| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

拠点フェイズ 3
  拠点フェイズ 馬正

 
前書き
前回の桃色話、あんまり反響ない様子。
やっぱり、濡れ場は反応薄いなぁ……この物語、シリアス多めだからかもしれないけど。
実はヒロインはすでに決まっています。ハーレムにはならない予定。何人かは言いませんけど。
ちなみに……一刀もねぇ(ニヤリ) 

 



  ―― 簡雍 side 漢中 ――




 母さん、大事件です。
 梁州は、未曾有の危機になりました。

 正直いって、僕が働き出してからこんな大事件が起きたことはありません。
 でも、もうどうしていいかわからないぐらい、大変な事件です。

 他の文官の人達は、それぞれ慌てふためいていて、どうしていいかと僕に聞いてきます。
 そんなこと、若輩の僕に決めろというのでしょうか?
 無理です、無理!

 僕は、ただの雑用整理の文官見習いなんですよ?
 それなのに……

『君が一番、宰相様と親しいのだから、なんとかしてくれ』

 とか、年配の文官さんにまで言われる始末。
 そういうのは年の功でなんとかできないんですか!?

『あの馬仁義殿すら投げたのだ。私達でどうこうできるわけがない』

 職務放棄って言いませんか、それ!?
 これだから与えられた仕事しかできない事務方は……

 って、僕も事務方でしたね。
 なんとなく宰相のお二方のご苦労が、ようやくわかった気がしました。

 それにしても……本当にどうしましょう。
 僕は……僕は、お二方のこんな姿、今まで見たこと無いんですよ?

 こんなにも……緩みきったお姿は!

「えへへ……うへへ……んー……うふっ。ひへへへへ……」
「ぽー………………………………ちゅ、って…………………………(にへら)」

 ああああああああ……
 どうしたんですか、どうしたんですか、どうしたんですか!

 なんでこんな顔を真っ赤にさせて、天井を見ながら顔をにやけさせて、唇に触れながら頬を緩ませて、あまつさえ薄ら笑いで周囲を恐怖させるんですか!?

 怖いです、すごく怖いです!
 普段が普段なだけに不気味すぎます!
 一体、何が起きたんですか!?

 そもそもの発端は、朝になっても執務室にいらっしゃらないために、文官総出でお探ししたところ、宴の広間で直立不動で気を失いかけていた馬仁義様を見つけたところから始まった。
 お起こしすると『入ってはならん! ならんが……く、口の堅い女官を数人呼んで参れ! いいか、すぐにだ!』とのこと。

 あまりの剣幕ぶりに、すぐに対応したのですが……
 女官を呼んできても、宴の間に入れるのは女官だけ。
 しかも最初に入った女官は悲鳴あげていたし……いったい何が?

『知らぬほうがよい……というか私も知りたくはない。いいな、このことは他言無用! もし外部に漏れたら警官隊率いてひっ捕らえにゆくからそう思え!』

 言葉はきついのに、ものすごーく情けない顔で威圧されました。
 本当に一体何なのでしょうか。

 そして一刻(二時間)後に、ようやく執務室にお二人が来てみれば……ごらんのありさまです。

 昨日は御遣い様の慰労を行うと言って急遽、様々な懸案を持ち越してまでお休みなされたのに……
 どうしよう。
 このままじゃ、執務室に積まれた山ほどある竹簡が、山崩れを起こしかねない。

 やっぱり、僕がやるしか無いのか……

「あ、あの……宰相様?」
「うひひ……」
「ぽー……」

 無理でした。
 いや、ここで諦めちゃダメだろう、僕!

「さ、宰相様っ! 仕事が溜まっているんです! お仕事してください! 宰相様!」
「へっ? ああ、そうだね、お仕事ね……お仕事……お仕事して、また盾二様に……………………………………えへへ」
「ぽー………………………………………………(にへら)」
「宰相様ぁっ!」

 ……母さん、やっぱりダメでした。
 本当に、梁州が止まりました。
 どうするんですか、この状況!

 だれか、誰か助けてください!




