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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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バト・・・る?

「悪しき・・・気配。」

「沙穂ちゃん・・・暴走してる?」

 鈴蘭の転移によって沙穂の前に出現した二人は、周囲の状況に困惑していた。鈴蘭は、何やら危うい雰囲気を醸し出している沙穂に対して。睡蓮は、この病院を・・・否、この街全体を覆っている悪しき気配に対して。

「おや?獲物が逃げたと思ったら、新しい獲物が現れたであります。運がいいのであります!」

 今の彼女は、鈴蘭たちが化物にしか見えていない。それを知ることは出来ない鈴蘭たちだが、自分たちを見つけて、見惚れてしまうようなニッコリ笑顔で『獲物見つけた♪』などと言われてしまえば、沙穂が錯乱しているのが嫌でも分かる。

「あぁ・・・ヤバそう。これ、沙穂ちゃんの新しい権能の効果かな・・・?なんか禍々しいオーラ出してるし・・・。」

 鈴蘭がそう思うのも無理はない。なにせ、今の沙穂の身体からは、黒いオーラのような物が吹き出ており、それが地面に降りて溜まっている。色が白ければ、ドライアイスでも隠しているのかと疑うような光景だった。漫画とかなら、『魔人降臨!!!』・・・とデカデカと書かれていそうな光景である。

「姉上。それは違うと思います。・・・この周囲一体を、悪しき気配が覆っています。恐らくそれの影響かと。」

 睡蓮の言葉は、半分正解で半分間違いだ。確かに、最初に沙穂の精神を犯したのは、この島全体を覆うまつろわぬナイアーラトテップの権能である。しかし、今の沙穂は、それによる狂気を、更にブーストしている状態だった。・・・そう、まつろわぬ阿修羅を倒したことにより手に入れた権能【修羅の刻】。この権能の副作用により、既にほぼ限界まで狂気に侵されていた沙穂の精神は、更にヤバイ状態へと変化していたのだ。

 手に入れたばかりの権能で、その効果すらも確かめる暇が無かった為に、この場の誰も、【修羅の刻】の効果も分かっていない(というより、名前すら今はまだ付いていない。【修羅の刻】とは、この事件の概要を後で聞いたアリスがつけた名前である)。本人でさえ、使用してみるまで権能の具体的な効果は分からないし、掌握しきるまでその権能を百%使いこなすことは出来ない。それが神殺しの権能というものなのだ。

「しょうがない。今の沙穂ちゃんを放ってはおけないし・・・迷惑のかからない所で取り押さえようか。」

 面倒くさそうに呟くと、鈴蘭はパチンと指を鳴らした。その瞬間、その場の全員にドクンという衝撃が走る。・・・そう、隔離世へ入ったのだ。

「悪しき気配が・・・消えた。」

 睡蓮の呟きに、鈴蘭は自分の行動が間違っていなかったと安堵した。これ以上面倒くさい状況になるのは御免被る。彼女としては、一刻も早く沙穂を正気に戻して、この事件を終わらせたいのだ。そもそも、【聖魔王(自分自身)】がこの病院での戦闘行為を禁止していたというのに、自分の仲間が率先して人を襲ったというのが、頭の痛い問題なのだ。幸いにして狙われた人間は無事なようだが、もし死んでいたりしたら、沙穂にはもっとキツイお仕置きをしなければならなくなっていた。場合によっては、死よりもツライ(精神的に)お仕置きが待っていただろう。

 模擬戦や、遊びで戦うなら兎も角、今の沙穂には手加減などという言葉は欠片も残っていないだろう。こんな訳のわからない所で、仲間を殺すなどという事態にだけはしたくない。

「最初から本気で行くよ睡蓮。沙穂ちゃんは私たちの中でも特に頑丈。生命力も高いし、半端な攻撃は逆に彼女を追い詰めちゃって危険だからね。殺さなければ、何をやっても大丈夫。」

