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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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沙穂暴走

 そもそも。

 【剣の王】サルバトーレ・ドニの命令だけで、隠しきれる訳が無かったのだ。

 鈴蘭たち【伊織魔殺商会】は、確かに日本を拠点として活動している。・・・が、その首領である『聖魔王』名古屋河鈴蘭には、距離の概念など存在せず。そして、今や彼女の行動一つで世界経済が変わるとすら言われている莫大な資産と影響力を使えば、世界各地にネットワークを構築することなど容易い。

 これが一般企業などだったら、また結果も変わっただろう。いくら資金と地位があっても、法律などに縛られる為にどうしても動きは鈍くなる。その地域を縄張りにしている様々な組織との折り合いもあるのだし、そういったものの影響で、ネットワークや人脈構成などには、多大な労力が掛かる。

 しかし、彼女は違う。

 彼女は『魔王』である。

 法律?なんだそれは?

 地域に蔓延る裏組織?そんなものは知らない。

 彼女に常識は通用しない。彼女に法律など適用出来ない。彼女を縛り付けようとするならば、国が滅びることを覚悟しなければならない。

 それ程の存在なのだ。『カンピオーネ』とは。

 障害など、合ってないようなもの。彼女が世界各地にネットワークを構築するのに、一ヶ月も掛かっていない。ドニの牽制など意にも介さない人間は、この国にも大量にいるのだ。まつろわぬ神という、その地域に住む生物全ての敵である災害が来て、それを早期に解決出来る手段があるにも関わらず、自分の楽しみの為だけに行動を起こすドニを信用など出来るはずがない。直接彼の庇護を受けている大手魔術結社は彼を裏切ることは出来ないが、フリーの魔術師は彼の命令を破った報復など恐れない。彼らには、ドニとの戦闘に勝利した鈴蘭が居るのだから。戦いに絶対などないため、もしかすれば鈴蘭が負けるかもしれないが、【伊織魔殺商会】は四人ものカンピオーネを擁する、前代未聞過去最大の魔術結社。彼女を倒しても、まだ他に三人もいるのだ。

 ただ、自分の報復を恐れずに鈴蘭たちに情報を渡す人間がいるだろうということを、ドニは予測していたようだ。子飼いの魔術師たちを使ってその人間を襲撃したりして、情報が渡るのを可能な限り遅らせていた。今この国では、まつろわぬ神の被害の他にも、鈴蘭側の魔術師と、ドニに命令された魔術師との戦闘まで勃発していたのだ。相変わらず普段は抜けているくせに、戦闘関係になると知恵が働く人間である。

 だが、そんな小細工がいつまでも通用するはずがない。つい数十分前、鈴蘭はこのサルデーニャ島でまつろわぬ神による異変が起きていることを知った。そして更に、彼女が建てた病院で戦闘行為が発生していることを、彼女が察知出来ない筈がない。

「なにを考えているのかなあのバカは!これが終わったら、協力してた魔術結社共々お仕置きした上で、金を毟り取ってやるんだから!」

 哀れ。ただドニの命令を遂行していただけの大手魔術結社は、鈴蘭の怒りを買ってしまったようだった。

 彼女が世界中に建築させた病院には、物理精神複合結界の他にも、探知結界など様々な効果の結界が張り巡らされている。争いごとを禁止している場所で、万が一にも戦闘行為が起きてしまった場合、それを即座に察知して駆けつける為だ。その結界の効果によって、自分の建てた病院に、何か特殊な術が掛かっていることを察知した彼女は、そこにまつろわぬ神がいるのだと勘違いした。すぐさま白井沙穂と自分の双子の妹である名古屋河睡蓮を連れて転移した。長谷部翔輝は、船の護衛として残ってもらった。戦力は少なくなったが、それでもアウター数名とカンピオーネという何とも豪華な戦力が護衛として付いているのだ。何が起きても対応出来るだろう。

 ・・・ただ、ここで彼女はミスを犯した。

 白井沙穂を連れてくるべきでは無かったのだ。長谷部翔輝を連れてくるべきだった。複数のまつろわぬ神が暴れているという情報で三人連れてきたのだが、沙穂を連れてきたのは悪手であった。沙穂一人を留守番させては、船に何かあった時に柔軟な対応が出来ないかもしれない。あの船にはアリスなどの超VIPも乗っている為に、戦いの最中でもある程度冷静さを保って戦うことが出来る翔輝を置いてきたのだが・・・。

 この場合、この配慮が完全に裏目に出た。

 それは何故か?

「む・・・?変な場所に出たであります。鈴蘭殿たちは何処でありますか?」

 何故か、鈴蘭の転移術式の座標がズレたことにより、沙穂だけが病院の七階へと転移していた。・・・のだが、彼女の目に映るのは、一面に広がるサーモンピンクの肉の世界だった。

 そう、彼女と、まつろわぬナイアーラトテップの相性は、致命的と言ってもいいほどに悪かった。相性が悪いどころではない、最悪である。そもそも、まつろわぬナイアーラトテップのこの権能は、生物に直接掛ける訳ではなく、空気感染タイプである。呪詛とも言える特殊な呪力を大気中に流し、それを体内に取り込んだ生物の精神を破壊する権能。これは、自身に掛かる魔術や呪いを無効化してしまうカンピオーネの体質でも、防ぐことが不可能なものである。何故なら、カンピオーネに対しても、経口摂取ならば魔術も効果を及ぼすからだ。

