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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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崑崙の章
  第9話 「おじちゃん、だいじょぶ?」

 
前書き
先生……話が……進みません(涙) 

 




  ―― 盾二 side 涪陵(ふりょう)近郊 ――




 白帝城を出て八日。
 劉表が用立ててくれた大型船に乗った俺と桔梗と紫苑は、桔梗が治める巴郡へと向かっている。
 流れが緩やかな長江ゆえ、上流に遡ることも風さえあればそう難しいことではない。

 だが、所々では傾斜による若干の急流地帯も確かに存在する。
 現代ならばエンジンがあったり、帆船の切り上がり性能などを駆使して上流へと昇ることも可能だろう。
 とはいえ、エンジンなんてものはなく、帆船技術も現代に比べればないに等しい。
 ではどうやっているのか。

「それえ、もうひとがんばりじゃ!」
「「せーのっ!」」

 人力(じんりき)である。
 長江の畔に数十人の人足を雇い、その人力(馬や牛の力も利用する)で遡らせる。
 特に、風が逆風の場所などではこうでもしないと上流に行くことなど出来ない。

(この時代にガソリンエンジンがあればなあ……いや、せめて蒸気機関か? 超伝導推進なんて贅沢は言わないからさぁ……)

 畔で必死にロープを引っ張る俺が、そう愚痴るのも仕方ないんじゃないかと思う。
 なにしろ……

「なんで、俺だけ反対側一人なんだよぉぉぉっ!?」
「お主のその馬鹿力は十人力なんじゃろうが! ええからそっちも、もっとひっぱれい!」

 船で指示する桔梗の叱咤に、ぐうの音も出ない。

 水夫だけでは足りないので助力を申し出たら、一人で反対側のロープを引っ張れとのこと。
 船を引っ張り上げる荒縄は、本来数十人で引っ張るような太いものだ。

 それを一人で引っ張る、こちらの身にもなってくれ。
 いくらAMスーツがあるとはいえ、中身は普通の人間なんだ。
 人が連続で全力をだせる時間なんて、ほんの数分なんだぞ。

「くぉのぉやぁろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 バンッとAMスーツの人工筋肉が肥大化して、俺の力を三十倍以上に増大させる。
 それと同時に、こちら側にある別のロープを結んだ牛や馬に鞭を振るった紫苑が、彼女の周囲で手伝う人たちに声を掛ける。

「がんばってくださぁぁぁぁい! この場所さえ越えれば、先は穏やかな支流ですわぁっ!」
「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 俺は、地面に足をめり込ませながら荒縄のロープを引っ張る。
 ゆっくりと流れを遡る桔梗が乗る大型の船。
 その巨体をギシギシと軋ませながら、ようやく傾斜により若干急流になっていた場所を乗り越える。
 鈍重な大型船が数十人と牛や馬の力を借りて、穏やかな大河の流れにその巨体を浮かばせた。

 船に残った水夫が急いで錨を下ろして、下流に流されないようにその場に停泊させる。
 それと同時に、ひっぱりあげていた俺たちはバタバタと、その場に倒れこんだ。

「くはぁぁぁぁっ……はあ……はあ……」

 ぐったりとして俺が座り込む。
 顔だけ対岸に視線を送れば、反対側でも疲れ果てた水夫がそれぞれ大の字で寝そべっている姿が見えた。
 牛や馬を一緒に先導していた人々にまかせた紫苑が、こちらに駆け寄ってくる。

「お疲れ様でした、盾二様……大丈夫ですか?」
「ぜぇ……ぜぇ……な、なんとか……」

 紫苑に強がるも、正直疲れた。
 かれこれ一刻(二時間)以上も引っ張り上げていたのである。
 さすがにスタミナに自身がある俺も、全力で二時間引っ張り続けるのはつらい。
 牛や馬がいなかったら、到底無理だったろう。

「ここで休んでいてください。わたくしは借りていた牛や馬を返して来ますわ」
「お、お礼は、はずんで、あげて、ねぇ……」
「もちろんですわ。無理を言いましたし」

 そう言って、馬と牛を世話している人々の元へ向かう。
 彼らは、近所の邑から牛と馬を持ってきてくれた上に、船を引き上げる手助けをしてくれた農民だった。
 近隣の邑に無理を言って農耕馬や牛を借りたのだ。
 普通なら断わるだろうが、そこは巴郡の領地。
 桔梗の一言で邑の全ての馬と牛を借りることができた。

