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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第六二幕 「代償と結果の黄金比」

 
前書き
つららって名前、ぬら孫のキャラと被ってるのに今まで欠片も気づきませんでした。まぁだからどうという訳でもありませんが。 

 
前回のあらすじ:驥服塩車・・・才能のすぐれた人物が世に認められないでいることのたとえ。


一般的な視力検査において視力というものは2.0が上限とされている。何故かというと、それ以上を測ってもあまり意味がないからだ。重要なのは一定の条件を満たしているかどうかであって、どこまで高い能力を持っているかではない。だから視力2.0の中にそれを超える視力を持つ人間がいたとしても一括に2.0として扱われる。
だから実際には視力2.0を超える人間がいたとしても、人々は聞いた情報だけではそれを知り得ない。その理屈ならば、例えば「代表候補生」という言葉の括りの内にいる人間の中にも、本当は候補生の域を超えた存在が居てもおかしくない。―――つまることろ、セシリア・オルコットとはそういう人間だった。

「ゴメン織斑君、作戦尽きた・・・まさかここまで硬いなんてね」
「畜生・・・あの時はほんのお遊びだったって訳か・・・!」

佐藤さんと一夏が幻視したのは鉄壁の要塞。セシリアという城が次々に大砲を放ち、その門をつららという門番が固く閉ざしている。入口は城門のみ。されどそこには強大な門番が居て、逆に門番を倒そうとすれば城からの砲撃が二人を襲う。門番はただその場所を譲るまいと敵を迎え撃ち、城はその門番を守る。奇策珍策の入り込む余地がないほどに完成されたコンビネーションだった。



セシリアに技量で勝てないことは予めわかっていた。だからこそその相方であるつららを優先して撃破することは勝利の必須事項とも言えた。・・・それが分かっていてああいうフォーメーションを取っているのだろう。

打鉄を操るつららはその普段の言動からは想像もできないほどに強かった。まずはその多彩すぎる投擲武器の数々。IS用手榴弾やISダガーはもとより、曲刀、チャクラムソーサー、スパイダ―ネット、果ては粉砕鉄球まで『投げる』と言うただ一点に特化した武装は見るものを驚愕させた。投擲がメインという事にもだが、真に周囲が驚いたのはアンパンマンの顔を投げるバタ子さんも吃驚の神がかり的な命中率である。プロのソフトボール投手にでもなる気だったのかと言わんばかりの投擲は次々に一夏の顔面を襲った(佐藤さんは一夏を盾にしているためあまり貰っていない)。顔面直撃コースで飛び来る凶器というのは凄まじい精神的圧迫感をもたらした。

しかし、投擲と言う攻撃方法は実弾などに比べて消耗が激しいことがネックとなるのだが、手榴弾とネット以外は投げた後に量子化して戻ってくるために剣やチャクラムは実質無制限。これを良い事につららは対戦相手の佐藤さん、一夏ペアに次々武器を投擲しまくった。いくつかは一夏が切り落として壊せたが、その隙間を縫ってセシリアのレーザー狙撃が牙を剥く。むしろそちらが突破できないからこそつららは好き放題が出来るのだ。
BTは1対1の戦闘では非常に厄介だが、この戦いで集団戦においても弾幕として非常に優秀であることが自分たちの身を持って証明された。セシリアの人並み外れた射撃センスのなせる業か、その砲撃には唯の一発も無駄撃ちは無い。淡々と、そして冷酷に放たれるレーザーは二人のあらゆる動作を潰し、妨害し尽くした。それは正にBTとライフルを合わせて5機のISに砲撃を受けているかのような圧迫感。隙を見つける合間すら許されない鬼の援護射撃であった。


「どうしましたの御二方?へこたれていても試合には勝てませんわよ?壇上に立ったからには最後まで踊りなさいな」
「そうですよ二人とも!さあさあどこからでも掛かってきなさい!また投げ飛ばして差し上げます!!」

・・・そして漸くそれを潜り抜けた一夏を待っていたのは、何と自分自身が投擲されるというバカげた現実だった。

「あの動き、絶対ジョウさんの動きを真似た奴だろ・・・」
「成程、対IS戦で相手を投げ飛ばすのなんてジョウさんしかいないから参考にしたわけね・・・」

足運びや重心移動の仕方がジョウの動きと似ている。流石に本人様に届くほどの技量ではないが、それでも投擲とレーザーの弾幕を突破してからという条件下ならば十分な脅威だ。ジョウに始まりジョウに終わる。本人が出ていないのにオチを飾るとはこれ如何に。

