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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-6



クラス代表決定戦を翌日に控えた日曜日。蓮は、今までメンテナンス中であった自分の機体を受け取りに束のもとを訪れていた。それから、場所を移して機体の調整をしようと思っていたのだ。
外出届を織斑先生に出して、その後にバイクに乗り込む。移動すること3時間。今、束が拠点にしている郊外にある古びた建物が見えてきた。


誰にも見られていないことを確認すると、その建物の中にバイクを止めて、奥へと入っていく。最初の方は、誰もいるわけないと思ってしまうほど、古ぼけている。――――束しかいないが。
しかし、奥へ奥へ行くにすれて壁が補強されて機械質になってきた。明らかに人の手が入っているが、そんなことを、こんな人里離れたところで行う物好きはあいつしかいない。


しばらく歩いていると、薄暗い廊下に薄く光が差し込んできた。その光が見えると同時に、何か、機械の駆動音と鼻歌が聞こえてくる。
明らかに誰かいるが、その正体は蓮には分かっている。というより、呼ばれてここに来たのだから、居ないとおかしいと思う。


「来たぞ、束」
「来た―――!! れんくんっ! 会いたかったよ!」


モニターに向かってキーボードをたたく束の背中に声をかけると、掛けたこっちまで引くほどのハイテンションで抱き着いてきた。
蓮は、避けることも考えたが、別に避けなくてもいいかという結論に至り、避けることなく、むしろこっちから束の方に歩いて行った。


ドンと音が立ちそうなほどに強く抱きついた束は、今まで会えなかった分、といってもたった数日程度なのだが、それを取り戻そうとしているかのように腕にかける力を強めた。そして、自分の頬を蓮の胸にこすり付ける。少しくすぐったい。それでも、蓮は束を喜ばせようと、寂しさで死んでしまいそうだったウサギを助けるために抱きしめた。
束は、一瞬体をびくっと強張らせた後、安心したのか、腕にかけていた力を弱めた。そして、それから何も言わないまま、黙り込んでしまった。


蓮としては、ずっとこのままでいたいという気持ちもあるのだが、今日の外出には時間がないため、手短に終わらせなければならない。本当に、どこかに惜しいという気持ちが強く残っていてなかなか動いてくれない腕なのだが、ここはしっかりとしなければならない。


そう決めるまでにどれくらいかかったのだろうか。もう十分は過ぎようとしている。このままでいるか、用件を言うために離れるかという葛藤でそんなにも時間をかけるのだろうか。いや、普通ならかけない。それ程、二人が特別な存在であるのだ。


「束、そろそろ離れてくれ。でないと、話が進められない」
「うー……。ふうっ、ごめんごめん。れんくんのISのことだよね? もう終わってるよ」


離れることを渋り、頭を蓮にぐりぐりっとすることで何とか離れられるようになった。
どうしようもなく蓮のことが好きな束。もはや、その好きというものは、依存に変わってしまっているのかもしれない。……それでも、束は、蓮をずっと好きで居続けるのだと思う。
そんな束を蓮は、少なからず好いている。妹の篠ノ之箒は、姉である束のことを嫌っているというが、それは一方的なもので、その原因を作っているのは妹の方ときた。柔軟な考えが出来ない。ストレートに言ってしまえば、堅物。


そんなことを考えているうちに、束が蓮の専用機を奥の格納庫から蓮の前まで運んでいた。
蓮も自分の機体に会うのは、半年ぶりでずっとフルメンテナンスしてもらっていた。懐かしさを覚え、お帰りといってやりたくなる。そこまで愛着を持っているのだ。
ただ、その姿も半年前とは違っていた。


カラーリングは、黒を基調として赤と白のラインが少々入っているのみ。装甲も一般に流通しているIS、例えば、日本製の打鉄やフランス製のラファールリヴァイブなどがあげられるが、それらよりも装甲が少なめである。
その少ない装甲の代わりに大きくなっているのが、非固定浮遊部位(アンロックユニット)である。一番目立つのではないか。


普通では耐久力が足りなくてできないと蓮の中では思っていたが、それを可能にしてしまうのが稀代の天才である。
まず、目につくのは左右対称である非固定浮遊部位(アンロックユニット)にそれぞれ二門ずつ取り付けられている超電磁砲である。普通に持って撃つのであれば、反動が大きすぎて体勢が崩れてしまうが、それを非固定浮遊部位(アンロックユニット)に取り付けることで、操縦者にかかる反動をなくしている。
次にただ見ただけでは分からないが、イギリスの研究の成果ともいえるBT兵器が搭載されていた。通称ビットと呼ばれるそれは、束の手にかかれば、レーザー、ミサイル、シールドと切り替えが可能であった。束としてはソードまでやってみたかったが、時間がなくてやめたとのこと。
そのBT兵器が一つに五つの左右で十。


そして、束に言われて気づいたのだが、非固定浮遊部位(アンロックユニット)にはさらにギミックがあって、一メートルにも及ぶ実体ブレードが一本ずつ収められていた。
これには、蓮もさすがにやり過ぎではないかとも思ったが、特に束に言うことはなかった。逆に戦闘に幅が利くようになって喜んでいた。


