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宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説

作者:hebi
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第二章 七話 駆け抜けるバウンゼィ

 
前書き
今回はギリアスがメイン。
あの黒い奴とケリをつける。 

 
ネージリンス本星宙域
バウンゼィ ブリッジ

「艦長、航路算出完了しました。」

「よぉし、でやがったか。進路を変更する。先頭集団に食らいつくぜ!」

「了解!」

ギリアスは愛艦バウンゼィのブリッジの中心で仁王立ちしながら部下がモニターに回してきた航路図を見てそう指示を下した。
宇宙空間での長距離航行を行う場合、航路の選択によって目的地に対する到着時間が数日単位で変遷するのである。
なので、ギリアスは航海班に命じて惑星アークネージから今回のレースの目的惑星である惑星ニーズへの最短ルートを算出させたのである。

「これで勝つ。」

静かに、自信を込めてギリアスはそう呟く。
バウンゼィはギリアス個人の嗜好や戦闘スタイルから完全なる戦闘艦に改造されている。そのうえ、白野の薫陶を受けて単艦で戦闘を行う際には機動力がものを言うと言うことを理解したので、航海艦橋やスラスター制御室などを追加搭載して機動力と巡航速度を上げてあるのだ。
元々巡洋艦であるということもあり、破格の速度を持っているとギリアスはそう自負している。事実に基づく自負である。

「進路変更。惑星ニーズへは、恒星ハルバーシュタットの重力圏の脇を横切る形で向かいます。」

「恒星の重力を逆用して加速するって訳か。」

「ええ。かなりの加速が見込めます。問題は同じことを考えるのは我々だけだはないということです。」

「重力圏に引かれれば、減速は免れ得ません。他艦からの妨害には十分警戒する必要があります。」

「そうだな。レーダー監視は厳に固定しとけ。」

「了解です。」



恒星ハルバーシュタット

ネージリンス本星宙域に存在する恒星ハルバーシュタットは太陽クラスの大きさを持つ恒星である。
しかし、宇宙航行技術の飛躍的発展によりその重力圏を突き抜けるくらいはこの時代の艦船ならどうということはない。
むしろマゼラニックストリームのヴァナージのような星が異常なのである。
そこにギリアスのバウゼィは侵入しつつあった。

「レーダーに反応あり。四隻の巡洋艦を確認しました。艦種識別......すべて大マゼランのリークフレア級です。」

「リークフレア級か......こっちも巡洋艦だ。速力で負けるわけにはいかねえ。」

「向こうはまだこちらを捉えてはいないようです。ここからなら重力圏を逆用して一気に引き離せますが......」

「やっちまおう。これから先、まだまだ抜かなきゃならねえ。」

「アイアイサー。機関全速。前の奴らを抜きされ!」

バウンゼィのブースターに同時に火が付く。巡洋艦に相応しい加速性能を遺憾無く発揮し、前方に見えるリークフレア級との距離をグイグイと縮めてゆく。
この時点でようやくバウンゼィの接近に気がついたのかリークフレア級四隻も加速を始める。
しかし、宇宙空間、地上を問わず加速し始めてからトップスピードに到達するまでには一定の時間がかかるのは不動の事実であるからして、バウンゼィが四隻の脇をかすめるように猛進して行った30秒後ほどにようやくリークフレア級はトップスピードに至る。
しかし、その頃にはバウンゼィはとっくに重力圏を逆用して更なる加速を行っており、いかに速力自慢のリークフレア級といえども追いつくことは不可能な状態になっていた。

「ひゃっほう!やったぜ!」

「やりました!」

快哉の声を上げるギリアス達。しかし......

