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フィガロの結婚

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10部分:第二幕その二


第二幕その二

「私も。だけれどそれでも」
「若し私とスザンナがそれを断ればマルチェリーナの話を出して来るでしょう」
 フィガロも彼女が自分に変な気持ちを持っていることはわかっていた。
「何せこっちには借金もありますから」
「じゃあ駄目じゃない」
 スザンナはそれを聞いてすぐに述べた。
「借金があるのなら」
「大丈夫だよ。答えはここにあるから」
 けれどフィガロは陽気に己の頭を左手の人差し指で指し示しながら述べるのだった。
「ここにね」
「考えがあるのね」
「バジーリオを使って」 
 当然自分達の敵なのは承知している。
「それでですね。一枚の書付けをわざと届けさせるのです」
「あの人になのね」
「はい」
 笑顔で夫人の言葉に答える。
「それでですね。舞踏会の時間に奥方様が意中の恋人と逢引を為さるとお知らせして」
「えっ、そんなことをしたら」
 しかし伯爵夫人はそれを聞いて顔を強張らせた。
「あの人とても嫉妬深いのに」
「だからですよ。伯爵様が非念を持たれてそれで動けばそれでいいんですよ」
「それでなのね」
「そうです。奥方様は潔白ですから伯爵様が勝手に騒がれただけ」
 ここでも笑いながら話す。
「そうなればわし等はそれを楽しく見ているだけ。如何でしょうか」
「伯爵様はいいけれど」
 スザンナは彼はいいとした。
「けれど」
「けれど?」
「バルトロさんにマルチェリーナがいるのよ」
 顔を顰めさせてフィガロに対して言う。
「あの二人が邪魔よ」
「何、ここで使える奴がいるだろう?」
「誰なの、それは」
「ケルビーノさ」
「ケルビーノが!?」
「そう。あいつがその逢引の相手なんだよ」
 彼はここでまた種明かしをした。
「あいつに女装をさせて御前の代わりにそこに行かせる」
「ええ」
「ところが奥方様は別の場所におられて不意に出られるから伯爵様は大驚き、こういうわけで」
「どうかしら」
 夫人はここまで聞いたうえでスザンナに顔を向けて問うた。
「フィガロの考えは」
「悪くはないですね」
 スザンナは頭の中で吟味したうえでこう述べた。
「それもで」
「じゃあそれでいいのね」
「はい。私もそう思います」
 スザンナはフィガロの案に賛同した。これで話は決まりだった。しかし話は決まっただけでまだはじまってはいなかった。夫人は今度はこうフィガロに問うたのだ。
「それで何時から取り掛かるの?」
「伯爵様は今狩りに出ておられます」
「ええ」
「数時間は戻られません。私はその間にケルビーノをここに呼びます」
「それで彼を着替えさせる」
「そう。まあスザンナがいいかな」
 そして今度はこう言った。
「奥方様に化けてその逢引の場所に向かうのは」
「そうね。では奥方様、それも」
「ええ、御願いするわ」
 夫人はスザンナの提案に対しても頷いた。
「それでね」
「わかりました。それでは」
「じゃあわしはこれで」
 フィガロは早速動きだした。
「ケルビーノを呼んで来る。それじゃあ」
「ええ。御願いね」
 こうしてフィガロは部屋を後にした。二人はそれを見送る。夫人はフィガロがいなくなるとすぐにスザンナに顔を向けて言うのだった。
「ケルビーノはあの人が貴女に言い寄るのを聞いてしまったのね」
「はい、それで」
 だからであるのは夫人ももう知っているのだった。
「今から連隊に」
「可哀想なこと」
 素直にケルビーノに同情していた。
 
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