  ―― 盾二 side ――




 むっ……ん……
 ぐあっ……いたたた……

 激しい頭痛で目が覚める。
 痛む頭を抑えながら起き上がると……ここは、俺の部屋だった。

「…………………………あれ?」

 なんで俺、寝ていたんだろう。
 というか、ものすごく頭が痛い。

 えーと……昨日は確か、昼間に服屋で桃香たちの水着姿を見て……
 あたたたた……

 この頭痛と、ひどい匂いは何だ?
 …………………………あ、酒臭い。

 俺か……っておい。

「…………………………ああ、思い出した。昨日の馬鹿騒ぎで酒飲んで……また記憶が飛んだのか」

 あつつ……
 思い出そうとすると、強烈に痛む頭。

 うう……白帝城じゃ、華佗がいたからすぐ治ったんだがなぁ。

「うう……水……水が飲みたい」

 何故か喉がヒリヒリする。
 唾液が乾いて口内が気持ち悪い。

 とりあえず、厨房の井戸までいくか……
 足取りも重く、部屋を出る。

 体調は最悪。
 今なら子供にすら負けるな、きっと。

「なっさけねぇ……酒は飲んでも飲まれるな、とはよくいったもんだ。あーうー……」

 頭痛でふらつきながら、ようやく厨房へと顔を出す。
 そこには――

「あ、愛紗」
「っ!?」

 俺が青い顔でつぶやくと、椅子から飛び上がらんばかりに驚く愛紗がいた。
 ?
 なんでそんなに驚くんだ?

「んぐ! ご、ごごごごごごごごごごごごごごごごごおごごおごごごごごごごごごごごごごごごごごご……」
「ゴゴゴ?」

 なに?
 なんか怒ってる?

 顔を真っ赤に……っていうか、耳まで真っ赤にさせて、慌てふためく愛紗。
 なにかあったのか?

「ご、ごひゅ、ごひゅじんさまっ! おおおおおおおはよう、ございますっ!」
「………………おはようさん。 ああ、ご飯食べていたのか。邪魔してごめんな」

 見れば食卓の上には、炒飯が……
 炒飯?

 ………………なんか、変な記憶が蘇りそうになったんだけど、頭痛で思い出せない。

「悪い……できたら水もらえないか? 喉がカラカラで……」
「み、みみみ水ですな!? 水ですね!? 少々お待ちを!」

 慌てて立ち上がって井戸に向かう愛紗。
 いや……その。

 愛紗の前にある、急須のお茶でもいいんだけど。

 まあ、せっかく持ってきてくれるっていうし、待たせてもらうか……

「おや、御遣い様。食事ですか?」

 厨房から出てきたのは、この漢中内城の料理長。
 人のいいおじさんだが、料理が超絶にうまい。

「ん? ああ……食欲はないけど、朝だしなにか食べたほうがいいかな?」
「朝? なに言ってるんですか、御遣い様。今はもう昼ですよ?」
「へ?」

 言われて気がつく。
 外を見れば太陽が天中央に燦々と輝いている。

 う……まぶしい、てか目がいてぇ。

「随分、お休みになられていたようですな……深酒は、ほどほどになさったほうがよろしいですよ?」
「……わかる?」
「そりゃ誰でも。すごい匂いですよ? その様子ですと、あまりお酒は体質に合われないようですな」
「おっしゃるとおり……実は、昨日の記憶もあいまいでな。全然憶えてないんだ」
「ああ、そりゃお酒はやめたほうがよろしい。無理に飲んでも体を壊すだけですぞ」
「だよな……なんで俺、酒のんだんだろう?」

 がしゃん!

