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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO41-阿吽のモノクロ

 裏五十五層の攻略から初日が終え、二日目が始まった。
 目が覚めた私はリビングへ向かうと、漆黒が一人だけ白いカップを口につけていた。仮アバターなのに、何故か絵になってしまう。正直、その容姿が羨ましい。

「おはよう、漆黒」
「おはよう、ビリの白の剣士」
「はい?」

 予想外の言葉をぶつけて来た私は混乱してしまった。
 び、ビリ? ビリってどういうこと? 身長? バスト? 女子力? いやいやいや、流石にない。ていうか、今の外見はアバターだから本人と関係ないし……。
 うん。こういう時は素直に聞いたほうがいい。怖い結果になろうが以外に素敵な結果になることだってある。

「あ、あの漆黒さん?」
「何かしら」
「ビリというのは……一体、どういうことでしょうか?」
「起きた順。他の人達はもう行ってしまったわ」
「嘘!?」
「嘘ついてなんの得がある?」

 いや、だって……まだ八時じゃん。みんながまだ寝ている可能性だってあるじゃない、特に赤の戦士とか赤の戦士とかさ。だから、漆黒がからかうための嘘だと思うんだよね~。そこんところ、どうなのかな~って。

「……本当に私がビリなの?」
「聞き訳が悪いの? 貴女が一番起きるのが遅い」

 そのド直球な言葉に思わず、足元がフラつきそうになってしまった。
 え、じゃあ、私達意外のプレイヤーは八時前に攻略しに行ったってこと? そう思うと、自分のペースで起きたビリが妙に痛く突き刺さるのを自覚するわ。

「それじゃあ……待たせちゃった。かな?」
「別に? 早かろうが遅かろうが、関係ないわ」

 漆黒は淡々に言うと、飲み終えた白いカップをしまった。

「……一人で行こうと思わなかったの?」
「バカじゃないの」

 即答で返された。しかもイエス・ノーではなく罵倒。

「深夜のことを覚えていないほど、記憶力が低いの?」
「……いや、覚えているって」
「忘れていたんでしょ?」
「忘れたっていうか、その……ちょっとド忘れしていただけで、けして……」
「見苦しい」
「忘れていました、バカです」

 昨日のことを思い出し、改めて漆黒はどういうプレイヤーなのか見返した。私の知る限り、漆黒は攻略組のソロプレイヤーであり、血聖の騎士に所属していた『漆黒のドウセツ』なのはほぼ間違いないだろう。その印象としては慣れ合いを好まない冷たい一匹狼と言ったところだ。
 だから、深夜のことに関しては驚いた自分がいる。それに信じ切れていなかったから、忘れていたのかもしれない。



 深夜に一人で大自然の迷路へ攻略しに行くと、異様な光景のダンジョンに驚いてはスキルを使わない二刀流のスラッシュリザードマン三体と遭遇してしまう。戦闘モードに突入したけど、プレイヤー並みのコンビネーションで一撃与えられそうにもなるも漆黒が居合いの一閃で助けてくれたおかげでHPは減らずに済んだ。

「ありがとう。おかげで助かった」
「……礼はいらない」

 お礼を告げると彼女はそっぽ向いてしまった。どことなく照れ隠しに見えたのは気のせいにしとこうって思いたいが、そんな赤色は微塵も見られなかった。でも助かったのには関わりないから、これ以上求めることは駄目な欲張りだろう。

「そんなことよりいいかしら?」

 漆黒は視線をこちらへ向け訊ねてきた。

「深夜にダンジョンに来たのは、レベル上げ?」
「まぁ……そんなところかな」
「悪いけどやめた方がいいわよ」
「なんで?」

 確かに、一回の戦闘でソロは危険だとわかったけど、でも気をつければなんとかいける可能性だってある。

「理由は?」
「単純な話、ソロでは危険よ」
「でも、気をつければ……」
「今までなら安全マージンを十分にとっていて、技術力があれば九割方安全ではあるけど、今回の場合は勝手が違う。貴女ならわかるよね? さっきの戦闘で」
「……そう、だね……」