 ここが桔梗の治める領地で本当に良かったと思う。
 でなければ、こんな数の牛馬を借りることなど出来なかっただろう。

「て、てか。船、でかすぎ、なんだよ……」

 俺たち三人を運ぶだけなら小さな小舟で十分。
 大体、それならば船に頼らなくても馬で行ったほうが十分早い。
 いや、徒歩でもいいのだ。
 それなのに、船でわざわざ長江を遡る理由。

「こんなものが、迷惑料、だって、いうの、だから……」

 劉表が桔梗に出した見舞金……いや、見舞いの品。
 その内訳は、なんと三千万銭と、この大型船。
 実質、白帝城の金蔵を空にして見舞金を桔梗に出したのである。
 その重量……およそ一トン。
 それはいい。

 だがもう一つ。
 武装船にして乗組員定員、実に二百人という新型の大型船舶。
 これが桔梗に『迷惑料の一部』として贈られた。

 しかし……しかしだ。
 やっぱり劉表は、考えなしだと思う。
 最低限の船員はつけてくれたのだが、上流に持っていく『手間』というものを考えてはくれなかったのだ。

 いくら海の如く広いとはいっても、ここは長江……”川”なのだ!
 にもかかわらず、外洋船のような大型船舶を下流でなく上流に運ぶその労力……それをこっちまかせにしやがった。

 出航するまで狂喜乱舞していた桔梗が、遅々として進まない船足に、段々とテンションがダウンしていく(さま)を本人に見せてやりたかったよ。
 陸路なら巴郡まで徒歩でも六日という距離。
 にもかかわらず、八日も経ってようやく巴郡近辺の涪陵まで辿り着いた。

 正直、この八日間で船の扱いが素人である俺が、多少なりとも船の扱いを覚えたほど、この船のトラブルは多かった。

 なにしろ大型ゆえに、喫水(きっすい)が深い。
 ここは海でなく川。大型の船舶は中央でないと座礁する危険もある。
 なおかつ、上流には喫水ギリギリの場所もあり、船底を擦って浸水することもあった。
 おまけに、現代の帆船のような縦帆やマストが何本もあるような船ではない。
 一本マストの横帆でしかないのだ。
 その為、スピードの遅いこと遅いこと!

 どういう理由でこんな船を上流の巴郡に贈る気になったのか、意図がまったくわからん。
 いじめか、不良在庫を押し付けられたんじゃないかと俺でも思ってしまう。

 とはいえ……桔梗にとっては恩も義理もある大事な後ろ盾。
 その相手から贈られた船を、無碍には出来ない。

 結果、こうして苦心しながら桔梗の自領地であるここ、涪陵まで運んできたのである。

「はあ……さてと」

 俺は、息を整えて起き上がり周囲を見回した。

 紫苑は近くの邑に、手伝ってくれた農民と一緒に牛や馬を返しに行った。
 桔梗は船の水夫にあれこれと指示を出している。
 おそらく近くの街である、涪陵にこの船を係留するのだろう。
 さすがにここから巴郡までこの船を持っていくのはきついしな。

 ……しょうがない。
 俺は溜息を一つ吐いて、歩き出す

(俺が引き取りに行くしかないか……)

 ゲロを吐いているお医者様を。




  ―― 璃々 side ――




「おじちゃん、だいじょぶ?」
「うう……すまないな。大分楽になったよ」

 わたしは璃々。
 いまは華佗おじちゃんがぐあいがわるいので、木陰でよこになってもらって、みずでひやしたぬのをしぼっています。
 それをおじちゃんのあたまにのせると、おじちゃんはあおいかおで璃々に、おれいをいってくれました。

「まるでおかーさんが、お酒のんだあとみたい」
「うう……ゴットヴェイドーの継承者たる俺が、船ごときでこんな状態になるとは……一生の不覚だ」

 そういって、華佗のおじちゃんがちょっとくさいいきをはきます。
 さっきまでげーげーいいながら、かわらではいていました。

「むりしちゃだめだよ? そんなににがてなら、おふねにのらなくてもよかったのに」
「い、いや! ゴットヴェイドーの継承者たる俺が、船如きにいつまでも苦手でいるなどあってはならないんだ! だからこそこうして……」
「まいにちまいにち、おふねからきたないものはいたら、みんなこまっちゃうよ?」 
「うっ……」