 唐突に物が壊れる音。
 おっちゃんと二人で、そちらを見ると……

 お盆をひっくり返して、陶器の湯のみを壊した愛紗が呆然とそこに立っていた。

「おいおい……愛紗、大丈夫か? なにかにつまずい……」
「ごごごごごごご、ご主人様! 今、いま、なんとおっしゃいましたかっ!?」
「……うひぇ?」

 振り向きざまに、詰め寄ってきた愛紗に、変な声が出る。
 見れば顔を真っ赤にしているのは先ほど同様なのだが……今度のは、目が据わっている。
 そして睨まれている……ような気がする。

「あ、愛紗さん? な、なにが……」
「昨日のこと! まったく! 憶えていらっしゃらないのですかっ!?」
「…………………………なにかあった?」

 俺の言葉に、愕然となった愛紗が、その場に崩れ落ちる。

 えっ……?
 き、昨日、なにかあったっけ?
 え、ええと……昼間、服屋で愛紗の水着見て、夜に晩餐会とか呼ばれて、なんか変な格好した……ああ、メイド!

「え? あ、き、昨日のメイド姿!? に、似合っていたよ、うん。すごく。か、かわいかったよ」
「思い出してくれたのですか!?」

 パッと明るくなった愛紗が顔を上げる。

「ああ、ちゃ、炒飯食べたな。そのあと……そのあと……」
「は、はいっ!」

 なんだろう……愛紗が目を輝かせている。
 なんかあったっけ……?

「ええと…………………………………………………………」
「はいっ!」
「…………………………………………………………ごめん、その後のことが思い出せない」

 がーーーーーーーーーーーーーーーんっ!

 俺の言葉に、ムンクのようになった愛紗。
 え? あの、俺……何かしました?

「お、俺って深酒すると、前後の状況が完全に不覚になるから……う、うん。ごめん……」

 まるで天地の終わりが来たような、そんな絶望の表情で崩れ落ちる愛紗。
 えぇ……?
 俺、そんなにひどいこと、なんかしたの!?

「御遣い様……そりゃひどいですよ」
「えええ!? おっちゃんまで!? い、いや、あの……俺、酒飲むと完全に記憶なくなるから……」
「飲まなきゃよろしいのに」
「飲みたくなくても飲ませようとするやつがいるんだよ! 付き合いがあるの! というか、普通にチビチビなら記憶失うほど飲まないのに……」

 俺がこんな深酒をするってことは、無理やり飲まされたんだと思うんだけど……
 というか、本当に記憶が無いからどうしようも……

「あ、あの……愛紗、さん?」

 うなだれ、床で震えていた愛紗が、すくっと立ち上がる。
 その表情は……前髪で隠れて見えないけど。

 すげぇ嫌な予感がした。

「え、ええと、あい――」
「ご主人様のバカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 ズパァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!

 そのビンタは……どんな攻撃よりも効いたよ。
 なにしろ……生身の状態で、壁に突き刺さったのだからな。

 この俺が。




  ―― 劉備 side 漢中城下 ――




 …………………………きれい。

 空が青い。
 雲ひとつ無い快晴の空。
 まるで、その青色が輝いているように見える。

 大通りに面した茶屋の店。
 ここの路上に設置された椅子と食卓でお茶を楽しむ私。

 ここにいると、道行く人たちの顔がよく見える。
 彼らの笑顔は……今、まさに私を祝福してくれている。
 街の人たちの笑い声が、祝福の楽器のように聞こえる。
 子どもたちが、まるで喜びを分かち合うかのような、楽しげな笑顔で通りすぎていく。

 ああ……世界って、すばらしい。

「お姉ちゃんが変なのだ……」

 私の前で座る鈴々ちゃんが、なにか言っている。
 でも、その言葉も祝福の言葉に聞こえる。

 ああ……幸せ。
 こんなにも、幸せすぎて……怖いくらい。

「鈴々には、今のお姉ちゃんが怖いのだ……」

 ……もう。
 そんな憎まれ口叩いちゃって。

「おまーせさーん♪」
「………………お姉ちゃん。朱里に見てもらったほうがいいのだ、すぐに城に戻るのだ」
「えー? 別に何処も悪くないよー?」
「絶対おかしいのだ……」

