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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第三五幕 「父を訪ねて約5600マイル」

前回のあらすじ:前へ、ただ前へ


IS学園には屋上に広めの芝生スペースが存在する。そこは昼ご飯を食べたりお喋りをする憩いの場的な存在である。その場所に・・・今日は妙に人が集まっていた。一夏、鈴、本音、佐藤さん、ラウラ、セシリア、つらら、ジョウ、シャル、ユウ、簪、箒という錚々(そうそう)たる面々である
その理由は、簡単に言えば複数の偶然が重なりあった結果として昼食を取る人数が膨れ上がったためだ。

先ずは一夏、本音の2人が此処に来た理由。
それは“ベルとも会”の今後の方針についていろいろ話した結果、やはりアドバイザーに佐藤さんが欲しいということになったため、話し合いの場を設けるために昼食に誘っていたのだ。わざわざ二人でこの日のために重箱の弁当まで用意してきた辺りに二人の本気度が伺える。
(・・・ちなみに一夏はこの時点で朝にユウに言われた『北風と太陽』の話をきれいさっぱり忘れていたため放課後の練習でケツバンカーをブチ込まれることが確定していることを本人は知らない)

次に佐藤さんとラウラの二人。
ベルとも会の重鎮2人の手に握られた重箱を見て本能的に「これは3人で食べきれるか怪しいな」と考えた佐藤さんは、転入生歓迎の意味も含めてラウラを誘ってみてはどうかと提案。2人は特に反対する理由がなかったのであっさり了承し、早速食堂に向かう途中のラウラを捕獲してここへ来た。
なおラウラ本人はというと、日本特有の文化である“弁当”に興味津々のようで嫌がってはいないようだ。

次に鈴。
こちらはシンプルに一夏と一緒に昼食をとりたかったがために、授業終了後その旨を伝えた結果である。
ちなみにその際の会話がこちら。

「一夏!今日は屋上で(二人っきりで)昼ごはん食べない!?」
「ああ、(丁度いいからみんなで)一緒に食べようぜ!」

互いに言葉足らず。屋上に着いたときには既に別のメンツがいたためアテが外れた今の鈴は結構な不機嫌である。だがせっかく鍛えた料理の腕を披露できる機会の為か不満を口には出していない。

次にセシリアとつららの二人。
先日のサンドイッチ事件のすぐあと、つららが「せっかくですので私の料理の腕前も披露します!!」と翌日分の食事を用意する旨をごり押しされたため、セシリアが断りきれず了承。一夏たちより少し前から屋上に到着していた。余程張り切ったのだろう、つららの用意したお弁当は明らかに2人分以上の量があった。

次にユウと簪。
2人はアンノウン事件以来鈴と一緒に3人で食事をとることが多かったため今日もそうしようとしていたのだが、教室を出る寸前にセシリアに「つららと二人きりは精神的にちょっときついから助けてくれ」と頼まれ、簪も一緒でいいならと了承した。当の簪は特に反対することもなく了承したが、つららのテンションの高さに煽られてちょっと引き気味である。

最後にジョウ、シャル、箒の三人。
一夏が「せっかくこんなに人が集まっているんだから」ということで呼び出されただけである。ちなみにこの日箒は自分の料理の腕が鈍っていないか気になったため自作の弁当を持ってきていた。どうも誰かに味を確かめてもらう気だったらしく、箒にとってその話は渡り船だったようだ。


「これだけ集まるとちょっとしたパーティだな」
「ひーふーみー・・・12人も集まってる。しかもそのうち専用機持ちが7人、いやラウラさんも多分持ってるから8人かぁ・・・」

食堂以外でこれだけの人数が食事することなどまずないだろうなぁ、とか考えているジョウに、集まったメンツの人数を数える佐藤さん。よくもまぁ美男美女ばかりこれだけそろったものである。この集りの実質的主催者の一夏は、持参したお茶を掲げて乾杯の音頭を取る。

