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100年後の管理局

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第二十八話 逃走、不倒

 
前書き
またも更新が開いてしまいました。

研究室って忙しい・・・ 

 
ドォン!!
そんな轟音が辺り一帯に響き渡る。
埃が辺り一帯に舞い上がり、視界が完全に遮られる。
『ム……?』
けれども、視界はなくとも感触はある。
その拳から伝わる感触は土の柔らかさではなく、何らかの硬い壁のような物を叩いた感触だった。
そして埃が風に流され視界が開けると、そこにあったのは誠也の死体ではなく、黄色の丸い障壁だった。
「バルディッシュ!!」
『Yes, sir. Cartridge load.』
ガンガンとバルディッシュから薬莢が二つ排出され、障壁となっていた魔法陣に一つの魔力球が生成される。
「トライデント――!」
その掛け声に追随して、魔法陣が上下に一つずつ追加される。
『Trident smasher.』
「スマッシャ――!!!」
拳を防いでいた魔法陣から、その拳を押しのけるように砲撃が射出される。
そしてその一瞬後に上下の魔法陣からもそれぞれ砲撃が射出される。
上下の二本はすぐさま先行していた一本に追いつき、機械王に着弾する直前その軌道を変え、先行していた一本と同じ位置に着弾する。
『グオオ!!』
不意の一撃にわずかに一、二歩後退する。
その隙にアリスは誠也を抱えあげ、逃走の体勢に入る。
『逃ガスモノカ!!』
しかし、機械王もそう簡単に逃走を許したりはしない。
よろめいてしまったことでわずかに崩れた体勢をすぐさま立て直し、逃げ出そうとするアリスに向かって攻撃する。
「小太刀二刀御神流裏 奥技之参 射抜!!」
黒い影が超高速の三連突きを機械王に放つ。
ガガァンと硬いものがぶつかり合ったような音が一体に響き、機械王の腕は弾き飛ばされる。
『何奴――!?』
「小太刀二刀御神流斬式 奥技之極 閃!!!」
三連突きの体勢のまま、左手に持った小太刀が振り抜かれる。
その一撃は相手がただの鋼鉄などの金属なら容易く切り裂いていただろう。
だが、機械王が相手では切り裂くには至らなかった。
機械王の装甲を一センチほど切り裂くものの、それ以上は全く切り裂けていなかった。
『フンッ!!』
相手の武器を自らの装甲によって固定できたことで、相手の動きを封じた機械王は、その隙に弾き飛ばされなかった右腕で攻撃を仕掛ける。
しかし、黒い影は武器をすぐに手放し、一瞬でその姿を消した。
『ドコニイッタ!?』
周囲を見渡すものの、それらしき影はどこにもなく、目の前に居た誠也もすでに姿形もなかった。
『一杯食ワサレタカ。』
どれほど時間がたっても攻撃の気配もなければ、生き物が動く気配すらない。
その時初めて逃げられたのだと悟った。
『王ヨ。申シ訳ゴザイマセン。』
『ドウシタ?』
森の中に作られた玉座へと機械王が戻ると、そこでは側近たちが跪き詫びていた。
謝られることなど何もない。一体何のことを言っているのかの見当すらつかない。
『邪魔者ヲ入レルナトイウ御身ノゴ命令ヲオ守リデキズ、申シ訳アリマセン。』
『律儀ナコトヨ。』
機械王は玉座へ座り、側近たちを労った。
『気ニスル必要ハナイ。奴トノ戦イハ我ノ勝利デ終ワッタノダカラ。』
『オオッ!!サスガハ王ニゴザイマス!!』
自らの王の勝利に、喝采をもって答える側近たち。
しかし、王はそれに対して、さほど反応を示さず、別の話題を切り出した。
『………オ前達、今回ノ戦イデドレホドノ戦力ヲ失ッタカ報告セヨ。』
『ハッ!今回ノ戦イニオイテ失ワレタソノ戦力は、ソノ数オヨソ二百ホドト思ワレマス。』
『全体ノ約一割ホドノ損失ニナリマス。』
『デスガ今スグニデモ、人間ドモニ戦争ヲ仕掛ケル事ハ可能カト。』
『王ヨ。ゴ決断ヲ。』
『………。』
機械王は肘かけに頬杖を突き、黙りこくる。
沈黙の間、その瞳の宝玉の赤色は全く発光していない。
側近たちは、伏せていた顔を挙げ、王を見上げ、王の言葉を今か今かと待ちわびていた。
そして、機械王の瞳が再び紅く輝いた時、王はこう言った。
『オ前達、至急同胞達ヲココニ集メヨ。』


「早急に対策をとりましょう。」
アリスは誠也を抱きかかえ、和也と共に月村邸に帰還した直後、りんかにそう告げた。
りんかもそれを受け入れ、アリス、りんか、エリ、和也、そして和也の父、剛士の五名で対策を講じるため話し合いが行われようとしていた。
ちなみに誠也は魔力枯渇に加えて気絶しているため、ベッドの上である。
「それじゃあ、りんかさん。事件の発端から話していただけますか?」
開口一番、アリスはりんかへと要求する。
りんかもそれに応じて語り始めた。
「始まりは二カ月ほど前の事なんだけど……。」


