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恋の矢

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第六章

「もう必死でね」
「本当に意を決してだったんじゃのう」
「そうよ、それこそね」
「あれじゃな、ノーアウト満塁で江夏さん続投じゃな」
「それカープよね」
「ああ、江夏の二十一球じゃ」
 鯉派及び牛派の間では伝説となっている試合だ、昭和五十四年日本シリーズ第七戦九回裏でのことだ。
「あそこで江夏さん続投は勇気がいった」
「勇気っていうか他に人いなかったでしょ」
「他の人じゃったら打たれとったわ」
 敦史もこう言う。
「確実にのう」
「そうね、それはね」
「そうじゃ、けれどじゃ」
「江夏さん続投はっていうのね」
「ほんまに勇気がいったと思うわ」
「感謝しなさいよ、広島の江夏さんは阪神があってのことよ」
 江夏豊は元々阪神である、このことはオールドファンならば知っているだろう。
「まあ色々あってね」
「阪神のお家騒動じゃのう」
「その結果だからね」
「それそっちには悪いことじゃろ」
「阪神の常だったからね」
 お家騒動による主力のトレードや引退は、というのだ。
「最近それがなくなってきたけれど」
「お家騒動なくなったのう」
「けれど勝てないからね」
「打たんからのう、阪神」
「そうよ、ピッチャーはいいけれど」
 阪神の常だ、それこそその江夏の頃からだ。
「打たないから」
「毎回一点差か二点差じゃのう」
「あと一点が出ないのよ」
「難儀じゃのう」
「三対二とか二対一とかね」
 阪神が負ける時こうした点数で負けることが異常に多い。
「そういうので負けるから」
「ほんまじゃのう」
「全くね、ピッチャーは抑えてくれるのに」
「中継ぎ抑えとか凄いのう」
「そうでしょ、鬼神みたいでしょ」
 中継ぎ課からの伝統だ、阪神は終盤まで試合をもっていくと後は彼等が無事に抑えてくれるのだ、だがなのだ。
「打たないから」
「持病じゃな」
「補強しても夏になると打たないのよ」
「折角新井さんやったのにのう」
「兄貴も有り難うね、けれどね」
 まさに金本だけだった、補強しても夏でも打ってくれる人材は。
「何で誰もが打たないのよ」
「ピッチャー夏でもええのにのう」
「だからピッチャーに問題はないのよ」
 それはどうしてもというのだ。
「打つ方で」
「そうか」
「また補強の人材お願いね」
「阪神やったら許したるけえのう」
 これが巨人なら許さないというのだ、巨人こそは日本国民が何があろうとも打倒し続けなければならない人材だからだ。
 そうした話をしてからだ、結は敦史に言った。
「気持ちほぐれたでしょ」
「そういえばそうじゃのう」
「強張ってると駄目だから」
 それであえてだ、敦史の話に乗ったというのだ。
「優子も聞きにくいから」
「それでじゃあな」
「そうよ、それで答えはもう出た?」
「今言わなあかんのか」
「私に言わなくてもいいから」
 それは別にだというのだ。 
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