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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-4 第15話

Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-4
太陽と雨
第15話

「最後の“証”を手に入れたら、ここにもう一度訪れて欲しい。出来れば、ローラ姫を連れて」

勇者ハルカとローラ姫。二人には何か秘密があるのだろうか。
雨の祠の賢者の「ローラ姫を連れて」が気になっている。
ハルカの父親と、ローラ姫の母親は異世界出身。……ハルカは、あの男が言っていた“アリアハン”と言う国がある世界だ、と感じていた。
「ローラ姫も勇者ロトの子孫、と言うことになるのでしょうか?」
ハルカとローラ姫は客間で会話をしていた。
「いえ、そんな話……お母様は一言も。異世界出身だと言うことは分かっていても、何のためにここに来たのかまでは私は知りませんの」
「ハルカ様、姫様、お茶が入りました」
城のメイドが二人分の紅茶とお茶菓子を持ってきた。
「あ、ハルカ様はコーヒーの方が好きでしたっけ」
「いえ、僕は紅茶も好きですから」
「そうですか。ではごゆっくり。国王様はとある方と面談で忙しいと言うので、いくらでも時間は取れますよ」
「……面談?ローラ姫、王様は何の用事か聞いてますか?」
ローラ姫は少し顔を曇らせ、
「いえ…私が聞いても、隠し事があるように、答えてくれないのです」
心配そうな様子である。ハルカも落ち着かない。
メイドが去った後、少しの間だけ黙った後、話題を変えた。
「……ああ、すいません、ハルカ様。……私もあれから、訓練場を貸してもらって、挑戦してみたんです。もちろん、安全なように見張りの兵士や戦士団の方も付けて。呪文の練習です。あの、ホイミ、バギの他に、べホイミとベホマラーを覚えました」
少しだけ笑顔になって、ローラ姫は呪文の報告をする。何故呪文の練習をしていたかと言うと、少しでもハルカの役に立ちたいと思って、また、護身用に少しの攻撃呪文を覚えたいと思ったからである。バギでは心許ないかもしれないが、国王も無いよりはあったほうが良いとアドバイスをしてくれたので、覚えているのだ。
「それは素敵ですね。あれから休憩なしでここまで来たので、ベホマラーをかけてみてください」
「はい!……私達に癒しと祝福を、ベホマラー!」
ローラ姫の手からキラキラと光の雨が二人に注ぐ。
ハルカの腕の傷もすっかり消えてしまった。
「……癒されました。僕の心も」
更に元気付けようと、ハルカはもう一言、付け加えた。
「まあ、ハルカ様ったら」
ローラ姫は心の底からの笑顔を見せた。ハルカもそれにつられ、笑い返す。
「……僕の事、ローラ姫の事、これから僕はまた旅に出る。その途中でいつか知ることになりますね。ここで悩んでいても、仕方ないことですよね」
「ええ。お父様のことも、あまり神経質にならないようにしますわ。……きっと、お母様の死から立ち直りつつあるかもしれませんから……」
二人は穏やかな笑みになる。ひと時の安らぎ。ローラ姫のベホマラーの効果かは定かではないが(気持ちの問題なのかもしれない)。
「ハルカ様、次はどこへ行かれるのです?」
「メルキド方面ですよ。あちらの方には洞窟のある地点から南に行ったことはありませんからね」
「まあ、遠いでしょう」
ハルカもローラ姫も、メルキドは遠いと感じる地点にある。その途中には……滅ぼされた町、ドムドーラがある。
「ええ。でも行かなければ。大丈夫です。時々、貴女に連絡しますから」
ハルカはそっとローラ姫を抱き寄せる。
「お願いしますわ」
ローラ姫はハルカの腕の中で、幸せそうに、少し心配そうに微笑んだ。

ラダトームからメルキドまで、徒歩で最短でも2週間はかかる。途中で砂漠もあり、危険な旅である。
もちろん解っているハルカはラダトーム城下町で多くの食料、水、保険用のキメラの翼を購入した。