―――結局突破口を見いだせなかった二人は敗北。一夏は最後の賭けにと突撃したところ、顔面に粉砕鉄球の直撃を受けてグロッキー。佐藤さんは回避のために瞬時加速を用いた瞬間BTのBT偏光制御射撃(フレキシブル)によって曲がったレーザーがスラスターに直撃、エネルギーが爆発した結果、破損度(ダメージレベル)がCを越えてあえなくリタイアとなった。(・・・ちなみに破損レベルは装甲の破損などではなく機体の稼働率と機能不全部位の場所や数で決まる。逆を言えば機能不全が起きていなければ風花のようにボロボロになっても破損レベルがA・Bに留まることもある。極々稀に)


こうして数々の大波乱を引き起こしたツーマンセルトーナメント第一ブロックは幕を下ろし、第一ブロック優勝者のセシリア・オルコットと峰雪つららには惜しみない拍手と表彰盾が贈られた。
第二から第八までのトーナメントとは明らかに別格の戦いに、各国は「今年の1年生は豊作だ」と諸手を挙げて祝辞を贈ったという。



= =



「・・・という訳で見事に負けちまったよ」
「そんなに強かったのかぁ・・・ちぇっ、戦いたかったなぁ・・・」
「あばらにヒビ入れて寝込んでいるヤツが何物騒な事言ってんだよ」

片や決勝に行く前にドクターストップ、片や決勝でボッコボコ。内容的には二人ともそれなりの結果を残した一夏とユウだが、内容的には多くの課題が残る結果となった。佐藤さんはISをぶっ壊した手前とっとと帰る訳にはとISの修理を手伝い、鈴は本国に甲龍の修理依頼をしているためここにはいない。
ふと一夏が奥のベッドを見やる。そこには未だ眠ったままの簪が静かな寝息を立てて横たわっている。

「シャルはどうなったんだ?」
「目が覚めた後、僕に一言謝ってから自分で織斑先生の所へ行ったよ。一目で分かる程度に落ち込んでたなぁ」
「千冬姉からの説教か・・・」
「僕は受けたことないんだけど、そんなにひどいの?」
「・・・知らない方がいいこともある」

ふっ、と顔に陰を落とす一夏に?を頭に浮かべるユウも一夏とは別の方向に鈍感なのかもしれない。ユウは不思議と千冬が説教をするところに出くわしたり自分が説教されたことは無いので全く実感がわかないというのもあるのだろうが。顔見知りだからって相手のすべてを知っているわけではないという事だ。

「あ~あ・・・ひでぇ試合だったな。これじゃジョウさんに笑われちまうぜ」
「そういえば兄さん来ないね。まぁ来ないほうが静かでいい・・・」
「呼んだか~?」
「「呼んでない(ません)」」

知らなかったか?ブラコンは呼べば来るんだ!(※嘘です)
そこには何故か制服ではなくポロシャツを着たジョウの姿があった。・・・この男、一体今まで何の手伝いをしていたのだろうか?実は南国で遊んでいたと言われても納得しそうな程度に日に焼けているその肌に、手には何やら物が詰まった袋をぶら下げている。

「いやー楯無の所に報告あげてたら遅くなってさー。ま、それはそれとして・・・まずはユウ」
「え?わわっ!」

ぽん、とジョウの掌がユウの上に置かれ、そのまま髪を乱すように乱暴に撫でられる。突然髪をぼさぼさにされたユウが非難の声を上げるよりも早くジョウが口を開いた。普段からは想像もできない、しかし彼に近しいものなら知っているその優しい声色。

「鈴もだが・・・“勝った”みたいだな。おめでとさん」
「・・・うん、僕はまた一つ成長したよ。次は兄さんだから首を洗って待っててね?」
「俺は逃げも隠れもしねえからいつでも来な。軽く揉んでやらぁ!」

一瞬きょとんとしたユウはにやっと笑う。それにつられるようにジョウも不遜に笑う。
ジョウは時折こうして人を褒める。彼が「おめでとさん」の言葉を使う時と言うのはいつも誰かが壁を乗り越えた時。その言葉にはまるで子を褒める親の様な言い知れぬ抱擁感を持つ。特別な事を言っているわけではないが、心に沁みる不思議な響きがあるのだ。もっともめったに聞ける言葉ではないのだが。

「・・・ところでジョウさん。その袋に入ってる“TANDUAY RUM”ってビンなんですか?何か色からして酒っぽいんですけど・・・ジョウさん未成年ですよね?」
「んん?袋の端から何かはみ出て・・・PIL・・・ピリナッツ?何かデザインからしておつまみ系のものに見えるけど・・・」
「ああ、これは帰りに免税店で買った織斑先生へのみやゲッフンゲフン!」

