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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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拠点フェイズ 3
  拠点フェイズ 孔明 鳳統 劉備

 
前書き
さて、いろいろやります、この拠点フェイズ。 

 




  ―― 盾二 side 漢中 ――




 俺が漢中に戻ってから、数日の時が過ぎた。

「だから、今ある外壁を取り壊すことはしないでいいんだ。年輪のように重ねればいい。そうすれば一番内側を第一層、その外を第二層という形で広げるのが一番コスト……費用が掛からない」

 俺の言葉に朱里が、顎に手をやりながら思案している。

「そうしますと内門は……大通りに面しての東門と西門を新たに設置することになりますね」
「その部分はしょうがないな。だが、その工事は第二外壁が出来上がってからでいいだろう」
「拡張するとなると、大量の石や土が必要になります。どこから調達しましょうか?」
「南の大手門の丘を切り崩して平地にする。その土で外壁を新たに作ろう。費用、時間、手間においてそれが最善だろう」
「建設に関する木材は、西の森の木々を伐採することになりますけど……」
「水源のこともあるから、近くの森を切り崩すのは賛成出来ない。少し費用はかかるけど、定軍山北東側の沼地がいいだろう。報告では、あの辺りは水はけが悪くて、泥水もたまりやすい。いっそ、あわせて開墾もしてしまうか」
「盾二様のお陰で資金には十分余裕がありますし……あの場所を新たに開墾できれば更に食料に余裕ができますね」
「水においてもあの辺なら問題はないから、田んぼには最適だろう。早速、新しい開拓邑の草案を頼む」
「御意!」

 朱里や雛里がいる宰相の執務室。
 その大きさは、ちょっとしたホール並みの広さがある。

 だが、持ち込まれた大量の竹簡と、幾つものテーブル。
 そして様々な関係書類や地図の数々などが置かれ、整理係の簡雍と文官数人が整理に追われている。

 今、俺が居るのはその中央の大テーブル。
 そこに広げられた地図の上に、細かい駒と事細かに書かれた竹簡が置かれていく。

 このテーブルを埋め尽くす地図。
 これこそ漢中の極秘資料ともいえる、漢中周辺の詳細に調べあげた地図だった。

「盾二様……準備出来ました」
「ありがとう、雛里。朱里、後は頼む」
「御意」

 内政面は朱里に任せて、雛里のいるもう一つの大テーブルに向かう。
 こちらは、軍事面の最高機密だ。

「さてと……こっちは軍の状況か。現状の兵は一万二千だったな」

 並べられた大小様々な駒。
 その上には色分けした上に数字が書かれている。

「はい。内訳ますと、愛紗さん率いる第一軍。こちらが三千になります。主に漢中防衛の要になるかと思います。元義勇軍の兵も半分がこちらになっています」
「愛紗の第一軍は、首都防衛と桃香の近衛という役割もある。その他にも警官の統率なども出来るような管理の面でも高い資質を集めてあるな?」
「はい。いざというときは兵を率いることも、一伝令兵として動くことも全て言い含めてあります」

 愛紗が率いる第一軍。
 それは要するに、近衛兵……エリートだ。
 現状としては一兵卒としてだけでなく、百人隊長……文字通り、百人を統べる隊長の教育も施すことが目的だ。
 現代でいれば大尉……部隊指揮官という認識だ。
 そして将来の武官候補生でもある。

「よし。どんな仕事も嫌な顔ひとつせずに行える人材育成を心がけてくれ。その上で彼らは武官候補とする」
「御意。次に第二軍、こちらは鈴々ちゃんが率いる歩兵部隊となります。基本的に、戦場では先陣を任せることが多くなるでしょう」
「第二軍は、必然的に損耗率が高くなる。突撃先行部隊なのだからな。とにかく体力と足の速さがモノを言う。大丈夫か?」
「一定以上の体力がないと配属できないようにはしていますが、その分人選が大変で……現在、二千に届いていません」

 鈴々が率いるのは第二軍。
 名称は、突撃先行部隊。
 平時では近隣の邑や街の見廻りと、漢中外周部にあたり、上庸や巴中などの主要都市への巡視も行う。
 そして戦時においては、強行偵察や先陣を切るなどといった強襲を主とする。
 そのため、ことさら体力があるものを優先して配置するようにしている。

