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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第四五幕 「友情!努力!洗脳?」

 
前書き
凄い武装積んだ高性能なISはそりゃ凄い。でもその凄さは性能の凄さであって今一燃えが足りない。
ふとISの武装や原理の設定を見直すと結構訳が分からない。
訳が分からないということは、そこに隠された応用性が存在しないだろうか。
・・・そう考えた瞬間、甲龍の龍咆が俺の中でおかしくなりました。ぶっちゃけ衝撃砲は専用機たちの中では今一華が無かったので結果として存在感増したかなーと思います。 

 
前回のあらすじ:佐藤さん、重い腰を上げる


トーナメント当日までの間、皆は思い思いの訓練を行い思いつく限りの練習で己を鍛え上げた。今日はそんな操縦者たちの一部の様子を覗いてみようと思う。



トーナメントを控えて生徒たちの緊張感が増す中、アリーナに怒声と金属のこすれる轟音、そしてライフルの発砲音が鳴り響く。アリーナ内で二機のISに同時に狙われながらも大立ち回りを見せる銀の鎧騎士から怒声に近い指摘が浴びせられる。

「AMBACが全く出来てない!脚を動かしてからスラスター吹かしたんじゃ遅いぞ!!」
「は、はい!!」
「スラスターの噴射と姿勢変更にかかる力のベクトルを強くイメージしろ!後はISの方である程度出力を補正してくれる!!PICに頼るなよ!?戦闘ではいちいちのんびり慣性を打ち消してる暇はない!!」
「はい!!」
「んじゃ、もう一丁ぉぉぉ!!」
「どわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

矢継ぎ早に飛ぶ指示の後、白式は再び凄まじい勢いで宙を舞った。エネルギーをスラスター翼で小爆発させ短く使うことで瞬間的な動きの補助に使うバーストと呼ばれる動作を応用した投げ技だ。その瞬間夏黄櫨を駆るジョウは、すばやく無反動旋回(ゼロリアクトターン)と先ほど指導したAMBACによって最小限の動きで背後から飛来したライフルの弾を回避する。そして展開したアサルトライフルを無造作に構えて撃ち放った。相手――佐藤さんの駆る訓練機のラファール――は慌てて回避行動をとるが間に合わずに脚に被弾する。まるで背中に目がついているかのような動きだが、熟練者ならばハイパーセンサーで背後を確認するくらい当然にやっているので驚く技能ではない・・・彼のIS騎乗経験の短さを除けば。

「相対距離が取れてない!それと構えてから発射までのスパンは短くなったが、今度は射撃後にその場に留まり過ぎだ!!止まってたら的だぞ!?」
「いつつ・・・はーい!!」
「元気があってよろしい!それじゃあこんな時はどうする!?そぉれ!!」
「え?な、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

指示を飛ばしながら今までに見たことのない機動で後ろに迫っていた一夏を鷲掴みしに、勢いをそのまま佐藤さんに向けて投げ飛ばした。その場に留まれば一夏と正面衝突してラッキースケベルート。逆に避ければその瞬間を狙い撃ちにされるリスクがある。かといって後退しても一夏共々正面から吹き飛ばされるのが関の山。一瞬の逡巡の末、佐藤さんのとった行動は――

「うーん・・・えいっ!」
ばしゅっ・・・ドカァァァァンッ!!
「え、ちょ、何をぐべらっ!?」

腰部の武装固定ラックにこっそり入れておいた単発式バズーカ弾(訓練用なので火薬量はかなり抑えてある)で一夏を吹き飛ばし返した。仮にもパートナーである人間を躊躇いなく吹き飛ばすその姿、まさに外道。ちなみにジョウさんはその行動に満足げである。

「よーし、いい判断だ!!ためらう時間が少なかったのが実にいい!!」
「・・・俺は全然よくないですよ」

ぶすぶすと煙を上げながら地面にめり込む一夏の不満の声はジョウに聞き受けられることはなかった。なお、先ほどの状況にこれだという正解はない。要は判断の速さと思考の柔軟さを試した攻撃である。


現在ジョウ、一夏、佐藤さんの3人は第1アリーナを借りて実戦的訓練の真っ最中であった。内容は単純、一夏と佐藤さんの二人はひたすらジョウに攻撃を仕掛ける。そしてそれを捌いたジョウが攻撃や動きのどこに問題があったかを教え、なおかつ教えながらもノンストップで戦い続けるというもの。初日は同じアリーナで訓練をしていた生徒たちもジョウの情け容赦ない指導に恐れをなし訓練に巻き込まれないように隅っこでこそこそ射撃訓練を行っている。
それに反比例して見学者は増えている。なぜならジョウの戦闘指南は実戦の基本・応用・実戦の3つが割と丁寧に説明されているため通信を傍受しているだけでも参考になるのだ。まさに教師のお株を奪う所業である。