「......!レーダーに反応あり!」

「なに!?もう追ってきたのか?」

「ちがいます、これは前方からの反応です。......これは!」

レーダー監視班が捉えたもの、それは撃沈された大マゼランの巡洋艦バスターゾン級であった。正確にはその残骸である。

「大マゼランの艦が......どういうことだ!?」

このレースでは艦への攻撃は禁止されている。
どこか監視の目が無いところで撃つにしても威嚇や牽制を第一目的としたものにとどまるであろう。撃沈すれば、ここは治安の行き届いた宙域であるから当然回収船が回される。航海記録装置を調べればどこでどうやって沈められたか一目瞭然なのだ。
そもそも一発や二発ていどの砲撃で大マゼランの巡洋艦が沈むはずも無い。本格的な戦闘の結果ならばまだしも......
ともかく、この撃沈されたバスターゾン級はギリアスの警戒心を最大レベルまで引き上げるのに十分すぎるほどのインパクトを持っていた。
彼はすぐさま指示を出す。

「船外、それにこの付近の戦闘エネルギー反応の確認、急げ!」

オペレーターが凄まじい速度でコンソールパネルをタッチして外からの情報を得る。

「残留エネルギー未だ多し。一時間以内に戦闘が行われていた模様。」

「ちっ!んじゃぁまだ近くにいるかのか......レーダー監視、付近をさぐれ!警戒レベル最大!」

「了解!」

レーダー監視班もオペレーターに習い凄まじい速度でコンソールパネルをタッチし、目を皿のようにしてレーダー監視を行う。
変化は、すぐに起こった。

「......レーダーに反応!艦船らしき高熱原体急速接近!」

「モニターで捉えました。映像、出します!」

「コイツ......!」

モニターに映し出されたそれは、まさに黒い旋風と言った方が的確な表現であっただろう。
かつてマゼラニックストリームでギリアスに屈辱的な敗北を強いたあの黒いファンクス級戦艦......それが、今まさに再び彼の愛艦バウンゼィに急速接近しつつあった。



アークネージ 地上

ギリアスが宇宙空間で宿敵に再開した頃、白野はというとシフトが終わったので地上に降りてゆっくり観光と洒落込んでいた。
アークネージは流石首都星ということもあり惑星の地上をほぼ全て都会が占めている。
しかし、それ以外場所は割と自然が残っている。
ひとまず彼は軌道エレベーターの真下に位置する街の酒場で一杯ひっかけたあと、しばらくブラブラして酔いを冷ますとジオマグル(車。ここではレンタル制)に乗って(運転免許だって持っている)郊外の温泉へと向かった。

「ふぅ......」

湯船に引き締まった体を沈める白野。彼にしてみれば久し振りの地上での入浴である。
ユニコーンの中ではシャワーを浴びて日々を過ごす彼であるが、たまにはこういうふうに趣向を変えるのも良しとしている。
当然、頭には畳んだタオルが置かれている。
彼は今、湯船のなかにあって極楽とやらを感じていた。ちなみに本人は天国だの地獄だのはこれっぽっちも信じていない。そもそも神の存在にさえ否定的な彼である。

「ふぃ〜......」

冷静沈着にして正確無比な人格の所有者であるとはとても思えないだらけきった声である。
しばらく湯船に浸かって体を暖めた白野はやがて無造作に立ち上がると湯船から上がった。湯船から上がるとタオルを腰に巻いて牛乳を腰に手を当てながら一気に飲む......
というのが白野の望むところなのだが時代は進み風呂場に牛乳を持ち込む文化は断絶して久しいらしい。
生粋の日本人である白野はそれが少し寂しい。
脱衣所のカゴの中に綺麗に畳んだもうすぐ3年の付き合いになる黒い空間服を着込む。
壁に立てかけた愛用のスークリフブレードを腰に刺し、白野は温泉をあとにする。



コールドレーン
バウンゼィ ブリッジ

バウンゼィのブリッジで瞬く間に迎撃準備の指示を終えたギリアスは口元に好戦的な笑みを浮かべていた。
雪辱の機会がこうも早く巡ってくるとは、どうも彼は運がいいらしい。

黒いファンクス級にもわざわざマゼラニックストリームくんだりからここまでやってきたのには訳がある。
ネージリンススペースシップレースは結構長い歴史をもつレースなので、開催日なども当然決まっている。とくに速度を上げるために装甲を削ってスピード重視にする改造が施された船が多く参加するため実に襲いやすい。エンジンにいいものを使っている船も多いから沈めて売れば相当実入りの良い海賊行為となる。
そんなわけで餌の匂いを嗅ぎつけたサメのようにこの黒いファンクス級はネージリンス本星宙域まで出張ってきたのである。
そこで復讐のために気炎を上げているギリアスにばったり遭遇したのだ。
以前沈めかけた事もあり、近くにユニコーンもいないのでいいカモとして狙った......というのが今回の経緯である。

