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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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崑崙の章
  第8話 「ともあれ、大儀であった!」

 
前書き
かなりはしょったのに、白帝城ですでに8話……私って話を決められた枠内で収めるって実は苦手かもしれません。
1話から8話までプロットでは2行、80字程度だったりします。 

 




  ―― 盾二 side 白帝城 城内 ――




 白帝城内にある王座の間。
 そこは、重要な案件を決める為、本来は密室であり、警備の兵もそれを取り囲むようにして配置される。
 しかし、清掃などの理由により扉は開け放たれ、格子の入った窓も全開にされ、外の空気を入れ替えることもないとはいえない。

 ――それが清掃であるならば、だが。

 にも拘らず……今、俺は開け放たれ、外が見えるような王座の間で、荊州州牧である劉表の前に立っている。
 そう……立っている、つまりは面会している。
 ということは、本来外に聞かれてはまずいような状況ではあるのだ。
 なにしろここは……繰り返すが王座の間なのである。
 暗殺、間諜などのリスクが付きまとう場所なのだ。

 では、その状況であるのに、何故こんなにもオープンにした状況で面会して話が始まろうというのか?

 原因、がある。
 そう……とっても大事な原因が。
 それは――

「……すごい(にお)いじゃの」

 劉表が入室してきて開口一番の言葉がそれだった。

 そう……その理由は!

「お主等は一体、いつまで酒を飲んでおったのじゃ?」
「……記憶にございません」

 俺が代表で答える。
 そう、その匂いの元は……俺と黄忠さんと厳顔さん――もとい、紫苑と桔梗だった。

 朝方から三人揃って二日酔い……ようやく起き上がれたのも面会時間の半刻(一時間)前。
 しかも、何度も吐かれる状況に業を煮やした華佗の鍼治療によって、強引に復帰させられたというおまけ付き。
 だが、二日酔いすら治す華佗の鍼でも、体から臭う酒臭さまでは消せないそうだ。
 三人揃ってのダウン状態……華佗は、朝から呆れ顔。
 璃々ちゃんの白い目なんてそうそう見られるようなもんじゃない。

 ほんと……お酒って怖いわ。
 正直、昨日のことを殆ど覚えていない。
 確か、桔梗に無理やり迫られたような気がするぐらいしか……

「(ちらっ)」
「!?(かあああああああああっ!)」

 俺が桔梗を見ると、とたんに顔を赤らめて目をそらす。
 ?

「(ちらっ)」
「……こほん(ぽっ)」

 こちらは紫苑。
 桔梗と同じで何故か顔が赤い。
 まだ酒が残っているのだろうか?

 二人とも酒には強そうなのに、朝方にはグロッキー状態だった。
 なんだか「気絶しても吸い取られて逆に気絶できなかった」だの「飲んで落ちようとしても、口に含んだものまで吸い取られた」だのなんのことやら……?
 挙句の果てには、ここに来るまでの間、二人にやたらと擦り寄られた。
 もじもじしながらも腕を組んでくるわ、擦り寄ってこられるわで正直焦りまくった。
 理由を聞いても答えてくれないし……

「ええと……と、ともかく。匂い以外は問題ありませんので、お話をどうぞ」
「う、うむ……」

 若干引き気味の劉表が、頷く。

「ともあれ、今回のことで錦帆賊の残党は一掃された。しばらくは江賊も現れまい。その残党どもの処遇だが……」

 劉表はちらっと桔梗を見る。
 桔梗は、少し硬い表情のまま無言で目を閉じた。

「残党どもは全員打ち首。頭目も同様じゃ」
「「「………………」」」

 俺も、紫苑も桔梗も、無言で通す。
 この裁可を厳しいと思うだろうか?
 現代ならばそうかもしれない。
 人はやり直すことが出来る、そういう道徳的観念が発達した現代ならば、そういう思いもあるだろう。
 だが、ここは千八百年以上の昔。

 農民は竪穴式住居に暮らし、稲作も原始的農法で始まったばかりの時代。
 民主共和制どころか、立憲君主制などという立法形式すらまともに定まっていない時代。
 支配する側と支配される側という、両極端の立場しかない時代。
 そして命が食料よりも安い時代なのだ。

 ……まあ、一刀の作った世界だから、多少おかしくはなっているようだが。

「……正直、水軍増強の為に懐柔してはどうかという意見もあった」

 劉表が呟くように話し出す。

「だが、甘寧の件もあり、儂は江賊を信用できん。江賊どもも、儂に仕える気はないそうじゃ。当然じゃがな」
「……そうですか」
「今日の夕方にも全員の首を刎ね、長江に晒すつもりじゃ」