 敵側のスイッチ。それと複数で襲いかかってきたことを指しているだろう。今まで戦ってきたモンスターと違って、私達プレイヤーと同じように攻撃を防いだり連携していたりしていた。漆黒とのスイッチを繰り返して倒したものの、相手も同様に連携したり防いだりスイッチを行っていた。おまけに昼間と違う攻撃パターンをしてくる。それに戸惑ってしまった。

「裏層攻略はたった六人のプレイヤーでボスを倒さなければ、誰も得しないペナルティが下される。故により安全性を求めるべきよ」

 漆黒が言いたいことはわかった。同時に現状を理解し受け止めるしかないこともわかった。
 何回も何回も何回も向き合わなければならないって何回も言っているのに、相当今の私は独りでもまだまだ行けるって意地になっていたかもしれない。死に繋がること、ここの攻略の難易度が人が減ることで大幅に上がることを考えれば、慎重し過ぎることの方が丁度いいのかもしれない。

「わかった。改めてよろしくね、漆黒」

 普段一匹狼だと噂されている漆黒が協力することを拒んだりしないのは、必要とされているからだ。私もそれにちゃんと向き合えば、きっと強くなるだろうし、安心できるようになっているはずだ。

「……なんで貴女が上から目線なの?」
「え、いや、別にそういうわけじゃ……」
「あと貴女の笑顔、ムカつく」
「ちょ、それ、理不尽だよ!」
「理不尽じゃないでしょ。貴女がしなければいいことでしょ」
「それが理不尽だって言っているの! あと、ムカつくってどういうことよ!」
「そのまんまの意味よ」

 あれ、笑顔って何よりも宝だって聞いたことあるんだけど、そのせいでムカついているのは私のせいなの?
 


 ……それで改めて(解散したことはない)私と漆黒はパートナーになって拠点へ一緒に帰って行ったんだっけ。安全性を求めようとしても、漆黒はそれらを無視して単独行動とかしそうなのになー……そもそも私が抱いている漆黒のイメージって違うのかな? 一緒に行動していればわかるかな?
 そう思いつつ、私と漆黒は一緒に森林ダンジョン『大自然の迷路』へと向かって行っている最中である。その時、漆黒がこんなことを話してくれた。

「昨夜……正確に言えば数時間前の夜のこと。貴女は疑問に思わなかった?」
「なにを?」
「夜中に攻略せず、拠点へと帰って行ったことよ」
「あー…………」

 あんまり深く考えていなかったし、まだ初日だからそこまで積極的に行動しなくてもいいかなとは無意識に思っていたからな。もう過去のことだからどうにもできないけど。

「言われてみれば、なんで深夜に一緒に攻略しようと思わなかったの?」
「私が眠たいから」
「個人的な理由!?」
「というのは、半分」

 ちょっとしたジョークもできるんですね。なんか、流石が漆黒ですね。うん、自分で言ってみれ意味が分からなくなった。

「それでも、深夜に攻略することはできないわ」
「そうなの?」
「基本的に深夜に攻略する気はないわ」
「徹夜でレベル上げしているプレイヤーに対しては相容れなさそうな発言だね」

 結局は漆黒の個人的な意見でしかなかった。でも、それでも今回は深夜中に攻略やレベル上げは控えるべきかやらない方がいいだろう。二人入れば自分のないところを補えることはできるけど、向こうもそれと同じようなことをしてくるのは昨夜わかった。万が一、向こうの方が強くて一人欠けてしまったらもう一人はどうなってしまうのだろうか。
 なくはないことだから、状況を見て知り、柔軟に行動すればなんとかなるだろう。とりあえず今のところは後で間に合わなくならないようにボチボチとやって行くか。
私達はまだマッピングされていない道へと歩いていく。すると地面からツタがにょろっと現れた。