「さて、やるぜ。お前ら。」

「了解です。リベンジですね。」

「奴の鼻っ柱をへし折ってやる。全砲開口だ。」

バウンゼィの装備はMサイズの連装連射対艦レーザー二門にSサイズのパーティクルリデューサーが一門。それに対空パルスレーザーが一門である。
近距離まで近づいて全砲射程内に入った時点で全砲斉射を叩き込むためのパワータイプである。
だから前回はヒットアンドアウェイ戦法の餌食となったのだが、ギリアスとて対策は講じている。

「エネルギーチャージをしながら砲撃を避けろ。懐に潜り込めば、俺が何とかする。心配するなまだ使っていないとっておきがある。」

「全砲射程内に収める前に落とされるかもしれませんが......」

「そこは操舵手の腕次第ってことだ。俺は、まあ信用してるぜ?」

「だとよ。どうする操舵手」

「微力を尽くします。」

「んじゃ、とっとと始めっか。全速前進!」

「了解!」

バウンゼィはまるで引き絞られた弓から放たれた矢のように一直線に黒いファンクス級に向かって直進を開始した。

「敵艦砲門に高エネルギー反応確認!砲撃来ます!」

「頼むぜ操舵手!」

「当たるかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

操舵手は雄叫びと共に操艦ハンドルを捻る。
バウンゼィが急速回避機動を行い、放たれた無数のレーザーやミサイルをかわしていく。

「回避成功!着弾無し!」

「敵艦、後退開始しました!」

「逃がすなよ、パーティクルリデューサーで牽制砲撃!」

「了解!パーティクルリデューサー発射!」

パーティクルリデューサーはエネルギーを撒き散らすタイプのレーザー兵器である。そのため、威力は低めだが命中精度は特筆に値する。いかに船足がはやくともこれなら高確率で当たるというものである。

パーティクルリデューサーが放たれ、インフラトン粒子の波濤が拡散しながら黒いファンクス級に追いすがる。
しかし、それはファンクス級の展開したAPFシールドで無力化される。だが、動きを止めるだけならそれで十分である。

「敵艦の後退速度減少!」

「今だ!詰め寄れ!」

「くっ……間に合え!」

操舵手が速やかに艦首を立て直しファンクス級への直進ルートにバウンゼィを向け直す。
それに、ファンクス級もやられてばかりではない。反撃の砲火をバウンゼィに浴びせかける。

「砲撃来ます!回避間に合いません!」

「速度を落とすんじゃねえ!このまま突っ込め!艦を信頼しろ!」

APFシールドは強力なフォース・シールドによって船体をラッピングして敵のレーザーの到達を阻止するシステムである。
フォース・シールドはレーザーの固有周波数に干渉して効力を無効とするが、固有周波数は多岐に渡るため複数の固有周波数に干渉するシールドをレイヤー展開するのが基本である。
しかし、急に展開しても十全の防御体制をとることはできない。干渉可能固有周波数を超過したレーザーがバウゼィの赤い船体に牙を剥く。装甲を削られながらも、バウンゼィィは突き進む。

「敵艦砲撃第二波来ます!直撃コースです!」

まさにこの時、バウンゼィは遂に黒いファンクスを完全に射程内に捉えた。

「行くぜ!」

ギリアスはここでコンソールパネルを操作して全砲門のエネルギーリミッターを完全に解放した。
【最後の咆哮】と呼ばれる艦船運用高等技術である。エネルギーコンデンサーの全てのエネルギーを砲門に回すまさに一撃必殺の砲撃である。ゲーム上ではクリティカル率を引き上げての全砲斉射になる。
当然エネルギーコンデンサーは空になるので終わったあとは艦の全能力に支障が出る。
まさに最後にしか使えない諸刃の剣である。

「全砲......発射!」

砲撃指示が下り、連装連射対艦レーザーがその強力な攻撃能力を余す事なく発揮する。
逃れようとしたファンクス級をパーティクルリデューサーが強引に押しとどめる。
蒼いレーザーの暴風が容赦無くファンクス級を蹂躙する。

