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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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反董卓の章
  第9話 「スラッシュ、キィーック!」

 
前書き
プロット時から決まっていた展開とはいえ、最近これでよかったのかな、としきりに悩んでいました。
ですが、もう覚悟を決めました。
チートじゃないけど、チートっぽいのは勘弁して下さい。 

 




  ―― 劉備 side 汜水関近郊 ――




「ね~ね~、ね~ってばぁ~」
「………………」
「もう~むっつりしちゃってぇ。そんな盾二もきらいじゃないんだけどぉ」
「………………」
「盾二って横顔が格好いいしぃ、その黒い服の下だって実は、かなり鍛えあげられているんでしょ? あ~ん、抱かれてみたぁい~!」
「…………っ!」
「ね~ね~盾二ぃ、今日ぐらいは私と一緒に閨で……」

 ぷちんっ!
 あ、またキレた。

「だあああああああああああああああああああああっ! いい加減になされよ、孫伯符どのぉ!」

 私の隣で馬に乗った愛紗ちゃんが、大声で叫んだ。

 はあ……また始まった。

「毎日、毎日、自分の軍を抜けだしては、ご主人様にべったりと…………この関雲長、もはや我慢ならん!」
「え~? べっつに、関羽ちゃんの了承なんか求めてないわよ? 私は盾二の傍にいたいだけだもの」
「~~~~っ! ご主人様! なんとかして下さい!」
「……できるならもうやっているって、愛紗。しょうがないだろ? 言っても聞かないし、公瑾殿にアレだけ毎日怒られても来るんだから……」

 そ~だね~……

 毎日毎日、先陣で行軍する私達の横にきては、ご主人様に求愛している。
 今もご主人様は馬に乗っていて、その前に腰掛けて顔をすりすりと擦り付けている。

 最初は、周瑜さんをその都度呼んだりしていたけど……周瑜さん自身、もう諦めてきているみたい。

『自軍にいても、退屈だ~、つまらん~と言うだけでな。スマンが行軍中だけでいいから相手してやってくれ』

 とのこと。
 もう疲れ果てた、という周瑜さんの顔色に、ご主人様が諦めたように深く溜息をついていた。

 私も最初はムッとしていたけど……もう慣れちゃったよ。
 だって、孫策さん……

「どの道、口だけは勇ましいことを言うが、実際に強硬手段には出るまいよ。それぐらいの分別はある……でしょう、孫伯符殿」
「あら。言ってくれるじゃないの、趙子龍ちゃん。私が、盾二に手が出せないヘタレだと?」
「いえいえ、そのようなことは微塵も思いませぬとも。ただ、我が主は身持ちが固い故、色仕掛け程度で落ちるとは思えませぬな」
「へえ~……つまり、貴方『程度』の色香では落ちなかったのね、盾二は」
「…………ほほう?」
「…………ふふん?」

 あああ……こっちもまた始まっちゃった。
 どうにも星ちゃんと孫策さんの相性は、かなり悪いみたい。
 毎日毎日、愛紗ちゃんの次ぐらいに睨み合っている。

 正直、私はこっちにもついていけない。

「星が梁州で散々手をつくしても、お兄ちゃんは(なび)かなかったのだ。鈴々も無理だと思うのだがなー?」

 !?
 鈴々ちゃんが…………鈴々ちゃんが!

 色恋沙汰を語っている!?

