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宝物

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第二章


第二章

「そんなに簡単に」
「だからもう読み終わったから」
 やはりここでも素っ気無い声であった。
「もういいんだよ。これでね」
「そうなの」
「うん。だからね」
 いいというのである。
「古本屋に売ってお金に替えるよ」
「それでまた漫画を買うのね」
「そういうこと」
 結局はそうなるのだった。要するに漫画を買う為に漫画を売るのである。
「それじゃあさ。行って来るね」
「もうちょっと大事にしたら?」
 お母さんは彼があまりにもあっさりと漫画を捨てるのでいたたまれなくなって言ったのだった。その顔は眉間に深い皺が刻まれている。
「もうちょっとは。どうかしら」
「だから。汚してもいないし破いてもいないし」
「そういうのじゃなくて」
 お母さんが言いたいのはそういうことではなかった。我が子にそのまま受け継がれているその大きな目は顰められて細いものになっていた。
「もっと置いておいたらってことよ」
「だって置いていても邪魔になるだけだし」
「邪魔って」
 お母さんはその言葉にも思うところがあった。
「そういうものなの?あんたにとって漫画って」
「そうだよ」
「宝物じゃなかったの?」
 今度はこう問うたのだった。彼はいつも自分が持っている漫画は宝物だと言っているのである。今その言葉を彼に返したのである。
「確か」
「そうだけれど?」
「それじゃあどうしてそんな簡単に捨てるのよ」
 また彼に対して言うのであった。
「そんなに。どうしてよ」
「どうしてって言われても」
 実はお母さんがどうして今こんなことを言っているのか。真次にはさっぱりわからなかた。
「あまり置いておいてもさ。邪魔になって」
「宝物が邪魔なの?」
「うん。だから新しい漫画を買う為にもね」
「あっさりと売るのね」
「置き過ぎてもあれじゃない」
 別の理由を話に出してきたのだった。
「部屋の底が抜けるし」
「それはないわよ」 
 そのことに関してはすぐに否定したお母さんだった。
「うちの家はそんなに脆くはないから」
「大丈夫だっていうの?」
「そうよ。だからね」
 このことを言ってからまた述べるのだった。
「そんなに簡単に捨ててもね」
「駄目だっていうの?」
「もうちょっと。大事にしてみたら?」
 怪訝な顔で我が子に告げた。
「漫画。どうかしら」
「大事にはしてるよ」
「そう思うのだったら簡単に捨てたりしたら駄目よ」
 お母さんが言いたいのはそれに尽きた。
「折角買ったんだから。勿体ないでしょ」
「そうかなあ」
「全く。何かが違うのよね」
 お母さんはどうしてもわからないといった感じの我が子に溜息ばかりであった。そんな彼だったが相変わらず漫画を集め続けていた。そしてそんなある日のことだった。
 晩御飯前のニュースを観ているとだった。あるニュースが入って来た。それは。
「あれっ、これって」
「どうしたの?」
「凄いニュースなんだけれど」
 テレビを見て言う真次だった。
「ほら、観てよお母さん」
「何よ、晩御飯の支度があるのよ」
「だから観てって」
「全く」
 トマトを切ろうとしたところで手を止めてテレビのところに向かう。そうしてそのニュースを観てみると。
「漫画の図書館?」
「うん、閉鎖するらしいんだ」
 どうやらそういうものがあったらしい。だが色々な事情で閉鎖するらしい。そのことがニュースになっていたのだ。
「何でも身体が弱くてずっと漫画を集めてそれを図書館を開いてね」
「読めるようになっていたのね」
「ところがね」
 事情があって閉鎖するというのだった。しかし話はそれで終わりではなかった。
「それで真次」
「うん」
「このニュースがどうしたの?」
「ほら、それでね」
 何故かここで真次の声が上ずっていた。目もキラキラとさえしている。
 
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