犬も食わない
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第二章
「朝位爽やかにいきたいですから」
「まあそれは」
「何ていいますか」
「喧嘩は止めて下さい」
佐藤さんはまた二人に言った。
「そうしてくれますね」
「はい、わかりました」
「申し訳ありません」
二人もとりあえず大人しくなった、それでだった。
二人で住人達に頭を下げた、それでこの場は終わった。
住人達も203号室の前からそれぞれの部屋に戻る、だがここで若い大学生の人、奥田さんが困った顔でこう言うのだった。
「あの二人何でですかね」
「あんなに喧嘩が多いかですか」
「はい、そのことですけれど」
こう言うのだった。
「離婚寸前の夫婦ですか?」
「それがどうも」
「どうもっていいますと?」
「あれで幼馴染みで」
佐藤さんは大家さんから聞いた話を奥田さんに話した。
「ずっと仲良しで高校を卒業して」
「それでなんですか」
「はい、結婚されたそうなんですよ」
「信じられないですね」
「何でも昔から、子供の頃からああした感じで」
喧嘩もしていたというのだ。
「そうだったらしいです」
「成程、そうですか」
「そうらしいんです、まあそれでなんですけれど」
佐藤さんはさらに話した。
「お二人のことは本当に」
「困りますよね」
「全くです、どうしたものか」
本当に困った顔で話す、このアパートではこの篠原さん夫婦の毎日の喧嘩のことが悩みの種になっていた。
それでだ、佐藤さんはこの騒ぎがあまりにも続くので大家さんに相談した、勿論大家さんもこのことは知っている。
その大家さんに話した、場所は大家さんの自宅だ。大家さんはもう六十をとうに超えたお年寄りである。二人で大家さんの家の客室で話をしている、
大家さんは話を聴き終えてからだ、こう佐藤さんに言った。
「実は私も考えてたんですよ」
「篠原さん夫婦についてですか」
「はい、どうしたものかと」
こう言うのだった、お茶を飲みながら。
「あれだけ毎日喧嘩ばかりだと皆さんご迷惑ですよね」
「流石に真夜中は喧嘩しないですけれどね」
「それでもですね」
「朝早くとか普通にありますから」
だからだというのだ。
「皆どうにかして欲しいって思ってます」
「そうですよね、それじゃあ」
「それじゃあ?」
「せめて部屋を分けてはどうでしょうかね」
「お二人の部屋をそれぞれですか」
「はい、それぞれです」
こう佐藤さんに提案するのだった。
「別居といいますか」
「住んでいるところを分ければですか」
「少しはましになるんじゃないでしょうか」
これが大家さんの考えだった。
「そう思いますけれど」
「そうですね、確かに」
佐藤さんも大家さんのその考えに頷いて応えた。
「一緒に住んでいるから喧嘩になるんですよね」
「よくある話ですよね」
「ええ、本当に」
「それでなんです。前から考えていたんですけれど」
大家さんにしても頭を抱えていたのだ、篠原夫婦のことについては。
「毎朝毎日喧嘩をするのなら」
「いっそのことですね」
「そうした場合離婚もあるんですがね」
この選択肢も出しには出した、だがだった。
「けれどこれは私達が言うことじゃないですから」
「親戚の人とかがですよね」
「はい、そこまでいかないですから」
それでだというのだ。
「まあアパートに空き部屋がありますから」
「丁度いい具合に」
「はい、好都合です」
大家さんは佐藤さんに対してきっぱりと言った。
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