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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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戦いの前

 イタリア。

 つい先日まつろわぬ神による大規模な被害が出た、サルデーニャ島のすぐ近く。同じ地中海に属するシチリア島に、護堂と鈴蘭は来ていた。
 勿論、観光などではない。
 この場所に、まつろわぬクトゥグアがいるからだ。

「いい?もう一度作戦を確認するよ。」

「はい。」

 シチリア島の最西端の街、トラーパニ。一旦ここに転移してきた彼女たちは、作戦―――とも呼べないような稚拙なものだが―――を確認する。
 何故、この街にやってきたのか?それは、まつろわぬクトゥグアが陣取っているのが、シチリア島の東に存在するヨーロッパ最大の活火山、エトナ火山だからである。

 エトナ火山。
 世界で最も活動的な火山の一つであり、殆ど常に噴火している、ヨーロッパ最大の火山である。現在の標高は3,326mだが、1865年の標高は、これよりも21mも高かったそうだ。これは、この火山が、噴火によって標高が変化するという珍しい火山だからである。
 これだけ年中噴火しているにも関わらず、地元民には特に危険な山だとは認識されておらず、数千人が、斜面やふもとに住んでいる。1169年と、1669年の噴火では、一万人を超える死者を出しているにも関わらず、だ。更に、常に降り注ぐ火山灰により土壌が肥えている為、葡萄などの果樹園が沢山ある。
 
 ノアの大洪水を引き起こしたり、テュポンが封印されたりといった場所であり、神話的にも、軽視できない場所なのである。

「作戦は単純。私が護堂君を連れて、クトゥグアの場所まで転移。直ぐに君とクトゥグアだけを隔離世に取り込むから、君たちはそこで戦って欲しいの。隔離世に取り込めば、精神汚染の権能も現実世界に効果を及ぼせないのは、既に分かっているからね。」

 勿論、沙穂が病院で錯乱していた時に気がついた事である。

「隔離世の中の様子は、私たちがちゃんと監視しているから。もし、護堂君がどうしても勝てなさそうなら、私たちも介入するけど・・・出来れば、そうなって欲しくないかな・・・。」

 無論、介入すれば、精神汚染の権能に犯される可能性が高まるからである。まともに戦わずとも、時間をかけるだけで大抵の敵を無力化出来る。クトゥルフ系統の神の、この精神汚染は本当に厄介な代物であった。

「現状、私たちの戦力で、まともにクトゥルフの神とやりあえるのは、護堂君だけだからね。どうしても、君の負担が大きくなっちゃうんだけど。」

「構いませんよ。・・・確かに、平和主義者な俺からすれば、戦うなんて出来れば避けたいことですけど・・・まつろわぬ神ってのは、話を聞いてくれないでしょう?それに、クトゥグアには、俺も言いたいことがあります。」

 護堂の脳裏に映るのは、あの美しかったサルデーニャ島だ。海は美しく、料理は美味しく、人は皆笑顔で暖かかった。
 そんな楽園が、一夜にして地獄と化したのだ。精神汚染された人は、その大多数が再起不能になり、炎で灰すら残さずに焼かれた人も数多くいるので、未だに被害の全容が判明していない。
 錯乱しながら家族をメッタ刺しにしていた父親。
 最早、黒い炭としか認識出来ない程に焼かれた娘に、泣きながら抱きつく母親。
 兄弟同士で殺し合っていた家族もあったし、動物だって例外では無く、自殺したり共食いしたり。

 正しく、あの島は現代に出現した地獄だったのだ。

「あの光景を生み出したアイツを、俺は許せない。」

 あの光景を生み出した、という点では、ナイアーラトテップも同様なのだが、彼女は既に護堂の手によって殺されている。おまけに、彼女はやろうと思ってやった訳ではなく、権能を制御出来ないが故にああなったのだ(人間が死ぬことを何とも思っていないのは変わらないのだが。彼女が権能を止めたかったのは、護堂を生き残らせる為)。更に言うなら、クトゥグアは従属神二柱も召喚しており、そちらでも精神汚染や、北極や南極並みの寒冷被害を出している。被害者は、いくら低く見積もっても数百万人。いくらまつろわぬ神とは言え、近年の事例の中ではとびきり被害が大きいのだ。

「・・・これ以上、黙って見ている気はないぜ。俺と戦いたいっていうなら、いくらでもやってやる。そして、叩き潰してやるよ。」

 その二柱は、自身の宿敵を倒した草薙護堂と一対一(タイマン)で戦うため。その為に、元々無関係だった国の人間まで犠牲にしたのだ。その落とし前は付けさせてもらうと、護堂は心の中で吠えた。

「ただ、クトゥグアが劣勢になった場合、召喚された従属神がどういう対応をしてくるか分からないのが怖いんだよねぇ・・・。もしかしたら、クトゥグアを助けに来るかも知れないし。そうなったら、私たちで迎撃するけど・・・やっぱり、キモになるのは精神汚染の権能。アレにどれだけ耐えられるか、分からないからねぇ・・・。」

 この権能さえ無ければ、彼女は溜まりに溜まった鬱憤を晴らすために、今すぐにでも殲滅しに行く気なのだが。やはり、主導権を握れないというのは、彼女にとって相当なストレスになっているようだった。人生は、自分で面白くするというのが信条の彼女にとって、昔のようにただ流されるだけの状況は苛立たしいものがあるのだろう。

「・・・まぁ、不安要素ばかりを詰め込んでもしょうがないか。取り敢えずやってみる。何かあったら、臨機応変に対応ってことで!君と私たちなら、出来る出来る!」

 どうにもテンションの上がらない自分自身に喝を入れて、戦いへと赴く護堂へと手を伸ばす。この手を取れば、次の瞬間にはクトゥグアの前だ。それを理解する護堂の心の準備は、既に整っている。彼は、迷うことなくその手を取った。

「行きましょう。この馬鹿げた騒ぎを終わらせてやる!!!」

「全部上手くいったら、休みの終わりまで私たちの旅行に付き合うといいよ。」

「え?」

 全く予定にない一言を言われて、思わず聞き返した間抜けな声だけが、その場に残ったのだった。 
 

 
後書き
やっと、次から護堂vsクトゥグアです。ここまで長かった。戦闘は書くのに時間がかかるかもしれないので、気長にお待ちください。あと、超電磁砲の二次も始めました。超不定期更新ですが、良かったら見てやってください。 
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