そして、無限に続くかと思われた怒濤の砲撃にも終わりが来た。

「......やったか!?」

「......敵艦インフラトン反応拡散しつつあり。完全に機能停止のようです!」

砲撃の嵐を晒されたファンクス級は爆散はしなかったものの特徴的な羽のようなユニットは両方とも弾け飛び船体のあちこちから爆煙が上がっている。
アレでは船が形を保っていても中の人間は一溜まりもないだろう。爆発に巻き込まれて消え去るか、宇宙空間に吸い出されるか......そのどちらかである。

「やったか......ク、ククク......ハァーハッハハ!やったぜ!」

笑声をあげるギリアス。クルーたちもそれに釣られて笑い出す。

「やりました、やりましたよ艦長!」

「いやっほう!」

しかし、彼らの喜びは長くは続かなかった。
勝利に湧くバウンゼィの船体を振動が襲う。
勝利の高揚感に一瞬で冷水を浴びせて精神を冷却したギリアスはすぐさま船外モニターで何があったのかを確認する。

「…こ、これは!強襲揚陸艇です!」

「船外装甲45番破損!敵白兵、侵入して来ます!」

なんと、間一髪で逃げおおせたファンクス級の海賊達がギリアスとの決着をつけるべく船を放棄して強襲揚陸艇でバウンゼィに白兵戦を仕掛けてきたのだ。

「チッ!最後の最後までしつけぇ奴らだ!白兵戦ができるクルーは全員侵入箇所に急行!バリケードを築け!」

ギリアスは敵白兵の侵入を許した箇所にスークリフブレード片手にすっ飛んでいく。遂に黒いファンクス級との因縁が決着の時を迎えようとしていた。



惑星アークネージ 都心

さて、やはり未だに激闘を繰り広げているギリアスを筆頭とするバウンゼィのクルー達とは打って変わって我らが白野は温泉から戻ってきたあとアークネージの都心の巨大ビルに設置された大型モニターでスペースシップレースの中継を見ながら首をかしげていた。

「ギリアスは中間集団にすらいないようだな…あいつらしくもない。一体どうしている?」

白野は無論知らないが激闘の真っ最中である。
しかし、ギリアス達がこの瞬間に海賊達を殲滅して直ちにレースに戻ったとしても最早優勝することはできないだろう。
故に白野はギリアスのバウンゼィを先頭集団にも中間集団にも確認できずに首を捻るのである。
まあ、ギリアスほどの奴がそうそう簡単に沈むはずもない。なにか事情があるにせよ、一人で乗り切れるだろうと白野はそう思っている。
そんな時、白野の所持している通信端末にユニコーンから連絡がくる。

「白野艦長、定期連絡の時刻が迫っています。至急ユニコーンにお戻りください。」

「わかった。10分でいく。」

白野は身を翻すと都心の人波に揉まれながら軌道エレベーターの方へと歩き始めた。



バウンゼィ 船内倉庫

「白兵だ!お前ら、すぐに武装しろ!」

ギリアスがそうクルー達に叫んで目の前に突撃してきた海賊の一人をスークリフブレードで切り捨てる。
振り返りざまに後ろから襲おうとした海賊のブレードを受け止め、腹に蹴りを入れてよろめいたところをバッサリと斬る。

「いたぞ!撃て!」

メーザー・ブラスターの殺人光線がギリアスを貫くべく次々と襲いかかるが、スークリフブレードの特性を利用してそれをまとめて弾くと障害物となるコンテナの影に一足飛びで飛んで隠れる。
それと同時に武装したバウンゼィのクルー達の反撃の銃撃が開始され、バウンゼィの倉庫は色とりどりの破壊的な光に満ちた。

「艦長、ここは我々で!」

「おう!頼むぜ!」

ギリアスはコンテナから飛び出すと別の区域に侵入を果たした海賊達を迎撃するために武装したクルーを率いて走り出した。

「......!」

船の通路の角で殺気を感じ、ギリアスは頭を伏せる。
すると、今までギリアスの首があった箇所にブレードによる強烈な斬撃が襲いかかる。外れたブレードは船の内壁に当たって耳障りな金属音を発した。
バックステップで距離をとったギリアスがスークリフブレードを構える。

