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タンホイザー

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第二幕その三


第二幕その三

「そなたの秘密はそなた自身が解決できるようになるまで魔力の力で破れぬようにしておくのだ」
「有り難うございます」
「歌は素晴らしいものを目覚めさせ活気づける。今日もまた同じだ」
「同じなのですね」
「優しき芸術よ、今こそ実現せよ」
 今こう宣言するのだった。
「もうすぐここにこのチューリンゲンの貴族や騎士達が集う」
「あの方々が」
「そうだ、皆集うのだ」
「歌手達もですね」
「彼等こそが主役」 
 ヘルマンが治めるこのチューリンゲンはかなり栄えていた。彼はこの地を治める者としてあらゆる者の敬愛を一身に集めていたのである。無論貴族や騎士達のそれもである。
「そなたの前にもな」
「そしてあの方もまた」
「そうだ。彼もだ」
 それが誰なのかはもうヘルマンもわかっていた。
「来る。ではな」
「はい」
 ここでファンファーレが鳴った。それと共に殿堂に次々と着飾った貴族や貴婦人、騎士達がやって来る。彼等はそれぞれへルマンとエリザベートの一礼しそれぞれの席に着いていく。席が全て埋まるとそのうえで彼等はヘルマンを讃える言葉を告げるのであった。
「喜びて我等は貴き殿堂に挨拶を送る。ここに芸術と平和は永遠に留まりてあれ!」
 まずはこの殿堂と芸術、そして平和が讃えられる。
「喜ばしき叫びよ長く響け。チューリンゲン領主たるへルマン万歳!」
「では今より歌手達の入場です」
 小姓達がここで厳かに告げる。ヘルマンとエリザベートは城の主の席に並んで着く。エリザベートは妻を亡くしたヘルマンの隣に座して女主人の役割を担っている。
 まずはヴォルフラムが入り続いてビテロルフ、そしてヴァルター。ラインマルにハインリヒも入る。皆着飾り見事なマントを羽織り大きな竪琴を持っている。
 そして緑の騎士もまた。タンホイザーは緑の服とマント、それにやはり竪琴を持ってやって来た。彼の姿を見て貴族や騎士達の中には声をあげる者もいた。
「タンホイザーだ」
「噂には聞いていたがやはり」
「戻って来たのか」
 帰還を喜ぶ者もいれば驚く者もいる。
「何処に行っていたのか」
「死んだとも言われていたが生きていたのだな」
「そうだな。そしてそれだけではないな」
「うむ」 
 タンホイザーを見つつ語るのであった。
「何かを見てきたようだな」
「遠い目をしている」
 このことに気付く者もいたのだ。
「一体何処に行っていたのか」
「そして何を見たのか」
「それが歌われるのだろうか。それとも」
「何かが起こるのだろうか」
 人々はタンホイザーを見続けていた。だがやがてその話も自然と消えてヘルマンが立ち上がり。厳かに場に対して告げるのであった。
「かつてよりこの殿堂では多くの美しい歌が素晴らしい歌手達によって歌われてきた。卿等は賢明なる謎の歌や陽気な歌で我々の心を救ってくれた。我々の剣は多くの鮮血を経てドイツを救ってきた」
 これこそ辺境伯の誇りであったのだ。元々はプロイセンにしろオーストリアにしろそうである。ゲルマンの防波堤でもあったのだ。
「残忍なヴェルフ達に対抗し分裂を防いだ」
 教皇に属する者達と皇帝を指示する者達の戦いは神聖ローマ国内のことだ。ドイツは内外に多くの悩みを抱えていたのである。
「卿等の功績はこういった剣での功績に比肩する。いと高き、美しき勝利だ」
 こう言ってミンネジンガー達を褒め称える。
「そして今日は彼が帰って来ている」
「タンホイザーが」
「如何にも」
 客人達にも胸を張って答える。
「不思議なる奇蹟により。そして今私は今回の歌合戦の主題を提示しよう」
「それは一体」
「愛の本性だ」
 彼が提示したのはこれであった。
 
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