 もう、鈴々ちゃんは心配症だなぁ。
 そんなところもかわいいんだけどー♪

「……お姉ちゃん、今朝からおかしいのだ」
「えー? そうかなぁー? えへへ? 私はいつもこうだよー?」
「絶対おかしいのだ……お兄ちゃんと会う前のお姉ちゃんもポヤポヤしてたけど、今のお姉ちゃんは絶対におかしいのだ……」

 ひどいなぁ、鈴々ちゃんはぁ。
 私、そんなにぽやぽやばっかりしていないよぅ。

 特にご主人様と会ってからは……ご主人様。
 そのご主人様と………………………………

「うひぇへへへへへへ………………」
「お、お姉ちゃん! 変なもの食べたのか!? 食べたのだな!? すぐに朱里に診てもらうのだ!」

 もう、鈴々ちゃんったら!
 この喜びがわかんないのかなぁ?

「り、鈴々ちゃんだって、わかるでしょ?」
「へ? 何がわかるのだ?」
「その……ご主人様と、せ、接吻したじゃない……」

 きゃっ♪

「せっぷ? ああ、なんか息止められたのだ。苦しくて、もがくうちに気持ちよくなって、気がついたら寝ていたのだ。あれは、何かの修行なのか?」
「…………………………鈴々ちゃんには早すぎたのかなぁ」

 鈴々ちゃんは、まだまだお子様だったのね。
 しょうがないなぁ……もうちょっと大人になればわかるよ。

 はぁ……でも、ご主人様の身体。
 大きかったなぁ……

 それにすごく暖かくて……腕も太かったし。
 あの腕に抱かれたなんて……

 くふっ……くふふ……

「もう、やんやんやんやん♪ ああ……もー♪」
「こ、怖いのだ……り、鈴々、用事を思い出したのだー!」

 椅子から飛び退るように走り去る鈴々ちゃん。
 まるで何かから逃げるように……

 おかしいね、どうしたんだろう?




  ―― 趙雲 side ――




 ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ……
 ふう……

「昼間からそんなに飲んだらいけませんや、子龍様」
「やかましい! 今日は飲みたいのだ!」

 いつも愛用する酒屋の軒先。
 そこは酒造であり、小さな居酒屋でもある。

 見廻りなどでサボる……いや、息抜きの際によくここで一杯飲んでいるのだが。

 今日は、とにかく飲みたい気分なのだ!

「……なにか嫌なことでもあったんですかい? 子龍様がこんなに乱暴に飲まれるのは初めてですが……」
「…………………………なにもない」

 ない。
 なにもないのだ!

 くう……
 せっかく……せっかくあそこまで用意したというのに!

 その代償が、たかが接吻一つだとぉ!?

「おのれぇ! ごくごくごく……」
「あああ……そんなに勢い良く飲まれるものじゃないですや。なにかわかりませんが……元気だしてくだされ」
「ぷはぁっ! 店主っ! お主にはわかるまい! この私の……この私の溢れる思いが! 無念が!」
「……………………(ふるふる)」

 おのれ、店主め。
 首を振りながら店の奥に引っ込みおった。

 私のこの無念、誰がわかってくれよう。

「なによりも許せないのが……この私自身だ……」

 たかが接吻一つで気絶など……なんというもったいないことを!
 確かに……確かにあの接吻は応えたが。

 口の中で舌と舌が交じり合い、歯茎を舐め、口内を(まさぐ)るその快感は、筆舌に尽くしがたい!
 その上、魂までも吸い取られそうな吸引が始まると、こちらの舌をしゃぶるように舐めとってくる……ああ、思い出すと全身が震える!

 だが……だがそれでも!
 たかが接吻ごときで、この私が……氣をやってしまうとは!

「くううう……なんと、なんと情けない! 私は……なんという千載一遇の好機を!」

 桃香様を逃した後に、そのまま酔った勢いで抱かれるはずだったのに!
 まさか、私のほうが接吻一つで気絶させられるとは、不甲斐ないにも程がある!

 この趙子龍、一生の不覚っ!

