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神々の黄昏

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第三幕その六


第三幕その六

「炎に囲まれた中に」
「炎だと!?」
 それを聞いたグンターが眉をしかめさせた。
「炎といえばまさか」
「ローゲの炎だった」
 だがジークフリートはグンターのそれにもハーゲンの目が光り彼の背に密かに近付いていることにも気付いていなかった。
 そうしてだった。その話をさらに聞くのだった。誰もが。
「その炎を乗り越えて」
「乗り越えて」
「そうして?」
「その中に入れば」 
 そうなればというのである。
「一人の乙女がいると」
「炎の中の乙女か」
 それを聞くとさらに動揺するグンターだった。
「それこそはまさに」
「そう、ブリュンヒルテ」
 この名前も出るのだった。
「彼女が私のものになると」
「そしてだ」
 周りはここまで聞いて唖然となるがハーゲンは後ろから彼に問うた。当然その右手には槍が存在している。銀色の輝きを放ってだ。
「その小鳥の忠告を聞いたか」
「その通りだ」
 こう答えてさらにだった。
「私はその山に向かい」
「まさか」
「そうして」
「燃え盛る炎を越えてそこで彼女に会った」
「間違いない」
 グンターはここまで聞いて確信した。
「彼女こそは」
「その眠る美女は武装していた。しかし兜を脱がせるとだ」
 その名をまた出すのだった。
「ブリュンヒルテがいた。彼女は私の接吻で目を覚ました」
「全ては事実なのか」
 グンターは呆然となっていた。
「それでは」
「そうして私達は夫婦となった」
 ここで木立の中から烏が来た。二羽である。それがジークフリートの頭上で輪を描きそのうえで去るのだった。
 ハーゲンはその烏達を見届けてから言った。
「烏達が告げた」
「烏が?」
「何を」
「ヴォータンの烏達がだ」
 こう家臣達に言うのである。
「私に裁きを与えよとだ!」
 その言葉と共にジークフリートの背に槍を突き刺した。一瞬だった。
 ジークフリートはそれをかわすことができなかった。そのまま受けてしまった。身体をのけぞらせ硬直する。
 ハーゲンが槍を抜くとそこから鮮血がほとぼしり出る。誰もがそれを見て驚いて声をあげた。
「ハーゲン!」
「何故だ!」
「何故彼を!」
 グンターは止めようとしたが間に合わなかった。全ては一瞬だった。
「本当にやったのか」
「貴方の為だ」
 こう嘯くのだった。
「全ては」
「しかしだ」
「全ては終わった」
 話はこれで終わらせた。そしてジークフリートは。
 彼は動きを止めていた。だがやがて口を開いて言うのだった。
「ブリュンヒルテ」
 その名前を出すのだった。
「聖なる花嫁よ。目覚めよ、瞳を開けよ」
「あの方のことを」
「また」
 その死の間際の中の言葉を聞きながら皆言う。
「では本当にか」
「愛しているのか」
「誰が御前をその恐ろしいまどろみの中へやったのか」
「目覚めさせた時のことだな」
 それはグンターもわかった。
 
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