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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  番外編「オーバー・スペック 前編」

また一つ、星の瞬きのように同胞の命が暗黒に消える。その暗黒すら埋め尽くさんとする異形共にしかし、誰一人として畏れようとはせずに異形を狩る。それはある種異常な光景だった。暗黒の空間を埋め尽くすほどの夥しい恐怖の体現を日精するかのように、誰もかれもが命を差し出し、一つの目的のために能動的に動き続ける。

それぞれがそれぞれの大切なもののために。守るべきもののために来たるべきもののために。
その大切なものを全て線で繋ぎ合わせると、丸い輪郭が出来上がる。
母星(ははぼし)。偉大なる星。この銀河にたった一つしかない星。―――約束の地。

人類の守護者であり、人類そのものである戦士たちはただの一歩の退かず、怯まず、濁流の様に押しかける異形の群れに果敢に立ち向かった。
それは人類史から未来永劫消える事の無いであろう神話の決戦。途方もない数の命が瞬いては消えて行った。

彼等には勝算があった。針に糸を通すよりもちっぽけで不確かな可能性ではあったが、彼らはそれに全てを懸けたのだ。
その賭け―――銀河系規模の無謀な超弩級博打は、全ての銀河の未来を託した物だった。賭けに添えられた手は一つ、二つと増えてゆき、気が付けば知的生命体と呼べるすべての存在が己が(チップ)を全賭けしていた。


だから、私は満足だ。恩師の教えも守ることが出来た。無二の親友と共に目指した計画の完成をその目で見た。己が為したことの集大成が異形を飲み込んでいく。時間も空間も、私自身さえも呑み込んで。我々は賭けに勝ったのだ。
だから―――ああ、満足だとも。最後の最後に彼らの脱出も確認できて、満足だ。もうやるべきことが無いくらいに。

「見てるか、宏一朗。俺達の引いたレールは終点までちゃんと繋がったぞ?」

その言葉だけを置き去りに、彼は最新鋭の技術で作られた鋼鉄の棺桶と共に因果地平の彼方へと消えた。

『ああ、見てるさ・・・英明。あいつらならば・・・最後の敵も―――』

彼が最期に耳にしたのは、一足先に黄泉の国へと旅立った親友の声。




「あら、そういえばまだ最後の敵が残ってたわね。次の章が本当に最後の決戦かぁ・・・」

などと手に取った本にしおりを挟みながら呟く。妹である簪の好きなゲームの外伝ストーリを書いた小説なのだが、これがまた意外に面白い。ゲーム内でがけっぷちの戦いを続けるヒーローたちを陰で支え続けたキャラクターの一人にスポットを当てたこの作品は細部まできっちり書き込まれており、簪に話を合わせようとそのゲームをクリアした楯無もその小説を十分に楽しめた。

ちなみにゲームのタイトルは「第参次超英雄作戦~END OF THE GALAXY~」。無印、外伝、第弐と続いたシリーズの集大成であるシミュレーションRPGであり、特に特撮・ロボット好きの間では知らぬ者の居ない壮大な版権クロスオーバーを売りにしたゲームだ。IS至上主義によるヒーロー物への冷たい風あたりを受けながらもきっちりシリーズが続いているのは素直に感心させられる。

割とイロモノ扱いされることも多いが、ヒーロー物大好きな簪のような存在には垂涎(すいぜん)モノの逸品だ。

「さてと・・・そろそろ約束の時間ね」

態々時計を確認せずとも体内時計と日の光の角度でおおよその時間を割り出した楯無は本を机に置き、一度伸びをしてから部屋を出る。実は今日、彼女にとって避けて通れないある個人的イベントがあったのだ。別に遅刻しても相手は起こらないだろうが巌流島の決闘の様な姑息な真似をした挙句遅れたほうが負けたりしたら笑いものだ。
負けたら―――そう、今日彼女はISによる模擬戦を行う。その相手は学園最強を自称し、技術者としてもIS操縦者としても世界に通用する実力があるという自負のある彼女が「敗北」の二文字を覚悟しなければならないほどの存在だ。

