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箱庭に流れる旋律

作者:biwanosin
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歌い手、ギフトについて知る

「さて、まずおんしはそのギフトについてどこまで知っておる?」

 黒ウサギさんたちを見送った後、白夜叉さんは部屋に戻ってくるなりそう聞いてきた。
 どこまで、か・・・

「知ってるのは、歌と伴奏、オーケストラ、ありとあらゆる音楽がこの身一つで、何にも使わずに奏でれるということ。ただし、僕は一切の楽器を奏でることが出来ない」
「それだけか?」

 白夜叉さんの声が低い。
 ああ・・・これは僕が知ってること程度なら全部知ってるな。

「後、僕の歌はあらゆるものに干渉する。軽い中毒性を持つことがある。以上です」
「そうか・・・なら、そのギフトについて説明はしたほうがよさそうじゃの」

 やっぱり、このギフトにはまだ僕の知らないことがあるんだ。
 今知ってることだけでももう十分なんだけど・・・

「まずその中毒性についてじゃが、そこまで気にせんでよい。ギフトを持つものには一切効かんからの」
「それは助かりますね。それのせいで前の世界では結構苦労しましたから」

 まあ、CD出してどうにかできたのはよかったけど、中にはそれで満足しない人もいたしな・・・

「まあ、そんなことはどうでもいい。問題なのはこれから話すことだ」
「いや、どうでもよくはないんですけど・・・」

 この箱庭の世界では、物事の大小がもといた世界とは違うみたいだな。

「まず、おんしのギフトは“奇跡の歌い手”と“共鳴”の二つでワンセットだ。どちらか片方でも失った瞬間に、そのギフトはほぼ無意味になる」
「つまり、使えなくなると?」
「いや、失ったのが“共鳴”の方であれば、“奇跡の歌い手”は使うことは出来る。逆は出来んがな」

 じゃあなんで無意味なんだろう?まだ僕が知らないことと何か関係があるのかな?

「さて、どこから話したものか・・・まあ、まずはあのコミュニティのことからかのう」
「コミュニティ?今あるコミュニティですか?」
「いや、もう滅びた、魔王のコミュニティだ」

 魔王様ですか・・・このギフトと関わりがある魔王様がいたのかな?

「そのコミュニティのリーダー、つまり魔王はおんしと同じギフト、“奇跡の歌い手”をもっておった」

 関わりがあるどころか、前任者でした。

「マジですか!?」
「うむ、マジじゃ。まあ、元々は“主催者権限”を持たぬ、普通の男だったがのう」
「じゃあ、どうやって主催者権限を?」

 それを満たしたら、僕も主催者権限を手に入れることが出来るかもしれないってことだよな?もしそうなら、それはきっとコミュニティのためになるに違いない。
 そう思い、僕は白夜叉さんに聞いてみた。

「まあ、言葉にしてしまえば簡単なことだ。そやつは、仲間を集めた。自分と同じ系統のギフト、音楽シリーズと“共鳴”を持つものをな」

・・・このギフトってシリーズ物なんですか。
 音楽ってことは、楽器関係でどんどんでてくるのかな?

「その音楽シリーズとは?」
「読んで字のごとく、音楽に関わるギフトのことだ。おんしの“奇跡の歌い手”のようにな」
「となると・・・“奇跡の弦楽奏者”みたいな感じに?」

 自分で言っといてなんだが、語呂が悪い気がする。

「まあ、そんな感じだろう。奇跡の、とは限らんだろうが」
「なるほど・・・で、そのギフトを持ってる人たちはみんな“共鳴”のギフトを?」
「持っているはずだ。先ほども言ったように、その二つでワンセットだからな」

 ふむ・・・共鳴、ってことは・・・

「このギフトは、お互いの力を増大していく?」
「その通りだ。いくつか語弊もあるし、間違ったところもあるだろうが、音楽は、上手いものが集まれば迫力が出るものだろう?」
「まあ、単純すぎるくらい単純に考えればね」

 メンバーの実力の上下が激しいと、それは意味を成さなくなる。
 一番上手い人と一番下手な人が目立っちゃうからね。

「そして、音楽シリーズのギフトを持つものは、その分野での最高の実力を持つ」
「それが集まることでお互いの力・・・霊格とやらが上がり、主催者権限をえるまでにいたると?」
「そうだ。そして、それを手に入れるのは“奇跡の歌い手”を持つものとなる」
「メインになることが多いから、かな」

 まあ、ギフトについてはそれくらいの認識でいいだろう。
 まだ箱庭に来て間もないが、それくらいは分かる。

「さて・・・ここからが私の用事の本題だ」

 まだ本題に入ってなかったんだ。驚きだな。

「その男が魔王に落ち、そのまま討伐された理由は分かるか?」
「・・・・・・」
「元々、その男が仲間を集めていた理由は、ただ同士が欲しかったからだ。自らの力を上げることなど、微塵も考えていなかった」