「来るわよ」
「わかっているって」
 
 ツタから距離を保つために後ろへ下がり、漆黒は懐に装備してあるカタナの柄に手をかけ、私は鞘からカタナを片手にいつものように一見隙があるように構えた。
 そして地中から巨大なバラに鋭い牙のような歯をもつ本体が現れた。この手のある、植物系モンスター……いつ見てもいい気分では見られない。ぶっちゃけMMOに関しては植物系が一番苦手だ。ギャルゲ―でも植物=女の敵だし。展開としては美味しいかもしれないけど、身を味わうのは勘弁してほしい。
 苦手だけど植物系だけならなんとかなると思った矢先に、急に|強面((こわもて))で鋭い針を持つ蜂のモンスターも現れた。昨日見かけていない森林ダンジョンに相応しいモンスターも、リザードマンやゴブリンみたいにスイッチとか連携できるのだろうか。それも戦わないとわからないわね。

「じゃあ漆黒。私、バラの方を」
「私に命令しないで」
「いや、命令というか、お願いというか……」
「私は虫の方やるから、貴女は惨め担当ね」
「惨めってなに!? 私にエロスを求めろってこと!?」
「別にそんなものは求めてない。私、ああいう系と戦うのって嫌なの。だから犠牲になって」
「私も苦手なんだけど……つか、苦手なのは一緒なんだから一緒に戦わない?」
「嫌」
「そこはイエスでしょ! 組んでいるんだから!」
「助け合いの精神は、最悪の場合しかやらないわ」
「助け合いの精神は常に持とうよ!」

 口論している中、モンスターは空気読んでいるなと思いきや、常に戦闘に入っていた。ツタを鞭のように振るってくるのを私達は避ける。

「そういうことだから」
「あ、ずるい!」

 結局、漆黒は蜂、私はバラを担当することになってしまった。ちょっとそこのバラモンスター、どう見たって、どう考えたって、エロスハプニングは私よりも向こうでしょうに。私は求めていないのよ。

「たく、もう!」

 仕方ない。女の敵、植物系モンスターはツタに掴まれなければどうってことはないんだ。鍛えた回避力で、一度も捕まらずに倒してやる。
 シュルシュルと二本のツタが伸びていく。対処法として、カタナでツタを斬るのもいいが、何かあるかわからないので通り過ぎるように避けつつ、突きから斬り上げる『|月光(げっこう)』を使用する。ツタを特に注意しながら、何回も斬りつけてからのスキルを使用するのを考える。

「伏せて」
「え?」

 いきなり声が聞こえてきて硬直してしまうも、殺気が急に背中を走った。
その影響で硬直は解けた。私は殺気から逃れるように慌てて、体ごと地面へ伏せる。すると、漆黒が一気にモンスターの距離を縮めてカタナを振り、モンスターは水平に真っ二つに斬られる。そしてポリゴンの破片となって消滅した。
 
「やったね!」
「まだ終わってないわよ」
「って、虫倒してなかったの!?」

 早いなとは思っていたけど、ハチのモンスター倒してなかったのね。なんだよ、自分は虫の方を倒すとか言ったのに打ち合わせなしの一方的なスイッチを仕掛けるなんて、どうかしているわよ、まったく。おまけに一歩間違えば向こうはオレンジ、私はそのままお|陀仏(だぶつ)になっていたんだから。
 でも、早いうちに苦手なモンスターを倒せたのはよしとしますかね。
 じゃあ、漆黒が勝手に決め付けたのに担当するモンスターに加担して倒したように、私も漆黒が担当するモンスター退治と経験値を稼がせてもらいましょうかね。

「何、勝手に私の獲物とっているのよ。邪魔」
「人のこと言えないでしょうが!」
「私は敢えて、倒さなかったの」
「いや、そこは倒しなさいよ。私にバラをまかせたんだから!」

