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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-6 第22話

Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-6
決戦
第22話

ラダトーム城から数百メートル歩いた後である。
大地は冬らしく、枯れ色の草が風に揺られている。
マイラ方面を見ると、山頂は白くなっている。
ほとんどの人が言いそうな「寒い」と言う言葉、ハルカは言わなかったし、思わなかった。
それどころではないのだ。弱音を吐くわけにはいかない。ハルカは今から、最終決戦に向かうのだ。
(いよいよだな)
竜王を倒すまでは、ラダトームには帰らない。決めていた。
空を見上げ、ハルカは冷たい空気を吸う。そして身震いし、叫ぶ。
「ルーラ!」

ハルカの足は再び大地に降り立つ。いつもと音が違う、そんな気がした。
気の持ちよう、なのだろうか。
まずはリムルダール街へ少し寄り、南へ向かう。

途中で何も言わず、ひたすら歩く。少しの仮眠と食事はとったものの、ほとんど歩きに時間を費やした。
仮眠と食事の間、トヘロスを唱え敵を遠ざける。
一日かけ、聖なる祠近くの集落に立ち寄る。
「お久しぶりです」
集落の様子は以前立ち寄った時とあまり変わっていなかった。人々の服装が冬仕様になっただけである。
「おお、お主は勇者ハルカ!」
人々は以前と同じように出迎えてくれた。
「僕の名をご存知で」
ハルカは長老に対し挨拶として頭を下げる。
以前は名前など名乗っていなかった。集落の人々からは「勇者」とだけ呼ばれていた。
「やはり、外からの情報ですか」
「ああ。雨の祠の賢者と言う者からの情報さ、お主がローラ姫を救い、試練をクリアしたと」
なるほどあの時か。ロトの印を入手した後、ローラ姫を連れて雨の祠を訪れたあの時か。
あの後、《キメラ便》を使ったのだろう。
「ええ。そうです。一度ここへ立ち寄った後、聖なる祠へ向かうつもりです。もう、行けるでしょう?」
「ああ。確か、虹色の美しい宝石が手に入るんだったな。魔の島へ渡る為に必要なのだ」
ハルカは頷いた。ロトの洞窟で見た、勇者ロト――勇者レイルからのメッセージ。3つの神器を集める事。それは太陽の石、雨雲の杖、そして、ロトの印。その3つが揃った時に、ようやく聖なる祠へ行く資格が与えられると言うことである。
「もう、行くの?」
長老の孫娘という若い女が心配そうに木製の容器を持ってきた。中身は粗茶だった。味は決して不味くは無く、薄いながら存在感の味がした。若い女が入れたと言い、ハルカは入れるのが上手いと褒めた。
「……すみません、また、短い時間で。……もう、行きたいんです」
長老は目を細めた。口元は髭で隠れて解らなかったが、笑っていることは確かだった。
「まったく、血の気の多い若者だ。だが、わしは止めはせん。願いはわしらも同じ、竜王軍の破滅じゃ」
「私も、応援しています。ローラ姫を救い、そして結ばれたあなた。あなたも、死んで欲しくないわ……」
若い女は目を潤ませ、祈るように手を顔の前に組んだ。ハルカは顔を少し赤らめながら、微笑んだ。ローラ姫と結ばれたと言われたからである。
「大丈夫。僕は絶対に死にませんよ。死んだらロトの伝説も終わる……あの方の伝説は、これからも続いていかなければならないのですから」
遠くを見た。まだ見ぬ大地。ハルカは決めていた。
「僕は……行くんだ」
ボソッと言葉が出る。人々がハルカの方を見る。
「なんです?」
「あ、いえ。何でもないんです」
ただハルカは笑っていた。誤魔化しも無く。ただ、まだぼんやり考えていただけだから、という理由を自分の中でつけて。
(レイシア、サマーヴィル、ムーンタウン……)
本の中でしか見たことの無い、外の世界の地名。本当かどうかは誰も知らない。空想の話かもしれない。
ハルカは、決めていた。ただ、今はまだ誰にも、ローラ姫にさえ話してはいない。
「……では、僕はこれで」
一呼吸した後、ハルカは立ち上がる。マントについた草をそっと払いながら。
「そうかそうか。……気をつけてな」
「絶対に勝ってね」
「勇者ハルカ様!ご武運を!」
ハルカの背中に励ましの声が届く。ハルカは振り向いて、手を振った。
集落の人たちも、笑って手を振った。

