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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  幕間3 「天災と暗躍と、時々チカさん」

 
前書き
さて、一区切りついたのでちょっとストックを溜める作業にいってきます。
例によって一週間以内にカムバックします。 

 
前回のあらすじ:馬鹿ばっか


クラス対抗戦より前の襲撃。タイムシートで見てみればたった1日の誤差だ。だがその内容はもはや原作と全く違う。一夏や当日に来るはずだったお偉いさんたちの不在、速すぎる簪の参戦、分離変形するステキIS、生身でのIS撃破。今日は安全と思っていた私の予測はものの見事に砕け散ることとなった。
まだ辛うじて誤差の範囲内と言えなくもないが、これからは一時も気が抜けないかもしれない。この調子だとこれからも誤差はバンバン発生し、最終的には原作から乖離していくだろう。ま、あのラノベ未完だから最後にはそうなる運命ってのは分かってるんだけど。

織斑先生の解散命令後、ベル君がこちらに歩み寄ってきた。荒事は死ぬほど苦手だと言っていたのに、ここにいるという事は現場に足を運んでいたのだろうか?と疑問を覚える。戦いへの極端に忌避傾向があるって診断書に書いてあったが・・・あ、顔色悪い。これは無理してきた線が濃厚だね。

「・・・ミノリ」
「やあ、ベル君。ひょっとして心配かけちゃった?」
「・・・怪我はない?」

本当に心配を掛けちゃったようだ。ベル君の口が僅かながらへの字に曲がっている時は他人を気遣っている合図である。・・・それにしても名前で呼ばれるとちょっとこそばゆいな。まぁベル君はいい子だから今更ダメとは言わないがね!

「見ての通りピンピンしてるよ?足もちゃんとあるし影だってほらこの通り!なんつって~」
「・・・ならいい」

ふぅ、と小さく安どのため息を吐いて踵を返そうとするベル君。私のボケはスルーですか。
うーん・・・小さな動作から何を考えてるかは読み取れるけど、たまにはもっと分かりやすく表現してもらいたいものである。というか実際ベル君はもう少し態度を行動に表した方がいい。でなければ彼はいつまでも理解してくれる人間―――つまり味方と言える人が少ないまま生きていくことになるだろう。

別に自分の事じゃないとも思うけど、いつまでもベル君の世話を焼けるとも限らないし・・・よし!ここは一丁、私流のコミュニケーション術を伝授しますか!

「えいっ」

ぎゅむっ、と両手でベル君を抱きしめた。

「・・・!?」

突然抱きしめられたベル君は目を見開いて動揺している。何故抱かれているのか、どうすればいいのか分からないっといった感じだ。目をぱちくりさせる動作がまた子供っぽくてかわいい。石鹸のいい匂いがする男の子ってどうよ?体温はちょっと低いのか、ひんやりしているような気がする。 ・・・うーん、見込み通りイイ抱き心地じゃなイカ。
・・・っとと、いかんいかん思考が欲望に傾きかけた。別にセクハラで抱き着いたわけではないのだからいう事を言わないとね。

「どう?あったかい?」
「・・・」

こくりと頷く。ベル君の小さな心音が伝わってくる。これはちょっと緊張してるかな?

「こうしてハグすればその人が無事か良く分かるんだよ?相手の心臓の鼓動が感じられるっていうか・・・」
「・・・」
「それでね。その人が本当に生きて此処にいるんだって実感がわくんだ」
「・・・」
「だからね・・・本当に心配だった人にはこうして温もりを分けてあげてね?」
「・・・」

うわー小っ恥ずかしいこと言ってるなー私。ベルくん引いてたらどうしようか・・・という懸念は杞憂に終わった。
やや間を置いて、きゅっと控えめにベル君の腕が私を抱きしめた。
どうも自分の想像以上に心配をかけてしまったようだ。ちょっと悪いことしたかな?と感じる必要のない責任を感じた。次からは心配を掛けないように・・・出来たらいいけど無理かもね。
ベル君の顔を見ると、こちらの存在を体で確かめる様に静かに目を閉じていた。・・・この顔を泣かせたくはないな。
―――しょうがないからベル君の気が済むまでこのままでいてあげよう・・・何だかこのままなし崩し的にずっと世話を焼きそうな気がするが、きっと気のせいだろう。



