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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO42-守らりたい者

 
前書き
ソードアート・オンライン―ツインズ―を未だに読んでくださる方々へお詫び申し上げます。
長々と更新できずにすみませんでした。個人的な理由で更新できなかったというよりかは、することができなくて、もしもこの小説を楽しみにしていた方々を裏切る形となってしまい、本当に申し訳ございませんでした。
そしてまたいつか続きを書けなくなってしまうこともありますが、どこまで続けられるか自分の挑戦となってしまいますので、それに負けずに書いていければいいと思ってます。
まずはSAO編に区切りを入れたいと頑張ってみます。
 

 
空から銀色に光るオオワシモンスターが奇襲を仕掛けてきた。でも、問題はなかった。とっさに反応して攻撃が当たることなく後ろへと下がりつつ、一気に距離を縮めて『辻風』の居合い斬りで確実にダメージを与える。その隙にもう一体のモンスターが空から襲撃してくるけど、問題はない。
 問題があるとすれば……。

「好きなように避けて」

 漆黒の危険すぎる無茶ぶりな指示。それはもう、味方に不意打ちをされることを前提で頭に捉えないと実行できない、と思う。なんせ今までと違う戦法を行っているのに加え、本番ぶっつけでやっているのだから。私としてはこんなことやりたくない。なにが悲しくて味方の攻撃が当たる前提で連携しなくちゃならないんだ。でも悔しいことに、何回かやってきて自分でもわかるようになってきたのが複雑な気分だ。

「無茶言わないでよ!」
 
 文句を言いつつ、とりあえずは漆黒の指示通り私はすれ違うように後ろへ下がるだけをした。これでモンスターの攻撃を避けることができ、すぐさま漆黒がスキルで攻撃を仕掛ける。
これが私と漆黒の変形スイッチ。普通は二人が一体のモンスターに同時に攻撃を仕掛けると、間違って仲間同士にダメージを受けるし邪魔をしてしまうので、スイッチで連携して倒していく。だけど、私と漆黒のスイッチは誰かが相手の行動を止めることではなく、私が味方の攻撃を避けることで、味方の一人が瞬時に連携攻撃を繰り出す。それは二人同時に攻撃をすることに限りなく近い形へとなっており、モンスターを倒す速度は通常よりも早くなっているはずだ。

「慣れたものね」
「慣れさせられたんだけどね……」

 私としては、もっと安全に戦って勝利がしたいんだけど。回避に失敗すれば、私は漆黒の居合いの餌食にされるし、失敗して、敵からの攻撃を受けてHPが0になる可能性だってあるんだから。
 便利だけどその分のデメリットはある。頭はいつも以上に思考を回転させて、回避をしなくちゃならないから大変だよ。

「あんまり変なこと考えないほうがいいわ。余計なこと考えて、いつか足元を|(すく)われるわよ」
「だったら、もっと安全な方法はないのかしら?」
「安全よりも、危険を承知で行動したほうがプラスになるわ」
「無茶苦茶だよ!」

 あの日の私は独りでも十分に戦うために必死で習得した回避が、いつかこんなことになるとは思いもしなかったな。いや、思えるはずないか、こんな無茶苦茶な連携考えても実行できるか。
 そういえば、私を助けてくれたあの人……今頃、何しているのかな?

「……ねぇ」
「あひゃっ!?」
「気持ち悪い奇声発しないで」
「き、気持ち悪い!? あの子はどうしているのかなっとか、思い返しちゃ駄目なの!?」
「私が言ったのは奇声。それ気持ち悪いからやめて」
「そ、それはさ……自然に出ちゃうっていうかさ、急に声をかけられたら誰だって驚くものじゃない?」
「ないわ」
「そんな即答しなくても……」

 それでも私が悪いか。油断してしまったわ。

「で、漆黒さんは気持ち悪い奇声の私に、何かご用ですか?」
「そろそろマップに表示されていないところへ行くわよ」
「あ、そっかそっか。次、行こう」

 裏五十五層『ザトールス』の森林ダンジョン『大自然の迷路』を攻略してから四日目。今日も私と漆黒は他のプレイヤーと同様に二人組を作って、マッピングとボス部屋を探索していた。流石迷路だけあって、広大かつ複雑な作りとなっている。おまけに迷路のくせに、壁沿いに行けば出口か入口のどちらかたどり着くはずが、未だにその両方にたどり着いていない。一定時間にエリアがランダムで入れ替えて迷子になるような仕組みもない。裏層攻略は一週間以内に攻略しないとペナルティが下されて、五層分やり直されてしまう。でも成功すれば、ボーナスとして有利な特典がつく。選ばれた六人のプレイヤーで、なんとしてでも裏層を攻略しなければならない。
残りは三日。未だに雲に隠れているけど、そろそろ日が出てほしいと願って、今日も私達は武器を振るしかない。