 その後も、私達は相性良いのか悪いのかわからずじまいのまま、次々と現れるモンスターを倒していき、マップを埋めていく。自分で言うのもなんだけど、漆黒とのペアはやりやすいとは言い難いけど、悪くはない。なにせ漆黒が私の戦法の一つ、回避が得意なことを理解しているようだ。
 まず、私が攻撃を仕掛けた後に漆黒が続けざまに攻撃を仕掛ける。その時に私が回避すればスイッチができる。ただ、このスイッチは普通と違って安全性はほぼない。そもそもスイッチはわざと戦闘中にモンスターに硬直時間を作らせてその間に仲間と交代して攻撃することで成り立つものだ。私と漆黒の生み出したスイッチは交代直後に私が回避しないと成り立たないものであり、一歩でも間違えればプレイヤー側、この場合は私にダメージを食らい、モンスターの追撃でデリートされる危険性がある。でも、リミットとしては早く倒せてなおかつ、上手くいけば相手をハメられることだってできる。そしてわざわざ硬直時間を作らずに確実に攻撃を与えることができるんだけど……。

「右か左に避けて」

 硬直時間が短いカタナスキルでモンスターにダメージを与えると、即行で後ろから漆黒の指示が送られる。

「また!?」

 なんとか右側へ回避すると、漆黒はすぐさま居合いの構えから刹那の如く、斬り上げてから相手の背後を通るように斬りつける。モンスターのHPは残りわずか、後ろの漆黒は配慮して私はカタナで突きを繰り返して、消滅させた。

「……ギリギリだったわね。もう少し速くできなかったの?」
「そんな無茶苦茶な!」
「まだまだね」
「ギリギリでも十分成果でしょ! というか、声をかけるのはいいけど、事前に作戦ぐらいは教えてよ! 急に背後から指示言われた直後に追撃するのやめてくれない!?」
「どうして?」
「大変だから!」
「そうだけど、できているじゃない」
「できているからって、何度も使いたいとは限らないの!」

 漆黒の独断で行う不可思議なスイッチは正直辛いですし、しんどいですし、疲れます。そもそも唐突に背後から避けろと指示を伝えている時点でむちゃくちゃな気がする。それを回避するとなると、神経も頭脳も高速で回転して行動に移さなければならないから、精神的にもきつい。おまけに失敗すれば漆黒はオレンジプレイヤーになってしまうし、私はそのまま死へと逝ってしまう可能性がある。できるからって何度もやりたくはない。というかこれは何度もやるようなものじゃない。

「だって貴女、回避が得意そうじゃない。私はそれを活かしたんだから少しはありがたいと思いなさい」
「だったらせめて、もうちょっと配慮頂戴!」
「配慮はしているわ」
「どこが!? まさか右に避けてとかが配慮なの!?」
「そうよ」
「なわけあるかぁ――――!!」

 滅茶苦茶なことを言う漆黒に私の不満が爆発した瞬間だった。

「次やったら、できないからね!」
「根性なし」
「むしろ、ここまでやれたことに褒めて!」

 ともかく、次やったらできない。そう私の体と脳が必死に伝えているような気がする。もう土下座しても構わない。

「前向きに考えておく……」

 この時、私の切実なる願いを聞き入れたと勘違いをしていた。だって、漆黒は確実にやめようとは言っていない。やんわりと肯定も否定してなかったからだ。
 それ故に……。

「避けないと死ぬわよ」
「ちょっ、危なっ おわっ!?」

 わたしがなんとかギリギリで避けることができ、漆黒が降るカタナの刃はモンスターを消滅させる一撃だった。

「……ねぇ、貴女。今のなんで普通に避けられるのよ」
「今はそんなこといいよ! なんでまだ背後から!? やらないんじゃなかったの!?」
「私は前向きに考えると言ったのよ。勝手に決め付けた貴女が悪い」
「ちょっと酷くない!? 避けられたものの、一歩間違えれば大事故になっていたんだよ!」
「そんなことより、まだ残っているわよ」
「今はいいでしょ! そんなこと!」
「良くないわよ。背後に敵いるわよ」
「ああ、もう! 終わったら、いろいろと問い詰めるわよ!」
「生きていられたらね」
「不吉なこと言うな!」

