?ただ同じく一本道を進むだけだぞ?それに戻るとなると完全に自分の感覚がおかしくなる」

ここまで同じ景色で戻ったり進んだりしていればいつかどっちが前の道でどっちか後ろの道かも分からなくなってしまう。

『そうですよね………』
「何だ?そんなにしおらしくしているお前も珍しい。まあデバイスに言う言葉じゃないが………」
『そう、私はデバイス何です。ですけど私の中でこれ以上進んでは駄目だと誰かが囁いているような感覚があるんです』
「囁く?一体誰が………?」

そんな会話をしているとやっと目の前に扉が現れた。

「着いたみたいだ。目的地に着いた以上、戻るって選択肢は無しだ」
『………分かりました、私も何があってもマスターの力になります』
「頼もしい限りだ。………行くぞラグナル」
『イエス、マスター!』

返事を聞いた俺はその扉の中へと入って行った………























「お待ちしておりました黒の亡霊様。………いえ、有栖零治様と仰った方がいいでしょか?」

部屋に入るとそこにはウーノさんにそっくりな紫の髪の女性とその女性を守る騎士の様に黒い鎧が三体待機していた。

「ウーノさんにそっくり………話に聞いていたクレインの戦闘機人」
「イクトと申します」
「クレインの戦闘機人が来たって事は何かしらの準備が終わって本格的に動き出したって事か?今度は何をするつもりだ?」
「その前に………あなたが本当にあの刀に相応しいかどうか試させてもらいます。………行け、ブラックサレナ」

そうイクトが命令すると魔力刃を展開し、俺に突っ込んでくる敵のブラックサレナ。

「前の時と同じと思って舐めるなよ………!!」

俺はその刃を当たる寸前で最小限の動きで躱し、鞘ごと顔の仮面部分に突き刺した。
そして次にくるブラックサレナには鞘から刀を抜き、首の部分から横なぎに斬った。

「魔王炎撃波!!」

最後は炎を纏った刀で大きく袈裟斬りで斬り裂いた。アギトが居ない分、どうしても威力が下がってしまうが、同じバリアアーマーである以上、何処が脆いかなどある程度弱点は想像出来る。

「お見事………!!」
「いくら俺を真似た所で所詮偽物だ」
「そうですね、確かにその通りです。ですが彼女はだいぶ満足したみたいです」
「満足………?」
「ええ。良かったですね零治さん」
「一体何を考えているお前達は………?」

そんな零治の問いには答えず、エネルギーブレードを展開するイクト。

「今度は私があなたの実力を測るといたしましょう」
「来るか………!!」

そう思い、構えた瞬間、体がいきなりだるく感じる様になった。

「この感覚………AMFか!!」
「さあ、あなたの力を見せてもらいます。行きますよ!!」

両手に展開したエネルギーブレード、そして背中にエネルギーの羽を展開したイクトは高速で俺へと向かって来た。

「速いが………ライほどじゃない!!」

目を凝らさず、イクトの動きを見逃さない様に見続ける。

『へぇ………』

AMFの影響で魔力が使い辛い。だからこそ無駄に魔力を消費しない様に戦わなくてはならない。
だが………

「くっ、速さでは圧倒している筈なのに………!!」
「動きも速さもトーレさんの方が上だ!そのトーレさんの戦いを見ていた俺にお前の攻撃は当たらん!!」

鞘で受け止めたと同時に力を受け流し、イクトの体制を崩した。

「烈震虎砲!!」

AMF下ながら魔力を集め、虎の闘気として体全体で発射する技。

「ぐうっ!?」

崩されたイクトには避ける事が出来ずエネルギーブレードで防ぐが、体制を崩された状態では防御出来る筈もなく、虎の闘気を受け、2メートルほど吹っ飛ばされた。

「そんなものか?戦闘機人?」
「くっ………舐めるな!!」

「そこまでだイクト!」

立ち上がり再び向かって行こうとしたイクトを止める声が響いた。

「流石黒の亡霊と言った所かな。だがここまで剣の腕があるとは思っていなかった。いや、腕だけではない、相手の攻撃を見切る洞察力。予想外だった」
「………お前がクレイン・アルゲイルか?」
「初めましてだね有栖零治君………」

クレインはスカさんと同じ様に白い白衣を着て、いかにも科学者だと言っている様な恰好をしていた。そして髪は明るい茶髪で、何故か狐のお面で顔を隠している。

「わざわざのこのこと出てくるって事は覚悟が出来たか、それとも何か仕掛ける準備が終えたのか?」
「覚悟と言うよりは準備が出来たって所かな。これで一番問題だった事も今日で解消される………」
「先輩を拉致し、俺を呼び出して何のつもりだ?」
「まあこれから分かるよ」

そう言って腰につけていた物を俺に見せた。

「刀………?」

それは赤と黒を基調とした鞘と綺麗な紅の線の様な模様が描かれている鍔の刀だった。

「そう、聖王器ホムラ。これを君にと思ってね」
「聖王器………だと?」

クレインの意図が全く分からない。敵である俺に聖王器を?