夜はイアン一家の家に一泊することにした。
当然ながら、イアン一家からは心配の声が聞かれた。
「でも、行かなければダメなんだな」
「ええ。あちら方面に足を運ばないと、ロトの勇者の“証”も手に入らないですし」
「心配です。メルキドまでの地方の魔物って、本当に強いと聞きました」
サユリはいつもの通り、ハルカのために保存食を作ってくれた。
「僕も聞きました。……あのドムドーラにも行かなければならないでしょうね」
ハルカにとって、とても辛い言葉、ドムドーラ。
ハルカは知っていた。自分が生まれた場所はドムドーラだということを。実の母親からの手紙で、自分の出生のことも書かれていたからである。
「……ハルカ、ルーラを覚えているといったな。危険を感じたら、一旦ルーラでここへ逃げ込むことを考えろ。俺がお前ならそうする」
「ええ。僕もそうします。ルーラはコストが高いですから、考えないといけませんが」
「そう!ルーラって、特殊な呪文って私、聞いたことあるわ」
「覚えている人も多くないですからね。便利な呪文ですから、あまり使いすぎてもいけませんし。僕も、使う時は考えて使うようにはしてるけど」
ルーラはあまりにも便利すぎる呪文だ。今までいったことのある場所なら数秒でいける。しかし、それ故、制約もそれなりにかかる。魔力のコスト、習得可能者の制限(ハルカは覚える資格があったと言うことだ)、そして使いすぎによる疲労。それはハルカも解ってはいることだった。
なお、ルーラの前段階としてハルカは浮遊術を使っていたが、それは取得のための練習の一つのしてみなされる。とある賢者は浮遊術が使える地点で、ルーラを覚える資格があると言うことだった。
「とにかく、俺達はお前の無事を祈っている。旅立ちからずっとだ」
「……ありがとうございます」
ハルカは夕食のステーキをしっかり噛み締めながら肯いた。

夜のこと。ハルカは眠れないでいた。
(……なんだ?不安が……苦しい?いや、僕は……)
ドムドーラのことが頭をよぎる。生まれてラダトームにたどり着いて、それ以来そこへは一度も行っていなかったのに。
(記憶がないのに、……なんで。やはり僕が生まれた場所だから?)
涼しくなったと言うのに、寝ようとすると汗が流れる。
(寝なきゃ……)
ハルカは何とかして布団にもぐりこみ、朝が来るのを待った。

無理矢理眠りにつかせた体で、ハルカは起き上がる。
気分は重いままである。
(何だか悪い夢を見た気がする)
よくは覚えていないが、血は見た気がする。たくさんの獣を見た気がする。
「大丈夫か、ハルカ」
「ええ。大丈夫です。行かなければいけない場所ですから」
イアンの心配に、ハルカは笑って応える。
逃げることは許されないから。どうしても行かなければならないから。
なるべく顔に出さないようにはしているが……。
「……気をつけていけよ、ハルカ」
「解ってますって」
ハルカは剣を腰に下げ、魔法の道具袋を腰につけ、盾を装備した。
胸に下げている竜の鱗は少し汚れていたが、昨晩にサユリが磨いてあげたため、少し綺麗になった(それでも無数の小さな傷が残されている)。
「……行ってきます」
「ああ、生きて帰って来い」
「はい」
イアン達の前では笑顔としっかりとした足取り。
しかし、町を出ると足取りは重くなる。

しばらく歩いていくと、かつて立ち寄ったスライム一家のいる村に着いた。
旅立って翌日の昼。
「あ、勇者のお兄ちゃん!」
スライムの女の子が叫んだ。「元気ないね」
「ああ。ちょっとね。僕は大丈夫だから」
「ぼくね、風の噂で聞いたんだよ!勇者のお兄ちゃんがお姫様を助けたんだって!」
目を輝かせながら、スライムベスの男の子が叫んだ。
「ああ。そうだよ」
ハルカはスライムの子供達には心からの笑顔をするようには心掛けた。
「私もあなたの噂を聞いてます。あなたなら、きっと竜王を倒してくれるでしょうね」
スライムベスの母親が笑顔で、体を震わせながら言った。「草餅、あげますね」
「ありがとう。今回は休憩に立ち寄っただけなんだ。しばらくしたら僕は行くね」
「無事でいてくださいね。きっとあなたが選ばれし勇者でしょうから」
スライム家族から再び草餅を貰い、短い休憩を過ごした。
(このスライムたちも、無事でいて欲しいな)