 そう言って、劉表は再度桔梗を見る。

「異存はないかの、厳顔よ」
「……ございませぬ。賊はそうなってしかるべきものゆえ」

 そう言って平伏する桔梗。
 俺は、その姿に桔梗の武人としての覚悟を見た気がした。

 たとえ、自身の(えにし)であろうとも、信賞必罰を以って事にあたる。
 今の桔梗は太守として……私人でなく、公人として他国の地にいる。
 ゆえに、公人としての立場での言動が求められる。

 彼女は……巴郡の太守なのだから。

「そうか……では、予定通り執り行う。この話はこれで終わりじゃ」

 そう言って、指示書に落款を押す。
 その書を文官に手渡して、その文官が部屋からでた時、全ては決定された。

 その間、桔梗は……ただの一度も顔を上げなかった。

「さて、次の件じゃ。なしくずしに黄忠が白帝城の太守になっておるが……あらためて聞こうと思う。黄忠よ、お主はこのまま我が下に留まるか?」

 劉表が紫苑に尋ねる。
 俺の策謀により、彼女は現在の白帝城太守となっているが、それはあくまで臨時措置。
 これからも白帝城の太守でいることを是とするならば、いろいろな問題となるだろう。
 だが、まあ……俺はその点については心配していなかった。

「申し訳ありません、劉表様。わたくしはもう、ここを離れることに決めております」

 そう言う紫苑に、劉表はただ一言「そうか」とだけ呟く。

 ある意味、劉表はほっとしているかもしれない。
 このまま紫苑が太守にいることを望めば、劉表陣営内部にいろんな軋轢が生まれる。

 まず、陣営内部に同僚同士の不信感が生まれる。
 黄忠の今回の立場は、いわば内偵のようなものだ。
 現代の警察にもある公安、もしくは内部告発した社員といえばいいだろうか?

 そんな立場の人間が、同じ場所で今後も仲良く働けるだろうか?
 残念ながら人はそんなに善意の動物ではない。
 疑心暗鬼が生まれ、組織が内部崩壊する可能性が高い。

 そしてそれは、トップである劉表への不信という形で現れることも懸念されるからだ。
 だから内政下手な領主ならば、放逐や殺害する危険もある。

 だが、黄忠という名前は、劉表陣営内でも有名な武将なのである。
 そういった内部のことを知らない民にとって、そんなスキャンダルがあればどうなるか。
 人心が離れる愚を犯すわけにはいかないのだ。

 だからこそ、紫苑自身が納得して自ら職を辞する。
 それが全てを丸く収める道であり、紫苑自身が望む道だった。

「わたくしは元より厳顔へ白帝城をご返上した後に、この地を離れるつもりでおりました。劉表様には最後までご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません」
「なんの。お主ほどの人物、儂などより生かせる人物はいくらでもおろう……お主の夫については本当に申し訳ないことをしたと思っておる」
「劉表様……もったいなきお言葉です」

 そう言えば、紫苑の旦那さん、死んでいるのか。
 その辺りの事情は知らないけど……劉表のミスで死んだのかな?
 ……まあ、その辺りは詮索してもしょうがないか。

 誰だって。知られたくないことの一つや二つはあるものな。

「厳顔については、兵を三千も失うことになってしまったの……その損害は、しっかと賠償させてもらおう」
「は、いや、それはわしの失策でもありまして……」
「何を言う。儂がちゃんとした約定も決めずに置いた為に、部下が勝手に援軍を申し出るなどという愚を犯したのじゃ。その上、儂の部下の管理が行き届いておらぬゆえの今回の騒動。存分に礼を弾ませていただく」
「は……しかし」

 桔梗は劉表の言葉に困惑する。
 桔梗はあくまで義を通そうとして助勢を送ってきた。
 だからこそ、そんなものはいらないと言いたいらしい。

 とはいえ……劉表の立場としては何も出さないじゃ自分の立場がない。
 ここは……
 
「(ぼそぼそ)桔梗。受け取るんだ」
「(ぼそぼそ)なに? お主まで何を……」
「(ぼそぼそ)相手の立場を考えろ。ここで受け取らなければ礼を失する。受け取ることが義を果たすことと思うんだ」
「(ぼそぼそ)しかし……」