「一夏!次は低空戦をやるぞ・・・弐型でも参型でも好きな方を抜いてかかってこい!!」
「あ、ちょっといいですかジョウさん。実はぜひ織斑君に教えてあげてほしい加速方が・・・」
「なに?・・・ふむふむ、なるほど・・・なかなか考えてるじゃないか」
「なぁ、俺に教える技なのに何で俺に黙って秘匿回線開いてんの?」
「「直ぐ教えたら面白くないじゃん」」
「何で息ピッタリ!?」

異口同音で言い切る二人にため息をつきつつ、一夏は呼吸を整えて再び四肢に力を込める。たった2日の訓練なのに体がどんどん頭についてくるように変化している。この調子なら少なくともトーナメント当日には剣道の勘を取り戻せそうだ。
佐藤さんも佐藤さんでどんどん銃器の扱いが上達している。前はライフル一発撃つのにももたついていたのが今ではジョウに不意打ちをかますほどに肝が据わっている。時々一夏は思うのだが、佐藤さんに限らず女性陣のあの胆力はどこから来るのだろうか?少し分けてほしいものだ。

それはさておき、自分が短期間で強くなる鍵・・・それに近いものに一夏は心当たりがある。

(恐らく勝利の鍵になるのは俺が過去に置いてけぼりにしたあの奥義・・・)

嘗て修めた篠ノ之流が奥義の中でも最強にして終極である”あれ”・・・剣道を辞めてから一度も使わなかったせいで今では全く出すことのできない秘技。それを使えるようになって俺はようやくマイナスからゼロに戻る。深く深呼吸した一夏は顔を引き締め再びジョウの下へと踏み込んでいった。

「すー・・・はぁー・・・よし!」
「その前に佐藤のリクエストにお答えして新しい技術教えマース」
「行くぜジョウさ・・・っておい!!」

終始ペースを乱されてるのも訓練の内・・・なのか?いや、そうであってほしいと願いつつ、心の何処かで単にからかわれているだけという可能性を捨てきれない一夏であった。







ズドォォォォォォンッ!!!


響く轟音、舞い散る砂塵。弾け飛んだ大地が破片となって空中から降り注ぐ。その一撃を放った人物・・・ユウはしばし呆然とし、やがてぽつりと自問した。

「・・・出来、た?」
「けほっけほっ・・・ど、どうなった!?」
「出来た!!」

鈴の疑問に答えるように力強く声を張り上げる。
上手くいく確信は結局簪の補助プログラムをインストールしてなお得られなかった。それでも、”新技”は成功した。完成には程遠いが、それは大きな一歩である。・・・まぁ、そのリターンと同じくリスクも高くつくのだが。その証拠が既に風花のモニターに表示されている。

「でもこれひどいなぁ・・・当たれば凄いけどエネルギーをこんなに食うなんて、下手したら打った瞬間ガス欠だよ。機体も衝撃で結構ダメージ受けてるし・・・」
「まぁしょうがないでしょ。あのクレーター見ればねぇ・・・」

空対地ミサイルでも叩き込んだのかと聞きたくなるほどに抉れたグラウンドを眺めながらぼやく。自分でもあそこまでの威力が出るとは思わなかった。だがあれはあくまで最大出力なのでもっとコンパクトに”打つ”ことも出来る。そのためにあれを打ってデータを収集したのだ。
しかしこれだけ派手にやれば監視していた教師に目をつけられるのは必然で・・・

『そ、そこの1年生!!何をやって・・・』

「「今忙しいんです。黙っててもらえますか?」」

『ひっ!?すいません!!』

・・・しかしいつもよりも殺気立っている二人の睨みになんで怒られているのか分からないまま反射的に謝ってしまった。鈴はともかくユウは一時期本物の不良だったため本気で睨めばこんなものである。何故生徒に怒られているのかと嘆く教師を無視しつつ、二人は位置を交代する。次は鈴の”新技”を試す時だ。

「絶対ものにして、絶対に簪を取り戻す!」
(鈴ってなんだか昔より友達思いになったなぁ・・・)

ふとユウは思う。昔も根は優しかったけど、いつも一夏優先の発言が目立っていた。だが今は一夏以外の人間も多く気にかけるようになっている、ような気がする。今回だって「優勝したら付き合え」というアレも目の前の目標のためにいったん棚に上げているようだ。

(きっと変わったんだな。僕も、変われるかな?)