「鈴々の足についていけないとお話にならないからな……多少脱落してもいいから精強に鍛えるようにしてくれ。その分報酬も出すように」
「御意……第三陣は、星さんの部隊です。一般兵がこれに当たります」
「星は臨機応変ができるし、意外と細かに気がつくし、無理をしない。戦慣れしていない新兵や、一般兵でも平均以上に扱えるだろうな」
「現在はこの第三軍は六千弱になっています。もちろんこれだけのことを星さん一人では賄い切れませんので、戦時では馬正さんが副官となって半数を率います」
「調練はどうしている?」
「愛紗さんの第一軍の兵に百人隊長となってもらい、個別指導させています。第一軍の兵、その統率の練習にもなりますので」
「それでいい。武官候補生としてのいい経験になるだろう」

 星が率いる第三軍こそが、ある意味劉備軍の主体とも言えるだろう。
 一般兵や義勇兵など、訓練が行き届いていない、あるいは力が足りない受け皿とも言える。
 できれば、星には奇襲部隊として動いてもらいたいのだが……現在の劉備軍は、武官の数が圧倒的に足りない。
 武将と兵を繋ぐ中間管理の百人隊長クラスの人材は、不正の横行によりその殆どを一年前に放逐したそうだ。

 現状では武将からの直接指揮で動くことになってはいるが……その分、統制の弱体化が最大の問題になっている。

「基本は第一軍から第三軍までで一万一千。これに警官隊が加わり一万二千となっています」
「……漢中としての守りだけならこれでいいが、もう少し人員は増やすべきだな」

 上庸、巴中にも警備兵が四千弱いるが、あくまでそちらは街防衛のみだ。 
 今後あるべき戦乱のためにも、できれば三万以上は欲しい。

「へぅ……すいません。盾二様がお帰りになる前に、もう少し状況を良くしたかったのですが……」
「あ、いや、そういう意味じゃないよ。むしろ、たった一年で不正な官吏・兵を追放したのに、ここまで軍組織をまとめあげたのは驚愕に値する。雛里の努力がなければこうはいかなかった。ありがとう」
「あぅぅ……もったいない、おこ、お言葉です」

 俺の言葉に、真っ赤になって帽子を被り直す雛里。

「さて……軍の編成についてはわかった。それで、まだ完了していないことは?」
「……警官の設置については、馬正さんの統括のおかげでほぼ問題なく達成することができました。現状、漢中内の治安は全く問題無いといえる状態です。ですが……警邏隊のほうがまだ手つかずでして」
「あれか……ということは、見張り台の建設もまだと?」
「……もうしわけありません」

 雛里が頭を下げる。
 いや、正直資金のあてもないのに、ここまでやったことのほうが凄いんだが……

「それはまあ、しょうがないさ。資金の目処はついたから、街道の整備と合わせて見張り台建設の草案を作ろう。警邏隊官舎と警邏隊の組織も立ちあげなきゃな」
「はい……ただ、人材はどうしましょう。それを指揮するのは……」
「……馬正しかいないな。警邏隊と警官、双方のまとめ役とするしかない。警邏隊も警官もそのうち、それぞれの長官を第一軍から人選するか、それぞれの中から昇格させるしかないだろうな」

 現状では……だけどな。
 ただ、俺はあんまり心配していない。
 今後、蜀を建国すれば、人材は数多く入ってくるはずなのだから。

「馬正には俺から頼もう。まかせてくれ」
「……では、お願いします。あと、私達の配分ですが……」
「それは現状のままでいい。雛里は、軍事、外務関係の統率者であり、細作部隊の統率と伝令兵の管理、糧食、資材管理など。朱里は、内務……文官の統制、司法と陳情の処理、漢中全体の執務と梁州全体の税務管理、内政計画の最終責任者だ」

 簡潔に言えば、朱里は内政、雛里は軍事の統括責任者ということだ。

「では、盾二様は、私達の統合責任者……ということですね?」
「ははは……まあ、そうなるか。こそばゆいけどね。まあ、それは桃香も同じだし、頑張るよ」
「……そういえば、桃香様が、以前街の人にも自分の街を守るような仕事を与えて欲しいとおっしゃっていましたけど」

