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タンホイザー

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第三幕その三


第三幕その三

「あの道だ。かつて私が容易く見つけることができたあの道を」
「あの道!?」
「それは一体」
「女神の泉」
 こう騎士達に答えてきた。
「そこへの道を」
「馬鹿を言え」
 ヴォルフラムが彼の言葉を遮った。
「君の行く道はそこではない筈だ」
「そうだ」
 ハインリヒも言う。
「君はローマに行くべきだ。また」
「いや、行ったのだろう?」
 ヴァルターはこのことを彼に問うた。
「ローマに。確かに」
「ローマのことは言わないでくれ」
 しかし彼はこう言葉を返すだけであった。
「もう。私には」
「聖祭には出たのだろう?」
 ラインマルが問うのは祭のことであった。
「ならば」
「それも聞かないでくれ」
 これもまた遮るタンホイザーであった。
「私には」
「では君はどうしてここに」
 ヴォルフラムはタンホイザーの側に来て彼に直接問うた。
「来たというのだ。よかったら話してくれ」
「そうだ、是非共」
「我々に話してくれ」
「何故そんなことを言う」
 タンホイザーはここで騎士達に対して問うた。
「君達は私の敵ではなかったのだ」
「敵!?違う」
「そうだ」
 すぐに騎士達はそれを否定した。
「何故我々が君の敵なのだ」
「我々は君の友人だぞ」
「友人か」
 その言葉がタンホイザーの心に響いた。
「私を友人だと言ってくれるのだな」
「何度でも言う」
「だから。君をここで」
「そうか。私を仲間と」
 騎士達の言葉を聞き今タンホイザーの心が動くのだった。
「言ってくれるのだな」
「常に競い合ってきたではないか」
「それでどうしてそんなことを」
「わかった」
 タンホイザーは彼等の言葉を聞いているうちに意を決した顔になった。そうしてそのうえで話をはじめた。彼のこれまでの話を。ローマでの話を。
「私は今までどの様な懺悔者も感じなかった程の心を以ってローマへ向かった。一人の天使を傲慢なる者から不遜の罪を取り払ってくれたのだから」
「それはわかっている」
「だからこそ君は」
「そして」
 タンホイザーはさらに歌う。
「その天使の為に謙虚に懺悔し拒まれた救済を請い彼女の涙に応えようと決意していた」
「だからこそローマに行ったのだろう?」
「違うのか?君は」
「私の傍に重圧に耐えかねた巡礼者が道を辿るのを見ても私の心に比べれば容易であった」
「容易だったのだな」
「そう、容易だった」 
 また騎士達に述べる。
「彼等の足が牧場の柔らかい土を踏む時私は裸の足で茨や石を求め彼等が泉で石を潤す時私は太陽の灼熱を浴びた」
「苦難を自らも止めたか」
「これだけではなかった」
 歌が続けられる。
「彼等が敬虔に天に祈る時神を讃え血を流し宿屋で疲れを癒す時雪と氷の中にいた。イタリアの優しき山野からも自然の美からも目を閉じた。苦痛を自ら受けたのだ」
「充分ではないのか?」
「それでローマに行けば」
「ローマの聖なる場所に至り聖域のしきいに座して祈った。朝が来て鐘が鳴り天の歌を響かせた」
「天のか」
「やがて激しい歓喜の声があがり」
 巡礼者達の声である。
 
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