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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第五三幕 「ISの可能性」

 
前書き
この前コメントでオリ設定について意見を書き込んでくれた人がいました。
ああいうコメントは参考になって助かります。何が助かるって自分の目が向いていなかった視点を教えてくれるのがありがたい。なので気付いた事があったら皆さん是非コメントください。
・・・ボソッ(ついでに点も入れてくれると作者の励みになるかも) 

 
前回のあらすじ:人間は成長する生き物だッ!!

ベルーナが新たな一歩を踏み出したその頃、ピットでは3人の少女と一人の少年がスポーツドリンクで一服しながら会話していた。

「ラウラさんさぁ・・・さっきの試合手を抜いてたよね?」
「そこまでバレるとは・・・つくづく有能だな。皆から尊敬されるのも頷ける」
「そんなに尊敬されてないし話逸らさないでよ・・・」

佐藤さんの考えていたもう一つの可能性・・・ラウラが高度な訓練を受けていたであろうにも拘らず手ごたえが無かった理由。それは単純に全力を出していないという可能性だ。最初は生真面目な軍人であるラウラが・・・とも考えたが、良く考えればクラースとの出会いによって“原作”のラウラと今のラウラは随分違う性格を形成している。何せ戦闘中に「真面目に不真面目」等というどっかで聞いた事のあるセリフを吐くぐらいだ。何らかの思惑があって・・・というか実力を明かさないために手を抜いている可能性もある。

「理由は聞かないけどさ。どうせ自分の手の内をあまり明かしたくなかったとか同級生の戦力分析に精を出したとか、2対1なら代表候補生でも不自然なく敗北できるとか周囲を誤認させるための意図があったんでしょ?」
「全く、こっちは必死で戦ったってのに・・・箒もこの話は知ってたのか?」
「いや。ただ、事前に“そちらが先に撃墜されたら後は好きにやらせてもらう”という旨は伝えられていた。本人なりに考えあっての事だろうと考え口は出さなかったが、なるほどそういう意図があったのか」

きりっとした顔でしきりに頷く箒。どうもラウラを攻める気はないようだ。言ってはあれだがちょっとアホの子っぽい。まぁ箒は手を抜いていなかったのだからと一夏は自分を無理やり納得させる。

「もしふざけた考えでそういうこと言われてたらどうするつもりだったの?」
「いい加減かどうか位は(まなこ)を見れば分かるから問題ない」
「そういうもの?」
「そういうものだ」

そういう感情論はあまり好きではない佐藤さんだが、箒の自信に満ちた顔に渋々納得した。
メンテナンスを受ける4人のIS達を横目に見る。どのISも大したダメージはないため簡単なチェックと駆動系などの確認が終わり次第は自己修復機能に任せることとなる。一番ダメージを受けているのは言うまでもなくシュヴァルツェア・レーゲンだが、意外なことに佐藤さんのラファールもスラスターの消耗が予想以上に激しいらしい。ビームを避けるために少し無理をさせたせいだろう。

・・・先ほどの戦い、華麗なフィニッシュを決めた佐藤さんに会場の皆が惜しみない声援を送り、彼女は人生で初めて生のスタンディングオベーションというのを見ることになった。前にも話したがあの試合は世界中から本物のお偉いさんがたくさん来ているのだ。そんな前で少々派手に立ち回りすぎたかな、と佐藤さんは自分の立ち振る舞いに軽く後悔していた。そもそも彼女は一度やると決まったらなかなか手を抜けない性分なのだ。今回の徹底した情報収集や一夏に仕込ませた小細工を見ればそれも納得できるだろう。

そろそろ本当にどこかの企業のテストパイロットになるべきか、と見る人から見れば非常に贅沢な悩みを抱えた佐藤さんの気を知らない周囲はピットにある大型モニターにその目線を向けていた。

「それよりも始まるぞ。良く見ておけ、一夏」
「おうよ、ユウの新技とやら、この目で確かめさせてもらおうじゃないか!」
「まぁ相手は二人とも大した腕ではないから新技とやらを出す機会もないだろうがな」
「おぉう、辛辣だねラウラちゃん」
「ISをファッション感覚でやっている小娘に負けるようではあの二人の器量が知れるというものだ」

