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たすけ

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第十一章


第十一章

「あの時はな」
「それがまたどうして」
「そなたの行いを見てのことだ」
 男は言ったという。
「そなたのな」
「私のですか」
「まずは不健全な行いを全て止めたな」
「はい」
 その言葉に対して頷いた三神さんだった。
「それはまず」
「酒に博打に女に喧嘩」
 この四つを男もまた並べ立てたのであった。
「その全てを止めたな」
「その通りです」
「そのうえで人をたすけた」
 続いてそのことを告げたのである。
「海に飛び込みごミ等を払いな」
「何故かそれをしなければと思いましたので」
 ゴミ拾いや掃除のことである。これは御本人だけあってよく自覚されていた。
「それで」
「それがまたよかったのだ」
 男はここでこう言ったのだった。
「それがな」
「そうだったのですか」
「そう。それもまた人だすけなのはわかるか」
「何となくですが」
 この時は三神さんにしろはっきりとはわかっておられなかったのだという。やはりそれがわかるのはその時ではなく後でということがやはり多いものである。
「それは」
「ゴミ拾いや掃除はその場を奇麗にする」
「ええ」
 これはもう言うまでもないことだった。それだけでも随分と違うものだ。
「人はそれを見てどう思うか」
「清らかであることに心を安らかにします」
「そういうことだ」
 男はそれだと言ったのだという。
「そういうことなのだ」
「そうなのですか」
「そうだ。人を喜ばせて笑顔にさせることが人だすけだ」
 男の厳しい顔がここで少し和んだという。その後ろにある激しい炎もまた穏やかになって。
「だからだ。そういった些細に思えることもまたな」
「人だすけだというのですね」
「如何にも。そしてそういうことをしていけばだ」
「はい」
「色々と人が見えてくるな」
 ゴミ拾いや掃除で街のあちこちを行き来してのことであるのは三神さんの先の話でもわかっている。話は全てつながっているのだった。
「人というものがな」
「人がそれぞれ苦しんで悩んでいるのが見えました」
 三神さんはここでも率直に述べられたのだった。
「それを見ていると」
「たすけずにはいられなかったな」
「前はその様なことは思いもしませんでしたが」
「その前に見えもしなかったであろう」
「その通りです」
 僕に話した通りであった。ここでは。
「そうしたものは一切」
「そこに至れば見えるようになる」
 男はこう三神さんに言ったのだと。三神さんから聞いていて僕もここで至るそれが何であるのかおぼろげながらわかったような気になった。
「そうして動けるようになるのだ」
「そうだったのですか」
「そしてそなたは動いた」
 人だすけにという意味であった。
「しかとな。私はそれを見ていたのだ」
「見ておられたのですか」
「私に見えないことはない」
 こうも言ったのだという。
「人の世のことはな」
「それでは貴方は」
「私はそなたの命を延ばすことにした」
 三神さんの問いには答えずにこう言ったのだった。
 
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