「今日はこの辺にしましょう」
「あ、もう夕方か……」

 今日も夜を迎える前にホームへ撤収。クリスタルを使って帰るのも手だけど、なるべく節約したいので私達はマップを表示して来た道を戻って家へ帰っている。途中でモンスターとエンカウントするけど、問題はない。時間も危険なスイッチのおかげで時間は短縮できる。その代わり精神は疲れを増すけど仕方ない。漆黒が容赦ないんだもん。
 その分は食事で小さな幸福を得よう……ほんと、食べることは何よりも幸福ね。

「あれ?」

 帰り道の途中、足を動かさずに俯いている赤の戦士を見かけた。
 赤の戦士は性格が反対な鋼の騎士とペアを組んで行動しているのに……赤の戦士の周りには鋼の騎士がいない。はぐれたのかな?
 そう思って、一応漆黒に相談したところ、

「知らない」
「ですよねー」

 一言で終わってしまった。相談でもなんでもない、普通に訊いたら一蹴された。最もな返答だと思うけど、相談しているんだからもう少し考えてほしかった。
 ま、まぁ……あれね、どうせそんなことだろうと思っていたし、言うほど希望は抱いていなかったから、別にいいけどねー。

「私に訊くよりも本人に訊いたら?」
「そうするわよ」

 言われた通りに、赤の戦士に訊ねることにした。ぶっちゃけそうした方が早い。

「赤の戦士」
「ん? あ、なんだ、バカホワイトと腹黒ブラックのグレーコンビか」

 誰がコント戦隊だよ。誰がコント美少女戦士プリなんちゃらよ。つか、あんたもバカ言うな。

「変なあだつけないでもらえる? ただでさえバカなんだから、バカがバカみたいなあだ名をつけられる身にもなりなさい。無駄だと思うけど」
「てめぇ、明らかに喧嘩売っているよなぁ? 気に食わない女だと前々から思っていたけど、これはギッタンギッタンに痛い目をあわせねぇといけねぇみたいだな!」
「チンピラみたいに絡まないでくれる? 貴方の品格が疑うわ」
「なんだとてめぇ!」
「ちょっと! こんな、こんなところでもなくても、争わないで!」
「こいつが悪いんだ! オレは悪くねぇ!」

 棒親善大使の台詞を言った赤の戦士を宥めることで、挑発をして赤の戦士を怒らせる漆黒も余計なことを言わずに済むので、争いを阻止して鋼の騎士について訊ねた。

「ねぇ、一緒に行動していた鋼の騎士はどうしたの?」
「あぁ? しらねぇよ、あんな奴」
「しらねぇって、二人は組んでいるんだから知らないもなにも……」
「しらねぇもんはしらねぇよ!」

 赤の戦士は怒鳴るように発する。そして私がひるんだ隙に赤の戦士は青色のクリスタルである転移結晶を手に持ち「転移、ザトールス」と口にして、青い光に包まれて街へと転移して行ってしまった。
普段の振舞いからさっきの怒鳴り声を聞くまで気がつかなかったけど、今まで見たことのない苛立ちをしていた。多分……そこに鋼の騎士が関係しているかもしれない。そして鋼の騎士と赤の戦士が一緒にいないことも関係してくる。最悪の可能性もなくはない。こんな時、フレンド登録をしていれば場所と生存の確認ができるんだろうけど、私は登録してないし、漆黒も同じだろう。でも、私の思いがちかもしれないから念のために訊いてみよう。

「知らない」
「だよねー」
「そもそも、なんで私に聞こうと思ったの? 無駄に僅かな可能性に信じるとか、バカのドバカね」
「バカバカ言うな」

 案の定、知らないの一言で片付いた。いや、ほら、スポーツマンガにもありそうな1%の確率に賭けるまでとは言わないけど、100%漆黒が知らないのは失礼だと思ってさ……その結果が一蹴に加え罵倒を味わったんだ。結果論になってしまうが、聞かなければよかったと後悔した。