 桔梗は俺の言葉にも逡巡する。
 仕方ない……

「劉表様、厳顔に代わりましてお礼を申し上げます。ですが厳顔の立場上、今回は義を果たしたまでとの(よし)
「む……? しかしな」
「はい。ですから、それは厳顔の失った三千の兵、それぞれ個人への賠償ということでご寄贈ください。それならば厳顔も嫌とは言いますまい」
「こ、これ!?」
「ほほう。なるほどの……厳顔よ、ではそういうことじゃ。儂から三千の兵それぞれへ見舞いを出す。お主にはそれを監督することを頼みたい。頼まれてくれぬかの?」
「は、いや、その………………………………………………りょ、了解しました」

 渋々了承する桔梗。
 ちなみに劉表に頭を下げた際、ギロっと睨まれた。
 なんでだよ。

「うむ。お主の監督することに対する迷惑料も含めておく。しかと受け取るようにの」
「……は。重ねてのご温情に感謝いたしまする」
「ああ、それと今回のようなことにならぬように、しっかりとした同盟の誓書も纏めようと思う。受けてくれるかの?」
「!! ま、真でございますか!?」

 おお……これは何よりの報酬じゃありませんか?
 質も代償もなしに、一太守でしかない桔梗と、荊州州牧である劉表との同盟なんて。
 桔梗は太守ではあるが、今までどこにも属しているわけではなかったから、これで強力な後ろ盾が出来ることになる。
 今度(このたび)益州の州牧になった劉焉も、これで厳顔を無下に扱うことは出来なくなるだろう。
 厳顔を通じて劉表とのパイプができることを意味しているからだ。
 桔梗にとっては、どんな金銀よりも嬉しい報酬だろう。

「あ、ありがたくお受けさせていただきまする!」
「うむ。詳しい内容は文官同士で煮詰めさせるとしよう。さて……最後に、お主じゃな、天の御遣いよ」

 げっ……
 また御遣い扱いだよ。

「黄巾の折、劉備の陣営におったとの事じゃったな。ふむ……」

 そう言って劉表がじろじろと俺を見てくる。
 ううむ……昨日のうちに文官から報告受けたんだろうなぁ。

「今は旅の途中と言っておったな。劉備の下から離れたということか?」
「いえ、離れているというか……私は、見聞を広げる為に旅をしています。劉備共々、私は北の幽州にいた為に荊州や益州、その先のことをほとんど知りません。その為、自分の足で見て回りたかったのです」

 まあ、嘘はいっていない。
 その目的が全部という訳じゃないだけだ。
 見聞を広げることは大事だけど、な。

「つまり、お主は細作ということかの?」

 げ……
 言うに事欠いて、人のことを「お前はスパイか?」と言ってきやがった。
 このくそじじい……

「まさか。私が細作なら、こんな目立つようなことはしません。黄忠さんに出会ったことも、厳顔さんに出会ったことも全て偶然ですよ」
「ふむ……だが、お主ならば儂に会う機会を得る為に全てを自分で計画した、そうは思わぬか?」

 劉表の言葉に、隣にいる紫苑と桔梗がはっ、とする。
 おいおい……
 俺は孔明じゃないぞ。
 そんなめんどくさくて、ややこしいことなんかするか。

 ……まあ、孔明自体が朱里じゃあなぁ……いやいや。

「さすがにそんな回りくどくて面倒くさい上に、不確定要素が多すぎることはしませんよ。俺が貴方に会うだけなら劉備のところから正式に書状出して面会すればすむことです。それでなくても最初から天の御遣いを名乗れば、劉表様でしたらご面会をお受けになられるのじゃありませんか?」
「ふむ……それもそうじゃの」

 劉表が自身の顎の髭を片手で整える。
 紫苑と桔梗は、どこがバツの悪い顔をしていた。
 まあ、一朝一夕で俺を信じろとはいえないけどさ……
 真名預けてくれたなら、もうちょっと信じてくれてもいいんでないかい?

「では、本当にただの偶然じゃった。そういうわけじゃな?」
「はい。誓って」

 猜疑心の強いじじいだな……

「そうか……いや、すまぬな。昨日文官からお主のことを聞いて、すぐに情報を集めたのじゃが、正直信じられんかったのじゃよ。一人で二万人を倒した龍神だったとは……」
「いや、それ違うし!」

 信じられないってのは、デマのほうかーっ!?