「桃香お姉ちゃん、ひどく失礼なこと考えてないかー? というかみんなも……」
「む、あいや……」
「あ、いや、こほん」
「ええと……」
「あ、あははー……」

 この場にいるのは、愛紗ちゃん、星ちゃん、私。そして孫策さんにご主人様。
 それぞれが目を逸らしている。

「鈴々……君だけが最後の砦だったのになぁ」
「お兄ちゃん、それはどういう意味なのだ?」

 鈴々ちゃんが愛用の馬――でなく、豚に乗った状態で、剣呑な目をご主人様に向けている。
 そっかー……あの鈴々ちゃんも、そんなこと言うようになったんだねぇ。

「というか、雪蓮もいい加減に自軍に帰れ。もうすぐ汜水関だぞ?」
「えー? 私もいちゃダメ?」
「ダメに決まっているだろ…………なんでいいと思うんだよ、孫策軍大将の孫伯符さんは」

 指揮官が自軍ほっぽり出して、別の軍に同行している時点でおかしいんだけどね……

「だってぇ……最初は出し抜いて、汜水関攻めに加わろうかと思ってたけど。でも、盾二のことだから……どうせ汜水関で、私達の活躍する隙なんてないんでしょ? 冥琳も前に出る気は全くないみたいだし……袁紹や袁術は、盾二たちが全滅でもしない限りは前に出てもこないわよ?」
「まあ、あの二人はそうだろうなあ」

 袁紹さんも、その従姉妹という袁術さんも……私達が巻き込もうとしない限りは、自ら援護しようなんて欠片も思っていないみたいだし。
 周瑜さんは『楽しみにしている』なんて言ってたから、きっと本当に手を出さない気がする。

「曹操のおチビちゃんも、よっぽどのことがなければ様子見でしょ? 公孫賛は最後尾だから、前に出たくても出られないだろうし……」
「まあ、白蓮の騎馬隊がいても、攻城戦には無力だしな。そもそも劉虞の名代だから、袁紹もおいそれと参加させないだろ」
「だからぁ……私も、た~た~か~い~た~い~っ! ねえ、盾二ぃ……三千ほど兵を貸してくれない?」
「ダメ」
「なんでよ、ケチぃ……」

 け、ケチって……

「義勇軍ならいざしらず、今はお互い別陣営なんだぜ? 俺が許しても、兵がどう思うか……そもそも袁術軍の配下が、劉備軍で戦っていいのか? 袁術にも袁紹にも睨まれるぞ?」
「ん~わかっているけどぉ……」
「……ほんとにバトルジャンキーだな。そんなに戦いたいの?」
「うん! 兵を貸してくれるの!?」
「ダメ」
「じゅんじぃ~~~」

 ……はあ。
 
「孫策さん……そろそろ汜水関も近いんだし、さすがに自分の軍に戻らないと。また周瑜さんが、怒鳴りこんできちゃわない?」
「ゔっ……ま、まだ大丈夫……よ、劉備ちゃん。大丈夫……よね?」
「私に聞かれても……」

 そんなキョロキョロしながら聞かれても、困る。
 移動の最中だから、隠れて近づくなんて、細作でもなければ無理だとは思う……けど。
 
 でもあの周瑜さんだしなぁ……

「あ、周瑜のお姉ちゃん」
「ギクゥッ! め、めめめめ冥琳、ごめんなさい! すぐ戻るから、耳は、耳は勘弁して!」
「……かと思ったら、星だったのだ」
「? 鈴々、なにか?」

 鈴々ちゃんが、ニヤニヤしながら孫策さんを見ている。
 星ちゃんは突然名前を呼ばれて、きょとんとしたままこちらへと馬を進めてきた。

 鈴々ちゃん……いたずらしちゃダメだよ。

「ちょ、張飛、ちゃんっ…………いい度胸、してるぢゃぁぁないのっ」
「……そんなに公瑾殿が怖いなら、さっさと戻れって」

 孫策さんは、鈴々ちゃんを睨みながらも、若干脂汗を流している。

 私もご主人様に同意。
 そこまでしてご主人様にへばりつかないでほしいなぁ……

「そろそろ汜水関だ。景升殿に伝令して最後の詰めを相談する。愛紗、伝令と案内を頼む」
「御意」

 そう言って、後方の劉表さんの元へと馬を走らせる愛紗ちゃん。
 それを見た孫策さんが、もじもじと身体を動かした。

「むぅ……なんで盾二は、劉表と一緒に行動するのよ」
「は? そりゃあ同盟相手だしな。桃香の後ろ盾だし…………なんだ、雪蓮。景升殿が苦手なのか?」
「………………」