「……前から思っていたんだけどさ、なんでそんな冷たいの?」
「バカではないから」
「そんなんだと、損しないの?」
「損?」
「友達ができないとか、近寄りがたいというかさ、漆黒って……無意味な敵も作りそうなんだよね。だから、損とかしないの?」
「どうかしらね……損するとか意識はしてないし、私は別に好かれようとは思っていないから」

 漆黒は私が言った通りクールだ。常に無表情で喜怒哀楽を見たことない。一応親切なところはあるけど、基本的に口を開けば相手を怒らせようと相手を罵る。
そして本人も口にした通り好かれたいと思っていないんだ。まるで孤独でも生きていけると豪語するかのように、漆黒はあっさりとしていた。

「私は……」

 本当はこう言うことは言うべきじゃないけど……。

「私は敵じゃないし、味方だから」

 でも、こういうことは言ってもいいと思った。彼女が孤独なら私はその独りから解放したい。お節介でもいい。どれだけ罵られても構わない。だけど、私はどうしても貴女を独りにはしたくはなかった。

「……そう言うことは私ではなく、もっと別の人に言うべきではなくて」
「え?」
「早く帰りましょう。いつまでもこんなところにいたくない」
「あ、うん……」

 てっきり拒んだり否定したりするかと思っていたけど、意外とあっさりと落ち着いたところに落としたな。
 なんでだろう……漆黒だったら、否定してもおかしくはないのに……なにか思うところでもあるのかな。考えたところで漆黒の何かがわかるとは思えない。教えてもらうことなんてないのかもしれない。それでも、いつかわかる日がくるのだろうか。そ明日さえも、数時間先さえも見えないのに……。
 先ほどの言葉を聞いた影響からか、少しは気遣いをしようと振舞ったのだけど……。

「ちょっと! 今は流石に危なかったわよ!」
「よく避けられたわね。奇襲を仕掛けるつもりでやったのだけど……」
「なんで急に今までとは違うスイッチをするの!? たまたま避けられたものの、一歩間違えれば単なるPK行為だったわよ!」
「一度試したかったのよ。指示なしで後ろから居合いで斬ろうとしたら、避けられるかをね」
「お願いだからもう二度とやらないで、心臓に悪い!」
「でも、避けられたからまたやるから肝に銘じてね」
「ねぇ聞いてた!? 何度もできないから! 聞いていたよね!?」

 モンスターとエンカウントした頃には漆黒の印象は元通りになり、気遣う気持ちは一瞬で消えてしまった。



「な、なんとか街へ戻れた……」

 今日はもう野宿していいくらい、私は街の入り口で寝転びそうになった。
あ、あの女……実験などと言って、私が回避する前提で二・三回背後から合図もなしに攻撃してきやがって、悪魔かあいつは。避けるのは誰よりも得意ではあるけど、背後から無言で斬りかかるのを察知して避けられるとか無茶苦茶すぎて泣けるわよ。普通に無理なんだから、それを漆黒にわかってほしいわ。
 幸い、失敗したと時は寸前でカタナを止めてくれたのはありがたい……いや、そうじゃなきゃ困るって、お互い。それでも結局は「やめましょう」と言うまでやり続けるあのチャレンジ精神はなんなの? 合図もなしに背後から斬りかかるカタナを避けるなんて、普通は無理なんだからもう二度とやらないでほしいわ。
 体力よりも精神的に疲れた私は一先ず漆黒と別れる。私はそのまま真っ直ぐホームに向かおうとしていた。そうしたら途中で、いつもは目につかない大きな木を見て足を止めてしまう。

「あれは……」
それはきっと、木の下で体育座りをしている鋼の騎士が目に入ったからなんだろうと決めつけた。
 赤の戦士と何かがあったのかはわからないけど、いつもの鋼の騎士じゃないことは感じられた。それに放っておけなかったので声をかけてみた。

「おーい、鋼の騎士ー」

 鋼の騎士はこちらに反応して顔を上げ、どこか無理に微笑んでいた。

「あ、白の剣士さん」
「さんづけはなしって、まだ慣れないかな?」
「すみません。本当にすみません」
「いいよ、別に無理に呼ばなくてもいいから」
「はい、すみません」

 勝手に隣に座ってしまうけど、鋼の騎士は何も言わなかった。近くでみるとやっぱり元気がない。いつも元気で明るいキャラってわけじゃないけど、沈んでいることは確かだ。それを私に悟られたくないのか、気を遣っているから無理に笑って迷惑かけないようにしている様子だった。
鋼の騎士が沈んでいるのはやっぱり赤の戦士が入っているはずだ。

