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夢遊病の女

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第二幕その四


第二幕その四

「だから。僕は」
「何処に行くんだ?」
「行かない方がいい」
「少し風に当たってくる」
 こう言って去るのだった。
「少しね」
「待って、エルヴィーノ」
「いや、僕は行く」
 しかし彼は行くのだった。彼はそのまま広場に去ってしまった。村の広場に行くとであった。そこにはリーザとアレッシオがいた。二人はそこにいるのだった。
「あれっ、エルヴィーノ」
「アレッシオかい」
「どうしてここに?」
 彼は怪訝な顔でエルヴィーノに問うた。
「ここにいるんだい?」
「何でもないよ」
 彼は浮かない顔でアレッシオに返した。
「別に」
「それなら」
 リーザはそっと彼のところに来て言うのだった。
「心を落ち着ける為に飲まない?」
「お酒を?」
「ええ、私の宿屋にいいワインがあるわ」
 それを勧めるのである。
「だから。どうかしら」
「ワインをかい」
「それを飲んで心を落ち着かせるのよ」
 こっそりと彼に勧めるのだった。
「いいわね」
「そうだね。それじゃあ」
「いや、待ってくれ」
 しかしここでアレッシオが言うのだった。
「それは」
「それはって?」
「エルヴィーノ、君はお酒に頼るべきじゃない」
 それを止めるのである。
「今はね」
「それはどうしてなんだい?」
「もっと彼女の話を聞くんだ」
 切実な顔での言葉だった。
「いいね、それは」
「けれどそれは」
「気持ちはわかるよ。それでもだよ」
 彼は優しくエルヴィーノに言う。
「君は今はね」
「それでも僕は」
「おお、ここにいたか」
 迷うエルヴィーノだったがここで今度は。伯爵が彼の前に出て来て声をかけてきた。
 その表情は穏やかなものだ。その彼がエルヴィーノに声をかけてきたのだ。
「いいかな」
「伯爵」
「君が沈んでいる理由はわかっているよ」
 声もまた穏やかなものである。
「それはね」
「では今は」
「いいかい?」
 その穏やかな声での言葉が続く。
「アミーナは信じるに値する女性だ」
「アミーナは」
「そう、気味の愛と尊敬を受けるに足る」
 そうだというのである。
「若し君が望めば」
「僕が?」
「その時は彼女の美貌と長所の証人になろう」
「そう言って下さるのですね」
「それを今誓おう」
 こう彼に言うのである。
「それでいいかな」
「御言葉は有り難いです」
 それは受けるという。
「ですが」
「ですが?どうしたんだい?」
「僕は僕の目で見たものしか信じません」
 これが彼であった。
 
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