 その気持ちは、よく分かる。
 このギフトを持つものは、その分野において、最高の実力を持つ。
 そのせいで、普通の人とは共に音楽を奏でることが出来ない。せっかく複数人でやってるのに、ただ自分が目立つだけになってしまうから。
 でも、自分と同じギフトを持つものならどうだ?その人たちとなら、共に音楽を奏でることが出来る。音楽を楽しむことが出来る。

「だが、全てのギフト保持者が揃ったとき、自らに箱庭における特急階級、主催者権限が宿ってしまった」

 そうなればもちろん、恐怖するだろう。
 これはどうすればいい?何かしないといけないのか?勝手に使っていいのか?自分なんかが持っていていいのか?そういった疑問によってその恐怖は増大していく。

「そして、そのまま自らのプレッシャーに押しつぶされ、その力を乱用してしまったのだ。その結果、魔王に落ち、コミュニティもろとも滅ぼされた。ここまで言えば分かるか?」
「はい。もし仮に“主催者権限”を得たとしても、そんなことにはならないよう、覚悟しておけってことですか?」
「そうだ。分かったな?」
「了解です。それさえ守れれば、同志を集めてもいいですか?」

 まあ、僕もその人と同じギフトを持ってるからね。おんなじことを思うわけですよ。

「構わんよ。いつか、おんしらが奏でる音楽を聞かせてくれ」
「ええ。ご予約、承りました」

 そうして、僕はサウザンドアイズを出て、白夜叉さんに渡された地図を頼りに“ノーネーム”の本拠に向かった。



♪♪♪



「さて、着いたはいいが・・・広いな、こりゃ・・・」

 入っていっても迷いそうだったので、入り口でどうしようか悩んでいます。
 外で寝たら風邪ひくかもだし・・・物騒だからな・・・誰かいるといいんだけど・・・

「あの、貴方が奏様でしょうか?」

 そんなことを考えていたら、少し低めのところから声が聞こえた。
 その呼び方に一瞬ビクッとすると、どうにかして落ち着きを取り戻し、返事を返す。

「うん、僕が天歌奏だけど、君はここの子?」
「はい!リリと申します。黒ウサギのお姉ちゃんに言われて奏様を」
「ゴメン、ちょっといいかな?」
「?」

 多分、この子は自分よりも立場が上だから様付けで呼んでいるんだろう。
 だからそこに含むところはないんだろうけど・・・

「ちょっと昔トラウマがあってね・・・様付けは止めてもらえないかな?」

 そう提案させてもらう。
 まあ、トラウマといってもそこまで複雑なことがあったわけではない。
 ただ、ちょっと怖いくらいのファンがいたというだけだ。

「そうですか・・・分かりました!では、奏さんと呼ばせてもらいますね!」
「うん、それでよろしく、リリちゃん」

 にしてもこの子、コロコロと表情が変わるな・・・何この可愛い生物。
 感情に合わせて二尾の尻尾も狐耳もパタパタ動いてるし・・・
 すっごく頭撫でたくなるな・・・

「ふみゅう・・・」
「・・・はっ!」

 気付かない間に頭撫でてた・・・

「ゴメン、つい撫でたくなって・・・」
「いえ、大丈夫ですよ。では、ご案内しますね!」
「じゃあ、よろしくっと」

 そう言いながら、僕はリリちゃんを抱き上げる。

「え、奏さん!?」
「いいから、大人しくしてなさい。もうこんな時間だし、眠気もあるでしょ?」

 まあ、それだけじゃないんだけどね。その辺の草むらとかから怪しい気配を案じるし、こうしておかないと、リリちゃんにも音が響いちゃうからね。

 さて、音をあの草むらに集中させて・・・普通の人には聞こえない音を放つ。
 ただし、普通の人には、なので聴覚の良い僕や獣のギフトを持つ(と思われる)リリちゃんには聞こえてしまう。
 だから、自分の周りに音の壁、のようなものを作り、その振動が自分に届かないようにする。まあ、まだあんまり大きくはならないから、リリちゃんを抱えたわけだけど。

「ふう・・・疲れた」
「あれ?奏さん、今何かしてましたか?」

 目的どおり、リリちゃんには聞こえていなかったようで安心する。

「まあ、ちょっとね。気にしなくて良いよ」
「そうですか・・・では、今度こそ案内を始めますね!」
「うん、よろしく」

 まあ、あの時ぶつけた音は、動物が不快に感じる音だ。
 本能的な部分にそんな音をぶつければ、恐怖で出て行ってくれるだろう。
 
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