「……ちょっと前にさ、赤の戦士と会ったんだよね」
「え……」
「なんかいつもより苛立っていたみたいだし、鋼の騎士も一緒にいなかった」
「それは……」
「私でよかったらさ、話を聞くよ。赤の戦士と何があったの?」
「白の剣士さん……」

 私が首を突っ込む話じゃないんだろうけど、元気がなく沈んだ鋼の騎士を見たからには放っておけないし、手助けぐらいはしたい。私にできることがあるなら、やってみたい。だから私は鋼の騎士の話を聞く。
 鋼の騎士は「ごめんなさい」と謝罪をして、話をしてくれた。

「赤の戦士さんが苛立っているのは、わたしが余計なことをしたせいで口論になってしまったんです」
「余計なこと?」
「はい。今日も皆さんと同様に赤の戦士とマッピングを行っていたんです。わたしがスイッチの引き金となって赤の戦士さんが留めを刺す。わたしが盾で赤の戦士さんが斧として役割を果たしていました」

 二人は性格も反対で戦闘スタイルも反対だ。鋼の騎士が言っていたように、守りの盾の役目である鋼の騎士、攻撃の斧の役目である赤の戦士の二人は相性としては抜群じゃないかと思う。

「ですが、今日はちょっとドジをしてしまいました」
「役割通りにいかなかったの?」
「そういうわけではないのです。わたしのせいで……赤の戦士さんを怒らしてしまったのです」

 鋼の騎士の顔が歪む。後悔をした表情で話を続けた。

「鳥類モンスターの奇襲攻撃に赤の戦士さんは気付かず、わたしは盾を構える時間がなかったから、赤の戦士さんを突き飛ばすような形で奇襲攻撃を庇いました」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です。盾を構えなくても、身を守るように庇っても、HPをゼロにする方法がわたしにはありますから」

 奇襲攻撃を防ぐ方法? そんな方法があるのは初耳だ。もう半年以上も経って初耳だから、誰もが習得するものではない。なにせHPがゼロになれば現実世界と同様に死んでしまい、生き返ることはできない。命を守る方法があるのなら、すでに情報が流れるのは必然に近い。

「それって、鋼の騎士しか知らない方法」
「方法……というより、“特殊なスキル”なんです」

 “特殊なスキル”。その言葉に私はなにを差すのかは理解した。そして多分、その能力も話を聞いている限り見当はつく。

「わたしの“特殊なスキル”は一度だけ、一体の攻撃をゼロにする能力なんです。ずるいですよね、わたしだけ命の保険があるんです」

 予想は大抵当たっていた。それが彼女の“特殊なスキル”――――もう一つのユニークスキルかつ、魔法でいう特殊効果を持ったユニークスキルなんだろう。槍を蛇のように矛先が伸びるスキルも他のプレイヤーが使っているところは見たことないから、“彼女も二つのユニークスキル”の使い手だ。

「それって、結構重要なことだよね。私に話したりしていいの?」

 多分、相手は私のこと知っていると思う。私が過去にどんなことをしてきたのか、多分私は鋼の騎士に恐れる存在だと思うのにどうしてバラすようなことを……。赤の戦士との出来事も自分が庇ってなんともなかったの言葉で十分納得するはずなのに……。

「ごめんなさい」
「え?」

 鋼の騎士は理由を告げずに謝ってきた。私は謝った理由を訊ねると鋼の騎士はまた「ごめんなさい」と謝って理由は話した。

「ごめんなさい。わたしにも、なんだがわからなくて……ただ、白の剣士さんに聞いて欲しかっただけかもしれません」

 鋼の騎士が私に秘密のスキルを教えた明確な理由にはなってないが、嘘は言ってない。そう思ったのは鋼の騎士の似たような気持ちがわかるから、私だって自分がわからないことだってある。自分でこんなこと話す気はなかったはずだと思うことだってある。きっと鋼の騎士は誰かに助けを求めたいけど、自分ではわかっていないと思う。

「すみません、何言っているのかわかりませんよね?」

 申し訳なさそうに涙目で鋼の騎士は言う。でも、そんなことはないと首を振って口にした。

「大丈夫。鋼の騎士は話したいことを私に話せばいいんだから」

 私に遠慮なしに話したいことを、言いたいことを言えばいい。口に出すことで気持ちは少しでも楽になるはずだから。

「本当にすみません。何度も謝ってしまいまして……」
「だったら、もう謝らないの。わかった?」
「は、はい」
「それで話に戻るんだけど、赤の戦士を庇ったことが切っ掛けで喧嘩に発展したの?」
「そう、ですね……」

