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クラディールに憑依しました 外伝

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それが出会いになりました

 第一層迷宮区。

 デスゲームが始まって約二週間。第二層に上がる事も許されず、最近のドロップは全てNPCの店売り武器に変わっていた。
 全身を覆う外装で身を隠し、迷宮区の奥でリポップを続けるモンスターを狩り続ける。


「――――――コレで次のリセットまでリポップは無し。次のフィールドに行くか」


 二十四時間ごとに行われるリソースのリセット――――資源のリセットまで含めてこのフィールドは用無しだ。
 隣のフィールドに移ると先客が居た………………此処の狩場はハッキリ言って効率が悪い、だから好きなだけ狩れる。
 効率よりも狩の時間を倍にする事で経験値を手に入れている俺としては、他人など邪魔でしかない。


 俺と同じ様に全身を覆う外装で細剣を振り回す小柄な人影――――まさかな。


 HPが残りわずかになったモンスターに細剣のソードスキル、リニアーが発動して葬り去る。
 ――――明らかなオーバキル。結城明日奈で確定か。

 フィールドの入り口で棒立ちしている俺を不審に思ったのか、こちらと目が合った。
 俺は真横に歩き出しアスナに近付かない様にぐるりと回り込んで、アスナの後ろからもう一つのフィールドへ向かう。
 アスナは暫く俺の様子を伺っていたが、リポップしたモンスターを倒す為、反対方向へ消えて行った。


………………
…………
……


 また一つ、フィールドのモンスターを枯渇させた後、再びアスナの居るフィールドに戻って来た。
 ――――アスナはまだ同じ場所で戦っていた。俺はまたアスナを放置して別のフィールドへ移る。
 それが五日間ほど続いた時だろうか――――アスナがフィールドのど真ん中で倒れていた。


「――――おい、生きてるか?」
「…………」


 虫の息なのか、寝息なのか、返事も出来ない様なのでモンスターがポップしない安全域に連れて行く事にした。
 アスナの腰に手を回し、STR極振りにモノを言わせて持上げる。細剣も拾い上げ、安全域へ歩き出す。


「…………あ…………え…………?」
「――――もう少し休んでろ、安全域まで送る」
「…………」


 …………寝たか。
 安全域まで辿り着き、ゆっくりとアスナを降ろす。
 起きるまで待つのも時間の無駄だしな、飯でも食いながら待つとするか。
 キリトが持っていたクリームのクエストはスルーしてきたからな――――ただ不味いだけのパンに噛り付く。
 三時間ぐらいした所でアスナが目を覚ました。


「――――うっ…………ふ?」
「起きたか」
「…………此処は?」
「安全域だ、このフィールドはモンスターが沸かない――――歩いては来るけどな」


 最後の言葉にアスナがビクっと身体を震わせ、辺りを確認した。


「今の所、見えてる奴は狩って置いた、当分は安全だろう――――飲んどけ、パンは不味いが多少は気分が落ち着く」
「…………パンなら持ってるわ――――水だけ貰っても?」
「ああ、困った時はお互い様だ」
「お金は払います」


 アスナが不慣れなメニュー操作でお金を送ってくる。


「――――確かに受け取った――――さて、死んでなかったらまたどこかで会おう」


………………
…………
……


 それから二日間、俺はアスナに良く会う様になった――――と言うか、アスナが俺の近くで狩りをする様になった。
 ――――アスナがそんな可愛い性格をしている筈がない。きっと次に寝落ちした時の安全装置としての扱いだろうな。


「…………なあ、お前」
「――――何かしら?」
「経験値ボーナス欲しくないか?」
「経験値ボーナス?」

「一パーセント以下、ホンの数パーセントだがな、パーティーを組めばオマケが入る」
「…………その程度なら要らない」
「だろうな、だがそこは大きな絵を見て欲しい――――この辺のフィールドは俺達がそれぞれ時間いっぱい狩れる場所だ。
 そこで俺達が組めば殲滅までのスピードを短縮できる、この辺りのフィールド全体からリソースを狩り尽くして、
 次のリセットまで休憩時間が増えるぞ。

