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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第七四幕 「社会見学」

 
前書き
未だに自分の作品を読み直すと誤字を見つけます。今月に入ってからちょっと見直してみると放置状態の誤字を10個ほど発見して修正しました。 

 
右腕を部分展開する。美術品のように洗練された機械の腕は僕の生身の感覚と寸分の狂いなく駆動し、拳を形作る。続いて左腕。右足。左足。最後に残る全てを展開し、慣らすように体を動かした。
以前の風花よりも反応速度が増している。ISにおいて反応速度が増すというのは、所謂「遊び」の部分が減ってより過敏に反応するようになったという事だ。元々ISに遊びは限りなく少ないのだが、ほんの僅かな反応速度変化でそのパイロットが発揮できるポテンシャルが全く変わってくる。遊びが少なければ少ないほど操縦者は精密かつ無駄のない機体運用が求められるようになり、その分動きの自由度が上昇する。風花はより上級者向けのISになったと言えるだろう。

両腕部の手首辺りの装甲のデザインが変更され、まるで腕輪が嵌められているような形状になっていた。肩から肘にかけてのラインはバランスを損なわない程度に補強されており、肩には今まで存在しなかった音叉のような形のパーツが突き出ている。
最上重工のIS訓練場に立つユウは、ここで初めて自分の愛機がどのような姿に変化したかを目の当たりにした。

『腕の形が大分変っているだろう?あの時に君が使った“十握拳(とつかのけん)”を使用することを前提に組み直したんだ。肩から突き出ているそれは発射時の反動を放出する為のものだよ』
「え!?アレをですか!?・・・正直もう使うなって言われると思ってました」
『確かに我々もあの運用法によってかかる負荷と反動を見た時には気が遠くなったよ・・・ハハハ・・・あ、流石に最大出力となると何発も放てないからね?』

今回の風花改修作業の指揮を執ったらしい鳴尾(なるお)さんの言葉にユウは一瞬耳を疑う。
あれは簪主導で考えた必殺技会議で生まれた「理論上は一応可能」レベルの保障しかない攻撃方法だ。そもそもバリアは張るものであって発射するものでは決してないという前提条件から無視しているのだから、本来ならばお話にならないレベルだ。それをこの短期間で形にした・・・簪が聞いたら何というだろうか。

『腕だけじゃない。“投桃報李”の方は完全にダメになっていたが、それが逆に改良の余地発見に繋がってね?テスト後、風花には新しい第3世代武装“武陵桃源(ぶりょうとうげん)”が搭載される予定だ。他にもセンサー類の強化、装甲板の形状変更、脚部の強化など反省点を踏まえ君専用に入念なカスタマイズを行った結果・・・・・・打鉄の面影は今度こそ完全に消滅したよ』
(ですよねー・・・)

今まで妙に細かった脚部はその小型化の利点を潰さないように機能強化が図られ、よりマッシヴに。パーツが追加されたことで以前のアンバランスな印象から、かなり人間的なフォルムになったと言えるだろう。

「そういえば辛うじて打鉄の面影を残していた“鳴動”はどうしたんですか?」
『ああ、あれは余分な機能を省いて風花の新しい翼に組み込まれることになったよ』
「新しい翼・・・ですか?」

聞きなれない言葉にユウは思わず聞き返した。推測するに非固定浮遊部位かそれに準ずるものだろうと見当はついたが、今一確証が得られない。

『小難しい話はあとにしようか。とにかくその翼も、一度“風花弐式”の飛行テストを行ってからじゃないとデータの最適化が出来ないからね』
「・・・そうでしたね。では、さっそく飛んでみます」



= = =



空を舞った風花はゆっくりと高度を上げ、次の瞬間モニターから掻き消えた。
少なくともその場にいた人間たちの目にはそう見えたほどの速度で、バーナーが機体を押し出したのだ。今の所世界で風花にしか搭載されていない”噴射加速”である。しかも―――

「こ、これはスゴイ!アフターバーナーが2つからよりダウンサイズしたもの4つに増設!さらに小型バーナーを腰部に移動させ、残りの姿勢制御を肩、背面、脚部に設置されたフィンスラスターによる微調整を行うことでその速度を増しながらむしろ前よりも安定した速度を実現!!現存するISで間違いなくトップの初速です!!私の目測では最大の欠点であった空中でのバーナーを用いない移動速度も2倍になってます!!・・・といっても元々ドン亀レベルで遅かったので実戦では毛が生えた程度の違いしか生みませんけどね!!その代り下手にコントロールが効くようになっただけに加速中の進路変更による操縦者へのGはむしろ増加しているとお見受けしましたが成尾さん如何ですか!?」
「俺の台詞の8割ほどを奪われたと言っておくよ・・・」
「えっへんなのです!つららは出来る子なのです!唯お姉さまの前では少し不自由なだけで、でもそれは馬鹿ではないのです!!」

