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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第七五幕 「ドゥエンデ」

 
前書き
あたりめを噛んでたら何故か親不知が生えてきました。 

 

どうにも味気ないと思っていた。打鉄弐式と被っている点が何となく嫌だったのもある。だから提案したのだが・・・我ながらこんな事を言うのは恥ずかしい。自分のISに変な愛称(ペットネーム)を付けるなんて小学校か、遅くとも中学には卒業すべきことだ。なんでこんな事言い出したんだろう、という後悔と羞恥がこみ上げるが、モニタの向こうで明らかに発言を待っているのでなかったことにはしにくい空気だ。仕方あるまい。

「日本で「百」って単なる数じゃなくて「凄く多い」って意味で使われてるよね?百貨店、八百屋、百科事典、なんとか百選とか。だから百華は“数えきれないくらいの花びら”って意味。それと・・・」

どうしよう。ここまで言わなくてもいいんじゃないだろうか?ああ、でも会社側の決めた名前にケチ付けるのに理由を伏せるっていうのもなんだか釈然としない。同級生(つららちゃん)にまで聞かれるというのが何とも恥ずかしいが・・・ええい、言ってしまえ!

「兄さんから訊いたんだけど、ISコアに宿る自我って女性らしいんだ。だから百華と書いて『ももか』っていう女の子の名前としても読める様にしたんだけど・・・駄目かな?」

・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・うん。やっぱり自分のISに女の子の名前つけるなんて悪趣味だっ――」

「素敵です!!」
「イカスじゃないですか・・・」

「え、え?」
二人の予想外のリアクションにちょっとたじろいだ。
先に言っておくが、ユウのこの名前付けは世間一般的な常識から見れば割かし奇行の部類に含まれる。いわば自分の自転車に「ナタク」という名前を付けたりするそれと同じレベルと言っても過言ではない。通常ならユウが自分で言った通り悪趣味と思われるのが世の常だ。

だがしかし、諸行無常の言葉の通り、世界は常に同じ状況であることはない。この場にいた数名のスタッフのうち、成尾とつららは世間一般から大きくずれた価値観を持った存在であったことがこの場に大きく作用した。・・・幸か不幸かは知らないが。
二人ともそれぞれ反応は違ったが、声色から好印象を与えてしまったらしいことを読み取れた。

「ISっていうのはいわば我々の子供みたいなもんでしてね。外に出す看板娘みたいな可愛い子なんですよ・・・それを色気のない名前で送り出すってのは確かによくない!いいじゃないですかヒャッカとモモカ!ISの名前としても娘の名前としても両立するあたりが実にイカス!!」
「そのとーりです!それに風花ちゃんのバリアは桃色ですからそことも掛かってます!ISだって女の子なら可愛い名前が欲しい筈!そんな願いを汲み取って名前を付けちゃうユウさん・・・紳士です!ジェントルメンです!!」
「は、ハイ・・・その、ありがとうございます?」

褒められてはいる。褒められてはいるが、何かが間違っている。そんな気はしても確かめる術がないというか、言い出した自分がそんなことを言い出すと話がややこしくなるというか・・・とにかく雰囲気にのまれてしまったユウは二人の想わぬ大絶賛に首肯するしかなかった。

――その直後、けたたましいサイレンと共に最上重工に存在する全防護シャッターが閉鎖された。



 = =



かつ、かつ、かつ、と誰もいない通路に足音が響く。足音の主は何所にでもいるようなとりわけ特徴のない女の子。学生服にカバンを持っていることから地元の学生であることが見て取れる。だが、彼女の通る通路が関係者以外立ち入り禁止であること・・・そして彼女が一切の意思を感じられぬような無表情であることを考えれば、それが異常な光景であるかが伺えるだろう。
現在この通路の先では男性IS操縦者のデータ収集が行われており、社の警備員以外にも政府と学園がそれぞれ人員を派遣しての警備が行われていたのだが・・・それらの人員は誰一人例外なく倒れ伏していた。