「そのような噂は真っ赤な偽りです! 俺は劉備の軍師みたいなことをしていただけであって、龍神だの桃香の夫だの、全部でたらめです!」
「お、おお……そうなのか?」
「はい! 俺は劉備の義勇軍で戦って、霞……じゃない、張遼の董卓軍と合流して最終的に宛に駐留しただけです! 武功にしても義勇軍と董卓軍でやったことですので、俺一人がやったわけじゃありません!」
「そ、そうか……」
「そもそも天の御遣いなんて周りが言い出しただけで、俺自身はただの男に過ぎませんよ! 大して能があるわけでもないし!」
「「「いや、それは嘘じゃろ(でしょう)?」」」
「なんでさっ!?」

 劉表に桔梗や紫苑まで、口をそろえて否定しやがった。
 まあ、確かにAMスーツあるし、サイコブロー使えるし、スプリガンだから「ただの男」じゃないかもだけど……

「ま、まあ、その辺りはおいておくとして、じゃな。お主にもいろいろと世話になった。あらためて礼を言おう」
「あ、いえ。お気になさらないでください。俺……じゃない、私は成り行きで手伝っただけですし」
「ふむ……謙虚じゃな。昨日はただの口だけの男かと思ったが……カカカ。なかなかどうして、意外に骨のある男ではないか」

 そう言って、髭を揺らして快活に笑う劉表。
 何で急に機嫌良くなっているんだ?

「この女尊男卑の世において、お主の様な若者がいることは、実に嬉しいのよ。儂とて男ながらに州牧になったが、宮廷内でも少数派での。何進殿と一緒に愚痴ることも良くあるのじゃよ」
「……まあ、それはわからなくもないですが」

 ってことは、何進も男なのか。
 そういや何度か霞が「肉屋のおっちゃん」って言っていたような……

「ふむ……お主ほどの男が仕えていたというならば、劉備という者も一角の人物やもしれぬな。一度、使者を出してみるか……」

 ありゃま。
 なんか知らないうちに見込まれちゃったぞ、桃香。
 でも大丈夫かな……?
 出発するときには少しだけ人の上に立つ風格が出始めていたけど……桃香だしなぁ。

 基本天然の子だし、劉表の性格からして、あんまり相性がいいとは思えないんだよな。
 逆に見下されそうで怖い……朱里辺りに、早いうちに伝えておいたほうがいいかもしれない。

「お主は旅をしておるというが、いつ頃劉備の下に戻るつもりなのじゃ?」
「え、ええと……まだしばらくは。とはいえ、今年度中には戻るつもりですが」
「そうか……では、劉備への使者はお主が戻ってからにさせてもらう。すまぬが仲介してくれるかの?」

 え、俺が戻ってから?
 ……もしかして、俺にパイプ役になれと?

「それはかまいませぬが……わざわざ私を待たずとも劉備でしたら喜んで劉表様との親交を持たれると思いますが」
「カカカ……まあ、同じ劉姓を持つのだからの。確かにそうではあるが、儂から仲介もなしに使者を送ってはいらぬ邪推を与えるかもしれん。劉備本人か、周りか、それとも周辺諸侯か……特に西に領を持つことになった劉焉のこともあるでな」
「…………」

 おいおい……まさか。
 桃香を劉焉への牽制の当て馬にするつもりか?

 確かに梁州は益州と荊州の隙間を埋めるように設置されたとはいえ……
 いやまてよ?

「もしや……劉表様は、劉焉殿との同盟も考えておいでなのですか?」
「なんじゃと?」
「いえ、益州、荊州、そしてその間の梁州は、それぞれ劉姓を名乗るものがその長となるわけです。それが三州同盟のような形になれば、周辺諸侯は我らを警戒するかもしれませんな」
「……なるほど。それは考えた事がなかったわい」

 なかったのかよ!
 しまった……よけいなことを言ったかもしれん。

「ふむ……もし三州の同盟ともなれば、漢の約四半を劉姓の独占状態となる。これは……少し考えてみるか」

 ああ……周辺は警戒するかもってことで牽制したつもりだったけど、逆にそれが利点を気付かせちゃったか。
 やっぱ余計なこと口走ってしまったかもしれない。
 とはいえ、それは新興の桃香にとっては後ろ盾を得ることにもなるからありがたいかもしれないが……
 いろいろやっかいな問題もありそうだな。

