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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  番外編 「それはきっと簡単なコト」

 
前書き
総合評価1000点突破+お気に入り登録数100突破記念。
時系列は本編より少し先かな?

あの少女は、今。 

 
 
また一発弾丸がISの表面装甲を掠り、衝撃が体を揺るがす。衝撃と痛みに対する恐怖から咄嗟に身をすくめようとする脆弱な精神を必死に抑え込み、隙を見せずに応戦。アサルトライフルがトリガーに合わせて合金弾を吐きだし、対戦相手の打鉄へと殺到する。フルオートで撃つことはしない。無駄弾は敗北に繋がるからこそ、ここぞというとき以外は出来るだけ弾の消費を抑えなければいけない。

反撃を紙一重で躱した対戦相手はなおもしつこく食い下がってくる。状況は刻一刻と悪化し、しかしこちらの予想通りという意味では好転しているとも言える。追われる側である私とタッグ仲間のティナ・ハミルトンの打鉄は2機とも相応のダメージを負っている。単純なエネルギー状況だけ見ればこちらが不利。
が、それでいい。自分たちが優勢であると勘違いした相手はスパートをかけようと弾薬とブーストの消費エネルギーを増大させ、それでも仕留めきれない事に苛立って操縦に繊細さを欠き始める。事実、操縦者の集中力と体力はこちらに分がある。

自分の作戦に付き合ってくれているティナに内心感謝しつつ、伍和(いつわ) 祭典(まつり)はずっと機を伺っていた。相手はこのトーナメントを決勝まで勝ち抜いた相手。されど自分と五十歩百歩の技量しか持たない相手。勝てる確信はなくとも勝算はあるのだ、ならば最後は―――根性比べだ!

「くっ・・・もうちょいなのに!」
「右から回り込んで!私は左から・・・」
「うっさい!やっぱりさっき様子を見ずに一気に決めてりゃ良かったのよ!」
「なっ!貴方が私にオペレート任せたんでしょ!?今更私のせいにする気なの!?」

次第に相手の消耗がピークに近づいてきたのか口論が始まる。そしてその口論の間の一瞬の隙、マガジン入れ替えの瞬間が訪れた。今までは二人で連携することで給弾の隙を潰していたが、忍耐力で祭典とティナに負けた二人はとうとうその連携を乱した。

今こそ好機。この瞬間を見逃しての勝利など無い。

「・・・今ッ!ブレードセット、180°旋回(ワンエイティ)!!」
「待ちくたびれたよっ!!」

試合が始まって20分。ずっとずっと、この隙を待っていた。―――ブレードを叩き込む隙を。

「え!?しまっ―――」

「スラッシュ!!」
「ツインブレードぉ!だよっ!」

より距離の速かった祭典(まつり)が一閃。続いてティナが二閃。手に持ったライフルごと相手のラファール・リヴァイブを切り裂いた。相対速度によって瞬時加速級の速度で斬られたに等しい衝撃を受けたラファールは無様にアリーナを転がった。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「そんな・・・嘘っ!!」

咄嗟に減速して僚機を助けようと打鉄を反転させるが、連携を崩していたせいで立て直しと反転にもたついた対戦相手の片割れ。自分が相手を追い詰めているという慢心が作り出した隙を、2人は決して見逃さなかった。

初心者はIS戦闘において射撃武器を使いたがる。理由は言わずもがな剣より銃の方が熟練度を上げやすく、敵に接近せずに低いリスクで攻撃できるからだ。しかし、剣にも大きな利点があった。実弾のライフルは打鉄の装甲に弾かれたり、当たってもそれほどの致命傷にはなりにくい。なぜなら実弾は速度こそあれ一発一発の質量は大したことが無いので、弾丸一発辺りで削れるエネルギー量はそれほど多くないからだ。
対する剣は当てる事こそ難しいが、一撃でも直撃させられれば、その刃による摩擦が生み出す殺傷力を打ち消すためにより強力な絶対防御を張らなければならなくなる。

だから、初心者同士での戦いは接近戦をどの程度こなせるかで逆転できるかが大きく左右される。ISの操縦才能が無いなりに、祭典が参考書類をひっくり返して考えに考え抜いた一手であった。

そして、残念ながらラファールに乗った彼女はもう一つミスを犯した。

「この、ただではやられないわよ!」

地表を転がりながらもなんとか武器を展開しようとする対戦相手。展開されるライフルが量子状態から固定化される―――その直前に、ティナの近接ブレードがラファールの手を弾き飛ばした。

「あ―――」
「終わりだよ・・・」

ライフルの銃身下部に装着されていた単発式グレネードが呆然とする対戦相手を爆炎で飲み込んだ。残存シールドエネルギー0、リタイアだ。

彼女の犯したもう一つのミスは拡張領域の広さと使いやすさにつられてラファール・リヴァイブという機体を選んでしまったことだろう。そも、この速さが求められるタイミングなのに、展開速度も速くないクセして大型のアサルトライフルを展開しようとすることがおかしい。より展開速度を短縮できるハンドガンを選べば1、2撃位は当てられたかもしれないのに。豊富な武装に目を曇らせ、武器選択と言う重要なピースを欠落させたのだ。

武装や弾薬を多く積める事と、それを自分が使いこなせるかは別の話だ。さらに言えば装甲の堅牢さなら打鉄が大幅に上回っている。ラファール・リヴァイブは本当は中級者向けのISであることに気付けなかったのが、彼女の最大の判断ミスだったろう。