で、傍から見たらそんな光景は明らかに単なるルームメイトの関係の範囲に収まっていない訳で。

「・・・ねぇ、あの二人ってくっついてるのかな?」
「隠そうともせずに見せびらかしてるし・・・くっそー!俺なんかまともに口すらきいてくれないのにぃ!!」
「ベル君をこんなに簡単にオトすなんて・・・佐藤さん恐ろしい子!!」
「いや、でもひょっとしたら姉と弟みたいな感じの範囲で収まってる可能性も!」
「でも傍から見るとラブラブカップルだよねぇ・・・」
「そうか?俺には母親と子供に見えるなぁ・・・」

どうも佐藤さんにはこういう行為に対する羞恥心が極端に薄いというか、深く考えずやっている節があった。しかも自然体でやっているから余計に性質が悪く、おそらくベルーナが急激に自身に心を許している事すら自覚していない。フラグを立てられるどころか逆に立てに行くというスタイル・・・新し、くはないか。
これも転生者故か、将又彼女が天然タラシなだけなのかは不明だ。だが既に彼女はモブの範囲に収まりきっていないという事をそろそろ自覚するべきかもしれない。



 = =



IS学園はアラスカ条約に基づいて設置された、世界でただ一つのIS操縦者育成学校である。あらゆる国家や組織、関係者に属さず外からの干渉を一切受け付けない完全中立地帯・・・だが、実際には設置された土地が日本であることやIS委員会の指示にはある程度従わなければならないなど多くの事情が絡み合い、半ば略式化しつつある。
なればこそ、IS学園がその中立性と独立性を保つために外部に知られていないあれこれを用意するのは自明の理であり、事実学園には建築設計図に載っていない秘密が多く存在する。
その一つが此処、地下に秘匿された“秘匿された(シークレット)部屋(エリア)”である。IS学園の上の施設で出来る事のすべてがこの地下フロアでも行うことが出来る、言わばもう一つのIS学園ともいえるそのエリアの研究室の一角に、2つの鉄の塊が鎮座していた。

「どうでした、山田先生?」
「あ、織斑先生。調べてみましたが、アンノウンのISコアやはり未登録のコアでした」
「そうか・・・」
「誰がこんなことを・・・生徒を巻き込むなんて」
「誰、か・・・見当はつかんでもないが」
「・・・篠ノ之博士、ですか?」

未登録のコア。それはそのまま、あのISを作ったのが誰なのかを表していた。
この世界でISコアの製造法を知っているのは恐らく2人。可能性的に限りなく高いのは・・・自身のかつての親友であり、ISの直接の生みの親である、あの気まぐれ兎。
そう考えればあの驚異的なステルス性もハッキングもすべて納得がいく。出鱈目極まりない合体機構も奴ならやりかねない。だが、だからこそ分からないこともある。

(今回のこれに何の意図があるか・・・?それが問題だ)

あの兎が本当に滅茶苦茶なことをしでかそうとすれば必ずもう一人が止める。だが、今回は止めなかった。つまり、もう一人も今回の件に同意したか、もしくは必要な事と思ったからこそ黙認した、とも考えられる。
だがその理由は一体なんだ?アイツ等がIS学園を強襲していったい何の得が生まれる?

「・・・あ、織斑先生。監視映像などを見て1つ分かったことがあるんですか」
「分かったこと?いったい何ですか?」
「これを見てください。アリーナ突入直前のアンノウンを捉えた映像です」
「・・・・・・これは」

突入直前のアンノウンの姿。普通に見ただけでは何も分かることはないが、千冬の鋭い洞察力は直ぐにあることに気付く。装甲のあちこちに、煤や僅かな亀裂が入っている。明らかな戦闘痕だった。

「注目して見ないとハイパーセンサー越しでも分かりにくいですが・・・確かにこのISには他の”何か”と争った形跡があります。ISにこれだけダメージを負わせることができるのは・・・」
「IS以外考えにくいですね。学園の警備隊ではないとなると・・・山田先生、どこかでISによる襲撃事件などは―――」



「起きてないよ。本社にも確認取ったがそんなそぶりは何処の国も見せなかったそうだ」

言葉を遮る様に、部屋に新たな人影が踏み込んでくる。振り返った山田先生がその男を意外そうに眺めた。

「クラースさん?もう帰りついたんですか?」
「そりゃねぇ・・・持ち場が襲撃されたとあっちゃあ俺の立場がないでしょ?だから間に合わんとはわかってても急いで戻るのが俺の仕事な訳よ」

そうぼやきながら鬱陶しそうに手入れのされていない短めの金髪を掻く、その男。名前をクラース・ウル・ダービシェスという。世界的に有名なPMC(民間軍事会社)、「マークウルフ」の敏腕社員であり、IS委員会との契約でこの学園の警備主任を務める男である。仕事柄学園とは全く違った情報網を持っており、今日も既にここに来るまでの間に調べていたようだ。
普段は気だるげで冴えない表情をしているクラースだが、さすがに今日は顔が引き締まっている。
それはそうだろう、彼にとってこの学園は自分が全霊を以てして守護しなければならない場所なのだ。襲撃されたとあっては、たとえ人的被害が出ていないとしても快いはずがない。
普段より目に険が増しているクラースは忌々しげに舌打ちをする。