コツコツという硬質な足音と共に、角から手勢を引き連れた一人の壮年の男が現れる。
男はギリアスの正面に立ち、ギリアスを上から下まで眺め回した。

「ほお......儂の船を沈めおった輩がどのような手練れかと思えば......まだケツの青い小童ではないか。」

「テメェ......」

ギリアスは怒気を孕ませながらブレードを握り直す。

「小僧、貴様の名を聞いておこう。なに、死者に対して敬意を表するのは儂の流儀。楽には死なせんがな。」

「俺はギリアスだ。ジジイ、今からてめえの息の根を止めてやる。なに、老いぼれてくたばるのがちっと早くなるくらいだ対した違いはねえだろうさ。」

「フフフ......いつまでそのような大口が叩けるか、見ものじゃのぉ......」

それ以外の言葉は不要とばかりに罵詈雑言の嵐をピタリと止めると老人と若者はブレードを構えた。

「参る!」

「来やがれ!」

瞬時に激突した。
互いのブレードが高速で衝突し、激しく火花を散らせる。
この時、少し離れた場所では老人の手勢とバウゼィのクルー達が熾烈な銃撃戦を開始している。

ギリアスと老人は二合、三合と次々に高速の斬撃を繰り出し相手の息の根を止めるべく火花を散らす。

「ふんっ!」

老人の振るうブレードは成る程確かに練達の0Gドッグであることを明確に示す隙のなく素早いものである。

「はっ!」

ギリアスも負けてはいない。なにせ、日々宇宙を制圧するべく侵略と支配に余念がない軍事帝国ヤッハバッハの皇太子候補、いわゆる戦闘民族である。
激しい斬撃でともすればブレードの切っ先が老人を掠める。

「ふむ......なかなかやりおる。」

老人は続く剣戟をいなし、腰から小型のブレードを抜く。二刀流の構えである。

「では、これはどうかな!?」

左右から高速で襲いくる必殺の斬撃。
ギリアスはブレードを巧みに操りそれを阻止するものの手数が増えると流石に攻勢に転じる余裕はないようである。

「チッ!こいつ!」

やむなく攻勢を断念して守勢に回るギリアス。

「ほれほれ、動きが緩んでおるぞ?」

老人は余裕を持ってギリアスを壁際に追い詰める。
クルーたちは未だに老人の手勢と銃撃戦の途中である。全体としては優勢であるが決着がつくまでまだ時間がかかるだろう。
せめて白兵戦用のスキル【一撃必中】や【制圧射撃】【必殺剣】などが使えればギリアスは完勝を収められるだろうが、如何せんどうも老人との経験不足は頑強な肉体の所有者であるヤッハバッハ人のギリアスにも埋められないようである。

「さてと、なかなか楽しめたが今後の予定が詰まっておるからの。そろそろ終いとさせてもらう。」

老人はギリアスにトドメを刺すべくブレードを竜巻のように振るう。当然自身もグルグルと横回転する。なかなかに間抜けな図であるが、当たれば五分刻みにされるだろう。

「我が秘剣【旋風】!逃れられんぞ小僧!」

しかし、ギリアスは機転をきかせてとんでもない反撃に転じた。

「ああ、そうかい!ならそのまま回ってな!」

実はギリアスは楽々と壁際に追い詰められたの彼自身の意思であった。
その壁際には、艦の制御コンピューターにアクセスできる機能を持った端末がついており、ギリアスは素早くそれを起動させて艦の重力発生装置【グラビティウェル】のスイッチを切ったのである。

無重力空間でコマを回すと重力や大気の影響を受けずにそのまグルグルと回り続ける。理論上永遠に。
無重力空間で人がコマのようにグルグルと回ると重力や大気の影響を受けずにグルグルと回り続ける。やはり、理論上永遠に。

「うおおおおおおおおおおお!?」

制動がきかなくなり回り続けることしかできなくなった老人が、止まる前にギリアスはスークリフブレードを一閃させた。
白銀の閃光が老人の体を横切るように閃き、後には何も残らない。

「ぐふっ......む、無念......」

最終的に結局名前さえ告げなかった老人は一文字に斬り捨てられてどうと倒れ伏した。

「なんなんだ、こいつ......強えのか弱ええのかわかんね......」

強敵を打倒したというのにイマイチ釈然としない様子でギリアスはブレードを軽く振るい付いた血を払う。
少し離れた場所ではリーダーの老人を倒され、動揺した海賊達をバウンゼィのクルーが草でも刈るように薙ぎ倒していた。どうやら白兵戦の決着もついたようである。



