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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-6 第21話

Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-6
決戦
第21話

寒いガーネットの月。空もどんより曇っている。
正月祭り気分もすっかり去ったラダトームの人々の心も沈んでいる。
「…ああ、この世界ももう終わりだ」
と言う人まで現れる始末である。
寒さと暗さは人々の心を沈ませると言うことだろうか。

その一方。
薄暗く、ハルカと一人の男以外いない部屋。
ハルカはラダトーム城の戦士団が集まる控え室で、ロトの鎧を磨いていた。
たまたま遊びに来ていたイアンが隣にいた。
「……ハルカ、いつ、ここを発つんだ?」
「明日だよ」
ハルカはじっと武具の方を見ている。
イアンもそんなハルカの様子を見て、ハルカの心境を理解している。真剣なのだ、と。
「そうか。いよいよ竜王との決戦に出かけるのか」
「ああ」
ハルカは表情を変えずただひたすら武具を磨いていた。
不安がないわけではない。竜王は強力な魔物だ。
ドムドーラを含む町(村)を幾つか滅ぼし、ハルカの両親、ローラ姫の母親の命を奪ったのだ。
竜王によって一体何人の人が殺されていったのだろう。
ハルカは時々そう考える。
ほとんどの魔物を竜王の手下とし、凶暴化させた。
竜王は極悪非道な奴なのだ。
そんな奴に、たった一人で挑むのだ。勇者ロト(勇者レイル)と違って、仲間も作らず、いや、作れず。
不安がないわけがない。
「……生きて帰ってこいよ。絶対。俺はお前を信じているからな」
「ああ、絶対に帰る。竜王を倒さなければ、僕もローラ姫も、この世界の皆も、幸せになれない」
「そうだな」
ロトの鎧、炎の剣、水鏡の盾はピカピカになっていた。ハルカはロトの印をじっと見つめた。
「確かそれ、お前とローラ姫しか触れることの出来ないものだったな。ローラ姫もロトの一族だったとは。国の皆、驚いていたな」
ローラ姫がロトの血を引いていることが国中に知れ渡っていた。ただ、正確なことを知っているのはほんの一握りであり、何故ローラ姫は戦いに参加しないのかとトンチンカンなことを言う人もいた。
「ローラ姫は確かにロトの血も引いている。けれど、ロトの妻の血の方が濃いんだよ。とはいっても、勇者ロト様に仲間がいたと知っている人は数えるぐらいしかいないんだ。……詳しいことを知らなくて当たり前だよ。それに、ロトの血を引いているからって、皆勇者になれるわけじゃないんだよね。血だけでは、勇者にはなれないから」
「ああ。俺もそう思う。勇者の子供が勇者とは限らないし、勇者の親が勇者とは言えないからな。ローラ姫も、ロトの印にふれる資格はあれど、勇者になれる資格はないのかもしれないな」
イアンがぶつぶつと言って視線をずらすと、何とローラ姫がいた。
「おっと、ローラ姫、これは失礼しました」
慌ててイアンはローラ姫に頭を下げる。ローラ姫も戸惑った様子で、
「いえ、あなたは本当のことをおっしゃっているのですよ?謝る必要などありませんわ」
と答えていた。
ハルカはようやく顔を動かした。そしてローラ姫のほうを見て微笑む。
「ハルカ様。私は国の姫として生まれ育ってきました。回復呪文と、非力なバギしか扱えません。ハルカ様の言うとおり、ロト様の血を引く者が皆勇者ではありません。私には戦えるだけの力はないのです。……少しでも、力があれば、ロト様の奥様ぐらいの力でもあれば、戦えたのに……」
ロトの妻、僧侶プラチナはロトと仲間達の中でも体力も力もない、と本人が話していた。ローラ姫は、僧侶プラチナが持つ力にすら及ばないのを知っていた(ハルカも)。
「ローラ姫……貴女の分も、僕は戦いますから」
「ハルカ様……」
「ローラ姫は、ハルカさんを励ましにこちらへ?」
イアンの問いに、ローラ姫は大きくゆっくりと頷いた。
「ええ。……」
そして俯いた。
「ローラ姫……」
「不安はあって当然ですよ、姫様。僕だって、不安なんです。でも僕は、何としてでも……竜王を討ち取ってみせますから」
「そうですわよね。……信じてますわ」
「俺もだ」
ハルカがロトの印を握り締め、その手をローラ姫の手が覆う。イアンはハルカの肩を叩いた。
ハルカは黙って頷いた。不安と強い意志が混ざり合い、心が熱くなる感触を覚える。
(僕は……戦う。最後まで……)