いつまでも兄の背中を追い続ける今から、横に並ぶ日が来ることを夢見つつ、ユウは鈴のオペレートに集中することにした。

・・・実は鈴の新技の方が先ほどよりも大きな被害をもたらすことを、監視室の教師はまだ知らない。
しかも実験の結果、まだ完成には程遠いから一次封印になったことも。







何だろう、ずっと夢を見ているような浮遊感にかすかな違和感を覚え、簪は目を開けた。

「あれ?どうしたの簪?」
「え?」

ぼうっとしていた所為かさっきまで何をしていたのかいまいち要領を得ない。そして声をかけた主、シャルロット・デュノアが何故ここにいるのかも。
周囲を見渡す。ここは・・・自分の部屋ではないが学生寮の一室であることが間取りから分かる。きちんと整理整頓されているその部屋のテレビの前にクッションが敷かれており、簪はその上に座っていた。横にはお菓子や飲み物は置かれており、ここでリラックスしていたであろうことが伺えた。恐らくここはシャルロットの部屋だろう。同居人であるラウラはいない様だ。

「ほら、簪が見たいっていうから僕秘蔵の『劇場版 超時空妖精マクベスプラス』の鑑賞会しようって話になったんじゃないか。忘れちゃったの?」
「マクベスプラス・・・」

マクベス+と言えば歴史あるアニメシリーズである超時空妖精シリーズの中でも屈指の完成度を誇る超名作である。特に主人公の妖精イサミとライバルのガルゴの一騎打ちは「セル画の頂点」とまで言われた非常にレベルの高い緻密でスピード感溢れるドッグファイトになっている。
そしてマクベスシリーズと言えば伝統のマジックミサイル乱れ撃ち。あまりにも美しく臨場感のあるミサイルたちの動きはもはや芸術レベルの美しさであり、折角トーナメントでミサイル中心の戦術を取るんだから見ようという話に・・・

(あれ?)

話に・・・なったんだったか?このトーナメント直前のタイミングで練習を放り出して?
簪にはそれが不自然に思えた。その行動は何だか自分らしくない。確かにアニメは好きだしマクベスシリーズのミサイルは何度見ても飽きが来ないほど素晴らしい。でもそれとこれとは話が別じゃないだろうか?
疑問が次々に湧いて出るが、シャルロットはそんな簪を気にもせずニコニコしている。

「ミサイル好き仲間として交友を深めるのも大切だよね!IS界隈ではミサイルはマイナー武器扱いだもん。こういう時こそ友情を深めるべきだよ!」
「う、うん・・・」

何だか鼻腔を嗅いだことのない香りが(くすぐ)る。横に置いてあるお茶の香りだろうか?日本のお茶以外の茶に明るくない簪は、その香りの正体は分からなかった。

それにしてもミサイルがマイナー武器扱いというのは聞き捨てならない。確かにコストが高い割に使い勝手が悪いというのは分かる。だがそれは操縦者がミサイルを使うタイミングや戦術、そしてミサイル自体の形状、数、速度、FCSコントロールなどをきっちり練りこめば十二分に戦術に組み込めるレベルのものだ。
なんと言っても簪がシャルロットとタッグを組んだきっかけもミサイル議論で意気投合したからで・・・

・・・なんだろう。頭の何処かで警報が鳴っているようなこの感覚は。何か、何かとても大切なことを忘れているような、大きく取り返しのつかないミスをやらかしたような気がする。誰か別の人間の意識のもとに踊らされているような、嫌な感じ。
その言いようのない違和感は、シャルロットの声で中断されてしまった。

「あ!もうすぐガルゴの初戦闘だよ!」
「本当だ・・・あのシーンの、セリフは・・・名言」
「ひゃー!かっこいー!見た見た?2回目の回避の後にチャフ噴いた所!!」
「弾道も素晴らしい。チャフにつられて、いくつかミサイルが、逸れてる所まで・・・書き込んである」

心の何処かで自分自身が警告を発する。それに熱中してはいけない。違和感を無視してはいけない、と。しかしその心の声は、興奮して喋るシャルロットの声にあっさり遮られ、簪はそのままミサイルの虜になっていった。


そして、シャルロットはそんな簪を横目で見ながら、イタズラが成功したと言わんばかりに陰湿な笑みを浮かべて背に隠していた本を自分のベッドの下に滑り込ませる。

本のタイトルは「ジャマダイ式洗脳法 初級編(非売品)」と書いてあった。
 
 

 
後書き
シャルくん、君は一体どこへ向かっているんだい?
ぶっちゃけ現在のシャルは暴走状態にあるので目的を晴らすかその目的が達成不能になるまで止まりません。

「ジャマダイ式洗脳法」は、この世界で日本のとある女子高生が個人的に作成した本物の洗脳術が載っています。シャルはいつぞや登場したうさちゃんねる経由でその女子高生と知り合い、特別に彼女からこの本を譲り受けたのです。いずれこの話を掘り下げる日が来るかもしれませんが、あるとしたら果てしなく先なので軽く説明いたしました。

そしていつものエネルギーチャージ。1週間くらい後にまた会いましょう。 
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