「各自飲み物は持ったか?」
「お姉さま、どうぞ」
「ありがとう、つらら」
「ラウラさんは?」
「問題ない。自販機で買ってある」
「皆準備出来たみたいだな?それじゃあ・・・ラウラさん転入祝い、及び佐藤さんとジョウさんの補助生就任を祝って、乾杯!!」
「「「「かんぱーい!」」」」

最初の理由がどうあれ、これだけ人数が集まったのだから何かしら理由をつけて騒ぎたがるのが日本人の常というもの。・・・まぁ日本人じゃない人が混じっているのはご愛嬌。こういう場では騒がにゃ損損と言わんばかりに食事会は盛り上がった。

「どうよ私の酢豚は!」
「あ、俺ちょっと酢豚は苦手なんで・・・」
「兄さんつまらない嘘ついてないで食べてみなよ。(昔と違って)本当においしいよ?」
「オラオラとっとと食べなさいよぉ!!」
「もがが!・・・!?・・・美味い!」
「私も、ちょっと・・・もらう」
「この卵焼きを作ったのは誰だぁー!!」
「私こと織斑でございます、佐藤さま!」
「この程よい歯ごたえとゆっくり舌の上に広がる程よい甘味・・・何より美しい曲線を描いた形が素晴らしい!これはいい卵焼きだ!」
「感謝の極み!」
「ねーねーこっちの巻寿司も食べてみてよ~。こっちは私が作ったんだよ~?」
「・・・食べたことのないお肉ですわね。つらら、これは何のお肉ですの?」
「馬肉ですが?」
「ぶふぅぅーーー!?!?」
「そういえば連合王国は馬肉食タブーなんだっけ?もったいないなぁ、こんなに美味しいのに・・・しかも母国(フランス)から馬肉輸入してるから今更だし」
「あ、貴方知ってて食べさせましたの!?乗馬を学んだこの私に!?・・・・・・しかしまぁ法律で禁止されてるわけではないし、美味しいから食べますわ」
「ふむ、オルコットは思考が柔軟だな。柔軟な思考は戦いにも必要だとよく教官が言っていた」
「ボーデヴィッヒ、次はこのエビの味を見てくれないか?」
「どれ・・・美味い!流石は美食の国というべきか、篠ノ之の料理はどれもおいしいな!」
「そ、それは良かった。・・・あと、出来れば箒と呼んでくれ」

互いに弁当のおかずを交換したり分け合ったりしながら続いたこのミニパーティは、今まで話したことの無いメンバー達の交流の場ともなっていた。用意された弁当はどれも甲乙つけがたい出来栄えで、どの弁当箱もどのタッパーも10分後にはすべて空となっていた。
食べるものが無くなってしまえば、あとは残った時間でおしゃべりに興じる流れになり、そしてその話題の内容は、少しずつ転入生であるラウラへと移っていった。
そもそも彼女は正に今日来たばかりなのだから、皆多かれ少なかれ彼女の事が気になっている。元々名目上は彼女の歓迎会も兼ねているのだからと質問タイムがスタートした。
最初に質問をしたのはシャルロット。

「ラウラさんはどうしてこんな時期に日本に来たの?」
「それは・・・父に会うためだ。長く顔を合わせていないからな・・・」
「ラウラさんのお父さん?日本にいるの?」
「うむ。本当はもっと早く来たかったのだが・・・私の部隊はISについて独自の教習や訓練を受けていてな。学園に行く必要なしと上層部から許可が下りなかったのだ。今回は新型の実働テストと男子操縦者とのコネ作りの命令の元、特別に許可が下りた」

さらっとドイツ軍部の浅ましい部分が垣間見える命令が混じっていることにメンバーの顔が引き攣る。堂々とばらしている辺り、実は実行する気がないんじゃなかろうか?唯一自慢の鈍感力で“コネ作り”の部分をスルーした一夏が興味深げにラウラに次の質問を飛ばす。