 街を守る仕事?
 自警団みたいなものってことか?
 さすがにそれはな……

「ん~……桃香に詳しく話を聞いてみるよ。警官制度ができたのに、自衛手段を民に持たせるのはどうかと思うし」
「お願いします……憲和くん、これを至急三十ほど模写して、竹簡を各交番に届けさせてください」
「了解ですー!」

 ばたばたと走ってきた、雛里よりちょっとだけ背が高い子供……簡雍が、竹簡を受け取って文官数人と共に、作業を開始する。

「あの子……文官なの?」
「はい……あの、色々と細かいことを頼んでいます。あれでも、私達より年上です……」
「え!?」

 小さな身体で必死に竹簡を書く姿は、まるで雛里の弟のような容姿なのに。
 文官って、幼児体型になりやすい……?

「……なにか失礼なことを考えていませんか?」

 いいえぇ、ちっとも。
 ソンナコト、カンガエテモイマセンヨ……ハハハ。




  ―― 劉備 side ――




「劉玄徳様……いつもありがとうございます。こんな爺の話を長々と……」
「いいえ、長老さん。皆さんがいるから、私はなんとかやっていけるんです。いつでもお話は聞きますから、どうかこれからも力を貸してくださいますか?」
「も、もちろんでございます! ほんに、ほんにありがたや……」

 私の目の前にいる、北区の長老さん。
 元々はこの辺の最年長のおじいさんだったんだけど、九区に分けた区画整理の住民代表に祀り上げられちゃった人。
 この地域は北門の管理もあって、区画整理で住民の移動が一番大変だった。
 その周辺住民の説得にも力を貸してくれた長老さんのお陰で、やっとこの地区の再開発ができたといってもいい。

「今後はこの漢中も拡張されますから、住人はまた増えていくと思います。何かあればすぐに言ってくださいね?」
「はい。儂にできることでしたらなんでも、おっしゃってくだされ」
「ありがとうございます。ではまた……」

 長老さんに手を振って、その場を離れる。

「さてと……次は、新しく住居が建てられた北東地区のお婆さんの所かな」

 ちょうど、北地区の開発区画から、住民が移住することになった北東地区。
 ここには新しく建てられた住居と、鍛冶や小物などのお店が並んでいる。

 新規で移住することになった人たちの区画でもある。
 きっと、問題もいろいろあるに違いない。

(少しでも意見を聞いて、皆が暮らしやすくしないとね)

 そう思って、足を向けた所に――見知った人物を見つける。

「あ! ご主人様だ! ご主人様ー!」

 私が声を上げる。
 と、視線の先で、急に慌ててキョロキョロしはじめたご主人様。

 ???
 どうして慌ててるんだろう?

「あ!? と、桃香!」
「おーい! ご主人様、こっちこっちぃ!」

 私がぶんぶんと手を振ると、慌てて走ってくる。
 はにゃ?
 なんで慌てているんだろ。

「と、桃香! あんまりご主人様とか大声で……」
「へ?」

 きょとんとしてご主人様を見る。
 何故か顔が真っ赤になっていた。

「ご主人様をご主人様って呼んじゃダメなの?」
「いや、ダメじゃなく……はあ」

 顔を片手で覆いながら、反対の手で横を指さす?
 へ……?

 その指先を見てみれば……

「ご、ごしゅじ……?」
「げ、玄徳様の……夫!?」
「おいおいおい! 玄徳様の夫って、たしか龍神の……」

 あ、あれ?
 なんか街の人の視線が痛いよ?

「げ、玄徳様! その方はもしや、龍の軍し……」
「桃香! 逃げよう!」
「え!? ちょ、ちょっと、ご主人様っ!?」

 慌てて手を掴まれて、駆け出すことしばらくして。
 ここは、ちょうど北東区の大通りだった。

「はあ……はあ……び、びっくりしたあ」
「ビックリしたじゃないよ。まだ俺の存在は漢中でそれほど広まってないんだからね? 桃香が大声でご主人様なんて言ったら……」

 ご主人様はそこまで言って、ちょっと顔を赤らめながらモゴモゴとなにか呟いている。
 ……なんか、妻とか聞こえた気がした。

「あーこほん。ともかくだ。今、俺のことは警官を通じて少しずつ広めているけど、基本は朱里や雛里の上司ってことになっているからね? 言い方を変えろとは……言いたいけど、聞いてくれないからしょうがないとして! 大声で叫ぶのは、しばらくかんべんしてくれ」
「う……うん。ごめんね?」

 別にそこまで気にしなくても、ご主人様はご主人様なんだけどなぁ。

「……最近、外で愛紗や鈴々の『ご主人様』を聞いた街の人が、言うんだよ。三人の豪傑を嫁にするにはどうやったんですか、とか……その上、星が桃香たちは皆俺のお手つきだとか、実は朱里や雛里にも手を出したとか、根も葉もない噂をばらまいているらしくてな」

 ……星ちゃん。
 よくやってくれました!

