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夢遊病の女

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第二幕その二


第二幕その二

「きっとね」
「きっと?」
「伯爵様が助けてくれるから」
「あの方が」
「そうよ。だからね」
 そしてまた優しい声を娘にかけた。
「元気を出すのよ」
「元気を」
「気を取り直してね」
 こうも告げるのだった。
「それでいいわね」
「ええ・・・・・・けれど」
「けれど?」
「私はもう」
 その悲しみは顔から消えはしなかった。
「何もかもが消えてしまって」
「アミーナ・・・・・・」
「何もないから」
 涙は涸れなかった。今も彼女の目から流れ続けている。
「だから。誰が守って下さっても」
「それは・・・・・・」
「私はもう」
「私がいるわ」
 またこう言うテレサだった。
「それに」
「それに?」
「あの人もよ」
 さらに言うのだった。
「まだ貴女を愛してるわ」
「エルヴィーノも?」
「そうよ。それは間違いないわ」
「そんな筈がないわ」
「いえ、貴女がそう思っているだけよ」
 こう娘に言うのだった。
「それはね」
「けれど」
「エルヴィーノも苦しんでるのよ」
 そうなのだという。
「貴女が今悩んでいるようにね」
「そうなのかしら」
「そうよ」
 あくまでそうだと語るのだった。
「だから安心して。いいわね」
「けれど」
「気を確かに持って」
 あくまで優しく言うのであった。
 そしてここで。エルヴィーノが来た。テレサは彼を指し示してそのうえで話すのだった。
「いいわね」
「えっ?」
「来たわよ」
「エルヴィーノ・・・・・・」
「頑張りなさい」
 さらに優しく言う彼女であった。
「わかったわね」
「けれど」
「勇気を持つのよ」
 そうしろというのだ。
「いいわね」
「けれど私は」
「私がいるわ」
 どうしてもという彼女の背中についての言葉だった。
「いいわね」
「わかったわ。それじゃあ」
 こうしてようやくであった。アミーナはエルヴィーノと対するのだった。
 そのエルヴィーノは一人呟いていた。その晴れない顔で。
「全ては壊れてしまった。もう僕には何もない」
 彼もまた同じことを言っていた。そして。
 そのエルヴィーノにだ。アミーナが声をかけてきた。
「エルヴィーノ」
「うっ・・・・・・」
 アミーナのその顔を見て表情をさらに暗いものにさせたのだった。
「君か」
「心を静めて下さい」
 切実な顔での言葉だった。
「どうか」
「駄目だ」 
 暗い顔での言葉だった。
「そんなことはできない」
「私には何の罪もないわ」
 そうだというのである。
 
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