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26歳会社員をSAOにぶち込んで見た。

作者:憑唄
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第七話 Memory

 
前書き
ソードアート・オンラインの二次創作、第七話となります。 よろしくお願いします。 投稿が大分遅れました……。 しかし内容はちと濃い目です。 というかSAOっぽくはないかもしれないです。 作中で出るスキルは現存のネトゲをベースとしてます。 コンボテンペスト→Maple Storyアランスキルオーバースイングベース 原作のユイみたいな超高性能AIが作れるんだから、この程度は出来るんじゃないかと思ってちょいと冒険してみました。 2話で終わらせる予定だったのが、3話に延びてしまいました……。
10/15 AM4:16追記 全話に扉絵つけてみました。 

 

 突然だが、人の死というのは、案外、身近にありすぎて実感できないものである。
 己はその瞬間まで体験できず、他人のそれは漠然としてしか知りえることが出来ない。
 親族、家族の死を目の当たりにしても、その瞬間、涙を流さない人間は、案外多い。
 恐らく本当の悲しみに襲われていても、それを理解するまでに時間がかかるからだ。
 漫画やアニメ、ドラマのように人が泣くのは、その瞬間を前々から覚悟していて、その時が来たという絶望感だ。
 つまり、唐突な死においては、涙すら出ず、暫くその状況を把握するために頭が混乱する。
 涙が出るのは、そこから暫く経って、二度と会えないという状況を理解し、実感した時だろう。
 逆を言えば、理解できなければ、実感できなければ、真の悲しみというのは訪れにくい。
 つまりSAOというこの『ゲーム』内空間において、その実感する、というのは実は非常に難しい。
 どれだけリアルに精密に近づけていようと、所詮ゲームはゲーム。
 傷がついたら出血するわけでもない、死んだら死体が残るわけでもない。
 断末魔の悲鳴を聞いたところで、それは己の本当の耳で聞いたのではなく、電子化された音声をナーヴギアを通じて情報として得ただけだ。
 SAOで人が死ねばデータの海へ還るようにキャラクターのデータが粉々になって散っていく。
 そんな『非現実』的なものを前にして、すぐに理解できるだろうか。 すぐに泣けるだろうか。

 少なくとも、玖渚はそれを理解するには、悲しみを得るには、実感するには。
 余りにも幼かった。
 彼女のような低年齢の少女がSAOを徹夜並んで買えるはずがない。
 大人のアルス、天乃、レイカ等と違い、そんなことは親が黙っていない。
 親に頼んで買ってもらった桜花のような学生と違って、親は小さな我が娘に、対象年齢13歳以上のゲーム機のネットゲームを、好んで与えはしない。
 事実、SAOは内容だけで見ればR-18指定が入るような内容も含まれている。
 となれば、親が子に与える確率は非常に低い。
 さらにソフトは1万本限定だ。
 つまり玖渚のような少女がSAOを入手できる確率は、天文学的な数値となる。
 例えるならば、何も考えずに投げた小石がたまたま飛んできた鳥の頭にぶつかり、結果として射ち落としたのと同じような確率だ。
 だが、玖渚は、その確率を突破する手段を持っていた。
 歳の離れた兄姉の存在だ。
 彼女の兄は24歳で社会人で、姉は19歳で専門学生だった。
 玖渚は兄と姉に無理言って頼み、三兄妹揃ってSAOをスタートしたのだった。
 2022年11月、一層。
 始まりの一ヶ月で死んだ2000人。
 その中に、玖渚の兄は含まれていた。
 死因は極簡単。
 一層にいた植物系モンスターと遭遇し、即死攻撃によって死亡した。
 元々兄妹だけでやっていた玖渚達は他者と殆ど交流を取らず、配布されたガイドブックすら読まなかったのが、仇になった。