「俺の身になってくれよ……みんな、それぞれファンクラブみたいのまでいるってのに」
「ふぁんくらぶ?」
「……桃香たちを慕ってくれる若い男の子や女の子がいるんだよ。まあ、若いだけでなく老若男女限らず、それぞれ愛紗が好き、鈴々が好き、とかね。それを全部俺が手を出した……なんて言われてみろよ」

 そう言って、ご主人様が自分の黒い服……なんとかスーツを指さす。
 あれ? なんか、いろんな擦った跡とか、色んな物が混じった匂いが……

「城を出てから、卵を投げつけられること三回、泥を投げつけられること十回、男の集団に絡まれること二回、なぜか……おばさんに励まされること一回」

 あやや……
 た、大変だねぇ……

「桃香のファンって人は、大抵年をとった人達が多いから、概ねおおらかなんだけど……泣かせたら承知しないって、必ず最後に言うんだよな。そんなに俺、桃香泣かせている?」
「ええっと……」
「男の集団に、二回ほど絡まれたのは、どちらも朱里と雛里のファンでさ……幼女は平等に愛でるものだ、とか言うんだよ。二人が聞いたら、怖いって泣くぞ、あれ」
「……ちなみになんて言われたの?」
「……言いたくない」

 ……なにを言ったんだろう。

「結果として見かねた警官たちが、その場その場で駆けつけてきて、周辺に説明に回っているけど……俺、しばらく目立ちたくないんだよ。すまないけど、頼む」
「……うん、気をつけるね」
「あ、あと、星には後でおしおきだ」
「……ほどほどにね」

 ちょっと……ご主人様の背中に黒いものが見えた気がしたけど、きのせいきのせい……

「ええっと……ごしゅ……じんさま(ぼそ)。なにか私に用だったの?」
「ん? あ、ああ……忘れるところだった。実は、雛里から聞いたんだけど。街の人から自分の街を守るような仕事を与えてほしい、とか言われたんだって?」
「え……あ。うん、言った言った」
「ちょっとそのことで話をね……ともかく、どこかの店に入るか」

 そう言われれば、そろそろお昼だったかも。

 新しい工業区であるこの北東地区も、大通りともなれば新設された菜館なんかが営業している。
 まあ、それにも増して屋台も多いんだけど。

 私とご主人様は、近くにあった菜館に入って食事を頼む。

「あ、私麻婆と青梗菜(ちんげんさい)ね。ご主人様は?」
「俺も麻婆……あと飯と八宝菜を頼む。あとお椀も二つね」
「? かしこまりましたぁ」

 それほど広くはないが、客もまばらな店内。
 出来たばかりとはいえ、お昼時にしては人気が少ない。

「(ぼそ)……あんまり人気無いのかな?」
「(ぼそ)そうなのか? 俺はよくわからないから……」

 そう言えば、ご主人様がまともに外に出るのって今日が初めてだっけ?

「さてと……さっきの話だけど、詳しく聞かせてくれよ」
「あ、うん。警官のおかげで治安は良くなっているんだけど……街の人の意識が良くなった分、自分たちにも街のために何かしたいって人が結構いるみたいなの」
「ふむ……治安が安定して、生活に余裕が出た分、やる気の向上につながったか。具体的になにをしたい、とかは?」
「う、うーん……そこまではっきりした意見はないかな。漠然と何か役に立ちたいって声は多いけど、なにがしたいってなると皆悩むみたい」
「ふむ……その分仕事がんばれ、とも言えるけどな。まあ、ナショナリズムの先駆けみたいなものかな?」
「なしょ……?」
「簡単にいえば、国や街への帰属意識だよ。まあ、悪いことじゃないな。それは忠誠心でもあるわけだし……行き過ぎなければ、だけど」
「???」

 ご主人様が難しいこと言っている……天の国の言葉?