ハルカは何日も歩き続けた。
魔物と戦いながら、トヘロスを唱えながら、聖水を振りまきながら、休憩をしながら、食料をいただきながら、ローラ姫と“王女の愛”で会話しながら。
疲れはホイミと食傷で過ごした。魔力は少しの休憩で少しずつ補った。
そして、砂漠地帯へと足を踏み入れた。
砂漠の気候は変わりやすく、ハルカは魔物と同じくらいに体調に気をつけながら進む。
砂漠に突入してから少しだけたった頃に、街が見えた。
……ドムドーラである。
ハルカの息が荒くなってきた。
(……息が、苦しい?)
しかしそれでも進み続ける。
魔物と戦いながら、ハルカの足はドムドーラに近づく。
(……行かなければ!)
体が重く感じても、決して逃げはしなかった。
ハルカはドムドーラを睨みつけながら歩いていく。
ドムドーラが段々近づいて来る。
(来る!……僕は……負けない!!)
重い体と気持ちを振り絞り、そして、ドムドーラへとたどり着いた。

「……」
ドムドーラは予想以上に荒れ果てていた。
ハルカは言葉を失う。
(ここで、僕は生まれたのか?)
血の匂いが微かに残っている、骨も残っている。
毒沼がぶくぶくと泡立っている。沼地の洞窟で見たのよりも、マイラでも見かけたのよりも、とても気味悪い毒沼であった。臭いもきつい。
ハルカは吐きそうになった。何とかこらえた。
今にも悲鳴が聞こえるようだ、竜王軍の魔物から逃げ惑う非力な人々の悲痛な叫び。
夢で見たような、悪夢のような光景であった。
「帰り……たい」
「帰れなくしてやるよ」
低い声が聞こえた。
「……!?」
ハルカは辺りを見回す、すると、上空にピンク色のキメラがいた。
「……お前は誰だ!」
「俺はスターキメラのルヴァシド。竜王軍の幹部だ!」
「竜王郡の幹部!」
ローラ姫をさらったドラゴン・セサヴァーと同じ幹部だ。
「セサヴァーがしくじったようだが、俺はそうはいかん。……お前はここで死ぬ。お前の家族と同じようにな」
「!!」
やはりハルカはここで生まれたのだ。そして、親はここで命を落としたのだ(正確には、母親はラダトームで力尽きたのだが)。
「貴様……」
ハルカはルヴァシドを今までにない鋭い眼光で睨みつける。……しかし、
「残念だったな、ハルカ。ここがお前の墓場となるのだ!!」
スターキメラの攻撃。ハルカの腕から、足から血が流れてきた。ダメージは大きい。
(痛い……っ!)
ハルカも負けじと剣を振り回そうとする。しかし、ルヴァシドは避ける。
「無駄だ」
ルヴァシドの翼がハルカの体を何度も撃つ。ハルカは反撃も出来ないまま、倒れこんでしまった。
「勇者も大したことないんだな」
ルヴァシドの勝ち誇ったような高笑いが聞こえてくる。
(くそっ…意識が……ダメだ……僕は……死にたくない……)
ハルカは重傷ともいえる傷を負っていた。
「さて。トドメだな」
(やばい……)
ハルカは残った力を振り絞り、ルーラを唱えた。
……ハルカの姿はドムドーラから消えた。
「……逃げたか」
ハルカはルーラを唱え終えると同時に意識を失った。

「……ま……ハルカ様!」
ハルカが目を覚ました時、目の前にローラ姫がいた。
場所は何とローラ姫の寝室。ただし、ベッドは客用である。
「……僕は生きているんだ……」
ほっとした表情をハルカは浮かべた。
「私がべホイミを何度もかけても目を覚まさなくて……3日も目を覚まさなかったんですよ。お父様も心配なさったのですよ……良かった」
ローラ姫はハルカに、負った深い傷はローラ姫のべホイミで回復はしたが、傷痕が残っているところもあったと話す。
「そうでしたか……すいませんでした。僕はまだまだ……」
「あんまり無理はしないで。焦ったら……」
ローラ姫はハルカの手をしっかりと握り締めていた。目には大粒の涙を浮かべ。
「ローラ姫……すいません。貴女を悲しませて……」
「いえ、ハルカ様が辛そうな表情を浮かべていたと言っていましたの。きっと、辛い体験をなさったのね」
「ええ。でも、……また、行かなければ……」
竜王を倒す為、避けられない道。ハルカは解っていた。
「とりあえず、もう少し休んで、国王と話してきます」
「……はい」
ローラ姫もハルカの笑顔にほっとした笑顔を浮かべた。

ハルカは辛さと悔しさでいっぱいだった。
(……いつかは、あいつも倒さなければ……そして辛い気持ちを乗り越えなければ)
ハルカは掛け布団を握り締め、そう思った。 
 

 
後書き
終盤シリアス展開です、
はい。初めてドムドーラに入った時って、敵の強さにビビリましたよ。 
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