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ランメルモールのルチア

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第一幕その六


第一幕その六

「苦い涙の日々が待っているのですよ」
「いえ、それは」
「あの方が来られた様ですが」
「そうね」
 二人共その気配を察したのである。それで言い合う。
「どうやら」
「では私はこれで」
 アリーサはこう告げてその場を去ろうとする。
「誰か来ないか見ておきますので」
「いつも有り難う」
「お嬢様の為です」
 まさにその通りだというのだ。
「ですからこれで」
「ええ、御願いね」
 こうしてアリーサは姿を消した。するとそれと入れ替わりに青い服とマントを着た黒く豊かな髪を後ろに撫で付けた男がやって来た。
 眉ははっきりとした濃さで細くしっかりとしている。目は奇麗で黒く見事な二重である。鼻の形はしっかりとしていて口元も端整である。その彼がやって来たのだ。
「ルチア、まずは済まない」
「どうしたのですか?エドガルド様」
「こんな時間に会いたいといったことは」
 まずはそのことを彼女に謝罪したのである。
「それは申し訳ない」
「そのことですか」
「実は訳があって」
「それはどうしてなのですか?」
「明日の夜明けには」
 今度は時間を言ってきたのだった。
「空が明るくならないうちにこの祖国から離れなければならないのだ」
「何故ですか?」
「私はフランスに向かう」
 ルチアのその顔をじっと見詰めながら話した。
「あの国と我が国の交渉をする役目を仰せつかったのだ」
「陛下からですか」
「そうだ、陛下からだ」
 まさしくその通りだという。
「そう仰せつかったのだ」
「そうだったのですか。それで」
「それでだ。だからこそ」
「では私は」
「君と別れる前に」
 真剣な面持ちでルチアに告げる。
「彼と会えるといいのだが」
「お兄様に」
「代々に渡る怨敵の間柄を打ち消し」
 彼はそのことを心から望んでいた。
「そうしてその和解の証として」
「証として?」
「君の手を求めたい」
 こうルチアに対して話したのだった。
「是非共」
「いえ、それは」
 しかしルチアはエドガルドのその言葉に首を横に振った。
「なりませんわ」
「駄目だというのかい?」
「そうです、私達のことは」
 ルチアもまたまるで戦場にいるかの如き強張った顔で話す。
「誰にも秘密でなければ」
「ならないというのか」
「そうなのか」
「はい、ですから」
「では私の一族に対する罪深い迫害者はだ」
 それが誰かはもう言うまでもなかった。
「まだ満足していないのだな」
「といいますと」
「彼は私の父を殺し先祖伝来の遺産を奪い」
 怨恨は深かった。そこまで。
「それでも満足しないのか。そのうえで何を望んでいるのだ?」
「それは」
「私の完全な没落か死か」
「死!?」
 今の言葉を受けて思わず声をあげてしまったルチアだった。
 
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