「とはいえ、兵でなく民間レベルだとすると……か。うーん……警備とか治安維持には使えないな。自衛の意識が高くなると、自分たちで何でもできるから国を治める人間はいらない、なんて独立意識が芽生えかねない」
「そ、そういう風になっちゃう?」
「極論ではあるけどね。ただ、実際にそうなっているのが俺の世界でもあるわけで……今の段階でそれを育てるのは、ちょっと危ないな」
「そっかあ……」

 街の人達の希望だし、できれば叶えてあげたかったんだけど……

「お待たせしましたー! 麻婆に青梗菜、それに八宝菜でございますー」

 女性の給仕さんがテーブルに置いていく料理。
 うん、見た目も匂いもいい。

「ともかく食べるか……いただきます」
「いただきます……はむ」

 もぐもぐ……うん、おいしい。
 ふつうに美味しいのに、なんでこの店流行ってないんだろう?

「ふむ。悪くない……白帝城で食べた麻婆には、幾分劣るけど」
「……そういやご主人様って、旅先で色んな物食べたの?」
「ん? まあ、それなりに……そうだ、桃香。こういう食べ方知っているか?」

 そう言ってご主人様は、ご飯を小さな椀に盛り、その上に麻婆を……ええ?

「ちょ、ご主人様! お行儀悪いよ!」
「いいからいいから……これ、レンゲで食べてみて」
「えー……じゃあ、ちょっとだけ」

 ご主人様がよそってくれたご飯……な、なんか、夫婦みたい。
 きゃっ♪

「……どうした?」
「あ、うううんっ! い、戴きます!」

 はむ……!?

「え、すごくあう!?」
「ふふ……だろう? で、こっちも……」

 もう一つのお椀にもご飯をよそって、こちらには八宝菜を……

「こっちも食べてみて」
「うん……うわ、びっくり! このあんがすごくあう!」

 驚いた……こんな食べ方があるなんて!

「ちょっとお行儀は悪いけど……これ、すごくご飯に合うよ!」
「米の食い方は、日本人でもある俺に任せてくれよ。まあ、この料理ももうちょっと胡椒がほしいよな……」
「胡椒……香辛料だね。最近は、随分この漢中でも流行っているけど」
「まだまだ民間の料理人には、試行錯誤中ってことか。ここの料理人もそうかもしれないな」
「……私がその料理人だが?」

 ……………………

 見れば、私達の横には一人の男が立っている。
 しかも、包丁を持って。

「あ、あの……」
「人の料理の何が劣って、何がほしいって? 随分なことを言ってくれますな、お客人」
「もぐもぐ……そりゃ言うだろ。対価を払って飯を食べるんだから、その味について素直に言わなきゃな」
「ほう……で、食べていらっしゃるようですが、お口に合わなかったので?」
「いんや? いろいろ惜しいという感じではあるけど、料理人としてはそこそこだな。できればもう少し香辛料や、唐辛子を増やすとか料理に特徴をつけるといいとは思うけど」

 あわわわ……
 ご、ご主人様、凄い度胸。

「ほほう……では、お客さんは俺よりも旨いものが作れると?」
「うーん、俺が作っても本職にはかなわないかな。でも、助言なら出せるよ? 例えば……こんな風に」

 そうして私の眼の前に置かれた、麻婆かけご飯を手に取る。
 その料理に、料理人の眉がぴくっと動いた。

「あんたも料理人なら、日々研鑽を怠らないことだね。旨いものを作り続ければ、客ってのは増えるもんさ」
「ほほう……」

 料理人のおじさんが、ご主人様を睨む。
 でも、ご主人様は、素知らぬふりでご飯を食べている。
 あ、あわわ……だ、大丈夫かな。

 なんかおじさんの方は、背中から炎が出そうな勢いなんだけど。
 ほら、なんかこげくさいし……

 ……あれ?