 中々に過激なセリフだが、沙穂の生存能力が仲間内で一番高いのは本当なのだ。例え腕がもがれても足がもがれても、まつろわぬ阿修羅戦の時のように新しい手足を作って、装着してしまえば何の問題もない。カンピオーネでありながら(・・・・・・・・・・・・)機械人間(サイボーグ)という、歴史上初の存在である彼女は、身体に装着された機械を自分の肉体として再構成する(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)というパンドラですら予想しなかった特性を身につけた。正直、これ自体が既に権能のような能力である。どれだけボロボロにされようとも、生きてさえいるのなら治すことができる。なにせ、【伊織魔殺商会】には、ドクターとリッチ、鈴蘭がいるのだから。

 だから、遠慮はいらないと。その言葉に、睡蓮も頷いた。

「では、行きます。」

 その睡蓮の言葉が引き金になったのだろう。三人は、瞬時に動き出した。

「あ、ハハハ!!!」

 瞳孔が開きっぱなしになっている沙穂は、自分に向かってくる獲物(睡蓮)に向かって踏み込んだ。・・・が、

「あ、え!?」

 ビシッ!バガン!!!

 拉げるような激しい音と共に、彼女は階下に転落する。突然のことに、援護のタイミングを図っていた鈴蘭も、突撃しようとしていた睡蓮も、動きを止めざるを得なかった。

「ど、どうしてでありますか!?」

 流石というべきか、猫のような身軽さで体制を立て直した沙穂は、両手を付いて着地した。しかし、なぜ急に床が抜けてしまったのかがわからず、混乱していた。

 彼女は剣士である。剣士というのは、間合いと踏み込みを何よりも大事にする。たった一歩の目測の誤りが、自らの命を奪うことだって有り得るし、今のように踏み込んでいる最中に床が抜けるなどという自体になったら、最悪の場合、自らの刃で自分を傷つける事になりかねないのだ。

 彼女がまつろわぬ阿修羅から簒奪した権能【修羅の刻】は、自身の身体能力と再生能力を極限まで高め、死からの蘇生能力・・・つまり、不死属性を会得する権能である。伝承によると阿修羅は、インドヒンドゥーにおいて《太陽神》、《火の神》の神格も持っているとされる。神話において《太陽神》の神格は、何度大地に沈んでも次の日には必ず昇ることから不死の属性を持つとされており、他にも『生命の脈動・活力』なども司る強力な神格だ。何度敗れても蘇り、帝釈天に挑み続けた阿修羅の性質を、そのまま手に入れた権能と言えるだろう。

 ・・・・・・だが、世の中そんなに上手くは行かないものだ。特に、手に入れた人間の性質に引っ張られて姿かたちを変えてしまうカンピオーネの権能と言うものは。ただ単に、身体能力と再生能力を高め、死の運命さえも覆す不死の属性を追加するだけの権能だったならば、これほど使いやすい権能も無かっただろう。沙穂は剣士で、敵と至近距離で戦うため傷が絶えないし、特に彼女の最初の権能【金剛杵(ヴァジュラ)】は諸刃の剣とも呼べる権能。一度使うだけで自分自身が瀕死状態になる権能なのだから、肉体の再生能力も高め、不死属性を追加するこの権能とは最高の相性だったはずだ。阿修羅の権能が宿敵の筈の帝釈天の権能を補佐するような能力になったのは、皮肉なものだが。

 しかし、この【修羅の刻】には致命的な弱点が存在した。

 それが、『戦闘以外の事柄を考えられなくなる』という副作用。

 帝釈天に対する恨みを抑えきれず戦い続けた挙句、『復讐に固執するのは正義の神として相応しくない』と正義を司る神から悪神、闘神にまで堕とされてしまったという経緯から生まれた副作用なのだろうが、こと戦いにおいて、これほど厄介な副作用もない。

