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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第三四幕 「模擬戦は遊びじゃない」

 
前書き
今までは一夏や原作キャラにスポットライトを当ててきましたが、そろそろオリキャラたちにも壇上に上がってもらいます。 

 
前回のあらすじ:がんばれまやまや


模擬戦が終わった。余りにも早く終わった。具体的に言うと1分もかからずに終わった。
結果は一夏、鈴ペアの圧倒的惨敗である。誰かがコメントする暇もなく、あれよあれよという間に模擬戦は終了してしまった。

「・・・はやっ」
「や、やまぴー強ぇ・・・」

「おーい二人とも息してるー?」
「「・・・心が折れました」」
「先生、どうやら大丈夫みたいです」
「それは重畳、さっさと立てお前ら」

この教師、ぬくもりの欠片もねえ。きっと魔界の住民だから思いやりがないに違いない。

一応試合内容について触れておこう。
先ず試合開始直後、一夏が突っ込んで鈴が衝撃砲による援護射撃を行った。
完全剣撃戦仕様の白式と連射性の高い火器を持つ甲龍の組み合わせなら、深く考えずともそういう役割分担になる。
2人はまず山田先生を狙うことにした。ジョウはIS騎乗経験が殆ど無いはずだからその点では恐らくこちらに一日の長がある・・・はず。とはいえジョウの人間性能から考えるとそんな優位はせいぜい数秒程度しか持たないだろう。よって二人は後衛であろう山田先生を倒すことにした。一夏がジョウに突っ込むと見せかけて鈴がジョウをけん制、その隙に一気に山田先生の懐に飛び込み零落白夜で仕留める、という作戦だった。
だが、二人は2つのミスをした。一つは、自分たちがISに乗って自分が強くなったような気分になり、ジョウの出鱈目な強さを無意識のうちに楽観視してしまったこと。そしてもう一つは、山田先生の力量を全く考えていなかったことである。

で、その結果どうなったかというと、牽制衝撃砲は着弾する前に掻い潜られて気が付いたら鈴の目の前に踏み込んできたジョウがコンニチワ。全く反応できないまま裏回られ武装のハルバードで思いっきり殴り飛ばされた。
そして予期せず山田先生への突撃ルートが開けた一夏はというと、山田先生の正確無比な射撃であっさり加速を潰された挙句大口径グレネードのプレゼントを貰い、爆風に煽られ吹っ飛ばされた。
吹き飛んだ両者は丁度ジョウと山田先生の中間あたりで互いに激突し、グロッキーとなった。以上、状況終了。

「射的の的にされる空き缶ってきっとあんな気分なんだろうなぁノォホホヘラヘラアヘアヘ」
「わ、私は牽制の龍咆を撃ったと思ったら、“目の前の”ジョウに“後ろから”吹き飛ばされて負けてた・・・瞬時加速とかPICとかそんなチャチなものじゃ断じてなかった!何なのよこれは・・・どうすればいいのよ!?」

そこそこ腕に自信を持っていただけに軽く精神崩壊を起こしかけている二人。新人がよくかかる病など最初からなかったのだと言わんばかりの完封敗北に意気消沈どころか轟沈である。自信と勇気とプライドの三本矢を纏めてボキ折られたようだ。
・・・ちなみにジョウのISが現在出力50%オフで量産機の打鉄と大差ない出力である事を知ったら、多分二人は泣くんじゃなかろうか。正に知らぬが仏である。

「・・・とまぁこんな風に残間兄は教師と遜色ない技量を持っているから実技でも手伝ってもらうことになった。また、山田先生もかつて日本代表候補生だったという経歴がある実力者だ。これからはそれなりに敬意を払う様に」

何となく投げやりに説明する千冬の後ろでは、ようやく生徒にいいところを見せられた山田先生がきゃっきゃとはしゃいでいる。

「やった!やりました!見てましたかジョウ君!?」
「見事な射撃だったよ、先生。しかもグレネードは俺が鈴を吹き飛ばしたのを見てから狙ってやったんでしょ?大したものですよ、ホントに」
「えへへ・・・」

いえーい、とハイタッチする二人だがISを纏ったままなのでガキャーンという耳障りな金属音しか鳴っていない。

「・・・敬意を払う様に」
「あ、あはは・・・」

山田先生が強いのは分かったが、結局山田先生の既存イメージは全然払拭できていない(というか本人がぶち壊している)と思う生徒一同だった。
その後は先生、専用機持ち、補助生の計10人で手分けして教導を行った。箒お姫様抱っこ事件は起こらなかったが代わりに山田先生がイタズラでISを纏った生徒にお姫様抱っこされる事件があった。
がんばれ、山田真耶。負けるな、山田真耶。明日はきっと、いいことあるさ。