「なぁ、ラウラのお父さんってどんな人なんだ?」
「訊きたいか!」
「うおっ!?は、はい!」

ずいっ!と一夏に顔を近づけるラウラの姿に、セシリアは何となくつららと同じオーラを感じて嫌な予感がした。
慌てて返事を返す一夏に満足したラウラは、それはそれは自慢げに父親の話を始めた。

「そうかそうか!ならば話さない訳にはいかんな!父はなぁ・・・凄い人なんだぞ!?」
「ほう、凄いのか」
「そうだ!施設で育ち、何も知らなかった私達に・・・父は全てを与えてくれた!あの人がいたから黒兎隊があるのだ!あの人がいたから、私達は胸を張って生きていける!」

それはもう見ているこっちが眩しくなるほどの笑顔で語りだしたラウラだが、しょっぱなから「施設」「私達」という非常に気になるワードが飛び出している。突っ込みたくて仕方がないが、突っ込んだら藪蛇の様な気がするので誰も突っ込まない。万が一くらい話とかが飛び出たらその空気を収拾できる自信がないし。まぁ口ぶりからして親代わりみたいな人なのではないかとシャルは予測する。

(『施設』って・・・孤児なのかな?)
(き、聞きたい・・・すっごくツッコみたい・・・!!)
(ここは、我慢するところ)

両手に握ったハリセンを抑え込もうと必死のユウの手に自分の手をそっと重ねる簪。ハリセンさえなければカップルに見えなくもない。

「父が教えてくれたことはすべて忘れず覚えているぞ!チョコバーの味、情報収集のコツ、悪巧みの仕方、フォーメーションの優位性、程よい手の抜き方のさじ加減、徹底的に相手に嫌がらせをする戦法、上司の怒らせ方と無能な上官のコントロール方法、果てはバナナやラズベリーで武装した敵からの護身術まで・・・父から教わった全てが私の中で生きている!」
(し、鎮まれ僕のハリセン!今はまだその時ではない・・・!)
(耐えるんだユウ、ここは黙って聞くのが男の心意気だ)

突っ込みどころの多さに耐えられなくなりつつあるユウをジョウが宥める。普段は逆が多いだけにハッキリ言ってこの上なく貴重な瞬間である。
しかし話を聞くうちに少しずつ見えてきたものがある。どうも彼女の父親は軍事関係者なのではないかという事だ。でなければ内容があんまりだし・・・軍事関係者だったとしてもあんまりだが。少なくともユウはそんな父親は嫌である。
そんなユウを尻目にラウラの父親話は終局へと向かう。

「だが父は仕事の都合上余り一か所に留まることがない。父は特定の女性とは付き合わないと言っていたが・・・あの人はなんだかんだでモテる!万が一私のいない間に父が知らない女とくっついてその間に子供が出来たら・・・私が第一子になれないではないか!だからそれよりも早く父と養子縁組をしなければいけないのだ!!」
「義理の父親かなとか薄々思ってたらそれですらなかったんかい!」

すぱぁーーん!!

「あ。」
「ぐふっ・・・これがジャパニーズ・ツッコミ、か・・・ふふ、見事・・・だ・・・ガクッ」
「ぼ、ボーデヴィッヒーーーーーー!!!」

とうとう我慢の限界に達したユウのハリセンがラウラの後頭部に直撃したことによって、その話は一応の収拾がついた。しかし気絶寸前までボケをかますラウラは意外と芸人気質なのかもしれない、とシャルは密かに思うのだった。ちなみに軍人である(らしい)ラウラをハリセン一本で昏倒させたユウの顔は―――

「ふふ・・・・あ~すっきりしたぁ!!」

この上なく解放感に溢れていたという。

なお、一夏は両親がいないせいか「父親ってそういうものなのか?」とあらぬ誤解を抱くという見事なマジボケをしていたとか。
 
 

 
後書き
丸々一話を使ったどんちゃん騒ぎ・・・意外と楽しかった。 
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