 玖渚の兄、キャラクター名『零式』、本名『清水 慧』は、そこで命を落とした。
 今まで慧兄と慕っていた人物が突然死んだ衝撃。
 ゲーム内では零式と呼べと笑いながら言っていた兄が死んだことに、玖渚と、その姉は、暫く実感することが出来なかった。
 しかし幼い玖渚と違い、玖渚の姉、キャラクター名『宵闇』、本名『清水 鈴』は、理解と実感するのはさほど遠い事ではなかった。
 玖渚の目を盗んでは宿で一人で泣く日々が続き、玖渚の前では、絶対に己の負の部分を見せなかった。
 健気な姉を見て、玖渚はそれに答えるように、明るく振舞いながら、生き残りをかけたデスゲームに身を投じることになる。
 この時、まだ玖渚は健全な一般プレイヤーであり、盗みもデュエルも行っていなかった。
 だが、切欠というのは突然訪れるものである。
 二人で兄の死を見習い、堅実にプレイしたが故に、単純な問題にぶち当たる。
 絶対的な資金不足、それ故の敵の情報量の不足、食費のやり取り、狩りのマンネリ化、それゆえの飽き。
 宿代は簡単に稼げて生きていけるとしても、上記の問題はどうしようもなかった。
 新しい敵に挑もうにも、兄の失態を習って二の足を踏まずと、どうしても慎重になる。
 情報不足によりそれも適わないことも多く、食料も一定のローテーションを回し続けるだけ。
 この時の彼女らにとって、SAOは牢獄に等しかった。
 だからこそ、姉である宵闇は覚悟する。
 これ以上妹に負担をかけないため、新しく、安全なスリルを得るため――――。
 盗み、という単純な行いをするようになった。
 彼女の努力の甲斐があり、マンネリ化から抜け出し、食事も豪勢になった。
 資金が潤ったため、情報屋から情報も聞き出せ、彼女達は順調に廻りだす。
 しかし、それが続くことはなかった。
 2023年1月。
 宵闇こと、清水 鈴は死亡した。
 玖渚の見てる前で、突如転移結晶を渡したかと思うと、自分のやってきたことを最後に白状し、死んでいった。
 最後に玖渚に渡したアイテムは、いずれ玖渚の主流武器となるバードナセの生成材料。
 彼女が死んだ原因は、ただ一つ。
 泥棒を行った相手が、運悪く、最速のPK、HeavensDoorだったことだ。
 もちろん、彼女は相手がPKだとわかった瞬間、逃げた。
 逃げて逃げて逃げて――――行き着いた先は、玖渚の元。
 そこで、玖渚がポーションを使う前に、彼女はやるべきことをやり、死んだ。
 彼女は最後にわかったのだ。
 己が今、回復したところで、最速のPKは追ってくる。
 そうなれば、玖渚を巻き込んでしまう。
 だから、己の命を諦め、玖渚に託したのだ。
 もちろん、関係なしに玖渚が襲われる可能性もあった。
 だが、それを回避させるため、真っ先に玖渚に転移結晶を持たせたのだ。
 彼女の願いどおり、HeavensDoorは玖渚を追わなかった。
 玖渚が幼すぎた、というのもあるが、何より――――。
 宵闇の死を目の前にして、玖渚は、ただただ、無表情だったことが、あまりにも不気味に見えたからだ。
 玖渚は目の前で起こった突拍子のないことへの脳の処理が追いつかなかった。
 幼い脳は真実の理解を拒み、実感をゲームという非現実でもみ消した。
 結果、玖渚は、姉は今までの役割を、自分に押し付けた、と勘違いしたのだ。
 それから先は、玖渚は姉を受け継ぎ、泥棒となった。
 モンスターにやられた兄のようにならないために、情報屋と太いパイプを持ち。
 正体不明の敵にやられ、白状して死んでいった姉のようにならないために、レベルは攻略組同等上げた。
 姉から引き継いだ豊富な資金は装備につぎ込み、自分を守るために、モメた時はデュエルでの勝敗を好んだ。
 デュエルに勝つためにシステムを理解し、それにほぼ確実に勝てるように特殊なスキル構成と特殊武器、防具の使用を怠らなかった。