・・・この人は今までマジで海外にいたんじゃないかと本気で疑る二人であった。


もしもユウが万全の集中力でジョウを観察したら、その顔がどこか疲れているように感じたであろう。



= =



フィリピン半導体工場調査結果報告

調査の結果この工場は地元マフィアが実質的に経営しており、国内で生産した覚せい剤を密輸して利益を得るための隠れ蓑であることが判明した。この件は極秘裏にフィリピン政府へ報告して後始末を図るのが妥当と思われる。なお、このマフィアに他のコネクションは少なく国内で完結していた。
地下に存在したスペースは、尋問の結果誰も知らなかったことが判明。工場を建設した時点では確かに存在しなかったようだが、詳細は不明。引き続き調査を進める。


地下施設及びIS用と思しき訓練スペースについて

突入班は調査中に発見した隠し通路を調べた結果、工場地下に存在する空間を発見。
同時にISと思しき兵器3機に襲撃を受けるも撃破。死傷者なし。
敵性体3機は突入班の映像からその外見は確認できたが詳細なスペックは不明。有人機かどうかも確認できなかった。恐らく侵入者撃退の任を持っていたと思われる。
行動不能になると同時に機体そのものが崩壊。特殊な機密保持措置と思われるが具体的にどのような技術が使われたかは不明。回収できたのは戦闘中に破損した敵性体の武器の残骸のみ。

地下に存在した機材の使用方法は不明。引き続き調査を続行するが、構造からして量子変換に関係する装置と思われる。
また、その機材の他にもハッチが存在し、その奥は広大な空間が存在した。構造や建築思想がIS訓練用スペースと酷似していたことから、同様の使用方法と考えられる。光学兵器の試射をした痕跡も発見された。



「・・・今までそれなりに長い事暗部にいたけど、これだけ謎の多い一件は初めてね」

眉間にしわを寄せる楯無。これでは何も分かっていないのと同じようなものだ。仕掛け人、目的、いつからそこにいたのか、背後関係その他の情報が一切なし。その上倒したら砂になってしまったIS“のようなモノ”・・・まるで本物の幽霊がイタズラしたのではないかとさえ思えてくる。一応現地で発見した装置も含めて調査は続けるとして―――

「ISのようだけどISと断定できなかった・・・ねぇ。未確認敵性体・・・は名前が長いわねぇ。かといってアンノウンじゃ捻りが無いし・・・フィリピンの伝承にならってドゥエンデとでも呼ぶかしら?」

軽口を叩いてはみたものの、この一件が犠牲者なしで終わったのが奇跡に近いほどに危険なものだった事には嘆息しか出ない。ISのセンサーでも途中まで気付けなかった恐るべきステルス性を持った敵と、その敵を製造する技術を持った“何者か”の存在。今まで全く確認できていなかった完全に未知の敵である。
この組織、いや場合によっては篠ノ之博士よろしく個人か?規模は?目的は?“何者か”にとってのこのドゥエンデの位置づけは?もしもこれらが数を揃えてIS学園を襲撃したらどうなる?答えは・・・“不明”。

「・・・情けないけどこれはクラースおじ様に要相談ね・・・あら?」

はらり、とデスクから一枚の報告書がはらりと舞い落ちる。まだその報告書に目を通していないことに気付いた楯無はその報告書を拾い上げ―――思わず「まあ」と口に出してしまった。





行方不明になった諜報員について

地下スペースに存在した通気口で衰弱した状態で発見される。外傷なし。
その諜報員の報告によると、工場の調査中、偶然地下通路の入り口を発見した際ハッチが開いており、侵入と同時にそのハッチが閉鎖されたことで通信も脱出も不能になった。そのまま例の地下スペースに辿り着いた結果敵性体に発見され、逃れるために通気口に入り込んだとのこと。
現在は極度の疲労で治療中だが、命に別状はない。回復次第現場に復帰する。 
 

 
後書き
ドゥエンデ・・・スペイン語でエルフやゴブリンを意味するデュエンデに由来する小さな生物。人間の家に住んでおり、むしろ彼らの家に人間が住んでいるようなもの。故に普通に過ごしていれば家を守るが怒らせると人に害を与えるという。

TANDUAY RUM(タンデュアイラム)・・・フィリピン産のラム酒。良質な上にフィリピンは酒税が安いのでとても安価。
ピリナッツ・・・フィリピン産のナッツを商品用に加工したもの。植物性のタンパク質豊富でノンコレステロール。

なお、ジョウはこの日の夜、隊長の息子さん生還祝いで突入メンバー全員ピリナッツをつまみにタンデュアイラムを飲み明かしたという情報があるが定かではない。 
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