 その後も漆黒は容赦なく勝手な判断でスイッチを仕掛け、私は必死にカタナに当たらないように回避してスイッチを成功させる。モンスターとエンカウントすることは恐怖となり、一応漆黒がスイッチの指示をしてくれるのだけど、だんだんそれが死の宣告にしか聞こえなくなってしまった。むしろモンスターを倒す方法というより、後ろから斬られないように回避をしているかもしれない。そして皮肉なことに、危険なスイッチで普段よりも早めに倒すことができたおかげで、昨日よりも多くマッピングを成功することができた。



 二日目の攻略を終えて、私達は帰宅。今日は苦戦などしなかったのに自分が今も生きていられることが不思議に感じてしかたがない。気がついた時にはホームでテーブルにうつぶせていた。

「あら、どうしたの?」
「……誰ですか?」
「テーブルに顔をうつ伏せていないで、顔見たらわかるわよ。ちなみにわたしは剛姫ね」
「剛姫か……お疲れさまです」
「お疲れ様、どうしたの?」
「ちょっと、ですね……いろいろあったんです。私はしばらく寝ますので」

 こういう時に、寝ても体が痛くならないのはありがたい。一度教室で机にうつ伏せで寝たことあったけど、体が痛かったし、先生に怒られるし、よだれを垂らしたところをクラスメイトに見られるわで散々だった。
少し休もう。疲れた時は寝るにかぎる。まぶたを閉じようとした時、ふと思うことが浮かんだ。それは声と共にやってきた。

「よかったら、わたしが話聞くけど?」

 剛姫はそのまま去るかと思いきや、その場にいてくれて、しかも聞き手をしてくると言ってきた。話したところで漆黒が変わらない限り無意味だと思っていたけど、話すことで少しは気持ちが楽になる可能性を望んで甘えて話すことにした。流石に顔を机に埋めて話すのは良くないから、顔を上げて剛姫を見て今日のことを話した。

「……そんなことできるのね。普通は無理に近いのに、一度わたしも漆黒と白の剣士のスイッチを見てみたいな」
「勘弁してください……できたとしても、精神的にきついんですから」
「フフッ、その様子だと本当に楽じゃないみたいだね。ごめんなさい」

 剛姫は慰めるように微笑む。ごめんなさいの一言と頬笑む顔を見て聞いて、少しだけ気持ちが楽になったやっぱり、溜めこまないで人に話すだけでも変わるものだと改めて知る。

「剛姫、私と変わってくれないかな?」
「う~ん……わたしは、そのままでいいんじゃないかな?」
「明日も勝手にやられたら精神的にきついんです! やめてって言っても、受け入れてくれなかったし」
「そっか。でも、ダ~メよ」
「なんで」
「狙撃者と一緒だと、安心するから変えられない」
「そんな~」

 希望が叶わず、嘆きながら再びテーブルの上でうつ伏せになって顔を埋めてやった。なんで、あんなチャシャ猫のような人と安心するんだろう。常にからかわれたりしてないの? 剛姫っておかしいの? 昨日の戦闘も異常に強さも発揮していたし、おかしいよ。

「……そんな白の剣士に、ちょっとだけ漆黒の話をするわね」

 別にいいですよ。『漆黒』の噂など前線に出ていれば自然に耳にする有名人。攻略組では『閃光』や『黒の剣士』並に聞く。そして、漆黒の正体を見たことある。『漆黒』の印象は二つある。一つは、大和撫子のような美人な女の子。二つ目は常に一人でいる時が多かった。
 だから、漆黒のことを知っている人は……いないこともないけど、剛姫は漆黒の何を知っているのだろう。
 少し……興味が湧いた。だから私はもう一度顔を上げた。

「興味出た?」
「聞くだけ聞いてみます」
「わかった。最初に言っておくけど、期待は抑え目にしてね」

 大げさな期待をしてもプライベートな範囲だと思うから、話はしないんだろうと思っているから安心、かな?