 華佗のおじちゃんが、あおいかおのままでかたまっています。

「おかわは、みんながつかうだいじなばしょなんだから。おせんたくとかおりょうりとか、みんなおじちゃんのはいたものまみれになっちゃうよ?」
「うう……」
「おじちゃんは、ききょーさんのからだをなおした、おいしゃさんなんだから……みんなのこともかんがえなきゃだめとおもうよ?」
「……ハイ」

 えへん。
 璃々がおかーさんにいつも「他人に迷惑をかけてはダメよ」といわれているから、おじちゃんにおせっきょうをしてみました。
 華佗のおじちゃんは、おこられたときの璃々みたいになっています。
 やっぱり、だれでもおこられたらこうなるんだね。
 璃々は、ひとつおりこうになりました!

「なっさけねぇ……」

 ためいきのような声がうしろからきこえました。
 あ、おにーちゃんだ!




  ―― 盾二 side ――




「なっさけねぇ……」

 俺が呟くと、璃々ちゃんが振り向いた。

「あ、おにーちゃん!」
「璃々ちゃん、悪いね。華佗の世話させちゃって」
「うううん! みんなはたらいてるんだもん! 璃々もおてつだいするよ!」
「ははは……璃々ちゃんは偉いなぁ。それに比べて……」
「………………」

 璃々ちゃんの頭を撫でつつ、華佗を見る。
 その華佗は、苦虫を百匹ぐらい噛み潰したようなふてくされた顔でそっぽを向いた。

「華佗ぁ……俺言ったよな? 船苦手なら歩けって。どうせ歩くより遅い船なんだからって」
「…………」
「そりゃ、璃々ちゃんでさえ船酔いにならないぐらい穏やかな長江なのに、船酔いになっちまうのが恥ずかしいのはわかるけどさ……もう八日になるのに毎日げーげーやってるんだ。体質的に無理なんだって」
「む、無理だからと諦めたら、成長はない! やってやれないことなど、この世にはないんだ! どんなことにだって勇気をもって立ち向うことが、五斗米道の教義だ!」
「だからって、こんな小さな子にゲロの世話させて力説することじゃねぇなぁ」
「う……」
「はあ……そこで逡巡するってことは、自分で気付いているんだろ? いい歳なんだから自重してくれよ」
「俺はまだ若い!」

 がばっと起きて反論するも……

「はうっ……」

 ひゅ~と風船が萎むように力が抜けてまた倒れこむ。
 やれやれ……体調悪いのに力むからだ。

「大体、無理についてくる事はなかったんだぜ? 俺は西に向かう理由があるし、桔梗は巴郡に戻るからついでに同行しただけだ。紫苑は、しばらく桔梗の元で世話になるから一緒にいるんだけどな」
「お、俺だって理由はある。厳顔の経過観察も兼ねて、こっちの五斗米道の連絡員へ接触する為だったんだ。だから……」

 そうはいうがな……無理に船まで乗ることはないだろうに。
 陸路でついてくる方法もあれば先に行くという選択もあるだろう。
 そのくせ桔梗の治療代は受け取らないんだからな……変な奴だよ。

「……まさかとは思うが、まだ一刀のことで俺に気を使っているんじゃないだろうな?」
「………………」
「あのなぁ……だから言ったろ? それはもういいんだって。一刀のことは貂蝉に任せたんだ。いずれ目を覚ます。だから……」
「だが、俺はお前に約束した。必ず助けてやると」

 そう言って、額の濡れた布を握りしめて起き上がる。
 その顔には苦渋の表情があった。

「なのに、俺には何も出来なかった……俺はお前の信を裏切った。お前があれだけ俺を信じて託してくれたというのに……」
「華佗……」
「結局、人任せにして総本山に置き去りだ。どの面下げて、お前に会うことが出来ようか……そう考えていたのに、な。まさかあんなところで出会うとは……」

