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ランメルモールのルチア

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第二幕その四


第二幕その四

「試しに私の手紙の中に入れて確かな手を通じて送ったのですが」
「どうなったのですか?」
「音沙汰がありません」
 首を横に振っての言葉であった。
「何一つとしてです」
「では私はどうすれば」
「残念ですが」
 こう前置きしたうえでの言葉であった。
「運命に従われるしかありません」
「そんな・・・・・・」
「ここはどうか」
 こう言うしかなかった。彼もだ。
「それをお受け下さい」
「では私の誓いは」
「それは残念ですが」
 沈痛な顔であった。しかし告げるしかなかった。彼もだ。
「もう。それも」
「それでも私の心は」
「それに勝たれるしかないのです」
 告げたくはなかった。しかし今は告げるしかなかったのである。
「最早」
「何という悲しみ、そして不幸」
「しかしです」
 それでも言うライモンドだった。
「これは最早です」
「私に残された道はもう」
「はい、お母上の為にも」
「お母様の為にも」
「そうです」
 ライモンドは先日亡くなった彼女の母のことも話に出した。これは話術の一つであった。
「あのお母上の為にも。そして一族の為にも」
「私を愛して育ててくれたあの方々の為にもですか」
「どうかです」
 その言葉は切実なものになっていた。
「ここはお受け下さい」
「お母様の為にも」
「是非です」
 それは何としてもというのだ。
「御願いです、ここは」
「では私は」
「貴女が一族の為にあの愛を諦めて下されば」
「私一人で多くの人が幸せになれる」
「それにアルトゥーロ様もです」
 ルチアが結婚する予定のその彼のことだ。
「無体な方ではありません。きっと幸せになれます」
「幸せ・・・・・・私の幸せは」
「どうかしっかりと」
 こう言って何とか彼女を部屋から出すのであった。城の大広間は幾多のキャンドルで明るく照らされ眩いまでであった。きらびやかに金や銀で飾られた広間には多くの着飾った紳士と淑女がいる。エンリーコはその中で黒髪の穏やかな目をしている若い男と互いの両手を使って握手をしていた。若者の服とマントは黄色でそれが広間の中でとりわけ映えていた。
「ようこそアルトゥーロ様」
「よくぞおいで下されました」
 エンリーコの一族の者達と兵士達が彼を讃えて言う。アルトゥーロは一旦エンリーコから手を離し満足している顔でその言葉を受けている。
「貴方がここに来られたことで」
「一つの愛が生まれることでしょう」
「有り難うございます」
 アルトゥーロはその彼等に笑顔で応えていた。
「私は貴方達の為にここに来ました」
「これで私達は貴方の友人となり」
「永遠の絆がここにできます」
「その通りです。そして」
 彼はエンリーコに対しても言った。
「エンリーコ殿」
「はい」
「私は貴方の許に友人として、兄弟として」
「来られたのですね」
「その通りです」
 満面の笑みでの言葉であった。
 
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