ラルス王の謁見の間。
ハルカはロトの鎧姿に変えていた。
当然、ハルカはラルス王に竜王を討伐しに向かうことを告げに来た。
ラルス王は「ついに来たか」と言った表情を浮かべた。
元々、ハルカの使命は竜王討伐で、それを命じたのはラルス王。この時が来るのは解っていたはずである。
しかし、いざこの時が来ると、不安な気持ちが心の底から立ち込めてくるのである。
もちろん、ハルカを信用していないわけではない。不信と不安は違う。
「勇者ハルカよ、竜王を倒し、生きてここ、ラダトーム城まで戻ってくることを、私は信じておる」
「はっ、私も、竜王を倒して生きてここへ戻ってくることを誓います!」
「……期待しておるぞ。わが娘、ローラの笑顔を、失わせてはならないからな」
「存じております」
ハルカも気持ちは同じ、ローラ姫の笑顔を失いたくない。
ただ、ラルス王は、ハルカとローラ姫の恋仲を理解しており、ローラ姫の笑顔をと言う言葉は、一段と強く言っていた。
そして、ラルス王自身も……。

準備も念入りだ。
もしもの為の松明、薬草。食料。イアンの妻、サユリからはいつもの保存食。
“王女の愛”は絶対になくさないように。
ハルカは魔法の道具袋を覗き込み、何度も確認をした。
不安と期待と何かが入り混じる。
しかし、竜王は絶対に倒す。
(もう、ここまで来たら逃れることは出来ない)
空は段々と暗くなる。
ハルカは寒い外で、何度も剣を素振りしていた。
意味の無いことかもしれない。ただ、ハルカは落ち着かなかったのだ。
(本当は僕は臆病者かもしれない。でも、逃げたくない)
ただ、ひたすら剣を振り続けた。

気が済むまで終えると、イアンの家で一泊する。
ノック音がした。ハルカはそっとドアを開ける。
「ハルカさん……」
サユリとエリカだ。二人とも心配そうに顔を曇らせて。
そしてハルカが泊まっている部屋に入ってきた。
「……怖いですか?」
「サユリさん、エリカちゃん……。怖くないといったら嘘になるかな。でも僕は逃げないよ。絶対に竜王を倒してやる!って決めたから。大丈夫。絶対、僕は帰ってくる、ラダトームに」
ハルカはサユリとエリカの手を握る。力加減は忘れずに。
「帰ってきてね、絶対よ」
「帰ってきます。僕は」
「信じてるから」
「ああ」
サユリとエリカはハルカの真剣な眼差しに圧倒されそうになった。
しかし、それと同時に、期待感を植えつけられた。今、頼れるのは勇者ハルカのみ。
きっと、彼ならやり遂げてくれる、そう信じられる。
「エリカ、これ以上ハルカさんを邪魔してはいけないわ。私達はハルカさんを信じてる。それ以上のことはないわ。さあ、出ましょう」
「ええ。ハルカさん、幸運をお祈りします」
「解ってる」
バタンとドアの音がすると、ハルカは“王女の愛”を手に取り、祈った。
そして、いつもの鎧に身に着けているロトの印を握り締めた。
「ロト様、僕は戦います。ルビス様、ロト様、僕を見守っていてください」
“王女の愛””ロトの印”どちらもハルカにとっては大切なお守りなのだ。