「……主の技術とは天と地ほどの差があるということか。なんということだ…………このままでは、私は夜這いしたとしてもすぐに轟沈してしまうではないか」

 襲った方が、襲われた方よりも早く意識を失うなど……恥以外何物でもあるまい。
 主に我が純血を捧げるには……

「私自身、知識も技量も蓄えねばならんということか!」
「……よくわかりませんけど、とりあえずこれをどうぞ」

 む?
 顔を上げれば、そこに奥に引っ込んだはずの店主がいた。
 その手には……

「おお、メンマ!」
「腹に何も入れないで、そんなに飲むのはまずいですや。こんなもんしかありませんが……つまみにどうぞ」
「かたじけない! 親父、ありがたく馳走になる!」

 そのメンマを口に頬張る……うむ、うまい!
 このシャキシャキした歯ごたえがたまらん!

 うむ……そうだな。
 私もメンマのように精進せねばならん。

 次こそ必ず……我が純血を、主に捧げるのだ!

「見ておるがいい、主! はぁーはっはっは!」
「やれやれ……悪い酔い方だなぁ」

 何かおやじが言ったが、私には聞こえなかった。




  ―― 盾二 side 漢中内城 ――




 あたたた……なんでこうなった。
 生身で壁をぶち破るなんて……壁の素材が土壁だったからよかったものの、コンクリートだったら死んでいるぞ。

 おまけに、左頬がめっちゃ腫れ上がっているし……俺、ホントに何をしたんだ。
 ここまで愛紗が怒るなんて……

「はぁ……」

 廊下を歩きつつ、嘆息する。
 今はすでに日が傾き、夕暮れにもなろうかという時分。

 昨日といい、政務ほったらかしにしちゃったしな……
 朱里も雛里も朝から頑張っていたんだろうし、ちょっとは主らしく仕事しないとな。

 とはいえ……なんか違和感があるな。
 執務室の扉の前に辿り着きながら、ふとそんなことを思う。

 なんだろう……はて。
 この廊下……こんなに広かったっけ?
 何かいつもと違う。
 いつもはもっと……

「ああ、執務室で決済を待つ文官たちがいないのか……へ? いない?」

 そうだよ。
 毎日毎日、長蛇の列を作っていた文官たちがいない。

 一体これは……?

 そう思って、執務室を開けると――

「な、なんだこりゃ!?」

 山のようにそびえ立つ、竹簡の山があったとさ。
 いや、冗談抜きで……

「なんでこんなものが……」
「ああああああああああああああああああああああああああああ! み、御遣い様! 助けてください!」

 切羽詰まった声。
 見れば、山の陰で疲れ果てた簡雍が、一人隙間に挟まってもがいている。
 一体何があったんだ。

「大丈夫か? よっと……」

 俺が引っ張り上げると、力なくヨレヨレとした簡雍が息をついた。

「すいません、ありがとうございました……」
「一体これはどういうことだ? こんなに山のような竹簡は……」
「そ、それが……助けてください、御遣い様!」

 へ?
 何やら涙目になっている耽美な少年。
 いや、俺にそういう趣味はないんだけど。

「宰相様たちが……仕事をしてくださらないんです!」
「…………………………はぁ?」

 朱里と雛里が……仕事をサボっているだって?
 そんなバカな。
 あの二人に限って、そんなことは……

「……二人は?」
「この竹簡の向こう……机にいます」

 なんだ、いるじゃないか。
 でも、仕事をしない?
 はて……?

 よくわからないが、ともかく二人に会おう。
 俺は、山となった竹簡の間を縫うように奥に進むと――

「えへへへ……」
「ぽー……」

 二人がいた。
 いるのだが………………なんだろう?
 心、ここにあらず、みたいな?

「いるじゃん……」
「そりゃいますよ! でも、仕事をしてくださらなくて……」

 簡雍の泣きそうな声。
 むぅ……なにがどうしてこうなった?

「おい、朱里……雛里! ふたりともちょっと……」
「えへへ……盾二さまぁ……」
「ぽー………………」

 遠めで声をかけても、なにか呟くばかり。
 正気を失っている?