「て、てててんちょー! 火、ひぃ!」

 女給の人の叫び声がする。
 そちらを見てみれば……

「あっ!」
「火事だ!」

 厨房が燃えていた。

「火をつけたまま厨房離れたのか!」

 ご主人様がすぐさま厨房に飛び込んでいく。

「ちょ、ご主人様!」
「まずい、外に出ろ!」

 料理人のおじさんと、給仕の女の人に外に連れだされる私。

「ご主人様! 逃げて!」

 店の外に出ると、店から大量の煙が……
 周囲では警官を呼ぶ声と、避難する怒号が聞こえる。

 私は厨房にいるご主人様に、再度声をかけようとすると……

「お、おい、煙が……」

 周囲の人が騒ぎ出す。
 目の前の菜館から昇っていた煙が徐々に少なく……

「ふう……もう大丈夫。火は消したよ」

 中からご主人様がゆっくり出てきた。

「ご主人様!」

 私はその無事な姿に、ご主人様の胸に飛び込む。
 よかった……無事で。

「おいおい……こんなの平気だって。いつもの『アレ』ですぐ消し止めたよ。まあ、後始末が大変だろうけど」

 アレ……?
 あ、ご主人様の業!

「火事は何処だ!」

 その時、警官の集団がこちらへ走ってくる。
 そして私とご主人様を見ると、全員揃って敬礼した。

「こ、これは劉玄徳様に、御遣い様! ご無事でしたか!」

 警官たちが綺麗に敬礼する姿に、周囲の人たちの目が丸くなる。
 その様子に、ご主人様は私を離して敬礼を返した。

「ご苦労さん。火は消し止めたよ。厨房は氷に覆われているから、片付けるなら砕くか溶かしてくれ。それよりも……親父さん」

 その目が鋭さを帯びる。
 そこで唖然としていた料理人のおじさんが、ご主人様を見てひっ、と後ずさった。

「火の管理がなってない。仮にも料理人だろう? なんで火元そのままで厨房から離れた。火事の責任は重いぞ」
「も、もうしわけ……ございません」
「悪いが営業は停止。親父さんを事情聴取。連れて行ってくれ」
「はっ!」

 警官の一人が、料理人のおじさんを立たせて連れて行こうとする。
 おじさんの肩を落とす姿に、思わず声がでる。

「ご、ご主人様!」
「桃香。その先は言うな」

 ご主人様の鋭い目が、私に向けられて何も言えなくなる。
 うん、わかる……わかるけど……

「すまないが、他の警官は事後処理を頼む。鎮火は確かめたが、隣の家などの被害までは詳しく見ていない。報告書は城に頼む」
「了解しました!」

 警官が、数人店の中へと入っていく。
 その他の警官は、周囲の人の整理などをはじめた。

「桃香、いくよ」
「あ……うん」

 ご主人様に連れ添って、その場を離れる。
 しばらく大通りを歩くと……ご主人様はぽつりと呟いた。

「……あの親父には、火事の責任をとってもらわなきゃな」

 その言葉に、私が顔を上げる。

「ご主人様! まさか、あのおじさんに懲罰を……」
「そりゃそうだろ。自分の店……しかも火元の管理を怠って、火事を起こしたんだ。当然、懲罰は受けてもらうさ」

 ご主人様の言葉に、私は血の気が引くのを感じる。

 この漢中で、放火や火の不始末による火事を起こした当事者は……死刑。
 これは大陸中、どこでも同じな重い罪。

 それは火事が……本人のみならず、その他大勢の命を奪いかねない事だから。

「………………」
「……桃香。君は為政者だ。人には厳罰を課さなきゃいけないこともある。上が迷うと、下は更に混乱する。躊躇はするな」
「………………うん」

 わかってる……

「……火事ってのは、本人以外の人の命を簡単に奪うんだ。火の扱いは十分気をつけなきゃならない。その意識が足りなかったってことだ」
「………………うん」
「今の消防技術じゃ、すぐに鎮火できない。水を汲んで、消火するのだって一苦労だ。その上、周りの延焼を防ぐような家屋の取り壊しだって、警官だけじゃ人手が……ひとで?」

 ピタッと、足を止めるご主人様。
 ???

「…………………………なるほど。その手があった」
「え?」
「……桃香、街の人に自ら街を守ってもらおう」
「え……? なんかさっき、ダメだとか……」
「ああ、治安ではなく防災でね……よし、作るか」
「……なにを?」

 私の言葉に、ニヤリと笑うご主人様。
 その顔はよく見る……ご主人様が閃いた時に見せる、不敵な笑みだった。

「町火消し」
 
 

 
後書き
まだまだ続きます……何話になるんだろうか?
実は、本当はこのあとも延々と続くのですが……きりがいいので一度切りました。 
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