 バツが悪気に黙りこむ孫策さん。
 ……そういえば。

「ご主人様。劉表さんも孫策さんに挨拶するの、渋ってたよ? お互いなにかあるんじゃ……」
「? そうなのか?」
「………………」

 私とご主人様の問いかけに、無言で黙りこむ孫策さん。
 私達が顔を見合わせていると、馬を飛ばしてこちらに向かってきた愛紗ちゃんとそれに追走する劉表さんが見えた。




  ―― 盾二 side ――




「む…………孫、伯符殿か」
「…………劉、表」

 最後の確認のために呼び出した劉表と、俺のすぐ前で馬にまたがった雪蓮が互いに睨み合う。
 ってか、なんで睨み合うんだ?

「……久しぶり、じゃな。元気そうでなりよりじゃて」
「………………」

 若干、苦笑しながら挨拶する劉表に、雪蓮はぷいっと顔を背けた。
 おいおい……

「しかし、何故玄徳嬢ちゃんの軍に?」
「あ~……えと。そ、孫策さんは義勇軍時代に一緒に戦ったんです」

 桃香の説明に、顔を顰める劉表。
 ……やっぱ、この二人は過去に何かあるのか?

「そうか……孫策殿も、先陣に?」
「いえ……そのつもりはないんですが。雪蓮、いい加減に中陣に戻れよ」
「…………そうする」

 呟きながら、ひらりと馬を降りた雪蓮。
 自軍のいる中陣へと、足早に戻っていった。

「ふう……景升殿、失礼致しました」
「いや……よい。そうか、孫策の嬢ちゃんとな…………人の縁というものは、なかなかに奇妙というべきか」
「……? 景升殿は、雪蓮と知り合いで?」
「…………まあの。それについてはいずれ、な」

 それ以上は今は言えぬ、と顔を顰める劉表。

 どうやら、あまり愉快な昔話というわけでもないようだ。

「……ともかく、まもなく汜水関です。最後に確認を」
「……うむ。では予定通りに、一日かけて防衛陣地を築くのじゃな?」
「はい。そのために三日かけて丸太を用意させたのですから」

 そう言って、後背にいる劉備軍を見る。
 兵たちはそれぞれ一抱えもある丸太を、一人一つずつ抱え持っていた。

「準備ができ次第、敵を釣り出します」
「そこじゃが……本当にうまくいくのか? 相手は関なのじゃぞ?」

 まあ、そう心配するなよ。
 関は問題じゃないんだって言ったろ?

「普通、有利な場所から打って出るなどありえぬのじゃが……」
「はい。まあ……関というものは、扉を閉じたまま上から落石や弓を撃つだけで、被害はだいぶ防げますしね。本来、こちらは壁にはしごを掛けて上に登るか、扉を強行突破するしか方法はないのですが……」
「うむ。どうやら衝車を用意しておるようだが……それでも関の扉を壊すのは難儀するじゃろうな」

 劉表のいう衝車というのは、中国の破城槌のこと。
 城門を打ち破る攻城兵器の一つだ。
 こちらも陽動部隊の進軍の時間を稼ぐ間に作成させた。

 車輪と屋根のついた台に、鐘をつく撞木のように槌を吊り下げた兵器。
 上方からの攻撃に対応するため、幅の広い屋根を作らせて、薄い鉄板を貼り付けた。
 これは火矢に対抗するためだ。

「まあ普通はそうでしょうね。ですが……俺がいますから」
「?」

 俺の言葉に、劉表は『?』マークで首をかしげる。
 まあ、それはおいといて……

「関の扉をこじ開けてしまえば、後は掃討戦になります。ですから出ざるを得なくなるでしょう。その時、こちらは一斉に後退して、防衛陣にまで引き込みます。景升殿は……」
「防衛陣にて応戦すればよいのじゃな?」
「はい。横槍は劉備軍におまかせを」
「ふむ……」