 ただ生き残るため、姉の後を継ぐ為に……。
 だが最近になってそれすら疑問になった。
 それは、ギルド、ディラックの面々が、玖渚を狂わせた。
 姉の後を継がなくても、豊かな生活や一定以上の金の見入りがある。
 そうなると、玖渚は、己の存在意義がわからなくなる。
 そんな時、クエストの情報を聞いた。
 危険なクエスト、曰く付きのクエスト。
 しかし、その情報の中には、死んだフレンドリスト、という気になる単語も含まれていた。
 死者と会えるかもしれない。
 そうなれば、己の存在意義を問えるかもしれない。
 そう思って、玖渚は安全面を考慮し、ディラックの面々に協力を呼びかけ、アルスという大剣使いの協力を得ることに成功した。
 攻略組にいただけあって実力的にも問題がない。
 持っているグリュンヒルは今や低レベルなら露店や闇市で500k~1M程度で出回ることがあるくらい珍しいものではないが、アルスほどレベルを上げているのは稀だ。
 事実、玖渚も一本所有しているが、レベル10程度で、使えたものではない。
 それを50まで引っ張り上げているアルスのグリュンヒルは、レア武器相応の攻撃力、スキルを誇っていた。
 よって武器に関しても問題は無い。
 そして、クエストの内容も、先ほどのONEの扉で内容を確認した。
 玖渚にとって、そこまで、完全に計算づくされていたことだった。
 しかし、この時点で、玖渚に一つ、大きなミスがあった。
 玖渚は、サニーとホイミを知らない。
 故に、敵として出てきた彼らが喋っていた言葉が、ログから抽出されたものだとは、知らないのだ。
 玖渚の中では、サニーとホイミは、中の人間をモチーフにしたAIやNPCが喋っているか、もしくは――――。
 記憶をゲーム開始直後の状態まで戻された、中の人が喋っている可能性を考えていた。
 死を目撃しながらも、玖渚は、まだ死を理解していない、実感していない、信じていない。
 故に、彼女の中では、ナーヴギアに脳が焼かれるというのは、嘘っぱちか、ゲームが完全に終了時に一斉に焼かれるものだと思っていて。
 まだ、兄と姉の死を、本当の意味で、『わかっていなかった』
 だから彼女は、二つ目の扉を開いて。
 【TWO―二つ目の絶望―】
『これがSAOか……おいおい、なんかすごくないか! 鈴!?』
『慧兄、はしゃぎすぎでしょ? いい大人が大人気ないよ?』
 敵として、傀儡と化して現れた二人を前にして、笑顔を見せた――――。





――――




 俺の目の前に現れた二人は、面識が全くないやつらだ。
 出ている名前は、ZEROsikiとYoiyami、零式と宵闇、と言ったところか。
 ただ、コイツらも恐らくはさっきのサニーやホイミのような、プレイヤーのゾンビ。
 俺が知らないってことは、十中八九、隣にいる玖渚のやつらなんだろう。
 このクエスト、受注者のPTにいる人間の死んだフレも出てくるのか。
 極悪極まりないな……。
 しかしこれじゃあ、どうも倒しにくい……。
 きっと玖渚だって同じだろう……。
 そう思いながら、玖渚へと視線を向ける。
 だが、その瞬間、思考が一瞬凍りつく。
 ……笑ってる!?
 嬉しそうな笑顔で、まるで待っていたデザートが出てきた子供みたいに……!?
 なんでだ……なんで、笑っていられる!?
 そう思っていた直後、玖渚が、目の前のゾンビ二人に対して、口を開けた。
「慧兄ィ! 宵姉! 久しぶり! 元気だった!?」
 ……!?
 今、玖渚、なんて言いやがった……!? 敵に、ただのAIに対して……!?
 そんな俺の考えを裏切るように、目の前の二人は、空ろな目で少しの間、こちらを見た後。
『おお、玖渚。 装備も大分よくなってきたみたいだな』
『へぇ、玖渚はレベルいくつに上がった?』
 なんて、それっぽい言葉を、放ち始めた。
 ……違う。
 さっきのサニーやホイミと違う!