バウンゼィ ブリッジ

ブリッジの入り口には敵の侵入を防ぐために椅子や机でバリケードが敷設されたが、敵の殲滅を完了したとの報告を受けてブリッジクルー達はそれの撤去を行っていた。

「おう、お前ら無事だったか。」

ギリアスが通路の向こうから話しかけた。

「ええ。なんとかなりました。少し待っててください。もう少しで撤去完了しますので。」

しばらくしてバリケードを完全に撤去し終えると、ギリアスがブリッジに戻ってきた。

「ふぅ......」

一息ついて、そしてようやく大事なことを思い出す。

「ああああ!」

「ど、どうしました!?」

狼狽えるクルー。
ギリアスは忘れていた大事なことを告げた。

「レース......」

「あっ」

クルー達も海賊の襲撃のせいですっかり忘れていたようであるが、今はレースの真っ最中である。

「おい、今の順位は!?」

切羽詰まった様子ですギリアスが聞く。

「ええと......9863位です。」

このレースには合して10000ほどの艦艇が参加しているというが、ビリから数えた方が早い順位へと転落していた。

「なんてこった......」

ガックリと崩れ落ちて床に手をつくギリアス。
しかし、すぐに立ち上がると開き直った顔でこう告げた。

「いや、まだだ。勝てはしなくてもせめて完走してやろうじゃねえか。」

「はぁ......仕方ありませんね。びりにはなりたくありませんし余力を振り絞るとしますか。」

こうして、戦闘でかなり損傷したバウンゼィはふらつきながもレースへと復帰して行った。



バウンゼィ 倉庫

先程まで凄まじいまでの火力の応酬が行われていた倉庫では、すでに海賊の死体の処理が行われていた。
と言っても、宇宙空間でできることなど一纏めにしてエア・ロックから放り出すくらいのことしかできないが。

「ううっ......金臭ぇ......」

クルーの一人が不平不満を述べなからも死体を纏めてエア・ロックに押し出す。

「いいぞー。やってくれ。」

合図を送ると、エア・ロックのスイッチの近くにいた別のクルーがロックを解放する。
海賊共の死体は空気と共に吸い出されて真空の空間を漂う。
一瞬、海賊の恨みがましい目が自分を見つめた気がしてクルーは身震いする。

「そんな目で見なさんな......あんたらが勝ったら同じことしてたろう......」

クルーは海賊の怨嗟を断ち切るかのようにエア・ロックの扉をいささか乱暴にドアを閉めたのだった。



惑星ニーズ 宇宙港

「ゴール!いま、熾烈なデッドヒートを制して一位の船が入港しました!一位はフリーの0Gドッグ、カーマイン氏です!」

ギリアスが白兵戦に及んでいた頃、レースのゴール地点惑星ニーズでは既に一位の栄光を掴んだ0Gドッグの船が入港していた。どうやら大マゼランのエンデミオン大公国の巡洋艦【ベートリア級】に速力重視の改良を施したものらしい。
ノーマルの赤のカラーリングから緑へとリペイントされているのが外見上の差異である。

「続いて二位!やはりフリーのハミルトン!乗艦はキャロット!」

次に入港してきたのは大マゼラン、ロンディバルドの駆逐艦【バーゼル級】である。
基本設計が優れ、民間でも多用されている万能艦である。
腕の立つ0Gドッグが操ればレースにおいて相応の結果を残せる優良艦である。

「お次は三位!アッシュのメーリス号!スポンサーは大マゼランの造船会社【モリガン・コリエステ】です!」

スポーツカーで行われるF1のようなレースでもスポンサーというやつは必ずいる。スペースシップレースでは個人所有の艦が多く参加し幅をきかせるが造船会社達も会社の威信にかけて最高の艦に資金の許しうる限り改造を施すのでほぼ確実に上位に食い込んでいる。
ちなみにメーリス号はネージリットの【エスターク級】巡洋艦。無論速力重視の改良が施してある。

