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夢遊病の女

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第一幕その五


第一幕その五

「ですから」
「有り難うございます。
「僕は今日母の墓前に行きました」
 エルヴィーノはこんなことも自分から話しはじめた。
「アミーナはお母さんが持っていた美徳を全て持っています。僕は必ずお父さんと同じ様に幸せになると。こうお母さんに言いました」
「それはいいことです」 
 公証人は彼のその言葉を聞いて笑顔になった。
「村の地主である貴方の幸せはそのまま村全体に伝わります」
「そうなるのですね」
「そうです。ですから」
「何という嬉しい言葉」
 アミーナはそれを聞いてまた笑顔になった。
「エルヴィーノと一緒に永遠にいられるかと思うと」
「それでなのですが」 
 公証人はここでまた言ってきた。
「証人は」
「はい、我々です」
「我々全員です」
 村人達が笑って名乗り出て来た。
「皆でこの結婚の証人になります」
「そして祝福します」
「はい、それでは」
 公証人は何時の間にか契約に関する書類を出して来た。そうしてそのうえでまたエルヴィーノに対して声をかけて尋ねるのだった。
「エルヴィーノさん」
「はい」
「貴方は貴方の妻に何を贈られますか?」
「僕の農場」
 まずはそれだと言った。
「僕の家、僕の名前」
「そういったものをですね」
「はい、僕の持っている全てを」
「わかりました。それではです」
 今度はアミーナに顔を向けて。そして問うのであった。
「アミーナさん、貴女は」
「全てを」
 彼女もまた同じであった。
「私もまたその全てを。そして」
「そして?」
「私の心も」
 それもだというのだ。
「それもです」
 テレサや公証人、それに村人達が書類に署名していく。その間にエルヴィーノはアミーナに対してあるものを差し出してきた。それは。
「指輪なのね」
「受け取ってくれるかな」
 差し出しながら微笑んで問う。
「この指輪を」
「ええ、喜んで」
 ここでもにこりとした笑みになる彼女だった。
「そうさせてもらうわ」
「有り難う、それじゃあ」
「これはね」
 エルヴィーノはその手に持っている指輪を見詰めながら話した。
「母さんが昔付けていたものなんだ」
「その指輪がなの」
「うん、母さんにとってこれが神聖であったし」
 その話を続けていく。
「君もそうであるように」
「その為に」
「それがいつも僕達の信頼の証であるように」
 そのことを心から願っているのだった。
「是非ね」
「さあ二人共」
「これで幸せに」
「僕達はこれで」
「ええ」
 アミーナはその指輪を遂に受け取った。それを見届けたエルヴィーノはまた笑顔で言った。
「これで僕達は花嫁と花婿になったんだ」
「何て甘い響きの言葉」
 それをアミーナも喜ぶ。
「私が今それになれたなんて」
「さあ、アミーナ」
 またアミーナに声をかける。
 
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