 自嘲する様に笑う華佗。
 その様子に、隣にいる璃々ちゃんが不安げな顔をして俺を見る。
 ふう……

 俺は璃々ちゃんの頭を撫でながら、華佗を見る。

「華佗……あんたの気持ちは嬉しいよ。だが、ここに璃々ちゃんがいなければ俺はお前を殴っているぜ?」
「!?」
「ふぇ?」

 俺の言葉に華佗は顔をあげ、璃々ちゃんは自分の名前が呼ばれたことで俺を見る。

「俺はあんたに一刀を預けた。それはあんたならば、どんな手を使っても一刀を助けてくれる、そう思ったからだ。その手段として、あんたは貂蝉に一刀を預けた。それが一刀を目覚めさせる方法だと、あんた自身が信じたからだ」
「…………」
「そのあんたが、何故俺に負い目を持つ? あんたはあんたにできる最善の方法をとっただけだろう? 自らの手だけで全てを救う事”だけ”が、あんたの信じる五斗べ……いや、ゴットヴェイドーなのか?」
「!!」
「一刀は必ず助かる。それを俺が信じているのは、貂蝉が言ったから、という理由じゃない。”俺が仁ある医師だと認めたあんたが信じた解決策だから”こそ信じているんだ! そのあんたが何を迷うんだ!」
「俺が……迷う……」
「医師は患者やその家族に対して自分の不安を見せてはならない。これは俺に医療術を教えた医師の言葉だ。患者やその家族にとって、医師は唯一の縋る相手なんだ。医師は患者の命だけでなく、その家族の祈りの責任も背負う義務がある、とな。医師が自分の示す治療を信じられなかったら、それを頼りとする患者とその家族は何を信じろというんだ?」
「………………」
「だからこそ医師は知識と技術を求められる。強い責任感と、それを越える多大な責務を背負わされる。それでもなお人のために自らを尽くすからこそ、医術は仁術と呼ばれるんだ。それを成さない上っ面の医師などただの技術屋だ。医”師”じゃねぇ」
「医術は、仁術、か……」
「まあ、それをわからないやつが多いのは確かだがな。だが、俺はあんたにその”仁”を見たんだ。そして託した。少しは自分を信じてくれよ」
「北郷……」

 華佗の布を握りしめる手に、ぽたっと雫が落ちた。

「そうだ……そうだ、な。俺が俺を信じなきゃ、人を助けることなど出来はしない……」
「ああ。そしてあんたはそれが出来る男だ。だから華佗。俺はあんたをこれからも信じる。一刀を……頼むぜ」
「……ああ、まかせろ!」

 船酔いだった青い顔。
 その顔に見る見る生気が漲っていく。
 華佗は、懐から鍼を取り出して立ち上がり、空の天頂にある太陽へ突き出した。

「俺は華佗だ! ゴットヴェイドォーの継承者にして、全ての病をこの世から無くすことを目指す者!」

 そしてその暑苦しい眼差しで、俺にニヤリと笑いかけた。

「俺に任せろ! 必ず助けてやる!」




  ―― 厳顔 side 巴郡 ――




 劉表殿から贈られた船を涪陵へ係留した次の日。
 わしらはようやく巴郡へと辿り着いた。

 涪陵から我が巴郡の距離は、実に百里(五十km)程度。
 もし、あの大型船を使っていれば後三日はかかったかも知れぬ。
 実に……実に困ったものを譲り受ってしまったものじゃ。
 わしは人知れず溜息をつく。

 あの大型船を戴いたときには、それはもう嬉しかった。
 なにしろ儂の領地である巴郡は、長江に面した場所じゃ。
 船は一艘でも多くあったほうがいい。
 錦帆賊は壊滅したとはいえ、上流には未だ江賊がいる。
 水軍はあるものの、兵を乗せる戦舟など精々十にも満たない。

 だからこそあの船を旗艦にできると考えたのじゃが……甘かった。
 あの船は遅い、遅すぎる。
 あんな鈍重な船など、火矢でも喰らったらいい的じゃ。

 百人、二百人乗せることが出来たとしても、軽快な小舟で往復したほうがずっと早く済む。
 まったく……とんでもないものを渡されたものじゃ。
 とはいえ、劉表殿の善意ではあるからの……いまさらいりませぬとも言えぬ。
 仕方なくとはいえ、上流へと運んだのじゃが、苦労の連続じゃった。

 船自体が重くて遅く、風がなければ何人がかりで櫓を漕いでも上流に上れない。
 おまけに船底が川底に擦って浸水する始末じゃ。

 さすがのわしもこんな船は見たことがない。
 大きければいいというものではないのう。
 わしの胸と同じじゃな。
 いくら大きくとも、歳をとれば垂れ……ごほんっ!