「と、とりあえず私からも劉備に書状を書きましょう。劉備には私の臣がついておりますので、彼の者にまかせればよく計らってくれると思います」
「なに? お主、劉備に仕えておるのに臣を持っておるのか?」
「は? はあ……どういうわけか私個人を慕ってくれるものがおりまして。才能もあるので劉備の軍師として残してきております」
「なんと……お、お主、いっそ儂に仕えぬか?」

 突然何言ってくるんだ、このじじい。

「いや、あの……劉表様?」
「……あ、すまぬ。そんなことをすればいらぬ誤解を受けるな。儂としたことが愚かなことを言った。許せ」
「は、はあ……」

 これから親交を持とうという相手の臣引き抜こうとか、なにをボケたことを言い出すのかと思った。
 意外に考えなしなのかな、このじいさん。

「そうか。劉備には力のある臣が大勢ついているようじゃな……うらやましい限りよ」

 そう言って自嘲するように笑う劉表。
 ……このじいさん、猜疑心が強いから信頼できる部下があまりいないのかもしれないな。
 黄忠さんもいなくなるし……少し焦っているのかもしれない。

「……私は劉備に拾われました。ですので、彼の者を裏切ることは出来ません。ですが、その劉備と同姓であられる劉表様は、劉備の遠い親戚でもある方です」

 まあ、劉姓なんて自称もあるだろうから本当に親戚かどうかなんてわかりはしないけどね。
 でもここはそれで通してしまおう。

「その劉表様にはこの度、多大なご温情を受けました。その私に劉備との橋渡しを任せていただくのであれば、私自身喜んでお手伝いいたします」
「お、おお! そう言ってくれるか!?」
「はい。劉備はまだ成り上がりの新参者です。劉表様のような思慮深く、聡明な方と昵懇(じっこん)にしていただけるのであれば、劉備にとっても望外の喜びでしょう」
「そうか……うん。わかった。お主には儂と劉備の橋渡しを任せたい! 頼りにしておるぞ!」
「はい。ありがとうございます」

 ……あれ?
 よく考えると、なんでこんなに劉表に見込まれてるんだろ、俺。
 ……まあ、いいか。

「ふふふ……しかし、劉備を裏切ることは出来ん、か。本当に惜しいのう……」

 なんかブツブツ言い出す劉表。
 なんとなく背筋がゾワゾワするな……変な趣味だったらどうしよう。

「ともあれ、大儀であった!」

 劉表のその一言で、謁見は終了した。




  ―― other side 白帝城 長江の畔 ――




 静かな流れの大河に、夕陽が映し出されている。
 季節は既に秋。
 川縁には蜻蛉(とんぼ)が舞い、キリギリスやコオロギといった秋の虫の鳴き声が周辺に静かに響き渡る。

 その川縁の急遽作られた土台の上に、周囲の風景のそぐわない物体が置かれている。
 それは……人の首。
 この近辺を荒らしまわっていた、錦帆賊。
 その残党、三百十四人全ての首が、横一列となってそこに晒されていた。

 その並ぶ首の前に、一人の人影が夕陽に照らされて立ち尽くしている。
 まるで、案山子(かかし)のようにじっと動かず、ただそこに立つ人影。

 夕陽に照らされ、俯くその表情は見えない。
 ただ、その長い髪だけが、長江の水に冷やされた冷たい風にたなびいている。

 それを遠くで見つめる男と女は、黙ってその姿を見つめ続けている。
 その場にいる三人は何も言わず、ただその場を動かない。

 そして、時が経ち……
 夕陽が沈むと共に、二人はその場を後にする。
 ただ一人をその場に残して。

 夜の帳が落ちても、一人の首の前に立つ女性だけは……その場を動かなかった。
 
 

 
後書き
前にも言いましたが、アニメと違ってゲームを原作にしています。
何進や張譲など、ゲームで性別を明らかにされていない人物は、史実を基に構成しています。
今後女性化した人物がでないとは言い切れませんが……
ちなみに劉表は、横山三国志の黄忠がイメージです。

やっと白帝城のごたごたが終わりました。
次からは移動開始です……気がつけば白帝城で半月ほど過ぎました。
状況がやっと動くので作者としてもほっとしていたり。

これを書いている間に、実にいろいろなネタが浮かんでしまいまして、ネタ帳が膨れ上がっています。
●●と恋姫のクロスとか、いろいろ細部まで調べて気がつけばプロットのようになっていたり。

さすがに2作品同時連載はきついので、この作品が終わってからか、暇を見つけて細々と書き溜めておこうかと思っています。 
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