 劉表の兵力は一万五千。
 だが、練度はうちに比べるとそう高くはない。

 だからこその策でもある。

「……正直、儂には相手が打って出るとは思えぬ。だから首を傾げるしかないが……お主がそれをわかってないとも思えぬ。相手を必ずおびき出す方策があるのじゃと信じて、今は頷くとしよう」
「はい、ありがとうございます。必ず引き寄せましょう」

 後は……

「朱里、雛里」
「「 はい! 」」
「油の量は?」
「万全です!」
「『玉』は?」
「細心の注意で運ばせています!」
「よし……」

 準備は整った。
 さて……

「よし、ではいこうか」




  ―― 張遼 side ――




「伝令! 敵連合軍! 四里(二km)先に姿を見せました!」
「とうとう来たか……」

 思ったよりは遅かった。
 ウチらの予想では、もう五日ぐらい早くここに辿り着いてもおかしくはなかったんやが。

 どうやら連合内部もごたついておるようやな。

「やっときたか……ノロマどもめ」
「なに言うとんねん、華雄。遅いのはありがたいこっちゃ。その分兵を集めることが出来るんやし」

 五日ほど予想より遅かったお陰で、西の函谷関から兵を分けることが出来た。
 北と南の関にも連合が動いているとの情報も得ることが出来た。

 西を一万、南北に四万ずつ、そしてこの東の関には八万を揃えることができたんや。
 虎牢関に恋率いる三万を置き、汜水関にはウチが二万、華雄の三万を配置できたのが昨日やった。

 虎牢関では、今も防衛の増築と準備が進められとる。
 一日でもここで粘れば、それだけ本命の虎牢関が硬くなる。

 ウチと華雄の使命は、ここで時間を稼ぎつつ、諸侯の戦力を知ること。
 そして、相手を確認することやった。

「敵、二里前にて停止の模様!」
「諸侯の旗はわかるか!?」
「は……先陣の牙紋旗を確認! 劉の旗が二種!」
「劉の文字……劉虞か劉表か?」
「いえ、あれは……」

 物見していた兵が、うわずるように喉を鳴らす。

「あれは劉表と劉備です!」
「な、なんやて!?」

 劉備!?
 桃香が…………敵に回ったやと!?

「劉備……梁州牧、か。月が斡旋してやったというのに、敵に回るとは。とんだ恥知らずだな」
「言うてる場合か、華雄! 見張りぃ! ホンマに劉備か!? 間違いないんか!?」
「ま、間違いありません! 深緑に劉の文字! 劉玄徳の牙紋旗です!」
「桃香……なんでやねん」

 あの桃香が……愛紗が、鈴々が……そして。

「なんでやねん、盾二……」
「霞、何をそんなに落ち込んでいるのだ。奴らは裏切り者。斬って捨てればいいだけだ」
「華雄…………」

 ウチの横に立つ華雄が、自身の大斧を掲げてそう言った。
 けど、ウチにはそんな簡単に割り切れん。

 あの盾二が……敵に回るやなんて。

「やっぱり……戦わんと、あかんのか」
「いい加減諦めろ、霞。奴らは敵だ」
「っ! アホ抜かせ! 盾二が敵になるっちゅうんが、どれだけ恐ろしいか……あんたにわかるわけないやろ!」

 二万もの人数が篭もる黄巾の砦を、神算鬼謀で全くと言っていい程、被害なく攻め落とした。
 あの盾二が相手なんやで?