その後も次々に上位の艦船が入港してくる。時には速力重視の艦があり、また時には高名な0Gドッグの艦もあったりで宇宙港はおおいに歓声に湧いた。

ギリアスのバウンゼィが入港してきたのは、それから十二時間後である。



バウンゼィ ブリッジ

「艦長!見えました!惑星ニーズです!」

「ようやくか......お前ら、ご苦労だったな。まったく......疲れたぜ。」

「途中で邪魔が入らなければ、どうにかなっていたかもしれませんが......」

「おい、もしもの話をしたって意味ないぜ。」

「そうですね......しかし、やはり悔しいものですね。」

「ああ......」

やや沈んだ口調でギリアスは言う。

「入港準備、完了しました。艦長、何時でもどうぞ。」

「うっし!バウンゼィ、これより入港!」

こうして、ギリアスはレースに敗れた。しかし、無駄な敗北ではない。
少なくとも彼は因縁の敵を宇宙の藻屑としたのだ。次なる勝利につながる敗北というのも、確かに存在するのである。



惑星アークネージ

ユニコーン 食堂

先程定時連絡のためにユニコーンに戻ってきていた白野は、それが終わるとまたフラフラと何処かへ行ってしまっていた。

「艦長さんはいったいどこに行ったんでしょうか?」

ユニコーンの料理担当、通称【おやっさん】は包丁でレタスを刻みながら食事にきていたエーヴァに尋ねた。

「ん?白野艦長は管理局にライセンスの更新に行ったぞ。勉強熱心なことだ。」

コーンスープを啜りながらエーヴァはそう返答した。なぜ彼女がそのことを知っていたかというと、ちょうど医務室で健康診断を受けていた最中に管理局からライセンス更新試験の呼び出しがあったからである。

「ライセンスですか?へえ、艦長さんの持っているライセンスとはいったい何なんです?」

「艦船設計技師特A級。」

「ほお、それは......」

「C級が小型ボートまで。B級は駆逐艦から巡洋艦クラス。A級は戦艦クラス。そして、特A級は......」

「戦略クラスの超弩級艦の設計技能を持つ、でしたっけ?」

「そうさ。大小マゼラン銀河で合しても百人いるかいないかのスーパーエリート。しかも、ストレートで通ったらしい。ま、私としては医療関係を充実させてくれるなら言うことはない。」

「改めて、ウチの艦長さんって凄いんですね......」

ザクザクとレタスを刻みながら感嘆の声を漏らした。



空間通商管理局

「さて、これでひと段落か。」

白野は更新試験をパスしたので待合室で一息ついていたところだった。
彼が何故にこのような難解なライセンスを取得しているのかというと、無論将来あり得る強大な敵の決戦に備えて自前で最高の艦を用意しようとする考えもあるが、取得当初はもっと世俗的でドロドロとした目的からだった。

当時まだ駆け出しでペーペーだった白野は資金難に悩まされていた。
そこで、金策として民間用の輸送艦の設計図を取得したライセンスの権限を利用して海賊対策やペイロード増加の改良を施し、それを当時の知り合いの商人らに売って金にしたのである。
その他にも駆け出し時代は0Gドッグとしての才能を発揮する以上に商売人として能力を発現させなければならなかった白野だったのである。

「......ギリアスはどうしているかな?」

少しウトウトした頭でそんなことを考える白野である。先程街のモニターで見た時には先頭集団はおろか中間集団にすらバウゼィのバの字も見えなかったが、それはバウゼィが宿敵と雌雄を決していたからである。

「まさか死ぬとも思えんが......」

白野はゆっくりと立ち上がると近くの自販機でブラックコーヒーを購入して一気に飲み下し眠気を放逐した。

「ま、なるようになるさ。」

そう呟いて、彼は再び愛艦ユニコーンへと戻って行った。



惑星ニーズ 酒場

残念ながらレースに敗れたギリアスは、クルー達と残念会を開いていた。
金ならあった。抜け目なくギリアスはぶっ潰した黒いファンクス級からジャンクパーツをいただいていたのである。
それを売っぱらって当座の資金とした、というわけである。負けてもタダではおきない0Gドッグ魂である。

「残念!しかし次がある!」

「おうとも!」

「次は勝つ!絶対だ!」

「ようしお前ら、乾杯!」

「「「おおお!」」」

彼らは高らかに宣言するとビールのジョッキやワインのグラスを打ち鳴らした。

続く 
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