 どんな犠牲が出ようとも、気にしなくなるのである。結果的に戦闘に勝利できればそれでいい。仲間が自分の攻撃に巻き込まれようと、何の関係もない一般人を攻撃の盾にしようと、何も感じない。自分の命ですら、敵を倒す為ならば気にせず差し出すだろう。それは、戦闘における苛烈さを加速させるとともに、周りの一切を気にせず戦うことから予想外の反撃を受ける可能性があるということだ。この権能を発動した彼女なら、普段は絶対厳守の鈴蘭の命令ですら、簡単に背くだろう。

 要は、戦いに熱中しすぎて周りが見えなくなる副作用なのである。

 今起こったのは、その弊害だ。彼女は、地面の状態も確認せず(幻覚によって地面は肉の塊に見えてはいるが、それでもよくよく見れば亀裂のような物が走っているのが見えた筈)、【修羅の刻】で最大限まで上昇した身体能力で、思い切り地面を踏みつけた。病院の床は、先ほどの彼女が起こしたソニックブームにより脆くなっていた。そこに、人外の膂力を持つ沙穂が全力で踏みつけたのだ。床が抜けるくらいは当たり前。むしろ、病院が倒壊しなかったのは幸運だとも言えた。

「好機!」

 その叫びに、沙穂は思考をカットした。咄嗟に横に転がると、今まで彼女がいた場所に睡蓮が薙刀を持って飛びかかって来ていた。

「ナーイス睡蓮。」

 だが、避けられたからといって喜ぶことは出来ない。そもそも、睡蓮は叫ぶ必要など無かったのだ。短い間とはいえ、自らの足場が崩れた原因を考えてしまっていた沙穂は、睡蓮の叫び声が無ければ避けることは出来なかっただろう。・・・いや、カンピオーネ特有の動物的な超直感によってギリギリ避けることも出来たかもしれないが、それでも完全には不可能だった筈である。

 ・・・では、何故睡蓮は自分の攻撃を教えるような真似をしたのか?

「今の沙穂ちゃんと真面目に戦うなんて、真っ平御免だよ!!!」

 避けれたのではない。避けらされた(・・・・・・)のだ。

 もし今の攻撃が上手くいったとしても、ただの一撃で行動不能になるような沙穂ではない。寧ろ、中途半端に傷を与えてしまったほうが面倒くさくなる生き物なのだ、カンピオーネという生物は。

 なら、どうするか?

「我は万物の父であり母である。この世の全ては我に由来し、我が支配出来ない者など存在しない。我は至高の存在也!」

「ちょっと大人しくしててね!!!」

 睡蓮の攻撃を避けて、地面に着地するその寸前。絶対に避けられないそのタイミングで、鈴蘭の攻撃が炸裂した。

炎獄(えんごく)、舞え!」

 神を殺す。ただそれだけの為に遥かな昔から続いてきた、神殺し四家最強の名古屋河家。”生きる神器”とまで評されたこの名古屋河家が受け継いできた奥義が、今炸裂した。

「な、熱いであります!!!」

 魂まで燃やし尽くすかのような地獄の炎。それが、沙穂を取り囲むように展開されたのだ。触れればその瞬間、骨すら残さず灰になってしまうようなその業火に、流石の沙穂も動きを止めざるを得ない。

「ふぅ・・・。これで・・・。」

 しかし。

 それは、沙穂が通常の状態だった場合の話であり。

「姉上!まだ油断されては!!」

 気を抜くには、まだ早かった。

「頭を垂れよ、我は力の化身也。幾千幾万の敵を薙ぎ払い、悪を滅ぼす者也。」

「嘘!?」

 諸刃の剣。勝っても負けても不利益しか出さないこの戦いで、自分の命を危険に晒してまで【金剛杵(ヴァジュラ)】を使ってくるとは思っていなかった鈴蘭。

 残念ながら、今の沙穂には常識が通用しない。鈴蘭たちが化物に見えている上に、【修羅の刻】の影響で、勝利の為には命すら必要ないと思っている彼女には。

 だが。

 この場合、不運なのは油断した鈴蘭の方ではなく、睡蓮が化物に見えていた沙穂の方であった。
 
 何故なら。

「我は守る者。轟き唸る神鳴り(かみなり)より、無垢な人々を守る者。」

 睡蓮の聖句が響く。

「焼き尽くせ、金剛杵(ヴァジュラ)!」

 沙穂の権能の方が、一瞬早く完成した。彼女の【金剛杵(ヴァジュラ)】は、その媒体となった右目のレーザーに影響されたのか、雷でありながらも光の速度で走る攻撃である。その為、必中。放たれた瞬間には当たっている。そういう攻撃なのだ。