ノンストップで最初から最後まで驚くほど正確な分析をしてみせた見学組のつららに成尾開発主任は苦笑いした。当の本人は胸を張ってえっへん!と威張っているが、彼女の目測は全く以て当たっているので見事なものである。彼女の契約はこの風花弐式のテスト終了後に行われる手はずになっている。

社長が直々にスカウトしただけのことはある、か―――そう一人で勝手に納得する。何だかんだで社長である最上景雲とは学生時代からの付き合いで、彼の父が経営する最上重工にも彼に誘われて入社したのだ。技術屋にとって最高の上司とは、自分の腕を買ってくれる上司に他ならない。そんな上司が「この子ならば相応しい」と選んだ子ならば、自分はそれに従うだけである。

『これは・・・確かに、前よりも気を遣って飛ばないと空気抵抗できりもみになってしまいそうですね』
「だろう?だからここで新しい“翼”が必要になるのさ。・・・さて、データは十分取れたから、そろそろ風花弐式を・・・」
『あ、それなんですけどちょっといいですか?』

突然のストップ。何かISに不具合でもあったのか、と一瞬焦る成尾だったが、ユウのそれは彼の予測を裏付ける内容ではなかった。

『風花弐式って名前、打鉄弐式とちょっと被ってると思いません?』
「ええ、それは・・・確かに。社長が『風花は一度生まれ変わったのだから“改”では味気ない』と言い出してね」
『でも今のままもどうかと思いまして・・・実は新しい名前を考えてみたんです。名付けて《風花・百華(ひゃっか)》・・・どうでしょうか?』
「えっと・・・その心は!?・・・でいいんでしょうかこの場合?」

要約するとその名前にした意味を聞かないとリアクションしにくいと言いたいらしい。別に名前を変えるくらいなら社長は二つ返事で了承するだろうが、成尾も何故その名前にしたのか興味があった。

『ええっとね・・・それは―――』



= = =



友達の足取りはどんどん学校方面を遠ざかり、山に近い方へと進んでいた。不良少女の不信感はどんどん募ってゆく。

(あっちの方角に学生の遊ぶ場所とか、そもそも人の集まるような建物ねーぞ?あんのは無駄にでけぇ最上重工の本社くらい・・・アイツ何でこんな方向に向かってんだ?訳わかんねぇ・・・くそっ!)

彼女の人生の中でこれほど集中して一つの物事に取り組んだ例は稀有である。一つのものごとに集中できず、途中で投げ出してしまうのはご愛嬌。
このおバカは「勉強できなくとも女尊男卑社会だし何とかなるだろ」といろいろ間違ったことを考えている。女性優遇社会とは言ってもそれは就職にはさして役に立たない情報であり、現に日本でのニート及び浪人など職に溢れた人間の男女比はあんまり変わっていない。というかむしろ面接態度に問題のある女性が増加傾向にあり、試験結果がイマイチだと女でも割と容赦なく落とされる。「そんな事より利益を上げろ」がスローガンの労働社会で無駄にプライドだけ高い存在はお(つぼね)さんで十分ということだ。
閑話休題。そんな彼女の集中力も割と早い段階で限界を迎えた。彼女の視界から、ふっと友達が消えたのだ。

「んん?アイツどこ行った!?こっちの路地か!?」

急いで見失った地点に走った不良少女だったがそこに友達の姿はない。暫く周囲を探し回ったものの全く手がかりがつかめず、最後の手段と本人に電話をかけてみても何故か圏外。不良少女は肩を落とした。

―――そこで諦めていればよかったものを、不良少女は妙な所で諦めが悪かった。

「あたしの推理によれば!この辺にはちょこちょこある民家とマンションみたいな建物のみ!となればあいつが向かった先は最上重工本社に違いないわ!我ながら名推理♪」

その辺に知り合いが住んでいるとかは推理の勘定に入っていない。馬鹿は都合の悪い現実が見えなくなる“節穴”と言う名の魔眼を宿しているのだ。そしてここで不良少女を幸運―――あるいは後の不運―――が襲う。

「―――あり?ここから敷地内の筈だけど・・・警備員とかいないんだ?入り放題じゃん♪」

そう言ってゲートを素通りした不良少女は、とりあえずいちばん近い建物へと向かうことにした。

―――彼女は気付かない。自分の通ったゲートは関係者IDを提示したうえで生体認証を行わなければ決して開かないゲートだったことを。ゲート脇の監視部屋に二人の従業員が意識不明の状態で倒れ伏していたことを。そして自分の向かう先が、そのまま彼女のこれからの運命を決定付ける場所だという事を。
 
 

 
後書き
私、三点リーダー(これのこと→ …)が嫌いです。なんか美しくない。
でも全角の・・・だと幅が開きすぎてやっぱり美しくない。
だから半角の・・・を使ってます。これって変? 
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