事の始まりは二か月前に起こったある事件であった。
それは家庭用ロボット盗難事件である。
高度に機械文明の発達した地球では、ロボットは大きな労働力として重要視されている。
それは工場以外にも家庭などでも重要視されているのだ。
日々の家事などもロボットが普及し始めたころから徐々にロボットが中心となっていき、今では家事のほとんどをロボットが行うのが当たり前になっていた。
そして、そんな状況の中で起こったのがロボット盗難事件である。
だが、その事件が起こったのを耳にしたりんかは、その事件に不可解さを感じていた。
そもそもロボット、特に家庭用ロボットは、自分達の所有者をしっかりと認識しており、他の人間に対してきちんと区別ができるはずなのだ。
つまり、他人の家のロボットを盗んだところで、ロボットは働くことはないし、勝手に逃げ出して所有者の家に戻ったりするなどで、盗むメリットなどほとんどないのだ。
しかし、ロボットは現に盗まれ、しかもその所在を知ろうにも、なぜか向こうが信号を切っているため探すこともできない。信号が切られているということはロボットが自発的にいなくなっているという可能性を示唆している。
それらの現象を不思議に思ったりんかは調査に乗り出すことにした。
そして、ある一つの原因にたどり着く。


「「「魔力?」」」
剛士を除く三人が一斉に疑問を発する中、りんかはその疑問に頷いて答える。
「うん。何らかの指向性を帯びていると思われる魔力の散布が確認されていたの。そしてそれが分かったのがつい数日前。もう少し調査を進めて、ある程度原因が特定できたら管理局に連絡を取ろうと思っていたんだけど………。」
「その矢先に今回の事件が起きたんですね?」
「うん。」
アリスの言葉に頷くりんか。
「………結局大したことはわからず仕舞いか。」
和也がぽつりとそう呟く。
「……ごめんね。役に立てなくて……。」
りんかがしょんぼりとして肩を落とす。
それを見た和也は慌ててそれを否定する。
「い、いやそういう意味じゃないぞ!ただ、相手がどういう奴なのかは結局誠也に聞くしかないなってそう思っただけだ!」
フォローにすらならないフォローをして、さらにりんかを落ち込ませる和也。
エリやアリスの視線が和也に突き刺さる。
その視線に気づき、和也は縮こまる。
その様子を見たのか、りんかは突如落としていた肩をあげて、くすりと笑いだす。
からかっていたのか!?
そう和也が言いそうになった瞬間、今まで黙っていた剛士がごほんと咳払いをした。
「……アリスや和也が見たと言う巨人、機械王の持つ能力は恐らく機械を操るもの。それで相違ないな。」
「はい。レイジングハートの証言、事件の性質から見て恐らくそれで間違いありません。」
剛士の言葉にアリスは同意する。
本来いなくなるはずのないロボットたちが、さも自発的にいなくなったように見えること。
消えたはずのロボットたちが襲いかかってきたこと。
レイジングハートの証言から、何らかの外部干渉により強制停止に追い込まれたこと。
この三点から考えて、機械王はロボットたちの首領的な立ち位置でなおかつ機械を操る性質を持つと言える。
「……今、一番の問題は機械王への対抗策が一切ないことだ。アリスや和也、そして俺も恐らくそいつを倒すことはできないだろう。」
「剛士さんもですか……?」
言いきる剛士に対して疑問を呈すアリス。
剛士の実力のほどをアリスは良く知っているからこそ、そう言いきる剛士には疑問を覚えた。
「……無理だろうな。和也、お前『閃』を使ったな?」
「ああ。」
「……どのくらい切れた?」
「一センチくらいだ。それ以上は無理だった。後、相手の腕は三十センチくらいの太さがある。」
「……今のを聞いてはっきりした。負けはしなくとも絶対に勝てないだろうな。」
「どういうことなんですか?」
再度の断言にアリスが問いかける。
「……俺の『閃』と和也の『閃』では確かに俺の方が威力は高い。だが、それでも三十倍以上の威力があるわけではない。」
つまり、相手の腕を切ることすら敵わないのだ。
剣士として戦うことしかできないのでは、負けることはなくとも決して勝つことはできない。
相手にダメージを与えることすらできないのだから。
「そうですか………。」
「……アリスはどうだ?倒す手段はありそうか?」
「………かなり難しいですが、バルディッシュがあればなんとか。でも、レイジングハートが機能停止に追い込まれる以上、バルディッシュもそうなると考えれば、倒す方法はないです。」
アリスの戦闘スタイルは他を圧倒する速度に重点を置いたスタイルである。
そして、その戦闘スタイルを成立させるために攻撃力をある程度犠牲にしている。
そのため、アリスが最も苦手とするのが圧倒的防御力を有する相手である。
勿論だからと言ってその対策を全く立てていないわけではない。
でも、それは全てバルディッシュありきの話であり、バルディッシュを使えないとなるとその話は大きく変わる。
「……打つ手なしか……。」
誠也がダウンしているため、アリス、和也、剛士の三人の誰かが機械王と戦わなければならないのだが、誰一人として勝つ算段を持っている人がいない。
こうなってくれば、誠也が回復するのを待たなければならないが、レイジングハートからの情報で機械王が人間へ戦争を仕掛けようとしているという情報を得たからにはゆっくりと動いてはいられない。
機械的な武装では対抗できない以上、魔法や刀などの武器で対抗する以外方法がない。
しかし、それでは倒せない。
文字通り打つ手なしだった。
「………いえ、打つ手は、あります………!」
そう言ったのは、壁に体をもたれかけている誠也だった。
 
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