「一体何を考えている………?」
「私は自分の興味のある事を試したいだけさ。この聖王器を扱える者に託し、その力を見てみたい。そう興味が湧いただけさ」
「………信じると思うか?」

そう言い、どんな攻撃にでも対応できるように抜刀の構えをとる。

「疑い深いなぁ………」

そう言いながらパチンと指を鳴らすと、いきなり俺を囲むようにブラックサレナが3体現れた。

「なっ!?」

その3体は俺を攻撃するわけでもなく、俺が身動きを出来ない様にがっちりと固めてきた。

「くっ!?この………!!」
『マスター、これでは!!』
「こんな密着した状態じゃ転移しても意味が無い!神速でこの場から逃げ出して………」
「まあそんなに焦らなくてもいいじゃないか。ほら」

いつの間にか近づいてきたクレインに無理矢理聖王器を握らされた。

『待っていたわ!!!』
「何!?うっ………!!」

握らされた直後に大きく自分の意識が揺らぐ感覚が俺を襲った。

「なっ、何だ………!?」
『マスター!!その刀を離して!!』

ラグナルの言う通り刀を離そうとしたが、手が麻痺したように俺の言う事を聞いてくれない。

『私と言う女がいながら他の女を使わないでよ』
「なっ!?」

そう言うとラグナルが勝手に解かれ、バリアジャケットも消えてしまった。

『今度からこれよ』

そう言われると赤っぽい黒を基調としたフード付きのロングコート型のバリアジャケットが展開される。

「お前………一体何を………する気………だ?」
『もう感づいているんじゃない?』

そう、こいつの目的は何となく分かってしまった。このままだと家族全員………いや、下手をすれば世界に迷惑をかけるかもしれない。

「だ、………った…ら………」

刀を持っていないもう片方の腕を何とか動かし、邪魔にならない様にネックレスの様に繋げていたラグナルを引き千切り投げた。

「デバイスを捨てた?一体何故………うおっ!?」

そう不思議そうにラグナルを見たクレインだったが、いきなり人に変わったラグナルに吹き飛ばされた。

「マスター!!」

ラグナルはそのまま俺の手から聖王器を外そうとしてくれるが、一向に手は握ったまま動かない。

「邪魔なんですよ………!!マスターのデバイスは私なんです………!!」
『あなたは用済み、もう少しでこの人は私の物よ………』
「いいえ!!マスターはこんな事じゃ負けませんから!!!」
『………うるさい、目障りよ』

そう言うと俺は自分の意に反し、ラグナルを一閃した。

「ま、マスター………?」
『消えなさい、ポンコツ』

ラグナルの体をえぐった様に横に斬り口ができ、その場に倒れ去った。

「ら、ラグナル………」
『こ、コースケ………』

一瞬、ラグナルの髪の色が金髪へと変わり昔の名前を呼ばれた様に聞こえた。

「今のは………」

しかし倒れたラグナルは前と同じように銀髪のままだった。

『………へえ、あなたにも色々と秘密があるみたいね………』
「この………よくも………!!」
『まだ喋られる余裕があるのね。もうあなたの体の6割を私が乗っ取っているのに………』
「やはりお前は………」
『そう!あなたを使わさせてもらうわ。そして私と共に文明が壊れる瞬間を見てるの!!』
「文明が………こわ………れる?」
『そう。世界の終りと言ってもいいかしら?』
「何を言って………」

「ホムラ、彼はどうだい?」

俺の問いに答える前にクレインが話に割り込んで来た。

『体に関してはもう6割以上が私の意志で動けるわ。………だけど彼の心はかなり強固で完全に掌握出来る様になるまではちょっと時間がかかりそうね』
「ふむ、流石に場数を踏んで来ただけはあると言うことか………よし、狙っていた彼も無事得られたし、ゆりかごに戻ろうか。あの迷宮も効力が切れる。後は冥王教会の彼等に任せるよ」
「おっ………前…達は………」
「ホムラ、決行の日までには間に合う様に頼むよ?」
『私は時間には正確な女よ?』
「頼むよ。………さて、この仮面も邪魔だな………」
「最初から付けなくても良かったのでは?」
「まあ念には念をと思ってね。今の状態の彼なら問題ないだろう」

そう言うとクレインは自分の付けていた狐のお面をゆっくりと外した。

「!?………本…当に………スカさんと……ぐううっ!!!」

そこで激しい頭痛が俺を襲った。

「ああああああああ!!!!」
『ごめんね~悪いけど眠っててちょうだい』
「それじゃあ良い夢を………」

クレインの言葉を最後に俺の意識は完全に途絶えたのだった……… 
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