| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

number-7



月曜日。
この日は、一年一組のクラス代表を決める戦いが第三アリーナで行われていた。もうすでに始まっており、今戦っているのは、織斑一夏とセシリア・オルコットの両名だった。


その戦いは、やはり、織斑が初心の素人ということもあって最初こそは、セシリア優勢で進んでいった。しかし、その戦局が変わったのは、織斑がセシリアの使うBT兵器――――ビットにある一定のパターンを見つけてからだ。
セシリアは、効率だけを求め続けてしまい、ビットを死角からしか撃つことがなかったのだ。現に、織斑に当たったレーザーは、すべて死角からのものである。それ以外は、しっかりと回避しているか、回避しきれずに若干掠ってしまったかのどちらかである。


それでも、自分が有利になってそのまま突撃した織斑。相手の機体をよく観察していないがために起きたミス。セシリアが使うビットが四つだと思い込んでしまったことによるミス。
実は、セシリアが意図的に隠していたのだが、ミサイルビットが後二つあったのだ。それが放たれ、直撃。誰もがこれで終わったと思った。
だが、これで終わることがなく、タイミングを読んだかのように一次移行(ファースト・シフト)した。あまりにもタイミングの良すぎることで、さすがの代表候補生であるセシリアも思考回路がフリーズした。


そのフリーズした隙を狙って織斑は突貫。あわやその一撃が届くかといったところで試合終了を知らせるブザーが、アリーナ内に鳴り響き、勝者をセシリアと告げた。


そして、蓮が、アリーナに響いたブザーを合図に控室から不本意ではあるが、織斑たちがいる出撃口の方に行った。


蓮が入ってみると織斑がいろいろ言われて落ち込んでいた。どうやら、自分の機体の特性を理解していなかったらしく、簡単に言ってしまえば、自爆したということだった。
それにしてもやはりあの機体は、嘗て織斑千冬が乗っていた暮桜に似ている。一次移行(ファースト・シフト)だけで単一能力(ワンオフ・アビリティー)を使えるのは、異例なことである。まあ、その能力の特性を理解していないから負けてしまったもので、ただのバカだったことが、これで判明したのではないか。そう蓮は、感じた。
ちなみに説明しておくと、織斑の機体白式。その単一能力(ワンオフ・アビリティー)である零落白夜は、自らの機体のシールドエネルギーを吸い取って攻撃力に転換するという、攻撃特化型の機体であるのだ。織斑先生は、これを欠陥機と呼んだ。――――あ、訂正した。


蓮は、気持ちを切り替えた。精神を鋭く、より鋭くしていく。最大限まで高めていく集中。感情を自分の心の奥に閉じ込め、常に冷静であれるようにしていく。


「準備はいいか、御袰衣」
「……はい。いつでも」


作り上げた集中を崩さない様に表情はなく、もともとつり目だった蓮の目が鋭くなる。それは、本当に戦場に行く者の顔立ちで。その雰囲気からにじみ出ている極僅かな殺気。ほんの少しでしかない筈なのに、濃密な死を感じる。
佇まいから僅かに千冬は押された。気迫だけで、いつの間にか千冬は後ろに下がっていた。


出撃口にあるカタパルトの前に立つと、蓮は、瞳を閉じて軽く一つ息をつくと、閉じた瞳を開き、念じた。
その直後、ほとんどラグなしに光に覆われた蓮。光を放って、そのすぐ後には、ISに身を包んだ蓮がいた。黒に赤と白のライン。特におかしい所はない。ただ、やはり非固定浮遊部位(アンロックユニット)が目立つ。
周りの目など気にすることなく、蓮はカタパルトに乗り、アリーナへ飛び出していった。


      ◯


蓮がアリーナに出てくると、セシリアはすでに待ち構えていた。織斑との戦いで叩き切られたビットも予備のものを使っているのかは分からないが、元に戻っていた。しかし、織斑との戦いのときに見られたあの慢心は無くなっていた。
初心者に諭されるとは、もう終わってるな。それが蓮の心の中での言葉だった。