彼女の手には一昔前の携帯電話に良く似たものが握られており、彼女の指はその画面すら全く見ずにひっきりなしの操作を続けていた。指の動きと共にそれにぶら下がったストラップが揺れる。やがてその端末からPiPi、と電子音が鳴り響く。その画面に表示された文字は、彼女の手に持つ端末が社内の全警備システムの操作権を剥奪したことを告げていた。

やがて少女は鋼鉄製のハッチの前でピタリと立ち止まり、手に持っていた鞄を床に落とした。かしゃん、という金属のぶつかる音と共に落ちた鞄が綺麗に床に“設置”される。そのアクションと同時に鞄は強烈なジャミング波を放出し、ここいら一帯の通信機能を著しく阻害した。役目を終えれば部品の一つも残さずに自壊するため、証拠隠滅を図る必要もない。

この空間内ではISのコアネットワークでさえ限定された距離でしか通じない。この中で情報の送・受・通信が行えるのは彼女が手に握った端末と、それに対応した通信機のみ。彼女はどこか人間らしさを感じさせない機械的な動きでその端末を口元に近づける。口から洩れる声は抑揚のない淡々とした、人工音声かと疑うほどに響かない音声。


「――アニマス16、最上重工内部訓練棟へ潜入成功。これより潜伏任務を一時的に破棄。アダム2及びそのISへの威力偵察、及び可能ならば拉致を目的とした強襲任務を実行します。アニマス28は所定の指示あるまで現任務を続行されたし――」

感情の篭らない機械的な連絡と共に彼女の端末がひとりでにバラリと分解され、光に変わってゆく。見る者が見ればIS量子化の光と酷似していることが分かるそれに身を包まれた少女の身体は次々に装甲で覆われてゆき――やがてその身体は鈍色(にびいろ)の全身装甲に姿を変えた。



 = =



IS搬入口の扉が爆散し、舞い散る爆炎の中から“何か”が飛来する。
何が起こっているのか状況把握できていなかったユウはそれに不意を突かれ、反対方向の壁へと勢いよく叩きつけられた。びきり、とコンクリートの砕ける音が耳元に響く。幸い衝撃には滅法強く作られた風花である。ユウもこの程度の衝撃には慣れっこであったため大事には至らなかった。

「くっ・・・!?いったい何が――」

と、体勢を立て直そうとした瞬間、空気が動く気配を感じて咄嗟に身を翻す。しかし、横腹に強い衝撃を受けて再びバランスを崩し、再び地面を転がされた。同時に、それが”攻撃”であることを漠然と感じ取ってからのユウの行動は早かった。態と勢いをつけて転がり、腕で撥ねるように素早く立ち上がった。

『――――――――』
「・・・!?」

今度こそ体勢を立て直したユウの目に映ったのは、今まで一度も見たことのない鋼の人型。
異様なまでに鋭角的な脚部、両腕部に装着された2つのブレード。手甲部分と一体化している所を見ると「ジャマダハル」や「カタール」と呼ばれるものと同じ刺突特化の刀剣に似ている。先ほどの衝撃は斬撃ではなかったので、どうやら足で蹴られたらしい。
頭部はなにか大きな被り物をしているかのように人間らしさの欠けた直線的なパーツが幾重も重なって厚みを持ったような独特の形状をしている。何所を見ているのか分からない顔が反って不気味に感じた。

「IS・・・なのか?前の無人機とはずいぶん雰囲気が違うけど、別系統なのか・・・フレームの意匠も見たことの無い型だ」

識別コードは全くの不明。こちらからのコールも完全に突っぱねている。そしてこちらへの敵対行動・・・一瞬最上のまだ見ぬ2号機又は3号機の乱入かと思ったが、それにしては余りにも乱暴すぎる事と集音センサーが拾う最上重工に鳴り響くサイレンが「それは違う」と告げている。
襲撃者。そう考えるしかないだろう。誰が何のために、と言うのは今は考える余裕がない。
敵はこちらを値踏みするかのように仕掛けてこない。コイツの目的がなんなのか、現段階では分からなかった。