 一体、どんな奇策でこの汜水関を落とそうとしてくるか……
 ウチには検討もつかない。

「例えどれだけ恐ろしい相手であろうと、我々は勝たねばならん。月のためにもな」

 …………っ!
 そう、そうや……月のためには、()りたくない相手であろうとも、()らなきゃあかん。

 例えそれが……盾二であっても。

「それにしても……二里の距離で停止だと? 随分と距離もあるが……奴らは一体何をする気だ?」

 華雄が関の上から眺めるように陣を見やる。
 それに比べてウチは……未だに決心がつかず、ただ悩むしかなかった。




  ―― 唐周 side ――




「一体、何をしていますの、先陣は! 昨日から前方でチマチマと!」

 あのアホ袁紹が叫んでいる。
 全くうるせぇやつだ。

 前に出ないなら黙って見てればいいものを。

「先陣は何やら策があるのでは? 劉表のことですから、なんらかの罠でも仕掛けているのかもしれません」
「……まあ、劉表さんなら、そうかもしれませんわね。でも、罠だけじゃ、関は落とせませんわよ?」

 俺の言葉に、若干落ち着いた袁紹がそう言って不貞腐れている。
 まあ、このアホに同意はしたくないけど、俺もそう思う。

 関なんか、攻撃する以外に落とす方法なんてないのだから。

「そうですね……その間に調略に奔っているのかもしれません。内応の準備や合図を送っている可能性もあります」
「……あの劉表さんなら、やりかねませんわね。わたくしの知らない人脈も多そうですもの」

 どうやら袁紹は、本当に劉表を苦手に思っているらしいな。
 まあ、本来は何進の右腕と呼ばれていたのは劉表であって、アホの袁紹は自称に過ぎないようだしな。

 どうも馬元義といい、俺の上官はアホな奴が多いぜ。

 ま、だからこそ、俺の才覚が光るんだけどよ。

「あの汜水関は、虎牢関ほどではないとはいえ、かなり堅固に作られています。先陣が躊躇するのも、何らかの用意があるからなのでしょう」
「まったく……雄々しく、華麗にと命令したのに。こんな調子では命令違反で処罰するしかないかもしれませんわね!」

 よく言うよ、このアホ。
 その命令がめちゃくちゃだってのに気づいてもいねぇ。

 お前の命令は『雄々しく、勇ましく、華麗に進軍せよ』でしかなかっただろうが。
 また俺に意見も聞かず、諸侯に指示しやがって……全然懲りていねぇ。

 その指示はどうとでも読めるんだよ。
 雄々しくしていれば、勇ましくしていれば、本人が華麗だといえば何をしても構わない。

 元々が抽象的なんだ。
 どう捉えても構わないっていう命令なんだよ。
 それはつまり……好きにやれ、という意味でもある。

(とんでもねぇアホだぜ……なんでこんな奴が大勢力を維持できていやがるんだ。どう見ても親の七光りのおかげだろ)

 袁家といえば、漢ではそれなりに名が知れ渡る名家なのは確かだ。
 だが、現当主のこいつは、先祖が築いてきた財産を散財するぐらいしか、能がねぇ。
 なければ、領民から集めればいいとか思っていやがる。

 本当にアホとしか言えん。
 ま、腐れた漢王朝には似合いの諸侯ではあるけどな。

 いずれは俺が、このアホを操って乗っ取ってやるさ。
 そのためにも今は……

「本初様、まだ二日目です。あの関を落とすのは、先陣だけでは厳しいでしょう。ゆっくりお待ちになられておれば、よろしいかと。捨て駒なのですから、時間をかけても潰れてくれるでしょう」
「それもそうですわね……では、ゆっくりと待つとしましょうか。唐周さん、わたくしは天幕の中で休みますので、後の指示は任せますわ」
「御意。ゆっくりとお休み下さいませ」

 くくく……よしよし。
 これで今の俺は、袁紹の名代というわけだ。

 いい感じだぜ……このまま信用を重ねて、完全に右腕となってやる。
 そして徐々に兵や武官、文官共を取り込んでいけば……

 俺が袁家の領地をごっそり頂いてやる。

「伝令! 先陣に動きあり!」

 俺が内心でほくそ笑んでいる時に、前方で動きがあった。
 先陣から一人の男が、単独で馬を走らせている。
 向かうは汜水関。

 はて? 何を仕掛ける気だ?
 本当に内応でもさせる気なのだろうか?