「『漆黒』のことは知っているよね?」
「知ってます。大規模ギルドを脱退してソロになって、噂では裏切り者と呼ばれる『漆黒』」
「うん、わたしの知っている『漆黒』と同じね。では、それ前提で話を進めるわね」

 あえて断言はせずに、仮定として話すのはプライバシーを尊重するためなんだろうな。でも、私も剛姫も『漆黒』といったら、思い浮かぶ人物は一人しかいないんだと思うから、あんまり意味ないのでは? いや、そういう問題ではないか。変に想像しないで、剛姫の話でも聞こう。

「確かに『漆黒』は噂通り、大規模ギルドの主力がある日、突然ギルドを抜けてソロプレイヤーになった。いきなりの脱退にギルド側は更に不満を増して、憎むように裏切り者と呼ぶプレイヤーがいるの」
「更に?」
「『漆黒』は大規模ギルドに入団していた時も団体行動をよしとせず、身勝手な行動ばかり起こしていたのよ。それなのに実力は誰よりもあったから、嫉妬や不満を抱くプレイヤーは多かったみたいね。そんな人がある日を境に」
「いきなりの脱退か……めちゃくちゃだなぁ……」
「性格も可愛らしいのであれば救いがあったけど『漆黒』の性格はあのように良くてクール、悪くて冷めているのに加えて毒舌。機械のように冷たい剣士の笑顔なんて見たことないし可愛げなんてゼロに近いせいもあって、漆黒を嫌うプレイヤーの方が多かったのよね。そして何よりも『漆黒』自身がプレイヤー同士の交流を避けている。あ、フォローするとね。『漆黒』のことを嫌ってない人もいるのよ」
「剛姫も、その一人ですか?」
「ここでは言わないでおくね」

 借り物のアバターと二つ名ではなく、ちゃんとした外見とHNを持ってまた再会したら言うのだろうか。でも、剛姫が思い当たるプレイヤーが全然見当つかないから、会うのは難しそうだな……今問い詰めても言ってくれはしないだろうから、そのまま話を聞いた。

「でもあの子ね、冷たい人だけど悪い人じゃないのよ。喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだりする、どこにいてもおかしくない普通の女の子なのよ。」
「そうなんですか?」
「推測だけどね。でも、そんな気がする」
「そういうの、わかるんですか?」
「どうかな。漆黒は普段クールだから表情がわからないし、何を考えているのかわからない。わたしが勝手に思っているだけで、本人は全くの別物というか、見た目通りの人かもしれない。だけど、漆黒は悪い人じゃない、むしろ優しい人で不器用な人だと、わたしはそう見えるわ」
「優しい、か……」

 漆黒はめちゃくちゃだ、自分勝手だ。私がやめてと言っても聞き入れずに無茶でしんどいスイッチを仕掛ける。だけど、その中に優しさがあるのだろうか。私には、まだ漆黒の優しさはわからない。でも、私もなんとなくわかるのは……。

「悪い人だったら……ここにいませんよね?」
「それは白の剣士で確かめたらどうかな? 漆黒のパートナーは白百合の貴女なんだから」
「なんですか、白百合って」
「白の剣士よりも可愛いかなって、貴女は可憐だもの」
「白の剣士でいいですって……」
「そう?」
「そうですよ。自分には合わない」

 別に私が何者であろうと、相手のことを信じればいいはずだから……多分。漆黒がドウセツというプレイヤーであることは間違いない。そんな彼女のことを私は支えられるような人になれば、笑ってくれるのかな?

「大丈夫よ」
「そうですかね?」
「白の剣士なら、きっと大丈夫よ」

 それが本当なのかはわからない。

「頑張ります」

 本当にするには、そこに一歩踏み出すことからじゃないと始まらない。

「ええ」

 後は本当になるように頑張るしかない。
 裏層攻略を開始しれから二日目、私達はまだ攻略できずに二人三組に分かれて攻略クリアの鍵を探索中。時間は確実に迫ってきているけど時間はある。あせらずに確実にダンジョン内を探索してマッピングを埋める。そしてボスを倒して、ゲームの世界アインクラッドから脱出する一歩へと繋がっていきたい。その間まで、私は漆黒の優しさを知ることができたら、いいなと思った。
 漆黒はめちゃくちゃだけど、悪くはなかったから明日も頑張ろう。 
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