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宝物

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第一章


第一章

                     宝物
 飯沼真次は本が好きだった。特に漫画が大好きだ。
 だから読みたい漫画は何があっても買うしそれで部屋は漫画で一杯になっている。
 古い漫画は古本屋で買うしネットでも取り寄せる。そうして今まで色々な漫画を読んできた。
「あんたって本当に漫画が好きなのね」
 お母さんもそんな彼に呆れてしまっている。
「いつもいつも漫画で」
「誰にも迷惑かけてないからいいじゃない」
 彼はその漫画を読みながらお母さんに言葉を返した。その大きな目で。
「そうじゃない?部屋の掃除だってちゃんとしてるし」
「まあそれはね」
 整理整頓はしっかりとしているからお母さんもそれは文句はなかった。
「それにちゃんとアルバイトして自分で買ってるしね」
「だったらいいでしょ?」
「それでも。凄いなんてものじゃないわよ」
 それでも言いたいことはあったのだった。
「全く。漫画漫画って」
「面白いじゃない」
「他にはないの?読みたいものとか買いたいものとか」
「小説も読んでるよ」
 素っ気無くこう返す真次だった。
「ちゃんとね」
「そういうのじゃなくて。他に欲しいものとかはないの?」
「別に」
 その漫画を読みながらの言葉であった。
「ないけれど。全然ね」
「全然なのね」
「うん、全然」
 また答えるのだった。
「ないよ。本当にね」
「趣味は漫画ってわけなのね」
「うん」
 きっぱりと答える。
「そういうこと。誰にも迷惑はかけないよ」
「それでも。他のことに興味を持って欲しいものね」
 お母さんはそれが言いたいのだった。
「将来漫画家になるのならいいけれど」
「じゃあなろうかな」
「勝手にしなさい」
 こんな調子だった。とにかく始終漫画を読んでいるのだった。だが彼は漫画に対して一つ癖と言っていいものがあった。それが何かというと。
「また捨てるの?」
「うん」
 買った漫画をすぐに捨てるのである。今古本屋に売るところであった。真次とお母さんは家の玄関で話をしているのであった。
「もう読み終わったからね。だからね」
「けれどその漫画って確か」
 お母さんは今我が子が持っているその漫画を見て言う。見ればその漫画は。
「あんた物凄く探していたじゃない」
「そうだったね」
 素っ気無くお母さんに答えた真次だった。
「確か古本屋をあちこち回って全巻揃えたんだったね」
「そんな漫画を捨てるの?」
 怪訝な顔で我が子に問うた。
 
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