・・・やはり軍人として潜在的にそういう意識は持っているのか、と心にメモを書きつつ、佐藤さんもモニターを見つめる。







「・・・・・・」
「鈴」
「分かってる。試合に持ち込むほどの事じゃないから大丈夫」
「ならいいさ」

先ほど一夏の試合が行われている途中、突然鈴が難しい顔をして黙り込んだ。本人曰く嫌な予感がしたが、すぐになくなったのだという。いったい彼女が何を感じ取っていたのかは分からないが、本人が試合に持ち込まないと言ったからにはそうなのだろう。そういう風に信じられる程度にユウと鈴の付き合いは長い。

「ねぇ、ユウ」
「何だい、鈴?」
「やっぱり簪、なんかおかしかったよね」
「ああ、それは疑いようがないね」

試合開始直前となり、カタパルトへ向かいながらも会話は続く。互いに顔も合わせないが、互いにしっかり言葉に耳を傾けている。ただ体が臨戦態勢に入っているから顔を合わせるという動作を必要ないと感じているのだ。

「心ここに非ず・・・いや、違うな」
「うん。簪の中に誰か違う人の思惑が入り込んで、勝手に体を動かしてるみたいだった」

2人はシャルが簪に行なったきわめて非現実的な洗脳については知らない。だが二人の勘が、簪がおかしい事を確信していた。
アリーナに向かう途中偶然すれ違った簪はこちらに挨拶し、互いに頑張ろうと言ってそのまま去っていった。その態度も言葉も不自然ではないはずなのに、そこから抑えがたい違和感が噴出していた。細かく指摘すればおかしい所はある。この3日間碌に連絡もしなかったことや“新技”についてなど。だが二人が感じた違和感はそういうロジカルな思想から導き出されたものではない、もっと根本的な・・・人物と人格の齟齬だった。

「だからさ、アタシ達はこんな所でうかうかしてらんない。10秒でケリをつけるわよ!」
「一刻も早く簪ちゃんの目を覚まし、ついでにシャルさんを倒すために、だね!」

2人は同時に肩らると空アリーナ内に飛び、静かに試合開始時間を待った。







試合開始間近、既にISの装着を済ませた二人の女生徒の一人、谷本癒子(たにもとゆこ)は自身の相方に苦笑するしかなかった。

「ぜーったいにあいつには負けないんだからー!!」
「あ、あははは・・・」

鈴を睨みつけながらめらめらと対抗心を燃やし歯ぎしりをする少女。名前を(ワン)春々(チュンチュン)という。クラスメイトからはあだ名で「はるる」と呼ばれている彼女が対抗意識を燃やすのが、中国代表候補生の凰鈴音である。
別に鈴にひどい仕打ちを受けたわけではない。ただ、彼女も代表候補生を狙う人間の一人であり、その座を惜しい所で鈴に掠め取られた一人だというだけだ。だが思春期で自尊心も人並み以上に大きい彼女は未だに鈴に代表候補生の座を取られたことを根に持っているようで・・・ぶっちゃけた話が逆恨みである。

(相手はユウ君に鈴さん、両方専用機持ちとは私もついてないなぁ・・・)

何をどう考え直しても勝てる要素が見当たらない組み合わせに思わずため息が出る。鈴の方は良く知らないがユウの強さはクラス中のみんなが知っている。クラス代表決定戦の戦いは筆舌に尽くしがたいほど荒々しいものだった。あの拳を避けられるかと言われれば《いいえ》以外の答えが出てこないのが素直な感想だ。
そんな訳で癒子は鈴を全力で睥睨(へいげい)する春々ほどのやる気を出せずにいた。


―――だからといってあれは無かった、と彼女は後に後悔することになる。


《3・・・2・・・1・・・試合開始!!》

(ゴウ)ッ!!