 さっきのAIはランダムなログから抜き出して勝手に喋っていたが。
 コイツらは……!
「私はもう50! 凄いでしょ? 慧兄なんて、その装備じゃまだ低レベルなんじゃないの?
宵姉も、今の最前層でそれは話にならないよ」
 そう言いながら、二人へと近づいていく玖渚に。
 俺は思わず、手を伸ばした。
「おい! 何やってんだ! ソイツらは……!」
 俺がそう口にすると、玖渚は何か思い出したかのように振り向くと。
「ああ、ごめんごめん! アルス、紹介忘れてたね! あっちが私の兄の慧兄! で、もう片方が私の姉の宵姉! 私の本当の兄妹なんだ!」
 そんなことを、サラっと口にした……。
『いい加減に慧兄はやめろって、ゲーム内では零式と呼べ!』
『アタシの装備はこれでいいの。 アタシはこの装備気に入ってるんだから』
 そしてそれぞれ口にする二体の敵。
 そんな台詞を喋っても、顔は無表情のままだ。
 それに、常に武器を持って臨戦状態なのも気になる。
 ただ、さっきのサニーやホイミと違って、まだ攻撃してきてない。
 ……できれば、ダメージを食らう前に、目の前の二体を処理したい。
 一体、零式の方の装備はほぼ初期の装備だ。
 幾らレベル補正があるとは言え、大した脅威にはならない。
 だがもう片方、宵闇の方は装備がイイ。
 防具は黒系のロングコートにジェイドグリーンの装飾が施された高級装備。
 あのコートは露店で出回ってるが、あの装飾つきのはスキル付与のレア防具だな……。
 ルビーレッドがSTRがプラス、サファイアブルーがHPとMPの最大値増量、ジェイドグリーンは確か俊敏系上昇だったな……。
 だが、玖渚の言う通り、最前線の俺達の装備から比べれば、弱い装備だが……。
 それでも同格レベルに上がっているとするなら、警戒はするべきだ。
 零式の方はスチールレイピア、宵闇の方は特殊武器のハガネノオウギか……。
 片手剣、細剣、短剣のスキル3つが使えるマルチタイプの高級武器だが……。
 あれの真価は、そんなものよりも、装備品そのものについてる特殊スキル、ソードダンスだ。
 攻撃速度2倍の恩恵がつく壊れスキルだが、発動終了後に硬直があったハズ……。
 まぁそれでもあの装備は半年以上前に流行った武器。
 攻撃力だけで見れば俺のグリュンヒルや玖渚のバードナセの方がよほど優秀だ。
 ガチンコでやれば倒せないことはない。
 ……だが、それは、あくまでも、全てがスムーズに行った場合のみだ。
 もし玖渚が俺を妨害すれば、大分厳しい戦いとなるだろう。
 俺がこんなことを考えているうちにも、目の前で玖渚と、AIの会話が展開されている。
 玖渚がじわじわと二人に近づいているのが、気になる……。
 しかし、なんでヤツらは敵なのに、動かないんだ?
 通常、プレイヤーが接近してきたらターゲットを取って動くハズ……。
 そこで……気づいた……気がついてしまった!
「玖渚! 正気に戻れ! ソイツらは……ッ!」
 ……ここから先が、言えない。
 まだまだ間に合うのに。
 たった一つ、しょうもない理由で、言えない。
 玖渚は、恐らく今、兄姉と接して、幸せなんだ……。
 こいつらがAIなんかなんだろうと、きっと知りはしない。
 いや、知っていても、考えることを否定している可能性が高い。
 その、紛い物でも、折角掴んだ幸せを……折角得た、死者との、家族との会話を!
 俺が邪魔していいのか……!?
 真実を知ったら、恐らく絶望するだろう。
 その、玖渚を、こんな小さな少女を! 絶望させる役目を! 俺に負えっていうのか……!