ユウは今や世界的な重要人物である。当然ながら常に政府や学園の人間に陰ながら監視され、保護されていると言っても過言ではない。それを潜り抜けての襲撃・・・しかもISを投入してのとなると、非常時中の非常時だ。アリーナの事件以来、ISを用いた襲撃はこれからもあるかもしれないとジョウが言っていたためかそれほど動揺はしなかったが、それでも学園を離れたその日ピッタリに襲撃を受けるとは思わなかった。
こちらの行動がすべて漏れているかのような気味の悪いものを禁じ得ない。しかし、内部でのサイレンがユウにあることを思い出させる。

「いや、そんなことよりも・・・成尾さん!聞こえますか!?成尾さん!!・・・駄目だ、通信が繋がらない・・・!」

シャッターが閉鎖されたことによって内部の様子が分からない。外部からの襲撃という事は内通者がいた可能性も否定できない。それを考えると、内部にも侵入者がいるかもしれない。そしてもし内部の侵入者がISを所持していたなら・・・考えたくもない。

念の為政府に握らされた非常事態コールを送信するが、返信は来ない。・・・専用のコールを政府が理由もなく応じないことは考え難い・・・どうにも孤立したらしい。どうする?内部に行くにしてもあの敵を突破しないと――

『・・・ウ・・・・・すか!?・・・・・・ユウ・・・!聞こえ・・・か!?つららです!!ユウさん!』
「つららちゃん!?良かった、無事だったんだ!」
『それはこっ・・・リフなんですけどねっ!!』

通信にノイズが走る。ジャミングの類を受けているのかもしれない、とユウは推測する。

「今僕は所属不明のISに襲撃を受けてる!つららちゃん、内部はどうなってる!?」
『大混乱です!パニックです!存在する一通り・・・ュリティと計器が操作を受け付けま・・・!成尾さんに策があるようなので、ユ・・・・・・うにか凌いでください!!』
「・・・分かった!向こうが仕掛けてくるから通信切るよ!」
『・・・けつけますんで、ご武運を!』

どうやら秘策があるらしい。どちらにしろこちらから手伝えることはなさそうなので任せるしかないだろう。
政府も流石にこの非常事態とあれば動く。問題はそれまでの間――

『――――』
「来る・・・!」


――あのアンノウンを迎撃しなければいけないという事だ。
逃げ場がないとはいえまた命がけの戦いになりそうだ。・・・織斑先生に何と言い訳しようか。



 = =



『緊急事態発生!緊急事態発生!警報レベルAを発令します!職員は速やかに所定の措置を行い―――』
「・・・何だこれ?あ、避難訓練中だったのか。どーりで人がいない訳だぜ」

馬鹿には底や際限など存在しない。いくら馬鹿でも気付くだろ、という状況でも気付かない奴こそが本物の馬鹿と呼ばれるに相応しい勘違いを犯すのだ。不良少女の勘違いには事実、底が無かった。底無しに深いのならば逆に凄いが、彼女の場合は器の下に穴が開いているだけである。

「うわー・・・こんなに込んだ訓練するんだ。マジでISにぶち抜かれたみてーにドアが壊れてるよ。ISが暴走したとかそう言うシチュなのか?」

IS研究棟と書かれたその場所は日本IS産業の最前線の一つであり、今やスパイを退けるためにありとあらゆる警備を固めた場所である。そのハッチに――恐らく光学兵器の類で――穴が空けられている事も、不良少女は「訓練のリアリティを出すための演出」と思い込んでいるようだ。普通ハッチの素材が若干溶解し、未だに熱を持っていることを考えれば本当に事件が起きている可能性を考慮するものなのだが・・・いや、案外平和ボケした日本人ならそう言う勘違いもひょっとしてあるのかもしれない。

「という事は今この先には誰もいねーな・・・ひょっとしてアイツISを盗みにここを通ったのかも!今なら人がいないもんなー・・・よーっし!!」

 しかし、平和ボケした日本人ならわざわざアチチ、と悲鳴を上げながらそのハッチを飛び越えて向こうへ身を乗り出すことはしないだろう。それを実行した彼女はまさにお馬鹿と罵られるに相応しい。

 そして馬鹿者にはそれ相応の“報い”というものが待っている。それを別名「自業自得の結末」と呼ぶのだが・・・生憎彼女が覚えている四字熟語は「焼肉定食」が精々であった。
  
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