 その男は馬を奔らせ、無人の荒野を進み、汜水関のすぐ手前で馬を降りる。
 汜水関側も、たった一人では何も出来まいと様子を見ているようだ。

 その男……黒ずくめの男の姿を見た俺は、不意に全身に痛みが走る。

「ぐっ!?」

 俺の全身には、古傷がある。
 ちょうど二年ほど前、砦から逃げ出した際に負った切り傷。
 それら数カ所が、急激に痛む。

「あれは……誰だ?」

 俺は、痛みに喘ぎながらも傍にいた伝令兵に尋ねる。
 伝令兵は、こちらの様子を訝しみながらも、答えた。

「は! あれはおそらくですが、劉備軍にいた北郷盾二と呼ばれる男かと!」
「ほん、ごう、じゅん、じ……?」
「は! なんでも天の御遣いと呼ばれる男だそうです」

 天の御遣い……聞いたことがある。
 あれは確か、黄巾にいた時に公孫賛の四客将と呼ばれた男だった。

 だが、それよりも俺の頭を、何かが叫んでいた。

 北郷盾二……ほんごう、じゅんじ。
 そして黒ずくめの姿……

 身体が痛い。
 古傷が痛む。
 これは……一体何だ。

「どうかしましたか? だいぶお顔が……」

 心配げな伝令兵を退かせて、俺は先陣へと走りだす。

 確かめねばならない。
 奴が……何者なのか。

 この痛みは……なんなのか。

 その時、その男の声が、汜水関全域に響き渡る。
 谷間の風に乗って聞こえた声は、覚えがある声だった。

「我は劉備玄徳に仕えし北郷盾二! 汜水関に篭もる将に勧告する!」




  ―― 張遼 side ――




 !?
 盾二……盾二の声がした。

 ウチは慌てて、関の大門の上へと走る。
 階段を登り、外壁の上に立つと、真下に一人の黒ずくめの男が立っとった。

 間違いない。
 天の御遣いと呼ばれた男、北郷盾二。

「我らは連合軍! 専横を重ねる董卓の風評を聞き、それを打倒するべく集まった! なれど、その真偽はたった一人の皇族の承認を得るのみである! そちらにも言い分はあろう! 今ここで、そちらの言い分を話したくば言うがよい!」

 その声、その風貌は紛れも無く北郷盾二、その人やった。
 そして今、盾二はこう言った。

 『董卓の風評は劉虞によって保証されている。お前たちはそれを覆すことが言えるのか』と。

 そう……袁紹の檄文に、劉虞が保証人となっておるのはウチらも知っとった。
 けど、ウチらはそれに否と言えへんかった。

 その理由は……

「聞けぃ! 連合の使者よ! 我は華雄! 董卓軍の雄にして、大斧なり! たった一人で我らが前に立つお前の気概は賞賛しよう! なれどその言は看過できん! 我らが何を言おうと、それを証明することなど、事ここに至っては無意味であろう! 今はその生命は見逃してやる故、自陣に帰り、軍勢をもってくるが良い!」

 華雄が叫ぶ。
 華雄の言う通りや。

 事、ここに至ってはもはや言葉は無用。
 ウチも……悩む時ではないんや。

「その通りや! 盾二ぃ!」
「なっ!? 霞!?」

 真下にいる盾二が、ウチの姿に驚いとる。
 まさか、ここにいるとは思ってへんかったようや。

 だがな……盾二、あんたは月に弓引いたんや。
 その覚悟、ないとは言わへんやろな!

「例えその醜聞が偽りだったとしても、もう戦いは始まっとる! あんさんならそれぐらいわかっておるやろ! 月に敵対した罪は重いで、覚悟しいや!」

 ウチは自分の言葉で、自分を叱咤する。
 そうや……覚悟するんや、盾二と戦うことを!