セシリアが何か蓮に向かっていっているが、蓮は、全く反応しない。出来るだけ、精神を極限まで高めていく。
蓮は、ISに乗るのは半年ぶりである。その間は、大学受験の勉強に必死になって取り組んでいた。ただ、それも無駄になってしまった。入学さえしていないのに、退学扱い。あんまりだった。けれども、蓮はそう落ち込むことはなかった。あくまでも前向きにとらえている。


観客席のざわめきが収まってきた。観客の生徒たちも試合が始まるとどこかで感じているのだ。よく見ると、一組の試合であるはずなのに、観客席にいる生徒は、明らかにそれ以上だ。だが、それは蓮の気にしたことではない。


――――試合、ね……


蓮は、自分が置かれている状況に染まっていると感じていた。
ISは、実際――――束が作った理由は、月に行くためだった。現にISで宇宙空間での行動を可能にしてくれる。だが、今ではそんなことに使われることなどありえないことだった。
兵器。一言で表すならこの言葉が一番適当であろうか。武装の開発と称して新兵器の開発、改造、量産をしている。束の願いなんて叶えられることがない。


そして兵器とは、人殺しの道具だ。
束は、本来の目的のために利用しようとしない世界に嫌気がさしていた。それに蓮が賛同したのだ。そのおかげで戦争というものを体験できた。――――人を殺すというのも。


蓮が意識を切り替えた。――――その途端。
向かい合っているセシリアに途方もない悪寒が背筋を駆け抜けて全身を覆った。と同時に、冷や汗が止まらなくなり、吐き気も催してきた。
意識を保つのも危うい。
そんな重圧(プレッシャー)を放っているのが、まだ成人にも満たない十八歳の青年なのだ。


それでもセシリアは、気丈に耐える。気だけで、負けられないという意思で蓮の重圧(プレッシャー)を振り払っているのだ。
蓮はそんなセシリアを見て、笑う。そして――――


戦いの合図であるブザーがアリーナに鳴り響いた。


      ◯


管制室にいる千冬は、先ほど蓮が放った極僅かな殺気に恐怖を抱いていた。たった十八歳の青年があれほどまでに濃密な殺気を放てるものなのか。
あれは、本当の戦場に出たものでしか放てない。それに加え、あんな殺気を放てるのは、今のアメリカ軍でもいない。


――――何故、あいつはあれほどの殺気を放てるのだ!? ここまで現実味を帯びた死を感じたのは初めてだ!


周りから見ると冷静を装っているが、内心、動揺しまくっていた。頭の中でいろいろな考えが渦巻いている。希望的観測から、最悪の展開まで、ありとあらゆるパターンを考えた。
だが、それはあくまで推測の域を出ることはなく、曖昧でしかないのだ。どう転ぶかもわからない。そんなものほど不安なものなどない。


千冬は冷や汗が止まらなかった。モニター越しで蓮の目をたまに見るが、あの先ほどの殺気が脳裏をよぎって忘れられない。
それでもわかることは、二つあった。


一つは、蓮は普通の人ではないこと。どこかで訓練をしていたか、本当に戦場で戦い抜いた経験があるかだ。
もう一つは、このままでは対戦相手のセシリアが危ないということであった。


「――――山田君っ!!」
「は、はいっ!」


急いであの二人の戦いをやめさせようとしたが、千冬が大きな声で呼びかけたせいか山田真耶の手によって無情にも対戦開始の合図であるブザーが鳴らされてしまった。
遅かった。もう始まってしまっては止めることはできない。千冬は、真耶に大声で呼んでしまったことを謝り、用件も無くなってしまったと誤魔化し気味に伝えて、気にしない様にといい付けた。


教師であることから、どちらかを応援することはできないのだが、今回ばかりはセシリアに何も無い様にと祈るしかなかった。


      ◯


セシリアは、ブザーが鳴ったのを聞くと同時にビットを四機出して織斑との戦いで見せたように、四方八方から撃ってくる。
しかし、蓮はそれを予期していたのか、セシリアと同じようにブザーが鳴り響いた瞬間に背部装甲につけられている推進器(ブースター)を使ってさらに上空へ逃げた。その結果、セシリアの不意打ちにも近いレーザーの雨には掠りもしなかった。