 話の整理をすると、今日もいつものように『大自然の迷路』のマッピングを行い、モンスターとエンカウントしても攻撃の赤の戦士、防御の鋼の騎士の息の合った相性抜群でなんも問題なく倒して行ったけど、今日は鳥類モンスターの奇襲攻撃から鋼の騎士は赤の戦士を庇ったせいで、赤の戦士は怒りだした。

「赤の戦士は言いました。余計なことをすんじゃねぇって、それくらいどうってことないって。わたしには耐久力があるので、赤の戦士を失うよりかはわたしが身を捨ててでも守るべきだと言ったら、余計に赤の戦士さんを怒らしてしまいました。」
「身を捨ててまで、赤の戦士を守る……か」

それは良いことか悪いことかは判断できない。
 でも、これで話の内容は理解した。きっと想いのすれ違いなんだろうと、私は話のなかで理解できた。
 だったら、それを赤の戦士に……

「……なんで、なんでっ」
「え?」
「なんで、ふざけるなって、言う、んですか……」

 ボロボロと、鋼の騎士は溢れる涙を流す。

「だ、だいじょ」
「た、確かにっ、余計なことだと思う、かもしれません。でも、命をかけても守ろうとすることって、いけないことなんですか!? 自分の命を犠牲にするのは良くないって、聞きますが、それでも! それでも守りたい人を、命をかけても守りたいってことは、そんなにいけないことですか!? 自分の命を優先してでも、生きてほしい人を守れないことがどれだけ辛いか、どれだけ後悔を繰り返すことか、どれだけ、どれだけ悲しい思いをするのか、赤の戦士さんは……何も、ないもわかっていないんです! 赤の戦士さんがやられそうになった時、わたしが、あの時、どれほどっ、恐かったのかっ」
「…………」

 私は知っていた。鋼の騎士がどうして急に涙を流し、言葉にどこか荒々しいものを感じられるのか。溜めていた言葉に、耐え切れずに吐きだしてしまったんだ。そして一度溜まった言葉を吐き出したら、もう止まらない。感情のままに流れ、言葉をどこかにぶつけ、人にぶつける。私達はそういう風にできているのだからそう簡単に言葉だけで中々解決できない、できるわけない。鋼の騎士の溜まっていた言葉を吐き出すしか、スッキリしない。涙と一緒にね。

「わたしは、ただ……ただっ……些細なことでも、守り、たかっただけなのに……それで、死んでほしくなかった、だけなのに……」

 だから、私はあえて鋼の騎士を止めることはしなかった。ここで一度、鋼の騎士の本音を聞いてみようと思った。抱きしめたら人は落ち着いて心地よくなる穏やかさを私は覚えている。とても安心して、気持ち良く、暖かい。でもそれだけじゃ駄目。一度、溜まった思いは吐き出したほうが良い。それからどうするか考え、鋼の騎士に教えよう。

「いいよ、鋼の騎士。その溜まった思い、全部ぶつけて。それが八つ当たりでも構わないわ」

 あの日から、底が見えない真っ暗な闇に沈んだ私に救いの言葉をかけてくれたあの人のように私は鋼の騎士に救いの言葉をかけよう。
 大丈夫。きっと良い方向になるようにできているんだから。



 鋼の騎士の話を聞いた私は一度ホームへ向かうことにした。目的は当然、赤の戦士と鋼の騎士の仲直り。鋼の騎士の過去、溜まっていた思いを聞いたこと仲直りしたほうが絶対に良いと思い、行動に移す。本当は赤の戦士と鋼の騎士の二人で本音をぶつけさせ仲直りしたほうがいいかなとは思ったけど、鋼の騎士は私にいろいろと話したから、心が落ち着くまで一人にさせた。これは別に放置ではない、彼女にも考える時間は必要だと思う。それから何をするか決めてもらいたい。私の役割は鋼の騎士と赤の戦士のサポート。
 これだけは、いや、これもお節介なんて拒まれても退けない。私はそういう性格なんだから、構わずにお節介する。