 そして、この権能は、個人個人との相性の差が明確に出るタイプの権能である。たったの数分で幻覚を見始める者も居れば、一日経っても平常で居られる者もいる。・・・最終的には、全員が精神崩壊を起こすことには変わりないのだが、そこに至るまでの時間に幅がありすぎるのだ。

 その点、何度も言うようだが、沙穂は最悪の相性であった。何故なら、そもそも元から狂っているから。

 人の精神を金剛石(ダイヤ)、そして、ナイアーラトテップの権能をハンマーだと仮定しよう。いくらハンマーの攻撃力が高くても、無傷の金剛石(ダイヤ)を破壊することは難しい。だが、既に罅があちらこちらに入った金剛石(ダイヤ)を破壊することは、そんなに難しくない。

 つまり、まだ人間の悪意に染まっておらず、無垢なままの子供や赤ん坊などにはこの権能は効果を及ぼしにくい。・・・が、逆に、大人になって世界の厳しさを知った人間や、人の悪意や世界の裏側を沢山見たことのある人間は、簡単に精神を侵されてしまう。そういう類の厄介な権能なのだ。

 さて、実は、そこで終わるのなら何の問題も無かった。

 沙穂が錯乱し、問答無用で暴れまわっても、平常心を欠いた状態ならば、名古屋河姉妹ならばなんの問題も無く無力化することができる。・・・・・・そう、そんな性格だったのなら、どんなに楽だっただろう?

 偶々沙穂が転移したのと同じ七階にいた護堂たちにとっては不幸なことに、生命を冒涜するような一面に広がる肉の世界や、精神を犯し尽くすような世界に満ちる音、生きていることを後悔するようなレベルの腐臭などという、その程度のこと(・・・・・・・)で取り乱すほど、彼女は甘い性格では無かったのだ。

「生物の気配がするであります。・・・・・・取り敢えず、斬り殺したらこの空間から出られるでしょうか?」

 狂っているのが正常(・・・・・・・・・)という彼女にとっては、この空間さえも、普段と少し違う程度の感想しか抱けない。取り敢えず(・・・・・)近くにいる生命体を斬り裂いてから考えればいい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。今の彼女には、護堂たちの気配が人間のものだと気付くことは出来ない。自分以外の全てが化物に見えるし感じるのだから。

 ・・・更に言えば。

 彼女が新たに手に入れた権能の副作用も、護堂たちにとって悲劇だったと言っていいだろう。

「繰り返せ。肉が穿たれ骨が折れようとも。立ち止まるな。その目を抉られ、脳髄を掻き乱されようとも。宿敵はそこに。勝利はそこに。我は不屈の戦士成!」

 彼女が聖句を唱え終わったその瞬間、彼女は”今月今夜(こげつこんや)”を抜き放った。それは、彼女が得意とする居合抜き。・・・だが、それまでの居合とは全く違う点が、その技にはあった。

「ふ・・・アハハ。凄いであります!!!」

 威力。

 今までとは、まるで桁違いのその攻撃力。そして、攻撃範囲。彼女は、ただその場に立って、一瞬の内に5回ほど居合抜きをしただけなのだ。今までなら、彼女の周囲の壁が斬り裂かれるだけで終わっただろう。・・・しかし、今の彼女の攻撃によって、この病院の七階部分どころか、病院から少し離れた位置に建っているビルの七階部分までもがバラバラに斬り裂かれてしまっていた。

 これが、彼女がまつろわぬ阿修羅から簒奪した権能【修羅の刻(しゅらのとき)】の効果の一部分であった。権能のたった一部分。副次効果だけでこの威力。・・・ただ、彼女が手に入れる権能は、彼女の性質に惹かれるのか、どうしても厄介な副作用を持ってしまうようだ。

「・・・あれ?避けられたであります?」

 崩れた壁から見えたのは、自分が標的にしていた化物(・・)が傷一つなく生存している光景だった。

「ク、ククク。アハハハハハハハハハハ!!!」

 それを見た瞬間、彼女は高笑いを始める。目からは涙を流し、崩れた天井から血を流す真っ黒な天体(満月の月)を眺めながら、ただただ楽しそうに爆笑した。

「避けられた!避けられたであります!手加減なんてしなかったのに!絶対に避けられるタイミングじゃ無かったのに!!ク、ハハハ!!」

 普段の彼女からは想像も出来ないテンションで、彼女は笑い続ける。既に彼女が標的にしていた化物(護堂)たちが逃げ出していることにすら気がつかないで、ただただ笑い続けた。

「ハハハ・・・おや?」

 彼女の笑いが収まったのは、笑い始めてからたっぷり二分も経った頃。そこに至り、ようやく彼女は、目標が既に存在しないことを悟った。

「・・・・・・・・・逃げられた、であります?」

 ポカンとその場に立ち尽くす早穂。しかし、自体は進行を続ける。

@&$&;:**#(落ち着きなさい)。』

 目の前に、新たな獲物がやってきたのだ。それも二匹。

¥?&#$+*+*”(どうしちゃったの)!?』

 ここで、カンピオーネ同士の戦いが始まるなどと、一体誰が予想しただろうか? 
 

 
後書き
次は、名古屋河姉妹と沙穂のバトルになります。・・・っていうか信じられますか?こんなに書いてきたのに、睡蓮ってまだ片手で数える程しか喋ってないんですよ?
最初の方で、睡蓮のキャラをつかみきれていないって言われて、出すのが怖くなってそのままだったんですけど・・・さすがに、このままでは完全に名前だけの出演になってしまうので、頑張って書きます。 
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