「アルス、どうしたの? さっきから変だよ。 ああ、もしかして緊張しちゃってる?」
 玖渚が心配そうにこちらを見てくるが……。
 その無垢な顔が、俺の心をズキリと痛めた。
 ……違うな、被害者面するなよ、俺っ……!
 本当に悲しいのは俺じゃない、本当に心が痛むのは俺じゃない!
 玖渚だ……これから絶望するのは! 悲しむのは! 心が痛むのは!
 覚悟を決めろ、俺。
 嫌われようが、なんだろうが……。
 これはやらなきゃ、言わなきゃいけないコトだ――――ッ!
「玖渚、ソイツらはAI、NPCだ。 お前の家族の形をした、ただの敵だ。 俺は今から、ソイツらを倒す」
 そう言って、俺は武器を構え、片手に結晶を取り出した。
 その姿に、玖渚は目を丸くした後。
「……アルス、何言ってるの? 慧兄と宵姉は、NPCなんかじゃないよ!
多分ほら、記憶を消されて復活して……」
 そこで、玖渚は言葉を失う。
 恐らく……気づいたな。
 こいつらの言葉が、ログを組み合わせて放たれていたという言葉だということに。
 コイツらは……最悪だ。
 学習能力の高いAIを搭載し、人とある程度会話できるように仕立ててあるNPC。
 それ故に、人を惑わす……悪夢だ。
「……ッ! アルス、違うよ、違うんだよ! 兎に角、二人の中身は本物の……!」
 そう口にして、玖渚が二人へと視線を向けると。
 無表情の顔で、二人は口を開いた。
『玖渚、戦闘だぞ。 気を引き締めていけよ』
『さーて、いっちょ狩りますかー!』
 そんな言葉と共に、二人が臨戦態勢に入る。
 しかし、その場からは動かない。
「……! そんな、嘘だ、嘘だよ! 二人はまだ死んじゃいないんだ!
だって、私は宵姉から、まだ聞いてない! 私の存在意義を! 泥棒としての価値を!
ねぇ、教えてよ宵姉! 私はどうして生きてるの!? 泥棒して、なんで生きていかなきゃいけないの!?」
『…………』
 NPCは答えない。
 いや、答えることが出来ないんだろうな。
 そんな回答、ログにあるわけがない。
 だからこそ、玖渚は聞いたんだろう。
 だがな、玖渚、本当のソイツの意味を教えてくれるやつは。
 世界の何処探したって、もういねぇんだよ!
「腹括れよ、玖渚。 これ以上話すだけ時間の無駄だ」
 俺がそう話すと、玖渚は暫く困惑した顔をした後。
「……ッッ! 嘘だ、そんなのは嘘だよ! 慧兄! 宵姉!」
 そう言って、二人に向かって走り出した。
 だが……。
 その足は、二人の目の前で、急遽止まることとなる。
「え……」
 唖然としながら、その場に倒れる玖渚を確認した後、俺は手に持っていた結晶を玖渚に向けて投げる。
 同時に、二人に向かって走り、斬りかかった!
『ほう、重いな』
『中々の攻撃だね』
 先ほどのサニーと違い、しっかりと防御してくる零式と宵闇。
 流石、知力の高いAIを搭載してるだけはあるな。
 横目で玖渚を見ると、未だに理解できないようなのか、その場に突っ伏したままだった。
 ……あいつがかかったのは、トラップ。
 二人の前に展開されていた、眼には見えない、麻痺状態になるもの。
 安易に近づくと、ああなるのだろう。
 恐らく敵味方無差別になるもの、だから、コイツらは動かなかった。
 あれを突破するためには、誰か一人が犠牲になる必要があった。
 そうなると俺か玖渚のみ。
 だが、俺がもしアレにかかったところで、玖渚が、コイツらに刃を向けられるとは思えない。
 だから、不本意ながら、玖渚にかかってもらった。
 別に嫌われようが、ギルドから抜けられようが、構わねぇ。
 下手すりゃ、こっちが全滅だ。
 死ぬよか、生きてる方がマシってもんだろ!