場所は変わり、白い天空のテラスような場所。全体的に白く輝いている。
「……そうか、行くんだ」
そう、ここは夢の中、勇者ハルカは勇者ロト、レイルと会う。
一対一の話である。
「ええ。何日かかるか解りません。一ヶ月かそれ以上かかるかもしれません」
「君は……一人で戦うんだね。凄いよ」
勇者レイルは目を伏せて、勇者ハルカに微笑んで言った。
「いえ、ロト様がいてこその僕ですから」
「ありがとう。……ねえ、ハルカ。知ってた?君が旅立って、何度か……」
勇者レイルが言い終わらないうちに、勇者ハルカが言葉を挟んだ。
「聞こえてました。やっぱりレイル様なんですね」
「ああ。……僕はゾーマを倒し、神竜を倒し、プラチナと結婚し、二人の子供をもうけ、成長した時。子供達をアリアハン城に預け、僕とプラチナ、トウカとナギサは……いや、この先は言わないでおこう。死んだわけじゃないから安心しな」
ルビス様のいる不思議な世界なのかも知れないと、聞いたハルカは思った。雨の祠の旅の扉から訪れた、不思議な世界。そこと雰囲気はなんとなく、だが似ている。
「僕もいずれか行くことのなりますか」
「そうだね……まだ解らないかな」
勇者レイルは裏表のない笑顔でそういった。それは“行くことになる可能性が高い”ことを示していた。
そう読めた勇者ハルカだが、あえて言わないことにした。
「ねえ、ハルカ。僕は心配なんだ」
「え?」
「竜王って、……いや、なんでもない」
「レイル様……竜王の正体って解ります?」
「僕は上の世界で、光の玉を受け取った。光の玉を持っていたのは、『竜の女王』なんだ。あの方は、卵を産んだ後すぐに亡くなられたんだ……。人型はしているが、人ではない……まさか、あの卵から生まれたのは……」
「……」
勇者ハルカには詳しくは分からない話だったが、不穏な空気は読めた。
「レイル様……それは、確信があるんですか……」
「無いよ。ごめん、余計なこと、話してしまったね」
勇者レイルは苦笑して、直後に悲しそうな顔をする。
「まだ、そうと決まったわけではないのですね。でも、関連はありそうな気もします。『竜』、『卵』、そして、僕が取り戻そうとしている『光の玉』。……レイル様、僕は竜王を倒すべきなんですよね?」
「それは倒すべきだよ。君の肉親やローラ姫の母親、たくさんの人たちを殺してきた非道な魔王には間違いないからね」
「……ですよね。僕は、竜王を倒したいです」
「ああ。僕も信じてる。僕の大好きな、大事な子孫だから、なくしたくない」
アレフガルドに再び“光”を取り戻す為には、竜王を倒さなければならない。それは決定付けられたこと。
もう、何も迷いは無い。
「ハルカ、……頑張って」
「はい、レイル様。プラチナさんたちにも、よろしくお伝えください」
「解った」
空が白く光る、夜明けの時が来ることを知らせている。

ガーネットの月の寒空にファンファーレが響く。
「僕の為に……出陣式ですか?」
「その通りだ」ラルス王が答える。
ラダトーム城には多くの人々が訪れていた。
「ハルカ様!」
「ローラ姫!……僕は、絶対に戻ってきますから!」
「ええ。あ、あの……たまに、でよろしいので……」
ローラ姫は泣いていた。緊張か辛さか、そのような、胸を締め付けるような気持ちでいっぱいだった。
「解ってます。“王女の愛”で、話しかけますね。貴女の不安を、僕の不安を、少しでも和らげる為に」
ハルカもつられて泣きそうだったが、何とかこらえた。その代わり、イアン一家3人全員泣いていた。
「ハルカよぉーー生きて帰って来いよーー」
「頑張ってくださいね……」
「絶対、勝ってね…」
「はい、貴方達の期待に、絶対に沿って、みせます」
ラルス王も泣きそうになるが、国王と言うもの、国民の前では泣くわけには行かず、ハルカと同様に何とかこらえた。
そして、
「ロトの血を引きし勇者ハルカ、今ここに発つ!」
ラダトームの民は泣き、叫び、声援を送り、手を叩いた。
ハルカは石畳の道の上を、ゆっくりと歩いていく。
(絶対に、僕は、帰ってくる)
胸につけているブローチ状に変化した、ロトの印が、キラリと光った。 
 

 
後書き
物語も終盤です。
かなりガタガタですが(^^;)
 
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