「このISは間違いなく“何者か”と戦闘している・・・この学園に忍び込む前にな」
「そして貴方が調べても確認の取れない戦闘となると・・・」
「うん、“亡国機業”だろうな。でなきゃUFOかエイリアンだろ」

投げやりにつぶやいたクラースは、疲れたように首をゴキゴキと鳴らして息を吐く。
ISには自己修復機能がついており、恐らくこのISも例外ではない。だから傷がつくタイミングは出撃してから学園にたどり着くまでの間しかありえない。つまり、このアンノウンは何者かと交戦したのちにここに来たこととなる。
そして今の所最も交戦した可能性が高い組織の名が“亡国機業”である。
亡国機業・・・第2次世界大戦中に“はっきりとは分からない何らかのきっかけで”生まれた、あらゆる国家、思想、民族、宗教に属さない形無き組織。50年以上前よりずっと世界中で活動を続けており、目的、存在理由、主義主張その他一切の事が不明。分かっているのは少なく見積もっても国際的な犯罪が行えるだけの規模があることと、ISを所持しているということだけ。表の人間はもちろん、IS関係者でもその組織の名前を知っているものは限られる。逆を言えばIS関連のテロの殆どはこいつらの起こしたものだ。

「あの博士と亡霊共が敵対してても何らおかしい事は無い。だが、だ」
「交戦後にすぐ学園を襲撃したのが解せない、ですか?」
「イグザクトリー。あれだけのステルス性を持ってるならわざわざ今日でなくとも襲撃は出来たはずだ。そこまで焦って襲撃した理由が分からん」

最初は残間結章を狙ったのかとも考えたが、あのISは特別に彼を狙うそぶりは見せなかった。戦闘データを取るにも、わざわざこんな手の込んだ襲撃をせずとも別の方法がいくらでもあるだろう。中国と日本の専用機のデータというのも考えにくい。
全く分からない。何故、何のためにIS学園を襲撃する必要があったのか。

「まぁ実際の所がどうであれ、俺達のやることに変わりは無ぇ。次に来たときに同じ結果にならねえように対策練って警戒するだけだ。そうだろ、織斑?」
「・・・そうだな。我々に出来るのは、そのくらいの事しかないだろう」
「・・・ただ、そうだなぁ・・・一言言うなら」

そこで言葉を切ったクラースは、怒れる狼のような瞳で虚空を睨みつけた。

「おイタが過ぎるようなら、噛み潰す」

腹の底に響くような、ぞっとするほど冷たい言葉だった。聞いていた山田先生が「この人を怒らせてはいけない」と確信する程度には。



「・・・ところでクラースさん」
「何だ?」
「あのIS、何のために合体分離機能(シンメトリカルドッキング)がついていたんでしょうか?いや確かにびっくりしましたけど・・・」
「・・・・・・織斑」
「・・・・・・私にだってわからない事くらい、ある。あれの考えることは特に」



 = =



「・・・やれやれ、“連中”もやってくれたよね~。ま、これでもう“抗体”のデータは揃ったから二度と後手には回らないけどね。“レムレース”もこれで気兼ねなく動くことが出来るね」

次次に吐き出されては消えていくデータの羅列を処理しながら束はぽつりと呟く。そこ声にはわずかな苛立ちが混ざっていた。

「上手くいったと思ってるかもしれないけど想定内だよ。・・・一度後手に回らなきゃいけなかったのが非常に癪だけど・・・ま、いいか。二人ともよく“浸食”に耐えたね?お疲れさん、今はゆっくり眠ってね」

苛立ちを誤魔化すように横に置いてあったチョコレートをがりっと齧り、一度大きく伸びをする。
2つのISコアをねぎらいはしたものの、実際の所全ては予定調和だ。むしろ面白いものも見れたし、“頼まれごと”も達成できて万々歳と言えるかもしれない。

「あの“合体攻撃”はいい発想だな~♪ジョウ君も予想以上のオーバースペックぶりだし、束ちゃんも年甲斐もなくドキドキしちゃった!ドキドキは大事だね!」

恍惚とした表情で見つめるのは送り出したISより送られてきた映像データ。それにしても合体攻撃とは面白い事を考える。理論上は可能だがあの状況下で実践に乗り出したことといい、ひょっとしたらアレは伸びるかもしれない。
彼女は知らない。その“アレ”と称した少女に関心を向けるという行為自体が、数年前にとある少年に出会わなければ一生持つことのなかったであろう感覚であることに。
と、そんなことを何となく考える束の耳に、聞きなれた少女の声が届く。

