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クラディールに憑依しました 外伝

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新たな家を買いました

 第四十七層のボスが倒され、勝利判定がボス部屋にデカデカと表示される。

 攻略組の連中は歓声に沸きあがり、ちょっとしたお祭り気分だ。

 暫くして熱気も落ち着いてくると、戦闘後の報告会を始める為に各ギルドで集団を作っていく。

 此処でレアアイテムをドロップした奴が報告を出したり、ギルドの方針で黙秘たり後日通告したり色々だ。

 俺が所属している血盟騎士団は『ドロップしたアイテムは本人の物』と決められているので、報告の有無は自由だ。


 大抵の流れは、この場でレアドロップを申告して詳細情報をアルゴに売っている。

 後になってからアルゴに報告しても『本当にボス部屋でドロップしたアイテムなのカ?』等、情報料を買い叩かれてしまうからだ。

 情報を売った後は、ドロップが欲しい奴に譲ったりオークションにしたりと、攻略組の特権となっている。


 そして、もうひとつの特権はと言うと。


「おつかれさま、中々かっこ良かったわよ?」


 ポンと、俺の肩を叩いて労いの言葉をかけてくる少女、リズベットがそこに居た。


「あんな事があった後なのに、よくボス部屋に入って来れるな?」

「…………ん~? 次の階層には水車付きの物件が多いってNPCが言ってたでしょ? 早く見てみたくてね」

「そう言えば、入り口はどうした? 通して貰えたのか?」

「まぁ、前回参加してるし、顔パスだったわ」


 転移門のアクティベートから開通までには一時間程度の時間が掛かるのだが、その間に欲しい物件を押さえたりクエストをこなしたりする訳だ。

 その特権を狙って、ボスを倒して盛り上がる攻略組の横をすり抜け、上の階層へ一番乗りを仕掛けた馬鹿集団が居た。

 当然、つい先刻まで命を預けあって戦った攻略組以外の見慣れないグループ、速攻で取り押さえられてアルゴの新聞に晒された。

 そいつらの主張は『上への道が開放されたのだから通るのは当たり前』等と空気の読めない発言を高らかにわめき続けていた。


 攻略組でもないそいつらは、アルゴの新聞が出回ると生産系プレイヤーから何も売ってもらえ無くなった。

 ポーションや転移結晶はもちろん、装備強化に必要なアイテムにドロップの買い取りまで拒否された。

 結果としてNPCが店売りする低スペックの装備のみとなり、

 折角集めた装備強化のドロップは、成功率が極端に低いクホホ言ってるNPC鍛冶屋の餌食になってるとか。

 ちょっと考えれば判る様な事を何故やっちまったのか、まぁ、そいつらのせいでボス部屋の入り口には見張りを立てているのである。


「それで、なんだけどさ、そろそろちゃんとしたお店で武器を売りたいと思ってるんだけど、一緒に探してくれない?」


 次の第四十八層リンダースはリズが一目惚れした水車小屋がリズベット武具店になるんだよな、確か南区のどこかだった筈。


「まぁ、特に急ぎの用事もないし、適当に回ってみるか」


 報告会の準備をしている集団の向こうにアスナとシリカを見つけ、俺の視線に向こうも気付いた。

 俺は横に居るリズの肩に手を乗せ、人差し指を立てて上の方へあげるジェスチャーを伝える。

 それで意思は伝わったらしく、アスナとシリカは同時に小さく頷いた。


「よし、行こうか」


 アスナとシリカから視線を外してリズを見ると、リズは笑顔で二人に手を振っていた。


「うん」


 ボス部屋の奥を見渡し、上へ続く階段の位置を確認する。

 ふと、前の階層で放心状態だったリズを思い出し、左手をリズの前に出して手の平で合図を送る。


『手、繋ぐぞ』


 俺の合図を見て、一瞬リズが硬直し、俺の顔を見た後、視線を手に戻して右手を預けてきた。

 リズの手の平を握り、ゆっくりと方向を変えて歩き出す。

 少し引っ張られる形でリズも歩き出した。

 ――――周りの攻略組の連中から何か冷やかしの声が飛ばされてるが、振り返ったらリズが居なくなっている方が面倒だ。



 階段を上り、南に見えた街に入る。名前はリンダース、原作どおりだな。

 街の至る所に小さな川とそれを利用した水車が見受けられる。


「想像してたよりも良い街だね」

「あぁ、俺も此処に拠点を作るかな」

「第一層の倉庫はどうするの?」

「向こうも継続だな、どうだ? 広い建物を買い取ってドロップの在庫を一斉処分でもするか?」

「確かに、今じゃ第四倉庫までドロップの山だからね、まとめて処分しないと大変だわ」


 俺達のパーティーでは分け前をこっちのお金『コル』にするが、俺やリズは現物でドロップをそのまま引き取っている。

 大体の理由が装備の強化や大量生産と大量消費する俺の剣の使い方のせいなのだが、リズには世話になりっぱなしだ。


「――――けどね、あたしの最初のお店はそれなりに小さくて、あたしの家って感じの奴にしたいの」

「そっか、こだわりがあるんなら仕方ないな」

「うん、仕方ない」

「んじゃ、俺はあの家にするかね?」


 俺が指を指した家は水車が二基も稼動してそれなりにデカイ家だった。


「こ、これ? お金は大丈夫なの?」

「俺の懐事情はお前が一番把握してるだろ、余裕とまでは行かないが何とかなるレベルだな」

「でも、この家に見合う家具とか揃えたら全然足りないわよ?」

「まぁ、その辺りは追々だな、さて、さっさと買っちまおう」


 入り口で契約をしてコルを収める。

 すると目の前にこの家の鍵が現れ、俺は鍵を掴み取り早速メニューを操作してスペアキーを作り出して、リズに渡す。


「ほい」

「え?」


 いきなり鍵を渡されてリズが驚いている。


「倉庫の時と一緒だ、何時でも好きなように使ってくれ」

「あ、倉庫、うん、そうだよね…………」

「――――どうかしたか?」

「……別に?」


 何故か目を逸らされてしまった。

 何かやったか? まぁ、さっさと家の中に入るか。


「やっぱり中は広いのね」

「水車はこっちに一基と、もうひとつは奥か」

「武器の研磨時間が半分になるわね、露店用の簡易研磨より短縮されるからもっと短くなるか」

「当分は水車を使う予定もないし、リズが適当に使ってくれ」

「――――良いの? 遠慮なく使うわよ?」

「拠点とは名ばかりの作業場にする予定だしな」


 ――――――――ドンドンドンドン!


 突然の騒音は今閉じたばかりのドアから発生していた。

 イベントが発生したかと思ったが、どうやら外からプレイヤーの誰かが遠慮なしにドアを叩いているようだ。

 チラリとリズと視線を交わし『何かあっても気を付けろ』と意思の確認をする。


「どちら様だ?」


 ドア越しに声を掛ける。


「開けてくレ、取引を持ち掛けたイ」


 どうやら相手はアルゴのようだ、レアドロップの買取は終わったんだろうか?

 とりあえず、ドアを開けて中へ招き入れる事にした。 
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