 = =



「・・・っ!・・・けほっ、はぁ、はぁ・・・」

自分を除いて誰もいない室内に響く荒い吐息。呼吸を整え、再び正面のモニターを見据える。
モニターに映っているのは自分の同級生たちがISの操縦訓練をしている様。誰もかれもが失敗したり戸惑いながらもISを操り、充実した時間を過ごしている。それだけだ。それだけの筈なのに・・・それを見ることが、どうしようもなくベルーナには辛かった。だが、逃げてはいけないという鋼の意志が彼をこの場につなぎ止める。

「はぁ・・・はぁ・・・うっ・・・ッ・・・はぁ・・・」

こみ上げる嫌悪感を無理やり飲み込んで、ただその光景を直視する。それはトラウマを克服するための行動(リハビリ)だ。
心的外傷を克服するためには、トラウマとなった出来事を詳細に思いだし、その出来事が自分にもたらしたことを詳細に自覚することが必要らしい。自らの心に刻まれた傷がもたらす感情を正しく理解し、理解した感情を反芻することによってあふれる感情に“慣れる”。それはつまり、自分の引き起こした“あの事件”を受け入れるという事を意味する。

「・・・!!けほっ、けほっ・・・けふっ・・・!!」

再び喉にこみ上げてきた嫌悪感を抑え込む。乱れた息を正し、またモニターと向かい合う。彼自身は気付いていないが、その顔はいつにもまして蒼白で血の気がなく、足先や指先は絶え間なく震えている。溢れる冷汗は既にベルーナの全身を濡らしており、それでもベルーナは一心不乱にモニターを見つめ続けている。

彼を止める存在はいない。否、本当はいるのだが、ベルーナが室外へ追い出した。これは一人でやらなければ意味がないからと言い聞かせ、彼が万が一リハビリに耐え切れずに倒れてしまった時に助けてくれることになっている。


――ISが兵器だから怖い?そんなのは周囲を誤魔化すための嘘に過ぎない。暴力やそれを連想させるものが怖いのは本当だ。だが彼にはもっと明確に、ISという存在を忌避する理由が存在した。その理由を鮮明に思い出しては、また吐き気に襲われて口を押さえこむ。
受け入れなければならないのに、体が受け入れようとしないのだ。
あの光景を、あの事実を、あの自分を。だから、受け入れられるまで思い出し続ける。

親友と呼んでいたモノの変わり果てた姿を、鮮明に思い出す。
血で真っ赤に染まったあの鉄の躰が掲げた凶器を、鮮明に思い出す。
宙を彩った血潮と舞い飛ぶ人間の欠片(パーツ)を、鮮明に思い出す。
血に染まった(むくろ)の数々を、鮮明に思い出す。
子をかばって死んでいったあの人の最期を、鮮明に思い出す。

思い出してはまた大きく身体が震える。細い体を引き裂くような胸の痛みと震えを抑え込むように、ベルーナは自分の肩を強く抱いた。

「・・・いやだ、逃げたくない・・・僕は、もう・・・」

震えながら、ベルーナはモニターから目を離さない。ミノリも、オリムラも、ホンネも、セシリアも、皆前を向いている。前に進もうと動いている。
実の所、ベルーナは一夏と本音のことを少しだけ羨ましく思っていた。根強いアプローチに影響された部分もあった。目の前の困難を越えるまで一歩も引かないその姿勢だけは、ベルーナも認めていたからだ。だから、僕も立ち止まるのではなく前に進む。
例え無茶でもリハビリを続ける。誰に止められようとも、これこそが自分の通るべき道だと信じているから。


だが、もしも。

もしもその道が全く間違った道であったなら。

誰がそれを正してくれるというのだろうか。
 
 

 
後書き
今回はちょっと短くなったのでおまけにISの待機形態についてちょっとばかり私見をば。

打鉄は機体剥きだしのまま運ばれて、初期の白式も同じくだったじゃないですか。でも運ぶなら待機形態のほうが運びやすいですよね。ということは①まだ操縦者の登録を行っていないものは待機形態に出来ない、②又は一次移行を済ませてないISは待機形態に出来ない、③若しくは許可ないISの持ち出しを防止するために訓練機は待機形態に出来ないよう設定されてある、のどれかじゃないかという憶測が成り立ちます・・・多分。
そして公式画では打鉄の待機形態が刀型であったことから②の可能性は薄くなります。白式があの状態で運ばれてきた理由に関しては展開時のエネルギー消費を抑えるためとかIS輸送時に簡単に運べなくする事で盗難されにくくしているとかの説明付けをすることが出来ますから①も微妙。よってこの小説では③の説を採用してます。というどうでもいいお話。
しかし調べれば調べるほど待機形態は良く分からん・・・紅椿とかアニメではラミエル状態→IS形態→スズ付きのヒモという3段変化を見せたし、謎は深まるばかりだ・・・(単に作者が深く考えてない可能性はあるけど)

的外れなこと言ってるかもしれないけどあまり気にしないでね? 
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