まだ、明るい時である。太陽は微かに覗いている。
南の方にあるこの場所はまだ寒さが控えめである。
今まで足を踏み入れたことのない、聖なる祠。
雨の祠より豪華な造りとなっている。
扉にはこう書かれていた。
“用のない愚か者は帰ること! 賢者ディヴァン”
(……この人、は……以前ここに来なくて本当に良かったのかもしれない)
ハルカは書かれた木の板のメッセージに呆れながら、扉を叩く。
そして扉の向こう側の者に聞こえるように、大きな声で言う。
「すみません!あなたに用があってきました」
しばらくすると、扉が少しだけ開いた。
「……なんじゃ、ああ、そうか、入れ」
老人――賢者ディヴァンは一瞬眠そうな顔をしたが、ハルカの顔を見ると、目をきちんと開き、軽く頷くように首を動かした。
賢者ディヴァンは扉をもう少しだけ大きく開くと、扉から離れた。
(僕に入れって事か…?)
苦笑しながら賢者ディヴァンの招き通り、中へと入る。
そして、ハルカは自分で扉を閉めた。
(全く……)
しかし、重要な場面で愚痴を言うわけにもいかなかった。
それに、賢者ディヴァンに扉を閉めてもらうことに期待することが愚かな事かもしれない。

ハルカは、祠の内部を振り返りで見た。
そこは青い部屋。水路もあり、中央には石版と真紅の箱が台座の上に置かれていた。
美しい、もしくは神々しい光景に見えた。
「さあ、勇者ハルカよ、中央の石版に太陽の石と雨雲の杖を置くのだ」
名乗っていないのにどうやって自分の名前と、太陽の石と雨雲の杖を所持していることを知っているのだろうか。
ロトの印は身に着けているため、理解できたのであろうが。
「勇者ハルカよ、わしは能力でお主が来ることを感知した。そして、今その時が来た」
「そうですか」
ハルカは恐らくその時に、僕のことを知ったのだろう、と思った。
そして、賢者ディヴァンの言うとおりに、石版に太陽の石、雨雲の杖をはめ込んだ。
すると石版と、その奥に置かれた真紅の箱が輝き始めた。一瞬、眩しさにハルカは目を閉じた。
しばらくして目を開く。光の色が違う。
「……」
そして箱が完全に開いた。
「さあ、箱の中身を取るが良い」
箱の中身は虹色に輝く宝石であった。ハルカはそっと手に取る。
虹色に輝くそれはペンダント状になっており、部屋が少し薄暗いのに明るく光っている。
「虹の……雫」
「そうじゃ。魔の島に渡る為に必要なもの。古の勇者ロトもお主と同じように試練を受け、太陽の石、雨雲の杖、そして、“証”を持ち、ここへ訪れたのだ。さあ、手にしたのならもうここには用事はない。それを持って、竜王の城へ向かうが良い」
賢者ディヴァンは淡々と話す。目だけはしっかりとハルカを見つめていた。
表情は恐らく、険しいものだろう。
石版と真紅の箱はいつの間にか消えていた。役目を終えて、姿を消したのだとハルカは悟る。
(たしかに、ここに用はない……しばらくはな)
ハルカは言うとおりに頷くと、聖なる祠の扉を開け、礼を言って外に出ようとした。
「勇者ハルカよ」
「?」
賢者ディヴァンが呼び止めた。
「……なんでしょう?」
「…………死ぬな。何としてでも、竜王を…すのだ」
じっとハルカを見ている。表情は無表情だ。しかし、言葉には力がこもっていた。竜王を、憎んでいるような。
「解っています」
その気持ちはハルカにも伝わっていた。というよりも、ハルカも同じ気持ちなのだ。
聖なる祠の扉を開ける。より、力を入れて。