「束様。お父様がお見えになっています」
「誰が父親だ誰が!お前の父親になった覚えはない!」
「何をおっしゃいますやら。束様の夫であるあなたが私の父であることはもはや自明の理です」
「夫じゃねぇよ!勝手に婚姻届出されたことあるけど同意してねえし隠滅したよ!」
「通い夫が今更何を言いますやら」
「じゃかあしい!!」

もはやここ数年聞きなれたものとなった二人の漫才に束は振り返る。
そこにいるのは自分の娘同然の少女と、見慣れた親友。

「おお!?チカくんが部屋まで来るなんて珍しいね~?」
「ああ、例のデータが取れたって聞いたから受け取りに・・・って臭っ!!さてはテメェまた風呂に入ってねえな!?」
「失礼な!ちゃんと入ったよ!・・・4日前に」
「・・・クロエ」
「すみません。私が「どうしても手が離せない」という言葉を16回も信用してしまったばかりに・・・」
「お前の純真さは美点だとは思うが、偶にはあの馬鹿兎を疑え」
「馬鹿って言われた!?天才なのに馬鹿って言われた!!」
「馬鹿じゃないなら風呂に入れ!」
「一緒に入ってくれるなら・・・いいよ? (/////)ポッ」
「クロエ、浴槽に放り込んで洗って来い。命令だ」
「イエス!ユアマジェスティ!」
「あらー!?束ちゃんの人権は!?」
「無ぇよんなもん」
「し、しどい・・・」

3年前に行方をくらました天災科学者の現状がこれだと知ったら、各国の諜報員はさぞ腰砕けになるだろう。
ところがどっこい夢ではなくこれが現実だ。二人の立場は形式上は対等だが、ぶっちゃけ明らかにチカのほうが上になっている。まぁその分彼がこの変人の手綱を握らねばならない苦労があるのだが。
それでもやはり天災は天災である。やればできる子、今回の目的はきっちり達成している。

「・・・で、例のは?」
「二人ともばっちり“検出”されたよ。片方はちょっと小さいけど」
「問題ないさ、今はな。 “彼”は捉えられたか?」
「んふふ~・・・そりゃもうバッチリ捉えたよ!もう地の果てまで逃げても絶対に発見できるほどね?」
「そいつは重畳。・・・やはりここか。ちょっと“モモハル”ちゃんと連絡取ってくる」
「浮気はダ・メ・ヨ?」
「お前と付き合った覚えはねぇしあの子にも手は出さねえよ!」

きっちり否定した後に部屋を後にしたチカを見送って、束は改めて表示されたデータを見る。それは自身が装備した「箒ちゃん探知機」を応用・発展させたモノである。つまり、このデータはある特定の人物を発見したという端的な事実を現すものだった。
それは二人の良く見知ったある人物。5年前に行方をくらませた人物。

「・・・まったく、私たち二人掛かりで5年も見つからないなんて、かくれんぼの天才だよ君は?」

このことを知ったら、もう一人の親友は何というだろうか。拒絶するか?・・・いや、彼女はああ見えて意外と欲張りだから分からないな、と苦笑する。
見つけたからと言ってすべての問題が片付くわけではない。だが、一つの区切りはつくだろう。
なにより、彼をこれ以上放っておけない。

いつも笑顔だったあの人。
誰に対しても優しかったあの人。
人を惹き付ける魅力があったあの人。
そして、誰にも彼にも忘れられたあの人。
まるで世界から拒絶されたように、彼は突然手の届かない所へと行ってしまった。残された人々は“居なくなったことにさえ”誰も気付いていない。親しいものも親しくないものも、皆平等にあの人の事を忘れていた。
あの人は今何を考えているんだろうか。あの人は世界を恨んでいるだろうか。いや、その仮定すらもうすぐ無意味なものになる。もうすぐ、彼は「世界」に還って来れる。帰って来た彼が何を為すかは・・・彼が決める事だ。

「もうすぐだよ?もうすぐ皆で・・・迎えに行くからね」

今では世界でたった3人だけが本当の意味で知っている世界から居なくなったあの人を、束は愛おしげに想った。 
 

 
後書き
なげぇ・・・
上手い事伏線撒けたかな?とちょっと不安に思ったり。
でもここで撒いた伏線はこの物語の根幹とはちょっとずれてるという。
 
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