それに動揺はせず、落ち着いて手に持っているスターライトmk.Ⅲで狙いを定めてトリガーを引いた。一発だけではなく、何発も観客もやり過ぎと思うぐらいに打ち込んでいく。
一撃でもそれなりの威力があるため、掠ったりしてもダメージとして蓄積していくはず。そうセシリアは思った。だが、すぐにそれは甘い考えだったことを思い知らされる。


「……悪いが、どの距離でも俺の領域だ」


そう言った蓮の周りには、シールドが浮いていた。それを一目見たセシリアはすぐにそれが何であるかを理解する。
BT兵器。イギリスの技術をどこから取ったのだろうか。そんなことが気になるが、今はそんなことを追求しようとは思わなかった。というより、そんな暇はなかった。


戦いを続けているうちに強くなっていく蓮が放つ重圧(プレッシャー)。呼吸が自分でも気づかないうちに荒くなっていたセシリア。つうっと額に汗が流れる。
目を逸らそうとは思えなかった。たとえそう考えたとしても、実行しようとは思わなかった。蓮が放っているものが、逸らすなと訴えかけているようだった。
自分の心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。


今思えば、この前に戦った織斑一夏も弱いなりに頑張って戦っていた。その頑張りがセシリアをあと一歩まで追い詰めた。弱かったこともあって油断してたが、それも入れてもはじめてにしては頑張っていた。その動力源になったのが、意志の力なのだろうか。


それならば、私も意志の力に頼ってみましょうか。と、セシリアは今できる最善の手を考え始めた。
狙撃、小回りが利かず、懐に入り込まれたら落とされるため却下。ビット四機による総攻撃。さっき行って完全に防がれている。よって、愚策にすぎない。……ビットと同時に自分の動ければ。ただ四機と同時だと自分の脳にかかる負担が大きすぎる。――――では、自分の限界であれば……二機。二機であれば、自分も動けて狙撃もできる。これしかない。


「――――行きますわっ!!」
「……もうタイムオーバーだ」


セシリアがビット二機からレーザーを放つと、それに若干遅れて蓮が呼び出したのは、ミサイルポットだった。すぐに放ったそれは、セシリアだけをロックして飛んでくる。その途中でセシリアが放ったレーザーに当たり、爆発。ミサイルとミサイルの間が狭かったこともあってすべて誘爆して砂煙が瞬く間に広がり、二人を覆った。


セシリアは、動くのを止めてハイパーセンサーによる索敵に移行したが、それを嘲笑うかのように真正面から蓮がセシリアに向かってくる。あまりにも大胆な行動であったためにセシリアは反応が遅れた。その反応の遅れが命取りであった。


セシリアを衝撃が襲い、地面に向かって吹き飛ばされていく。すぐに体勢を立て直そうとする。しかし、それは叶わなかった。
体勢を立て直す暇もなく、ミサイルが飛んできて、すべてを防ぎきれずにダメージを負う。ミサイルが命中した衝撃でセシリアは、地面に叩きつけられた。
そして、紫電を迸らせている弾丸が四発飛んできて、それらがすべてセシリアに命中したのだ。そしてSE(シールドエネルギー)が無くなった。


勝者が決した。
砂埃が晴れると、地に付したセシリアを見下ろす蓮の姿。その周りに浮かんでいる非固定浮遊部位(アンロックユニット)にあった細長い長方形の砲身がセシリアに向かって伸びていた。その砲身も電気を帯びていて、放っていた。
超電磁砲(レールガン)。それがセシリアを破った攻撃だった。


『勝者、御袰衣蓮』


圧倒的であった。
代表候補生であったセシリアは、自分のプライドを砕かれた。しかし、セシリアは笑っていた。
自分が越すべき壁。一方的にライバルと認めて、いずれ倒すと誓った。その眼は、絶望に打ちひしがれているわけでない。将来を見据えている希望を思った眼だった。



 
 

 
後書き
蓮は最強ではありませんからね? 勘違いしないようにお願いします。
ただ単に強いだけなので。というより、織斑千冬に勝つなんてどんな無理ゲー。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