「ウォオオオオォォォォォオオオオオッッッ!!!」
 叫びと同時に、スキルを発動させる。
 グリュンヒル、第四のスキル。
 Lv50になった時に覚えた、この攻撃!
 一撃目は左から上への薙ぎ払い!
 二撃目は右から右上から下へかけての振り下ろし!
 そして、三撃目は下から上へ振り上げると同時に! その場で俺も跳ぶ!
 ラストは、跳びながら、振りかぶったグリュンヒルをありったけの力で振り下ろす!
 同時にノックバックが発動し、少しだけ零式と宵闇との距離が開く。
 4コンボ連続で行うこの攻撃こそ、第四のスキル、『コンボ・テンペスト!』
 特殊効果として、最後の一撃のみ、ノックバック効果が付与されている。
 通常、SAOのスキルは何も消費するものがないが、この攻撃のみ、最大HPの10分の1を使用する。
 スキルレベルが上がれば消費体力も少なくなるが、俺はまだ覚えてあまり経ってないからな……。
 バーサーク状態で放つのは危険な技だ。
 しかし、攻撃力は、全て当たれば折り紙つき!
 その証拠に、俺には見えるぜ。
 零式の体力が赤ゲージに突入し、宵闇も黄色になっているのが!
 放った後の0,5秒の硬直時間。
『ハァッ!』
 宵闇は持ち前のハガネノオウギで出だしの速い細剣スキルを発動。
 体力ゲージが幾分か削れたことを確認すると同時に。
 すぐに攻撃に移る!
「じゃあな零式!」
 こちらへと攻撃を仕掛けようと、走ってきた零式に、横切りの一閃を放つ!
『く……! 逃げろ……玖渚! 宵闇!』
 そんな言葉を残し、零式は体力が0になり、消滅する。
 これで、残るは宵闇。
 一対一なら、負けはしない!
 そう思っていた直後。
「……アルス!」
 隣から声が聞こえたかと思うと。
 玖渚が、俺へと向かってバードナセを振るってきた!
「ッ!? 玖渚っ!?」
 すぐに俺は大剣で防御するが……。
 その瞬間、玖渚のポインターは、オレンジへと変化した。
 ……まさか、斬りかかってこられるとは思わなかったな。
「アルス、アンタは慧兄を倒した。 私の兄を、NPCと言えど、倒したんだ……」
「………ああ、そうだな」
 俺はそれだけ言って、回復ポーションを使用する。
 これでHPはMAX。
 今なら、バーサークを使用しても大丈夫だ。
 これで、玖渚を抑えられるかはわからないけどな……。
『玖渚、大丈夫、私が守ってあげるから』
 そう言って宵闇は完全に俺へとターゲットを決める。
 二対一か……。
 マジに腹を括るのは、俺みたいだな……!
「う、お、オォォォォオオオオオオオオオオッッ!!!」
 バーサーク発動っ……!
『さぁ、行くよ! 玖渚!』
 そう口にして、宵闇が斬りかかろうと、そのハガネノオウギを振りかぶる!
 だが、その瞬間。
「喋るなよ……」
 玖渚から冷たく放たれたその言葉と共に。
 宵闇の頭へとバードナセが命中する。
 同時に、クリティカルの文字が頭上へと浮かぶ。
『え……!?』
 宵闇がそう口にしながら、背後を振り向こうとした瞬間。
「鈴姉の言葉で、鈴姉の容姿で、喋るなよ! NPC!」
 玖渚はバードナセを振るい、連続攻撃を仕掛けた。
 頭に、胴に、手首に、足に。
 流れるような連撃が叩き込まれると同時に、宵闇の頭に、無数のクリティカルの文字が浮かび上がる。
 全撃クリティカル……!