「そっか、霞もいたのか……なら、ぶっちゃけよう。霞ー! できるならすぐに逃げろ。汜水関はもう落とすぞ!」
「はあ!? 何言うてんねん! いくら盾二でも、ウチらナメ過ぎやろ! 確かにウチラに比べてそっちの兵力は多い! けど、この関に篭っている以上、そう簡単にここを抜けられると思うてるんか!」

 チラ、と見る先陣の数。
 ぱっと見でわかる数でも、三~四万はいる。

 せやけど、それは全軍ではない。
 その後ろには袁紹や諸侯の率いる大軍がおるはずや。

 現状、この汜水関にいるのはウチの二万に華雄の三万。
 せやけど、守りに徹するならかなりの時間が稼げるはずや。

「霞……俺がここにいるんだぜ? その理由わかっていっているのか?」
「あんさんがいるからなんや! 確かにあんさんの神算鬼謀は怖い! せやけど、たった一人で何が出来んねん!?」
「……あー。そういや……霞には俺の本来の力って、見せてなかったっけ?」
「は?」

 盾二の……本来の、力?

「そっかあ……じゃあ、一片だけ見せて戻るわ。で、四半刻(三十分)は待つから、撤退するか降伏してくれよ? 俺も霞を殺したくないからな」

 そう言って、門の前に歩みを進める盾二。
 上からでは、外壁の影に隠れて見えへんようになる。

 なんや?
 一人で開ける気か?
 関の扉は、大の男が数十人以上でようやく開く鉄の扉やで?
 衝車でもそう簡単には――

「ふむ。やっぱり青銅の上に鉄で補強した感じだな。長さは三十cmってところか……まあ、楽勝だな」

 な、なんやて!?

「フン!」

 なにかが膨れて弾けるような音。
 そして――数歩戻った盾二の姿が見える。

 その姿は――筋肉が膨れ上がったような、異様な姿やった。

「んじゃいくぜ! 御神苗先輩直伝!」

 盾二が駆け出して――外壁の影に姿が隠れる。
 と――

「スラッシュ、キィーック!」

 ドガゴッ!

 ひどく鈍い音が、周囲に響き渡る。
 いったい何が……

「ふむ。まあ手加減したしこんなもんか。んじゃ、俺戻るわ。霞、またな」

 そう言って、待たせていた馬の背に乗り、敵陣へと戻っていった。

「……なんだったんだ、あいつは」

 華雄が呟く。
 うちも同感だった。

 盾二……一体何を?

「か、華雄将軍! 張遼将軍! た、大変です!」
「なんだ!」
「も、門が!」

 !?

 ウチと華雄が、階段を降りて大門へと走る。
 そこで見たものは……

「なっ!? バカな!?」
「……………………」

 ウチらの眼の前に入ってきたもの。
 それは左右に開く鉄の門の片方。
 その門が、くの字に変形し、今にも壊れて落下しそうになっている姿やった。




  ―― 盾二 side ――




「ただいまっと。予定変更。霞がいたから四半刻待つ。衝車は……とりあえず下げておいていいや。それと作戦変更、馬を使う作戦(ほう)で。即席で二千は用意出来たな? 油の部隊は騎乗させろ。玉も、状況によっては馬でやらせるから準備させておけ」

 俺は陣に戻り次第、矢次早に指示する。
 そこに、朱里がおずおずと手を上げた。

「はあ……あの、盾二様? 最初に門を完全に破壊するのではなかったのですか? その方が、霞さんも諦めてくれるんじゃ……」
「ん~まあ、出来なくはないけどね。でも、なんかズルが過ぎる気がしてなぁ」
「は?」

 本来は舌鋒か罵倒で、激昂させた上で門を破壊、怒って門を開け放って飛び出してきたところで、こちらの軍が援護に来て乱戦に持ち込む。
 もしくは、さっきのタイミングでマグナ・エアバーストを一発ぶち込んで恐慌状態にして、全軍突撃でもよかった。