 休みたくないなら他のフィールドに行けば良いが――――人気の狩場は他の連中が多過ぎて狩りにならない。
 俺達は起きている限り、精神力の続く限り狩りを継続するタイプだ。お互いにとって良い提案だと思わないか?」

「………………本当にそれで強くなれるの?」
「休憩を入れた後の狩でも現状と変わらないと思うなら、好きな時に抜ければ良いだろ?」
「――――わかったわ」


………………
…………
……


 雑魚は攻撃三回で終わらせる。
 始めに射程距離に入ったモンスターを俺が投擲スキルで攻撃する。
 近付いて来た所を更に両手剣のソードスキルで削り、アスナが細剣のソードスキル・リニアーでトドメを刺す。


「…………経験値が減ってる気がするんだけど?」
「そりゃ、一匹あたりの経験値は減るだろうよ、その代わり討伐スピードは短縮してるだろ?
 それに、ファーストアタックとラストアタックの経験値分は増えてるんだ、これ以上は俺の取り分が減る」

「…………ファーストアタック?」
「最初に攻撃した奴が貰える経験値ボーナス、ラストアタックはトドメを刺した奴が貰えるボーナスだ、そっちの取り分が多い」
「――――ソロでも一緒じゃないの?」

「言ったろ、一パーセント以下しか違わないと、MMORPGってジャンルはソロで行動すると最低限の経験値しか貰えないんだよ。
 だから仲間を組んで、少しでも多くの経験値ボーナスを手に入れたりしてる訳だ」
「…………仲間なんて要らないわ」

「それについては同意するね、仲間が増えれば不満も増える――――たった今、経験値に関しての疑問が出たようにな。
 しかし、良く考えて見ろ。車の運転をしながら台所で料理ができるか? 学校の授業でノートを書きながら同時にプールで泳げるか?

 俺達は睡眠時間を削っているから最前線に居られるが、階層が上がれば圧倒的にパーティーを組んだ方が有利になる。
 強い奴ばかりでも武器を揃える鍛冶屋が居なければ直ぐに弱くなる、戦いに篭ってばかりでは情報が得られない、情報屋も必要だ。

 出来れば回復職も欲しい――――魔法の使えないSAOでそんなソードスキルかアイテムが見つかったら奇跡だな…………」

「…………それって、嫌な奴でも頭を下げて従えって言ってるの?」
「――――そいつが、そいつ等全員がムカつく程度なら問題にならないくらいの欲望や夢が手に入るならな。
 このSAOは――――デスゲームで一番大事なのは命だ、現実に戻れなくなるし、どんな欲望や夢も実現出来なくなる。

 いつか自分の命を天秤に掛ける時が来る、掛け金として投げ込まなきゃ行けない瞬間が来る。
 嫌な奴でも全員に頭を下げろと言っている訳じゃない、それが出来る奴は政治屋だ、金の為なら死に物『狂い』の欲望に忠実な奴だ。

 お前の欲望は何だ? 何が欲しい? 何がしたい? お前は何になりたい? お前は何に『狂う』?」

「……………………そんなの、わからない――――わたしは……ただ……無駄にしたくないだけ――――何もしないまま終わりたくない。
 …………今はそれだけよ」
「『進みたい』か『遊びたい』かハッキリしてるなら、それで良いじゃないか、後はどっちかに全力だ、疲れたら遊び、飽きたら進め」

「――――疲れたら遊び、飽きたら進む…………少しいい加減じゃないかしら?」
「そう言うのは立派な欲望と目標を持ってから言うんだな、何も見えてない内は、見えていないなりにヤレって事だ」
「やっぱり、いい加減だと思うわ」
「正解探し、自分探しは自分でやれ、『今日からお前はゲームの住人です』って言われた全員が同じ答えな訳ないだろ」
「…………――――そうね、わたしの答えはわたしにしか出せない――――他人の価値観に縛られるなんてごめんだわ」


 それから俺達は多くを交わす事無く、只管レベルを上げ続けた。
 約十日後の第一層ボス戦攻略会議が開かれる日まで……。 
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