 まあ、それはともかくとして。
 もう一つの問題は、わしを救ったあの若造のほうじゃ。
 確か……華佗とかいったの。
 あやつの船酔いには、ほとほとまいった。
 まったく揺れなどないような状況であるのに、毎日毎日げーげーげーげー……
 盾二が降りて歩けといっても、頑なに降りようとせん。

 結局、涪陵近くの渓流のところで降りたのだが、それまでの日々はつらかったぞ。
 おかげでその匂いを誤魔化す為に酒を飲んで、わしまで吐いてしまったわ。
 ……いや、それは関係ない、かの?

 ともあれ、ようやくわしの領地である巴郡に戻ってこられた。
 さて、今日は祝い酒と行くかのう。
 まさか三千万銭もの大金をいただけるとは思わなんだ。
 通常の援軍での報奨金は、精々三百~五百万、数万という大部隊での援軍であれば一千万以上というもの。
 それがたった三千の兵で三千万もの大金を褒賞としてだしたのだ。

 劉表殿の気前のいいことよ。
 それを盾二は「これは桔梗の命を危うくした迷惑料だよ。口止め料も入っているし、安いぐらいじゃないか?」とか言いおる。
 まったく、あやつは頭は良いようじゃが、口賢しいところがあるのぅ。
 そもそも『口止め』とはどういう意味じゃろうな?

 まあ、これらは命を散らした兵への慰労金としてその家族へ分配する予定じゃ。
 とはいえ、大量すぎるでの。
 通常ならば見舞金などでないのだから、扱いは慎重にせねばならぬ。
 兵を失うごとにこんな金を兵の家族に渡していたら、太守などやっていけんわい。

 一月分の俸給である穀物支給は八升(約三kg)じゃから、糧食を仕入れて配分するか、それに見合った金を特別褒賞として家族へ渡すぐらいじゃの。 
 減った兵を新たに募兵せねばならぬし、失った武防具も揃えなければならぬ。

 ほんに兵というのは金食い虫よ。
 だが、野盗や江賊、街を守る為にはやむをえん。
 それにまだ黄巾の残党も蠢動しておるしのう。

 そういえば、わしの兵を殺した黄巾ども。
 噂では北の漢中方面へ向かったようじゃが大丈夫なのじゃろうか?

 確か、盾二の主である劉備が治める地であったな。
 梁州が設置され、その刺史となったとはいえ、いまだ一月足らず。
 元々、かの地を治めておった漢臣は洛陽へ引き上げたというし……劉備の才覚がモノをいうじゃろうな。

 だが、盾二はそんな心配は微塵もしておらぬらしい。

「劉備の臣には優秀なのが揃っています。俺の臣もいます。まあ、なんとかなるでしょう」

 そう言ってのほほんとしておる。
 まったく、肝が太いというか……大したやつじゃよ。
 もっとも、それが過信でなければよいのじゃがな……

 とはいえ、我が領地とも隣接することじゃし、折を見てこちらからも使者を出すとするかの。

 な、なにしろ……なにしろ。
 み、みみみみみ、みら、未来の……

 ”旦那様”かもしれぬからのぅ……キャー、キャー、キャー!

 ……
 …………
 ………………

 こほん。
 わしのキャラじゃなかったの。キャラってなんじゃ?

 と、ともあれ!
 まずは祝宴じゃ!

 ……盾二には酒を飲ませないようにしておこうかの。
 さすがに焔耶の前であの醜態は勘弁して欲しいからの。

 ふたりっきりならば、よいのじゃがなぁ……
 まあよい。

「開門、かいもーーーーん!」

 さて……わしの領地にして、魔窟に帰ってきたのじゃな。
 いつまでも気楽ではおれぬ。

 どこで寝首をかかれるかわからぬ、この場所ではの。 
 

 
後書き
予定では焔耶さんとの邂逅のはず……だったんですが。
何故か華佗さんゲロ状態。どうしてこうなった……

ちなみに華佗の船に極端に弱い設定はオリジナルです。 
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