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舞台神聖祝典劇パルジファル

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第二幕その十


第二幕その十

「私の使命には御前を救うこともある」
「それなら」
「だがまだだ」
 こう言って今は拒むのだった。
「それは御前がその憧れから顔を背けたその時にだ」
「その時にというのね」
「御前の悩みを癒す慰めをもたらすのはその悩みが湧き出る泉ではない」
「では何だというの?」
「まずはその泉が閉ざされてだ」
 それからだというのだ。
「御前はそれからでないと救われはしない」
「救われない・・・・・・」
「人々が嘆き悲しみながら思いを焦がしている泉は別なのだ」
「別だというの?」
「そう、別だ」
 まさしくそうだというのだ。
「多くの者がいる」
「多くの者。まさか」
「私には行かなければならない多くの世界があるのだ」
「私が見てきた世界以外にも」
「時間も空間も超えて」
 そうしたものを全てだというのだ。
「全ての愛に救いをだ」
「まさか遠く東の果ての国にも」
「行く。新しい国にも古の国の都にもだ」
 彼はこの地にありながらそうしたものも見ているのだった。
「階級により引き裂かれる愛も立場によって別れなければならないようになろうとしている愛もだ」
「そうした全ての愛を」
「私はこれから見て救いに行くのだ」
 そうするというのだ。
「全ての世界を巡る。それではだ」
「それでは」
「誰がその泉の本質をはっきりと明らかに知っているのか」
 それも言うのだ。
「御前は唯一の救いの真の泉の本質を知っている筈だ」
「では」
「あらゆる救いをその手から逃し世界の妄念の闇に包まれつつ最高の救いを熱烈に願う」
 それが誰かというのだ。
「永劫の罪の泉にばかり思いを焦がしているな」
「それが私だと」
「御前が救われるのはだ」
 その時が何時かも話される。
「最後の時だ」
「けれどそれでも」
「まだだ」
 今それをしようとはしないのだった。
「それは変えられない」
「私が笑ったことで報いを与えてくれたあの人」
 そのことも話すのだった。
「あの呪いが今も私を責め苛むというのに」
「それも運命なのだ」
 こう言ってそれを拒み続けるパルジファルだった。
「御前のだ」
「ではこのまま」
「待つのだ。御前の時は必ず来る」
 こう最後に言った。そしてだった。
 城壁の上にクリングゾルが姿を現わしてきた。その手にはあの槍がある。
 その槍をパルジファルに突きつけながらだ。彼に対して告げるのだった。
「そこを動くな」
「クリングゾルか」
「そうだ。貴様を倒す者だ」
 怒りの目で彼を見下ろしての言葉であった。
「この槍でだ。受けるがいい!」
「むっ!」
 槍が放たれパルジファルに投げられる。しかしであった。
 パルジファルがその槍を見据えるとであった。何と槍は彼の目の前で止まったのだった。空中でぴたりと制止した。
「何っ!?」
「この槍は私のものだ」
 驚くクリングゾルをよそに彼に告げて槍を手に取った。
 そうしてだ。その槍を右手に持ち。
「この槍にはあらゆるまやかしを消すことができる」
「俺の妖術を崩すというのか!?」
「貴様自身もだ。見ろ!」
 その槍で十字を切った。するとだった。
 クリングゾルも城のありとあらゆるものも消え去った。そして後に残ったのは廃墟だけだった。城壁も城も庭も全てが廃墟となった。
「騎士達もモンサルヴァートに戻る。女達は花に戻った」
 今彼はクンドリーに背を向けていた。しかし彼はその彼女に顔を向けてだ。
「わかっていよう」
「それは」
「何処で私に出会えるのかを」
 こう言って廃墟を後にするのだった。今彼は旅立ったのだった。
 
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