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夢遊病の女

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第二幕その一


第二幕その一

                第二幕  思いも寄らぬ喜び 
 婚礼が破棄された村の中。村人達の顔も浮かない。
「森は深くて暗く」
「小川は澄んでいる」
「見渡す限りの青と緑」
「この村は今日も奇麗だ」
「しかし」
 しかし、なのだった。
「伯爵様は何処に行かれたのか」
「お城に行かれたのか?」
「あのお城に」
 少し離れた山のところにその城が見えていた。まるで白鳥の城である。
「だが。それにしてはおかしくないか」
「そうだな。馬車もまだあるし」
「荷物もある」
「まだこの村におられるのだな」
「どうやらな」
 こう話していくのであった。
 しかし彼の姿は見えない。このことを心配していた。
 そして。今彼等が暗くなっている原因についても話が為された。
「アミーナはな」
「ああ、一体何故」
「あんなことになったんだ?」
「あの娘があんなことをするだろうか」
「とても考えられないぞ」
 誰もが彼女のことを知っていた。だから少し時間が経つとどうにも朝のことが信じられないのである。それもどうしてもであった。
「他の男の部屋にいるなんて」
「しかも寝巻きで」
「そんなことは有り得ない」
「全くだ」
 そうしてこう言い合うのだった。
「潔白ならだ」
「神は守って下さる」
「そうだ」
 まずは皆こう考えた。
「だが罪があるなら」
「その時は」
「神よ、どうか御救い下さい」
「あの娘を」
 皆何とかアミーナを信じたかった。そうして幸せになって欲しかったのである。
 それが心に出ていた。そのうえで話されるのだった。
「そしてエルヴィーノは」
「信じて欲しいのだがな」
「全くだな」
「アミーナのことをな」
 彼に願うのはこのことであった。
「わし等はエルヴィーノも知ってるしな」
「そうだな」
「いい奴だ」
「真面目で穏やかで」
「しかも人を分け隔てしたりしない」
 そうした美徳の持ち主なのである。だからこそ皆から好かれているのだ。
「若いのにしっかりしているしな」
「そんな奴だからな」
「是非幸せになってもらいたいが」
「どうなるんだ?」
 彼等にしても困り果てていた。
「こうなってしまっては」
「打つ手がないのか」
「せめて悪魔の正体がわかれば」
「あの娘をあそこにやった悪魔の実態がわかれば」
「いいのにな」
 彼等はこう言うしかなかった。そしてアミーナは今も泣いていた。村の外れの自分の家の前でテレサに抱き締められその胸の中で泣いているのであった。
 そのアミーナが。テレサに言っていた。
「ねえお義母さん」
「どうしたの?」
「お義母さんがいてくれてよかったわ」
 こう彼女に言うのだった。
「本当にね」
「いてよかったの、私が」
「ええ」
 まさにその通りだというのだ。
「さもなければ私はもう悲しくて死んでいたわ」
「元気を出すのよ」
 その娘に優しい声をかけるのだった。
 
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