「「へ?」」

アナウンスと同時に動こうとした癒子と春々は、その光景に間抜けな声を上げた。

先ほどまで十数メートル先にいたユウの風花が既に目の前にいたからだ。

「貰ったぁ!!」

「え!?きゃぁぁぁぁぁぁ!!?」
「何よそ・・・れぇぇぇぇぇぇぇ!?」

噴射加速。バーナーを吹かしたその瞬間から最高加速が始まる規格外の超加速機能。瞬間速度も平均速度も瞬時加速を上回るその加速を初見で見切ることなど、平和な日本のそれなりに普通な家庭で育った癒子には無理な話だった。そしてそれは春々も同じだったらしく、2人は加速中の風花に体を掴まれ、その爆発的な加速の勢いのまま後方に投げ出された。

普通のISなら瞬時加速中に相手を掴み取るなどありえない。
いくらISが人を模しているとはいえ、そのマニュピレータは人間の掌ほどの鋭敏さと柔軟さを得てはいない。まして瞬時加速よりさらに加速した状態でバランスを崩さず正確に2機のISを掴むなど、曲芸を通り越して不可能に近かった。
しかし、あいにく風花のマニュピレータは異常と言っていいほど“掌”の構造や素材が違っていた。その柔軟性と繊細な人体模倣度、そして操縦者自身にそれを扱える技量があれば、それは不可能から曲芸レベルに落とすことが出来る。人間の手と言うのはどんな精密センサーよりも敏感な感覚機能を有しているが故、“そこ”に拘った風花の掌はその動きを可能とした。そしてユウは成功を引き当てるそれが出来た。ただ、それだけのことだ。


そして同じ方向に投げ飛ばされ空中で衝突したままきりもみになった二人は、目を回しながらもなんとか立ち上がり―――

「「えっ?」」

またしても二人同時に間抜けな声を上げ、そしてそのまま正面から飛来した閃光に呑み込まれた。少し遅れて、大気を揺るがす轟音が耳を襲うが、もはやその頃には二人の意識は飛ぶ寸前であった。

2人は知る由もなかったが、その閃光は甲龍の衝撃砲による空間圧縮レンズと風花の粒子砲“鳴動”のフルチャージを重ね合わせた合体攻撃。簪のデータをもとに二人が作り上げたコンビネーションの一つ、『龍鳴鼓咆(りゅうめいこほう)』。レンズによる粒子砲の収束率と龍咆の衝撃の指向方向を再計算し直したことにより、その威力は高々2機の訓練機のシールドエネルギーを削りきるには十分な威力を発揮し、一撃のもとに敵を打ち払った。

意識の擦れ行く二人が最後に見たのは、既に勝負は終わったと言わんばかりに背を向ける対戦相手の背中だった。その背中はまるで「この勝利は当然の結果だ」というように、話をすることさえ時間の無駄だというかのようで。早すぎる。呆気なさすぎる。もっと何か出来なかったのか。本当にこのまま終わってしまうのか。

(ああ、なんだろうこれ。何だか・・・すっごく悔しいよ・・・!!)

この日、谷本癒子はISに乗って初めて本気の“悔しさ”を思い知った。



《・・・た、谷本・万ペア、戦闘続行不可能!よってこの試合、残間・凰ペアの勝利!!》


会場がざわめく。余りにも早すぎる決着、試合の勝敗は分かり切っていたが、誰がこれほどに圧倒的な差を見せつけると予測しただろうか。あまりの内容にアナウンスの声も若干上擦っていた。

やがて、会場の人々はようやく何が起きたのかを理解し、ざわめきは驚愕と熱狂へと変わる。


《《ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!》》


「10秒いらなかったね」
「それだけアタシ達が絶好調ってことよ」

かつん、とISの拳同士をぶつけ合わせた二人の背中には、次の試合が始まるまでいつまでも声援が鳴り止まなかった。試合時間、5秒92。―――この日、IS同士によるタッグマッチの試合決着時間最短記録が塗り替えられた。

また、この日より第三世代兵器の全く違った方面からの活用方法を研究する機関が急増することになる。その理由は言うまでもない、2人と・・・そしてこの場にはいない簪によってもたらされた“IS同士による合体攻撃”というとんでもない概念が、とうとう世界の目の前で日の目を見たからだ。


2試合連続で観客の、ひいては世界の目を釘付けにしたツーマンセルトーナメントは、まだ始まったばかりである。
 
 

 
後書き
またモブキャラ追加。
最近書いていてよく思うんですが、ISの世界にだって色んなこと考えてそれなりの決断や思いを抱いている人は沢山いると思うんです。そう考えると、どうしてもそれを垣間見せるためにオリキャラを出したくなります。物語のスポットライトを主役達を照らすためだけに使っちゃ勿体無いですよね? 
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