この学園で彼女がそこまでの覚悟をする必要があるのは3人。一人は一度世界最強の座を勝ち取った織斑千冬(ブリュンヒルデ)。一人は親友にしてライバルである存在。そして最後の一人・・・それが今回の対戦相手だ。

その男は戦いの天才である。
その男は規格外の存在である。
その男は家族愛を重んじている。
その男は形式上は楯無の護衛対象である。

初めて生身で相対した時、決着がつかなかったことに本気で安堵した。奇襲を仕掛けてきた3機のISを護衛対象持ちで相手取って、犠牲も傷も負わずに封殺する姿を映像で見た時は生唾を飲み込んだ。何度か生身での試合を申し込み、本当に人間なのか疑いたくなった。

その男の名は―――残間承章。彼女の知る限り、恐らく今現在地上でもっとも強い”男”である。



= = =



足場が弾丸の嵐で弾け飛ぶ寸前にステップでその場を離脱し、それと同時に腕部装甲を展開。内部にずらりと並ぶ砲身をむき出しにし、速度と威力を両立した特注品のグレネード弾頭を矢継ぎ早に発射する。手動照準がゆえに手強い先読みに楯無は歯噛みしながら手持ち武器の『蒼流旋』を再び発砲、変則機動で射撃を躱す。

状況は芳しくない。こちらは無反動旋回を頻繁に使用してのかく乱を行っているにも拘らず夏黄櫨の射撃は何所までも正確だった。遊び、逃げ道潰し、先読みなど射撃に必要な凡その技術全てを活用した射撃はとにかく手堅い。
その射撃に対して楯無が抱いた感情はただ5文字。

(有り得ない・・・!!)

格闘戦で桁外れの能力を持っていることは知っていた。だが射撃となれば話は別である。彼が今までに銃器を扱ったことがあるという報告はIS学園内でのデータ取りの際のみ。にも拘らずマニュアル照準でここまで『手慣れている』理由が分からない。
どんな天才でも大抵は努力の過程あって初めて結果を出せる。特に彼の腕部内蔵型グレネード「アストロジカ」はリコイルがきつく非常に癖の強い武装なのだ。それを何故こうも正確に扱えるというのか。

相性のいい悪いとかそれ以前の問題である。有り体に言えば、異常だ。
ファンタジーの世界の人間が現実世界のコンピューターを難なく扱っているような、そういう類の異常だ。幾ら才能があったってそう簡単に出来るはずがないのに、それでもジョウは実行する。世界はシューティングゲームをやりこんでいる程度で射撃が上手くなるほど甘くは無いというのに、世界はこの男にとことん甘いらしい。

しかしそんな異常にも立ち向かわなければいけいないのが生徒会長であり、ロシア国家代表であり、そして更識家の現当主である。

アクア・クリスタルから放出されるナノマシンを多分に含んだ水のヴェールを発生させ、それを盾に攻勢に転ずる。単に受け止めてはグレネードの弾頭が爆発するため、ナノマシンを最大限に操り水そのものを高速滞流させて無理やり弾頭を弾く。
それでも弾頭の爆発とその衝撃を完全に防げるわけではないし、盾一枚では衝撃を防ぎきれない。故に楯無はその問題に対策を立てていた。
攻撃の手を止めたジョウが感心したように声をかける。

「シールドの二段構えか。確かにこれじゃ弾は通らないな?」
「そうよ。そして貴方の次の行動も予測がつく・・・ついたところで、って感じだけどね」
「だが諦める気はないんだろう!?その意気やよし!!」

その言葉が終わるや否や、2重構造のアクアシールドが真っ二つに切り裂かれた。読んでいただけに回避に成功した楯無はいったん身を引く―――ことなく蒼流旋をバトンのように回転させ、アクアナノマシンを全面に張って突撃する。

その槍と夏黄櫨の接近武装である「熱天の矛(シズラーハルバード)」が激突した。


がきぃぃぃぃぃぃんッ!!


