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知ったかぶり

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第六章


第六章

「タイ米を使いました」
「馬鹿な、かやく御飯にタイ米だと」
「野菜もスーパーで買ったものです」
「まさか。それは」
「そしてです」
 さらに話していく彼だった。
「醤油は大企業の大量生産のものを」
「そんな筈がない」
「いえ、そうです」
 だが彼は山原に言うのだった。
「何でしたらレシートをお見せしましょうか」
「レシートだと」
「そして」
 さらにであった。彼はまた言ってきた。
「これでわかりました」
「何がわかったというのだ」
「先生がです」 
 他ならぬ山原がだというのだった。
「先生がわかりました」
「どういう意味だ、それは」
「先生は美食家であられますね」
「無論だ」
「そして食通だと」
「私程の者はおらん」
 断言だった。その自信があった。揺ぎ無いまでのものがだ。
「この世にな」
「そう思われていましたが」
「どうだというのだ」
「それは違いました。貴方はです」
 どうかというのであった。
「御自身でそう思われているだけで」
「違うというのか」
「本物ではありません」
 そしてだ。彼は言った。山原に対して。
「知ったかぶりをさせているだけです」
「私を侮辱するか」
「侮辱ではありません」
「では何だ」
「事実を申し上げただけです」
 これが彼の言葉だった。
「貴方は所詮は。その程度の方です」
「おのれ・・・・・・私に逆らうとだ」
 山原はだ。本性を出してきて彼に言ってきたのだった。
「どうなるかわかっているのか」
「さて。どうなるでしょうか」
「この国でだ。まともな店にいることはできんぞ」
「そうであればいいですがね」
「私を侮るか」
「ですから事実を申し上げているだけです」
 彼は引かない。そしてであった。
 彼からだ。山原に告げた。
「私もこれで、です」
「どうするつもりだ。言っておくがだ」
「おいとまさせて頂きます」
 彼が言うより先にであった。自分から告げたのだった。
「最早これで」
「本気だな」
「はい。私は本物の味がわかる方の為に料理を作らさせて頂きます」
 これが彼の信念だった。一歩も引かないものであった。
「ですから。これで」
 こうしてだった。最後の料理人も山原の前から去った。以後彼は何の力も失い芸術家としての名声も振るわなくなり孤独に終わった。屋敷も何もかもが寂れその死は実に惨めなものだったという。
 これが山原雌山という男だった。後世に彼を美食家と言う者はいない。知ったかぶりをしていた傲慢な権力主義者、これが彼への評価だった。その作品も言葉も何もかもが否定されるだけであった。それが彼であった。


知ったかぶり   完


                2010・12・4
 
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