「そこの白の剣士ー」

 私の今の名前を呼ばれ、足を止める。声の主に視線を変えてみると。

「はろはろハロ~」

 ……言っちゃ悪いが、空気の読めない挨拶をする狙撃者と対面してしまった。おまけに満面な笑顔が少し腹立つ。わざとでも、そうじゃなくても腹が立つ。

「なんなの、そのバカにした挨拶は?」
「あら、バカにしてた?」
「少なくとも、今は余計なことです」

 例えるなら、試合終わりの時呑気に現れていたずらを仕掛けるような事情を知らない空気の読めなさだろう。こっちは鋼の騎士の辛い過去を話してくれた後に、よくわかんない挨拶をされる温度差にわたしが戸惑うのは無理ないと思うんだ。
 まぁ……ここで、狙撃者に出会ったのは良いことかもしれない。ただし、返答次第ではただのお邪魔者になりかねないけど。

「あのさ、狙撃者。赤の戦士知らない?」
「知っているわよ」
「ほ、ほんと!?」

 いや、まさか本当に知っているとは思っていなかった。そこのところは申し訳ない。

「その、赤の戦士はどこに?」
「情報交換」
「はい?」
「情報交換してくれたら教えてあげる」
「えー……」
「えーじゃないもーん」

 このからかい屋め……。なにが「えーじゃないもーん」よ。わざわざ、ぶりっ娘風にあざとく、上目づかいする必要ないわよね?
あぁ、そうか。狙撃者ってこういう性格か。つか、別に赤の戦士の居場所ぐらい教えてもいいじゃないか。なんでわざわざ情報交換しなければならないのよ。
 アルゴって、お世話になっている凄腕の情報屋が狙撃者の情報交換のやり方見たら、どう思うのかしらね。

「私、情報屋じゃないからたいした情報持ってないけど、それでもいいの?」
「うん、いいわよ。そんなにたいしたことじゃないから」

 たいしたことないなら、さっさと教えてほしいよ。
 回りくどい情報収集する狙撃者に呆れていたが、狙撃者が求める情報に私は内心びっくりしてしまう。

「鋼の騎士の場所、教えてくれないかしら」
「え?」

 驚いてしまった。驚いてしまったのは狙撃者が鋼の騎士のことを口にするなんて思ってもいなかったから、びっくりしてしまったんだろう、と理解した気がする。それと同時に、そんなことをなんで情報交換しなくちゃならないんだと、回りくどいやり方をする狙撃者に結局呆れてしまう。

「そんなこと、普通に聞けばいいじゃない」
「あら、最終的にはお互いに探しているプレイヤーがどこにいるのかって訊ねるから同じじゃない?」
「理屈は通るかもしれませんが、納得できませんって。というか、なんで狙撃者が鋼の騎士を探しているんですか?」
「どうしようかなー?」
「ど、どうしようかな!?」
「んー……こう言うことって、言っていいものか悩むんだよねー……」
「あ……」

 狙撃者がどうして鋼の騎士を探している理由を話さないのかを私はなんとなく察することができた。きっと、それは鋼の騎士の話を聞いたからだと察しができたと思う。違っているかもしれないけど、もしかしたら狙撃者も同じなんかじゃないかと思う。
 
「鋼の騎士なら、こっちの道を真っすぐ行ったところにある、木の下にいます」

 私は道と位置を教える。狙撃者は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐ頬笑み始める。

「理由とか聞かなくていいの?」
「言い難そうなこと口にしたんじゃないですか」
「問い詰めることだってできるのよ」
「今は赤の戦士を探している方が優先なんで」
「そっか。飼いならす気はあるのかな?」

 犬扱いかよ赤の戦士。いや、似合わなくはないけど……。でも、飼いならす意味って、別のことを言うのかな? だったら、私が言うことは一つ。

「飼いならす気なんてないよ。私は支える役目ですから」

 この問題は赤の戦士と鋼の騎士が主役で解決しなければ意味がない。私が勝手に一人回って二人を解決したところで、いずれまた拗れそうな気がする。私はあくまでも助けるだけ。二人を支えるように手を差し伸べて立ち上がらせるだけでいい。

「……って、狙撃者。それわかっているよね」
「あら、バレちゃった?」

 自分一人で赤の戦士と鋼の騎士を解決するような人じゃないくせに。わざとらしい。

「赤の戦士なら、あっちの方に寝っ転がっているわ」
「ありがとう、教えてくれて」
「それじゃあ、お互い頑張りましょうね」
「……うん」

 寝ているなら丁度良い。今の赤の戦士じゃ、鋼の騎士の声を聞いても苛立つだけだと思う。だから私が鋼の騎士の変わりに支える手助けをしよう。そして、立ち上がらせてよう。 
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