”熱天の矛”は槍と片刃の斧を複合させた形状をしている以外は取り立てて特徴の無い武器だ。ただし試作品の合金を使用しているため従来では考えられない強度を誇っているとは小耳にはさんだが・・・とにかく、その槍に蒼流旋のような特殊な使い方は存在しない。

にも関わらず、防御を捨てて攻撃に特化したさせた”ミストルティンの槍”を正面から受け止めても微動だにしないとはどういう了見だ。アクアナノマシンによる超振動粉砕の衝撃は武器だけでなくそれを握る腕にも伝わっているはずなのに、ジョウはその槍を力任せに弾いた。
いや、力任せというのは正確ではない。ただ傍から見ればそう見えるだけであり、実際には絶妙な読みと力加減をしているのだ。それを感じさせないほど自然に弾かれては見事としか言いようがない。

だが、弾けて結構。夏黄櫨は軍用級のスペックを誇るISだが、競技用に多くのリミッターがかけられているためカタログスペックではこちらの方がパワーが上だ。純粋な槍としての重量もこちらが上なら苦戦はすれど戦えない事は無い。

「更識流の取り柄が徒手だけでは無い所・・・魅せてア・ゲ・ル♪」

逸らした上体から、そのサイズからは想像もつかない速度の多段突きを浴びせる。すぐさま動きを察知したジョウが熱天の矛を器用に取回して正面から迎え撃たれた結果、通常の槍術では起こりえない突きの速さ比べが発生した。
相手が次に放ってくる槍のタイミングと位置を正確に先読みし、こちらへ矛先が当たらぬように突きを放ち、結果として二人の矛先は幾度となく激突を繰り返す。一瞬の判断ミスと手元の狂いが敗北を招くこのラッシュは先に降りたほうが負けるチキンレースであるが故、互いの手は緩まることを知らなかった。

その間に槍と槍のぶつかり合いで宙に散ったアクアナノマシンは順調に滞留していく。ここがもっと狭い空間ならば清き熱情(クリア・パッション)の爆発を利用した戦法が取れるのだが、例え密閉空間でなくともアクアナノマシンには複数の使い方が存在する。それを可能にするだけの時間さえ稼げれば―――と、そう考えていた楯無だったが、その時間稼ぎこそが最難関であるという事実をとうとう覆せなかった。

熱天の矛が手首の鋭い回転を乗せた突きで蒼流旋を弾いた。楯無が槍を繰り出す際に纏わせていたアクアナノマシンの不規則な水流回転を読みきり、斧部分で”そっと”引っかけたのだ。

アクアナノマシンは本質的には水。高速回転させたそれは流れが速ければ速いほど遮られたときの衝撃は大きくなる。更に言うならば水は高速で突入してきた物体に強く反発する。アニメや漫画で高高度から海に落下した人間が生きているなどといシチュエーションがあるが、実際には高さ5メートルを超えた高度からの飛び込みでさえムチ打ちや脳震盪、果ては内臓損傷のリスクがあり、それ以上だと骨折もあり得ることを考えるとどれだけ非現実的かが分かるだろう。飛行機からの落下などパラシュート無しならバラバラ死体まっしぐらである。
その妨害による反動はミステリアス・レイディのカタログスペックで抑えられる運動量を軽々と突破した。

「ちなみに俺の専門は実は槍術だ」
「・・・・・・それ、真面目な話?」
「次点で投げ技な。ちなみに斧は3番目だ」

絶望しか見えない。


後半へ続く・・・ 
 

 
後書き
腕部内蔵型ガトリンググレネード「アストロジカ」
腕部装甲を展開することで姿を現す12の砲身。IS驚異の技術力によって弾速の速いグレネードという理不尽を実現した。その代り操作性は最悪の更に下なのでジョウ以外には使いこなせない。 
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