 唖然としている俺と宵闇を置いて、玖渚は最後の一撃を叩き込み。
「さよなら……」
 それだけを、呟いた。
『玖渚……ごめんね……』
 宵闇も、そう言葉を放ち、その体を消滅させる。
 その後、部屋の壁に、新たな扉が現れた。
 ……クリアって、ことか。
 俺はバーサークを解除し、玖渚と対峙する。
「……どうする? 俺と続きでもやるか?」
 俺がかけたその言葉に、玖渚はしばし黙った後。
「いや、いいよ……もういい。 あの一撃で、慧兄を倒したことについては諦めがついたから。
けど、ありがとう。 NPCってわかって、吹っ切れたよ……」
 そう言って、玖渚は、うつむいたまま、次の扉へと歩いていく。
 そして、扉の前で立ち止まったかと思うと。
「ねぇ、教えてよアルス。 私は何で生きてるの? 兄も姉も失って、泥棒なんかして。
私は一体なんなの? もうこのゲームを続ける意味も、生きる意味もわからないよ……」
 振り向かず、そんな言葉を放った。
 そこで、俺は考える。
 回答を示すのは簡単だ。
 しかし、それが果たしてコイツのためになるのか?
 アニメや漫画やゲームみたいに、答えを言って、ハッピーエンドなんかになるのか?
 俺は別に、あの時のサニーやホイミみたいなのは望んでない。
 そこまで、俺はもう子供じゃねぇんだよ……
「俺に聞くなよ。 自分で考えて自分で決めろ。 俺だって俺の存在意義なんて知らねぇよ。
俺は死にたくないから生きてるんだよ、今は死なないためにゲームしてんだよ」
 俺はそれだけ言って、武器を仕舞い、玖渚の元へと歩く。
 すると、玖渚は振り返らないまま、少しだけ沈黙した後。
「……アルスは冷たいね。 私はやっぱりわからない……」
「じゃあわかるまで生きてろ。 とりあえず、お前が死んだら、ゲームをやめたら俺もギルドの面々も困るし悲しい。
大体この次の扉の先に敵がいたら、俺一人じゃ辛いぜ」
 そう言って、扉を指差す。
 そこには……。
『TREE―終局―』
 そう書かれていた。
 次で、最後ってことか……。
「……アルスって、頭悪いでしょ。 普通、こういう時は慰めてあげるものじゃないの?」
「俺が漫画かアニメの主人公ならそうするけどな。 生憎俺はただの会社員でな。 人の手伝いはするが、利己主義なんだよ。
まぁ、つっても、なんだ、ほら、お前の気持ちはわからねぇでもないし……。
なんていうの? あれだよ、言うってならば……頑張れ、くらいだな」
 柄でもねぇこと言ったなぁとか思いながら、玖渚から視線を逸らすと。
「つくづく、アルスって不器用だよね。 人の気持ちわかってないよ」
 そんなことを、サラっと言われた。
 ホント、コイツは痛いところついてくるな。
 まぁそれが原因で仕事で失敗したことも何度か……。
「でも、お陰で生きる目標は見つけたよ。 意味をわかるために、生きてみようと思った。
まだゲームも終わってないし、終わるまでは、ギルドを手伝わなきゃいけないしね」
 そう言って、玖渚は、顔を上げる。
 決意は出来た、みたいだな……!
「よし、じゃあ、玖渚、行く前に泣いておけよ! そうすりゃスッキリするぜ!」
 とりあえず考えられるだけのフォローとしてそう言ってはみるものの……。
「……アルスは本当に馬鹿だね。 もうそんな気分じゃないよ。 確かに悲しいけど、もう決めたから、いいよ、タイミング悪すぎ」
 玖渚に、がっかりした様子でそんなことを言われた。
 確かに……タイミングが悪かったみたいだな。
 どうも俺はこのあたりが弱い。
 このあたり強けりゃ仕事も、もうちと上手くいくんだろうけどな……。
「うぐ……まぁ、いい! 行こうぜ! 次でラストだ!」
 そう口にして、扉に手をかける。
 これで、文字通り、終わりにしてやる!
 この最悪のクエストを! 
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