「あと、あともう少しで優勝だったのに・・・!?やっぱりあんな子と組まなきゃこんな事には―――」

「そう言ってるから勝てないの、分かんないかな」
「こんなこと言いたくないけど・・・今のあなたとっても見苦しいよ?」

そして互いの技量が拮抗しているならば、数が多い方が勝利するのが戦いの定石。残された相手にそれを覆す札は、残念ながら手元に存在しなかった。



≪試合終了!勝者、伍和、ハミルトンペア!!≫



アリーナ内部放送を通して会場中に響き渡るジャッジと声援。惜しみない祝福を送ってくる2組の同級生たち。その中心に佇む祭典は、未だに自分が勝利したことを実感できずにいた。既にISを解除したティナがこちらに駆け寄ってくるのを呆然と見つめる。

「やったね祭典ちゃん!一時はどうなることかと思ったけど・・・こんなにぴったり作戦がハマるなんてすごいなー祭典ちゃんは!」
「・・・私達、勝ったの?」

勝ったのだろうか?確信が持てない。実はさっきの放送は別のアリーナの誰かの勝利報告が聞こえただけで、自分はエネルギー切れで負けなんじゃないだろうか?管制塔の誤審で間違いが起きたかもしれないし、何故か視界が歪んで中央モニターに表示される名前が自分のものかどうかも確信が持てなくなってきた。実は自分は居眠りをしているだけで、瞬きすればいつもの冴えない私に戻っているのではないか?ぐるぐるとネガティブな疑惑が頭の中を回り続ける。

「何言ってるの祭典ちゃん?勝ってないなら何でみんな声援贈ってんのさ?」
「じゃあ、私達・・・」
「勝ったよ!Cブロック優勝!表彰されたらお菓子貰えるかなぁ~?」

その言葉をたっぷり反芻し、咀嚼し、漸く現状がすとんと胸に落ちてくる。そうか、皆は私とティナに祝福を送っているのか。伍和祭典は勝ち残ったんだ。

一度はIS学園で学ぶことを諦めかけた身だった。母校の皆の期待を全て裏切って逃げようとした。
泣き言も言った。言い訳もたくさんした。妥協の道にも逃げた。情けなく涙も流した。
天使さんの言葉が無ければ、もう折れて腐ってたかもしれない。
嫉妬で佐藤さんなんかを恨みながら、延々と後悔の日々を送っていたかもしれない。

でも―――


皆、見てる?お父さん、お母さん、校長先生、学校に居た皆、私の事見てる?

私、諦めてないよ。まだまだ諦めないし、可能性も全然捨てる気はないよ。

私の夢は続いてるから。絶対に終わらせたりなんかしないから。


「勝った・・・勝った!やったぁぁぁーーーーー!!!」
「ひゃあ!?」

私は叫ぶように歓喜の声をあげた。ティナさんがそれに驚いている事も、この光景が大勢の衆人に目撃されていることも憚らず、目のうちにいつの間にか溜まっていた涙を流して両手(もろて)を空に振り上げた。

信じる者は救われる。その言葉が本当に正しいかなんて誰にも分かりっこない。
でも、きっと。信じることによって生まれるものは、確かにあるんだろう。



 = = =



「もう、びっくりしたよ?試合とか控室では「勝って当然!」みたいな顔してたのに・・・」
「ご、ごめん。実は全然自信なかったんだ」

控室に戻ってから無性に自分の行いが恥ずかしくなってきた祭典は、「そんなこと思われてたの!?」と内心驚きながらもティナと一緒にお菓子を食べていた。表彰までまだ時間があるし、どうも強者揃いのAブロックが激戦区と化して予定超過しているそうだ。

「でも意外だったなぁ」
「・・・なにが?」
「祭典ちゃんっていつも何って言うか、真面目で勉強できます!っていうオーラ出してるもん。普通に喜んだり笑ってるところ初めて見たよ?」
「それは、その・・・授業についていくのが大変で、心に余裕が無かったから・・・」

つまるところ、勘違いと勘違いのラリーだったようだ。
元々外見にあまり気を遣っていない祭典は周囲から見れば勉強ばかりでおふざけなしの優等生タイプに映っていたらしく、その祭典が奨める作戦だからてっきり絶対の勝算があるんだろうと勘違いしたティナは必死にこちらの指示を守った、という事だったようだ。結果オーライである。

「もっと簡単に考えればいいんじゃないの?授業に全部ついていけてる子なんてあんまりいないよ~?」
「えっ・・・そうなの!?」
「知らなかったの!?」

・・・どうにも人付き合いが薄すぎたせいか、祭典の感覚は一般生徒の感覚と大幅にずれていたようだ。完全に空回りして勝手に学校を辞めようとしていた事実に、恥ずかしさで頬が真赤に紅潮する。これからはもっと積極的に人に話しかけようと固く誓った祭典であった。これぞまさに「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」というやつか。

「・・・もう少し、肩の力抜いたほうがいいかなぁ?」
「私たちまだ若いんだし、もっと自分に正直に生きようよ。ほら、目の前に自分に正直で可愛い友達がいるよ?」
「・・・友達・・・うん、そうだね。そんな簡単なコトも忘れてたんだ・・・学園に入るまでだって一人じゃなかったのに、本当・・・気付いてみれば私ってばドジだなぁ」
「あれ、可愛いの所スルー?」


この日を境に、彼女の生活は少しづつ”色”に溢れてゆくこととなる。それが、伍和祭典という少女の本当の学園生活の始まりだったのかもしれない。

・・・彼女が「天使」の正体を知る日は、遠くない。
 
 
 

 
後書き
祭典ちゃんの出番。海戦型が奇策を用いずとも戦闘が書けることをここに証明したかった・・・

祭典というキャラはメインキャストには決してなれない人間です。でも、メインキャラじゃないからって地味で不幸な人生を送っているかというとそれは違うと思います。というわけで特定のキャラにばかりスポットを当てずにモブに視点を当ててみました。 
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