 俺は朱里の近くまで近づいて、その顔を覗きこんだ。

「えへへ……えへへ……じゅんじさま……ごしゅじんさま……」
「……ご主人様って呼ぶなっての。起きろ、朱里!」
「は、はわっ!?」

 俺が、朱里の両の頬を挟むようにすると、ようやく目を覚ましたように目を(しばた)かせた。

「ご、ごしゅ……じゃない、盾二様!?」
「いったいどういうことだ……? ふたりとも、疲れているのか?」
「え? あ、あれ? 私……え? 今、何時(なんどき)ですか!?」
「すでに夕方に近いが……?」
「えええええーーーーーーーーーっ!?」
 
 驚いて立ち上がる朱里。
 というか、今日一日ずっとこんな状況だったのか?

「はわっ、ひ、雛里ちゃん! 起きて、起きてよ!」
「ぽー……………………」
「こっちもか……雛里、起きろって!」
「わぷっ……あわ? ご、ごしゅじ……!」
「だからご主人様って言うな! いい加減、起きろ!」
「ふぁ、ふぁいでしゅ!」

 朱里同様、両の頬を挟み込んだまま立ち上がるから、変な顔で答える雛里。
 ふたりとも、いったい何があった?

「はわわ……私達、今日何もしていなかったんですか?」
「らしいぞ。簡……憲和だっけ? この子が言うには、だが」
「あ、憲和で結構ですよ、御遣い様」
「あわわ……竹簡が、竹簡が凄いことになっているよ、朱里ちゃん」
「きゃーーーーーっ!? い、急いでやらなきゃー!?」

 慌てて目の前にある竹簡にとりかかる二人。
 やれやれ……俺も人のことは言えないけど、昨日二人も深酒したのかね?

「俺もやるか……悪いが憲和、たぶん呆れて置きっぱなしにした文官を集めて、処理済みの竹簡の仕分けを頼む。朱里、雛里、最重要なのもってこい、俺が担当するから」
「「お、お願いしますー!」」
「た、助かりました、御遣い様……」

 ん?
 なんか憲和の目がキラキラとしているが……
 相当苦労したんだな……悪かった。

「構わないさ。臣の失態は主の責任でもある。今日は徹夜だな……すまないが、厨房に寄って職務中でも食べられるものを作ってくれるように頼んでくれ」
「はい! すぐに!」

 やれやれ……やっぱり変に宴なんかに首突っ込むもんじゃないな。
 次からは星にもちゃんと言っとかないと。

 あれ?
 そういや馬正、どこいった?




  ―― 馬正 side 漢中城下 ――




「ひどいと思いましぇんか!? 全く覚えていにゃいにゃんて、あまりにあまりというもにょ! そうにゃ思いませんか、仁義殿!」
「う、雲長殿……そのくらいになさってくだされ。私は仕事が……」
「ひどいでしょ、ひどいですよね、あんまりじゃにゃいですか! アレだけのことをしたのに全く覚えていにゃいなんて、まったくごしゅじんさまは、ひとでなしです!」
「…………………………ソウデスネ」
「そう思いますか? そう思いますよね!? 乙女の唇奪いにゃがら、憶えてにゃいにゃんて……んにゃっ!? 何を聞いていりゅんですか、仁義どにょ!?」
「…………………………ソウデスネ」
「まったくぅ……そりゃぁわたしは、桃香さみゃにくりゃべておんにゃらしさとか、愛らしさとかはないとはおもいますみょ? でも、でもだからって……なんでおぼえてにゃいんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「…………………………ソウデスネ」

 見廻り途中で捕まったのが、運の尽き。
 泥酔しながら泣きじゃくる雲長殿を、放っておくことも出来ず。

 とほほ……主よ。
 女性関係はちゃんとしてくだされ……

 結局この日――私は仕事にならなかった。
 
 

 
後書き
一番割りを食ったのは馬正さんでした。年長者は辛いよね。

これにて拠点フェイズは終了。
次回からは新章になります。
さて……ようやく書けるよ、縦巻きロールにペロペロ様。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