と、ここで非固定浮遊部位は確認したが、本体の方に量子変換(インストール)されている武装が気になった蓮は、束に武装のリストを貰って確認し始めた。


「あと、音声で全身装甲に切り替えられるようにしてあるから。全身装甲にしたいときは『着装(セット・アップ)』で、通常装甲に戻すときは『解除(リリース)』だからね」
「ああ、分かった。ありがとう」
「ただし、人前で使ったらだめだよ。ねー、『黒き天使』さん?」


束の言葉に蓮は、手で顔を覆った。
黒き天使――――日本ではそう呼ばれている。昔に束の頼みで違法研究所を潰しまわってたらついたらしい。らしいというのは、蓮自身は、聞いたことがなく、束から聞いたのだ。
一番ひどいのは、ドイツだった。確かに、ドイツを中心にして潰していたが、あのネーミングはないと思う。ちなみにアメリカなどの英語圏が黒き天使をそのまま英語にした、《Dark Angel》である。
そして、問題のドイツが《Inkarnation der Verzweiflung》だ。意味は、絶望の化身。
どういうところからそう名付けたのかは不明であるが、気にしたら負けという言葉があるように気にしないことにした。


武装リストの確認を終えた蓮は、束にリストを返すと機体のもとへ向かう。機体に手を置き、目を瞑る。ISから感情が流れてくるように感じる。喜びという感情が。
久しぶりのISに感情が高まってきた。そんな時に軽い衝撃と共に背中に圧迫感を感じた。
目を開いて首を後ろに回すと、案の定、束がまた抱き着いていた。


「束――――」
「お願いっ、このままで、こうさせて頂戴っ……!」


…………やはり束は、寂しがり屋なウサギだった。


      ◯


あれから、自分のISの状態を確認して、動作確認してすべて問題がなかったため、学園の方に戻ることにした。その際に、なかなか束がくっついて離れなかったが、何とか離れてもらい学園に帰った。


学園に着くともう夕日が傾き始めていて、自分の時計で確認すると午後5時を指していた。蓮は、急いでバイクを駐車場に止めると、寮の方に向かった。
寮長である織斑先生に時間を守れてないとかで罰を貰うのは、ごめんだからである。そんなことを頭の片隅で考えながら、寮の一階エントランスに着くと織斑先生が仁王立ちで立ちはだかっていた。それを見たことに対する心情の変化を一瞬顔に出しそうになったが、なんとか耐えた。


特に注意されるようなことは蓮は起こしていないので、帰ってきたことを報告するだけでいいだろう。そう思い、織斑先生のもとへ向かった。


「先生、今帰ってきました」
「うむ。……ISの受け取りというのは、本当なのか?」


どうやら織斑先生は、蓮が本当にISを受けるために学園から出たのかを知りたいらしい。確かに、ISを受け取っていなければ何かしらの罰則を受けるが、普通にその通りにやっただけなので、受け取ったISの待機形態を見せることで納得させた。蓮の専用機の待機形態は、左手首に巻き付けている鎖のような形状のチェーンである。


これでもう、止められる理由はないと自分の部屋に向かって歩き出そうとする。だが、再び引き留められてしまい、歩き出すことは叶わなかった。


「後、もう一つ。お前の首にかけているネックレスは何だ? 私はてっきり、それがISかと思っていたが」
「え? ああ、これですか。これは、ただの飾りです。ただ、大切な人との思い出のものですがね」
「そうか……それなら、無理にとは言わないが、外せるときは外すように」
「分かりました。ではこれで失礼します」


蓮は、部屋に向かって歩き出す。その途中で織斑先生に言われたネックレスを外して、手のひらに乗せる。
金メッキが施されている金属の紐に指輪が通されている。指輪の裏側には束のフルネームが彫ってある。ちなみに束は、蓮のフルネームが掘ってある指輪を左手の薬指にはめている。束曰く、婚約指輪だそうだ。


ネックレスをそのまま握りしめた後、階段を上り切り、部屋へ向かおうと廊下を歩き始めようとしたら、楯無がいきなり出てきた。
家柄なのか、気配を完全に消して人の不意を衝いて死角から出てきた。これには、蓮も驚いた。


「はぁい」
「いきなり出て来るなよ、びっくりした」
「んふふー」


どこか含みのある笑いをして蓮に見せるようにして右手を突き出した楯無。その右手には、蓮のネックレスが握られていた。
蓮はそれに驚いて自分の右手を見ると何もなかった。となると楯無は、蓮に気付かれることなくネックレスを取ったということになる。


「おい、返せ」
「いやよ。でも、返してあげる条件として、生徒会に入ってくれたら返してあげる」
「生徒会に俺が入るには、お前が簪と仲直りしてからだ」


返す代わりにと交換条件を持ち出してきた楯無。しかし、蓮に自分の悩みとなっているところをつかれてしまい、ぐうの音も出ない楯無は、大人しく蓮にネックレスを返すことにした。
それどころか、少し落ち込んでいるように見える。
蓮は、自分の言葉でそうなってしまった楯無に責任を感じたため、助けてみる。


「お前と妹の関係は、俺にはどうすることも出来ない。勿論他の人でも何も出来ない。どうせお前のことだから織斑あたりにどうかさせようとしていたんだろうが、それも無理だ。誰にも介入なんてできない。どちらかが強く勇気をもって当たらなきゃいけないんだ。簪が楯無を避けるといっても、楯無が躊躇わなければすぐに仲直りできるさ」
「……分かった。今度、やってみるわ」


そうして二人は、自分たちの寮の部屋へ戻って行った。





 
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