 ・・・が、今回ばかりは相手が悪かった。

 なにせ、睡蓮は、沙穂にとって鬼門。彼女の天敵と言ってもいい権能を持っているのだから。

「罪なき人々を苦しめる者に、神の裁きを!」

 既に放たれた筈の【金剛杵(ヴァジュラ)】の雷撃が、鈴蘭に当たる寸前で九十度曲がった。その先には、聖句を唱え終わった睡蓮の姿。

 ゴッ・・・・・・!!!

 凄まじい音が、周囲に響く。鈴蘭はあまりの大音量に耳を塞ぐも、睡蓮のことを心配している様子は全くと言って無かった。

「攻撃が・・・曲がった、であります・・・・・・?」

 事態に追いつけていない沙穂は呆然とし、自分の意思とは無関係に曲がった攻撃を受けた化物へと視線を向ける。

「・・・・・・。」

 煙が晴れたとき、そこには怪我などした様子もない睡蓮が存在していた。

 しかし、その姿は、先ほどまでとは違う。

 身体も。服も。髪の毛の一本に至るまで、全てが光の粒子で構成されていた。神々しいまでの存在感を持って佇む彼女は、正に天使と言える。ここに画家などがいたら、涙を流して一心不乱にその姿を永遠に残そうと絵を描きだしただろう。それほどまでの美しさであった。

「残念。沙穂ちゃんと睡蓮は、相性最悪。それも分からなかったってことは、やっぱり正気を失っているってことだろうねぇ。」

 少し考える素振りを見せた鈴蘭だが、すぐに思考を打ち切ると、睡蓮に叫んだ。

「じゃぁ、少し厳しいお仕置き、やっちまいなー!」

「・・・・・・。」

 それに返事をすることもなく、睡蓮は動いた。

 パリッ!っという軽い音がしたかと思うと、その姿は既に沙穂の目の前。なんと、炎獄の炎の中に出現していた。

 普通なら、一秒でもいたら燃え尽きる筈なのだが、そんなことを気にしていない。そのまま彼女は、【金剛杵(ヴァジュラ)】の影響で身体中ボロボロな沙穂に向けて、ユックリと手を伸ばした。

「・・・っ!」

 沙穂は動けない。ほんの少しでも身体を動かせば、炎獄に当たってしまうから。”今月今夜(こげつこんや)”を振るうことすら出来ない。【無限なるもの(The Infinite)】によって呪力の心配などする必要もない鈴蘭は、本気の本気で炎獄を使用していた。有り余る呪力による、圧倒的な力押し。今や炎獄の炎は、神器ですら容易く燃やし尽くすまでの暴虐性を会得している。

「・・・暴れすぎ。これはお仕置き、です。」

 バリバリバリバリ!!!

 沙穂の身体から、凄まじいまでの音が響く。肉の焼ける匂いが立ち込め、煙が吹き出す頃・・・・・・頚動脈を押さえつけられたことにより、ようやく、沙穂は気を失ったのである。

 残った二人は、顔を見合わせると、どちらからともなく溜息を吐いた。

 崩れた天井からは、この惨状など関与しないとでもいうように、満月が煌めいていた。 
 

 
後書き
バトルになっていないですね。一方的な展開というか。っていうか、やっぱり説明長いんですよね。
後、しばらく公務員試験関係で投稿が遅くなる・・・と思います。気分転換に投稿とかはあるかも。 
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