リムルダールに一泊し、更に一日後、とある場所に来た。
場所は地図で解っていた。ここで虹の雫を使うのだと。
ハルカは深呼吸をした後、虹の雫を空に掲げた。
すると太陽の光と、雨雲が現れ、同時に降り注ぐ。
そして数十秒後、架け橋が出来た。虹色をした架け橋である。
ハルカは虹の架け橋に足を踏み入れる。
(もう、後戻りは出来ない)
ハルカは数歩歩いた後、王女の愛を取り出した。
ローラ姫の声が聞きたくなった。いつでも声は聞ける。けれど今、聞きたくなったのだ。
気持ちが落ち着かないのかもしれない。
「ローラ姫。……僕は竜王の城へ乗り込みます」
「ハルカ様……。ついに、ですね」
「ええ。大丈夫。これは洞窟の中でも話せそうですから。寂しいと思ったら、……話しかけますよ」
ハルカの本心、“寂しい”が思わず出てしまったかな、と、ハルカは思った。
「お待ちしておりますわ。私も、寂しいのです。あまり無理はしないでくださいね」
寂しいと言う感情は当然、ローラ姫も持っていた。ハルカ以上に、寂しがっているのかもしれない。
「ええ。では、行って来ます」
「ハルカ様、ご無事で」
ハルカは王女の愛に口付けをする。向こうではローラ姫もハルカと同じタイミングで同様の行為をする。
(竜王……僕はお前を)
虹の架け橋を渡る。一歩一歩確実に踏みしめる。
(許さない。僕の両親、ローラ姫の母親、ドムドーラの人々、名も無き村や小さな村の人々……多くの命を奪った非常なる魔王、、絶対に、お前の命の灯火を……僕が消す!!)
段々と魔の島が近づいてくる。城を睨みつける。
(光の玉を、取り戻せ、僕よ、僕は、勇者ロトの末裔)
そして、魔の島へ足を踏み入れた。

魔の島。その名は勇者ロトがゾーマ城を侵略した時代からそう呼ばれていた。
勇者ハルカは、勇者ロトと同じように、竜王の城へ乗り込む。
途中で魔物の集団に会う。
「竜王の敵!抹殺せよ!」
…しかし、ハルカの敵ではない。
「それはお前達だよ」
皆、ハルカの「ベギラマ」の魔力、「横一文字」の衝撃によって、一気に吹き飛ぶ。
「僕はここで油売っているわけにはいかないんだよ」
「くそ!勇者め!竜王にこ……ぐふっ」
鎧の魔物がハルカの背後で崩れ落ちる。ハルカはただ、竜王城へ向けて歩き続けた。

竜王城の内部は癪気に満ち溢れていた。ハルカは顔を一瞬しかめた。
しかし、すぐに真剣な顔になる。そして、ロトの鎧の姿になる。
といっても、この地点から、という意味合いではない。必要だと感じたのである。
ハルカは奥へ進む。城地上内部は手入れがしてあるように綺麗だった。ただ、それがハルカにとって、かえって不気味だった。
上に続く階段が見えたが、よく見ると、階段が途中で崩れそうにひび割れている。足を踏み入れてはいけない気がする。
いや、ハルカは解っていた。竜王は、地下に潜んでいる、と。
遮光術でも使ってでも、地上に拠点を作りたがらないのが魔王だ。……イアンがいつの日かそういっていたのを思い出す。
もちろん地上や天空の魔王だっていてはおかしくは無いが、竜王の場合は、地下に違いない、とハルカは思った。
「あ、バリア……予感的中、ねえ」
広い部屋に出ると、一面バリアの部屋、そして長椅子が置かれていた。竜王はいない。
ただ、それはフェイクだと、ハルカはすぐに解る。
「大体、しょぼいんだよね、ラルス王の座っているのよりずっとみずぼらしく見えるんだけど」
そういって、椅子の裏側をつま先で突く。すると、ガチャリと音がした。
そう、隠し階段の出現だ(その割りに音がしょぼいと思ってはいけない)。

ハルカは隠し階段を下りる。中は真っ暗で。
「……レミーラ」
いよいよ、ハルカは竜王の城の侵略を、開始する。


――
*メモ
(レイシア、サマーヴィル、ムーンタウン……)
これは後のローレシア、サマルトリア、ムーンブルクになる。DQ1勇者ハルカがその小さな3つの町から、3つの国を創る。 
 

 
後書き
どこかの公式二次創作だと、ムーンブルクはローレシア、サマルトリアより昔からあり、勇者とローラの娘がそこに嫁いで行くとか聞いたことありますが、私は、ムーンブルクもローレシア、サマルトリア同様、DQ1勇者が建国したという設定にしたいです。 
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