 でも、ゼロバーストは極力諸侯に見せたくないし、可能性としては霞がいるかどうかの懸念があった。
 できるなら霞を傷つけたくはない。

 だから適当な挑発で、誰が篭っているかを調べることにした。
 案の定居たわけだから、挨拶代わりに殴って……いや、蹴って、門を半壊させて帰ってきたわけだ。

 二里(一km)も離れていれば、何をしたかなんて詳細は見えないだろうという目算もあった。

「ま~押し込んでの衝車で無理矢理でもいいんだけどね。『アレ』もあるし。とはいえ、手間は掛けたくないし、今回みたいなのは敵が油断してないと使えないしな。まあ、ちょっとめんどくさかったということで」
「め、めんど…………まあ、兵の損失がなく、門に傷を与えたのはいいのですけど」

 朱里が渋々納得したように頷く。

 いやあ、ごめんね。
 実は劉表の爺さんのこととか、雪蓮のこととかでストレス溜まっていたので、その発散がしたかっただけ、なんて言えない。

「まあ、ここから真面目にいこうか」
「……不真面目だったんですね?」

 朱里がジト目で俺を見る。
 はっはっは……まあ、たまにはねぇ。

「門の片方はもう使いもんにならないから、さすがに諦めてくれるかな? 関落ちるのはもうわかっているだろうし。降伏……は、さすがにないから撤退かな? 上手く行けば無傷で汜水関を抜けられるかな」
「……また、策のほとんどが無駄になりますね」
「なあに。無駄になればなったでいいさ。戦ってやつは勝つまでの準備で勝敗が決まる。命のやりとりだけが戦ってわけじゃなし」
「はい。そのとおりだと思います」

 朱里が頷いて、愛紗たちへの伝令を飛ばす。
 この間にも、こちらの策は動いている。

 さて……開幕の、先制パンチならぬ先制キック。
 その効果はどうかなぁ?




  ―― other side ――




(間違いない、やつだ!)

 先陣の中で腕を組み、汜水関の様子を窺うその姿に、男は驚愕の目でそれを見た。
 ゆっくり、ゆっくりと先陣に背を向け、自軍である中陣へと戻っていく。

 その姿は、まるで地獄の幽鬼がさまよっているような印象すらあった。

「貴様が……天の御遣い、貴様が……北郷盾二」

 男はゆっくりと中陣へと戻り、その姿を見た袁紹の兵が声をかけた。

「あ、文官殿、おかえり……ひっ!?」

 その異様な雰囲気、その異様な風貌に、兵は皆怖気づいて後ずさる。
 その男――唐周は、笑みとともに呟いた。

「やっと見つけた……やっと見つけたぞ、郷循。いや、北郷盾二」

 ――必ず、殺してやる。
 そう呟く黒い殺意の塊は、ゆっくりと自身の主が眠る天幕へと入っていった。
 
 

 
後書き
そうなんですよ……最初の立志の3話目ぐらいでもいってますが、AMスーツ着用者は鉄の扉や壁ぐらい壊せちゃうんです。
厚さ数十センチぐらいなら、普通に……

原作がすでにチートレベルなので、あえてチートタグ外しているんですがね。
極力、その要素は書かないようにしてきました。ただの剣や矢を通さない服として。
でも……それだけじゃないんですよね。

100mぐらいなら落ちても生還できてしまう上、研究所の扉ぐらいなら簡単にぶち破るパワー。
絶縁体でもあり、同じオリハルコン製の弾丸でもないと傷もつかないAMスーツ。
それを断ち切る高周波振動ブレードは、鋼鉄の車をバターのように切断します。

クロスしちゃいけない作品だったかなぁと、ちょっと思ったこともありますが。
まあ、恋姫とXメ○やるよりは、まだマシかもしれません。 
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